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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
もう一度一服しましょう。どれがお好みですか?
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孔明さんと士元さんと元直さんの普段はこうです。※

 きょうにとって、両親は孔明こうめいであり琉璃りゅうりである。


 2年前に、実の両親の住む江東こうとうから、二人と共にここ、荊州けいしゅうに来た。

 川辺である元住んでいた屋敷とは違い、侍女や衛兵と言った人はおらず、自給自足……つまり、父孔明は日々畑仕事をし、水鏡老師すいきょうろうしの所で弟弟子に授業をし、その合間に書簡を書き写してその謝礼を受け取る、そんな日々を送る。

 母琉璃は13才であり、炊事洗濯、掃除をし、刺繍をしたり、着物を仕立てたりと言った内職をしている。

 琉璃の実家は荊州一、いや、江東や中原ちゅうげんにも知れ渡った豪商だが、琉璃はそんな身分に驕る事もなく、謙虚で質素で、堅実だった。


 2人は、喬を実の息子として育て、悪いことをすると叱った……滅多にそんなことはなかったが。

 だが一度、孔明が酷く怒ったことがある。

 それは、家で育てている琉璃の愛馬、光華こうかの食事中に、飼い葉桶に手を突っ込み、もう少しで噛まれかけた時だった。


「何をしてるんだ!! 喬!! 」


 噛まれる寸前に孔明に桶から引き剥がされ、離れた場所に連れて行かれ、大音声で叱られた。


「喬!! お父さんは何度も言ったよね!? 光華たち馬は、繊細……普段は穏やかだけれど、驚かせたり、食事の邪魔をしたりすると、びっくりして噛みついたり、後ろ足で蹴りつけたりするんだよ!! 現に今だってもう少しで噛まれそうだったんだよ!! どうするの!? 噛まれて痛いのは喬で、噛まれることで喬は馬たちのことを怖がったりしたら、馬に乗れなくなるんだよ? 」


 実父は華奢で背の低い人だが、孔明は大男である。

 迫力は、半端ではない。

 だが、怒っている顔はどう見ても喬を心配しているのがありありと解り、そしてそれだけ喬が危険だったのだと幼い喬でも解った。

 孔明は、本当に自分のことを思ってくれている……そうひしひしと感じ、ボロボロと涙をこぼした。


「ご、ごめんなしゃい、お父しゃん……ごめんなしゃい」

「絶対にもう二度と、光華たちの食事の邪魔をしては駄目だよ……良いね!? 」

「あい。もうしましぇん」


 頷く。

 すると、孔明は膝をつき喬の両手を袖から出して、傷があるかどうか、確認する。

 そして、


「あぁ……良かった。怪我がなくて……それに大声で怒鳴ったりしてごめんね? 」


 ぎゅっと抱き締め、頭を撫でる。


「喬が危険な目に遭ったら、お父さんは困っちゃうよ……泣いちゃうからね? 」

「ちーうえに? おこりゃれるかや? 」

「違います。江東の兄上は……父上のことは全く頭にありませんでした。お父さんは、喬が心配で怖かったんだよ。喬はお父さんの大事な大事な息子だからね? だから絶対に怖い目に遭って欲しくないし、怪我をさせたくないんだよ。だから、喬? 約束して。お父さんは喬のお父さんで、琉璃はお母さんだからね? 隠し事はしない。寂しい時は言うこと。危険なことはしない。そして……」

「そして……? 」


 首を傾げる。


「喬はお父さんとお母さんの息子だから、甘えていいんだよ? お父さんの手は大きくて二つある。一つは琉璃の……お母さんの為の手。もう一つは喬の為の手。まだまだ、頼りないけれど、もっともっと頑張って喬が自慢に思うお父さんになって見せるから……だから、喬。私を、私と琉璃を喬のお父さんとお母さんにして? お父さんとお母さんと喬の3人で家族になろう。将来、喬には一杯兄弟が生まれると思うけれど、喬はお父さんとお母さんの長男で一番だから。だから喬。お父さんとお母さんの子供でいて。どうかな? 」

「喬……おとーしゃんとおかーしゃんのむしゅこ、なゆの。おとーしゃん。喬はだいしゅき」


 父親にぎゅっとしがみついた。


「おとーしゃん、だいしゅき!! 」




「……って言ってくれてたのに… なのに、最近喬がよそよそしいの!! どうして!? 」


 愚痴る孔明に、元直げんちょく士元しげんは、


「それは、孔明が少し過保護だからでは……」

「おい、元直。優しく何か曖昧あいまいに誤魔化そうとするな!! はっきり言ってやれ!! こいつは馬鹿親だ。親馬鹿、過保護、息子を溺愛しすぎだ!! 琉璃なら兎も角、息子をもっと厳しく育ててやれ!! それとも俺が面倒見てやるぞ!! 」


 その一言に、孔明は心底嫌そうに言い放つ。


「嫌だ!! 絶対にお断りだ!! 士元に任せたら、どんなひねくれ者に育つか解ったものじゃない!! 家の可愛い可愛い息子を士元の毒牙にかけてどうする!! 」

「何だとぉ!? 」

「その通りを言ったまでで、嘘じゃないだろう!! 」


 睨み合う二人を、元直は溜め息をつく。


「……孔明。士元のいう通り少し過保護過ぎると思うが……まぁ、士元に預けるのは教育上良くないと私も思う」

「おい、こら……元直!! この親馬鹿をもっと説教しろ!! 今まで嫁溺愛も鬱陶しくてうざかったが、それに輪をかけてるぞ!!」

「と言っても……孔明は、他のことなら言うことを聞くが、琉璃や喬の事になると暴走して手がつけられないだろう? 喬が反抗期になるのを待つしかないと思う。それと、士元は喬に悪い遊びを教えそうだ。やめておいたほうがいいと思う。現に季常きじょうが、あれだけひねくれたのは士元のせいだろう。士元効果の影響がはっきりと残されているんだ。止めておけ」


 元直の一言に、


「ほーら、元直兄も言っただろう? 喬は、士元に預けません!! 」

「ムカつく!! こいつ、殴る」

「何する!? 暴力反対! 」

「殴る前に避けるな!! でかい癖にすばしっこい奴だな!! 」


 孔明たちの毎日はいつもこんな感じだった。

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