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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
その頃、孟徳さんたちは何をしていたでしょう…
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孟徳さんの緊急収集で戦についての話をするようです。※

 孟徳もうとく軍は、今回の戦に後顧之憂こうこのうれいがほぼ無くなったこともあり、許昌きょしょうを守る部隊以外を残し、残りの全軍を投じて玄徳げんとく軍を追い詰める作戦に出た。


 孟徳軍の特徴は、精鋭な騎馬隊を持っていることである。

 今回はその中でも特に動きの早い5000の精鋭を中心に連れていくことにした。

 そうして、偽善者である玄徳を追い詰める作戦である。


 玄徳は、黄巾賊の乱の頃にはごく普通の血気盛んで、戦いに身を投じることで、混乱する国を平穏な国にすると言う、熱い夢を語る真っ直ぐな眼差しをした少々正義感の強い、純朴そうな青年だった。

 しかし、いつの間にか凍てついた眼差しで冷酷な指示を出す、君主となった。

 まだ物心もつくかつかないかの幼い娘を戦場に送り込み、戦を次々と生み出す。


 住民には優しい名領主を演じ、その領民の中に自分の娘たちを紛れ込ませ、それを楯にして逃走する。

 それを、止める為に……いや、孟徳もある程度の打算や思惑もあるのだが、その為にも玄徳の野望を止めて見せる。




 その為、今回出陣する主力武将たちを集める。

 一応、元譲げんじょうは謹慎中の身だが、孟徳の命令で軍議に出ていた。

 前回の戦いの際の様子を聞きたいと言う、参謀たちや武将たちに乞われたからである。

 鎧を外し、普段の衣装で妻の手を引いて現れた元譲に、近づいてくるのは、


「兄者……に、荀文若じゅんぶんじゃく。文若!! お前は兄者に手を引いて貰わないと歩けないのか!! 」

妙才みょうさい。うるさい。私が私の妻の手を引いて歩いて悪いのか? 」


 元譲に近づく者を警戒し、排除するのが悪癖の一つである妙才は、小柄な瓊樹けいじゅを上から見下ろす。


「おはようございます。妙才様。今回は、大変なお役目を任されるようで、頑張って下さいね」


 にっこりと微笑む。


「妙才様は勇猛果敢で、玄徳軍の関雲長かんうんちょうよりも強く、臨機応変に戦える方ですから、戦えない私にとっては本当に尊敬に値する方です。最初にお話しできて、嬉しゅうございます」

「うっ……」


 ほんわかとした瓊樹に少々のけぞる。


 妙才は最初、その瓊樹の称賛に嫌味だと思っており、散々言い返したもののキョトンとした顔で見返す瓊樹に本気だったのか……と呆れた上に、ついでにと言うよりも瓊樹に一目惚れしていた元譲に、酷く怒鳴られた。




「私の師匠に何て事を言う!! 」


 瓊樹のいない場所に引きずって行かれ、説教される。


「だ、だってあいつ……男の癖になよなよしてて……」

「女性だから柔和で穏やかで、おっとりとされているのは当然だろう。文若どのと言うのは若くして亡くなった双子の弟どののあざなだそうだ」

「お、女? 女がどうして軍に!? そんなの……」


 妙才の言葉に、すぱーんと拳で殴り付ける。


「私の師匠の悪口を言うな!! け……文若どのの悪口を言うなら、私に喧嘩を売っていると思え」

「いってえ! 兄者!! ひでぇ!! 」

「お前を甘やかしても、図に乗るだけだ。その点、文若どのは博識で賢いが柔軟性があって、私にあった勉強をさせてくれる。師匠としても、一個の人間としても尊敬できる人だ」


 穏やかに頬を緩める。




 元は激しい性格をしていたが、今は穏やかな微笑みを浮かべるようになっている。

 そんな笑顔、昔は見せたこともないのに……と、妙才は少々歯がゆかったのだが……、


「……えっと、今日は元気そうだな。兄者。少しへこんでるのかと思ってた。ぶ、文若どののお陰か? 」


 珍しく、元譲以外の人間に敬意を払う口調に、元譲は目を丸くする。


「どうした? 熱でもあるのか!? 」

「あるか!! 兄者が大負けしたって話を聞いて、どう言うことかと思って詳しく聞きたかったんだよ!! 謹慎中で、殿には兄者たちの邪魔をするなって……だから遠慮してたんだよ。で、どういう負け方をしたんだよ」

「ちょっと~、待ちなさいよぉ。妙才ちゃ~ん」


 背後から声が響く。

 そのおねぇ言葉に、妙才はゾクッと肩を竦め、振り返る。


「と、殿……」

「おっはよぉ!! 元譲に妙才ちゃんに、あぁーん。瓊樹ちゃん。良いわねぇ。元譲と手を繋いで出仕しゅっし? 羨ましいわぁ!! 」


 孟徳はにっこりと笑う。


「おはようございます。殿。今日もとてもお似合いの衣装ですね。その刺繍といい、帯といい、とても素晴らしいです。素敵です」

「あらぁ……瓊樹ちゃん。良く見てるじゃなぁい。だから瓊樹ちゃんに一番に見て欲しかったのよぉ」


 満足げな孟徳に、元譲は低い声で、


「敗戦の武将にこの軍議を参加させていいのか? 孟徳」

「あら、そうよぉ。元譲が一番知ってるでしょ? 『趙子竜ちょうしりゅう』のことを。瓊樹ちゃんと話し合ったのでしょう? その憶測も話して頂戴」

「だが、本物か……」

荊州けいしゅう近辺では、趙子竜は二人いると噂なのよ。一人は昔の金の髪と青い瞳の小柄な少女が成長した姿。相当な美少女。子供を出産したばかりで、その上5、6才の子供の手を引いて軍を指揮しているそうなのよ。そしてもう一人は、元譲と戦った長身……8尺の細身の男で……元譲と接近戦でひけをとらない強い、いい男だったそうなのよねぇ……それに、荊州、襄陽じょうよう水鏡老師すいきょうろうしのお弟子さんを5人は引き抜いているのよぉ? 少々気になるわぁ」


 孟徳は、考え込む。


「と言う訳で、3人とも宜しくね~ん。ほらほら、先行って。後を行くからぁ」

「かしこまりました。では、先に」

「宜しくね~じゃぁねぇ? 」


 ヒラヒラと手を振る。

 3人は早足で会議場に歩いていった。


「……全く。あぁ、嫌だ嫌だ。玄徳にも……玄徳に染まった雲長には会いたくないわぁ……。でも、趙子竜が楽しみよねぇ。会ってみたいわぁ」


と呟き、


「あぁ、それよりも、急がなきゃ、ね」


 孟徳は、ゆっくりと歩き出した。

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