次第に戦いに身を投じていく自分が歯がゆい孔明さんです。※
孔明は、義理の兄たちや甥姪に挨拶をすると、益徳と共に、琉璃の実家に向かう。
義兄、月英の作ったカラクリの操作を解除して入っていくと……屋敷は荷物を片付ける荷車が幾つもあった。
「あ、あの……」
孔明が、見知った黄家の使用人に声をかける。
「こ、これは? 」
「孔明若様、お帰りなさいませ!! 」
深々と頭を下げる使用人に、
「これは……? 何処かに……」
「はい。旦那様と奥方様が江東で事業を起こしたいと。若旦那様も了承してこの館を売り、襄陽を去る事に……」
「月英!! 」
その言葉に孔明は屋敷に駆け込む。
そして、
「よぉ!! 孔明。お帰り。悪いな、ゴタゴタしてて……」
月英は、自分のカラクリを作る道具を一つ一つ確認しながら、箱に収めていた。
懐かしげに、大事そうにそれらを撫でる彼に、囁く。
「で、出ていくんですね……」
「あぁ、親父と母上が、襄陽は危険だと……最悪の場合、『き(王奇)』どのならば兎も角、『そう(王宗)』そうが跡を継げば一番に攻撃するのは家だ。家の金品を奪うだけじゃなく何らかの罪を着せて、俺や親父を殺すに決まっている。だから、相談の上決めた。済まない……本当なら、傍に居たかったんだが……」
項垂れる。
「こんなところで言うのも何だが、今も少々やって来ている。だから急いでいるんだ」
「そ、そうだったのか……気付かなくて……」
「いいや、お前が……新谷が勝ったのを聴いて決めたって言うこともある。もし、何があったら瑾の兄上を頼れ!!俺も頼れと言いたいが、まだそれだけの力はないからな……でも、それだけの力をつけて、きっとお前や琉璃たちを守ってやる!! それだけは信じてくれ!! 」
月英はポンポンと頭を叩く。
「……そんな泣きそうな顔をするなよ。又すぐ会える。俺はお前の親友で、家族だ!! 違うか? 」
「いいえ、いいえ!! 月英は家族であり、親友です。信じてます。月英……又会える日を……」
「そうだろ? ……で、張益徳さま」
月英は、後ろで二人の様子を見つめていた益徳を見る。
「益徳さま。妹と義弟たちをよろしくお願いします」
「解った。約束する。そして、彩霞……瑠璃姉貴の事はよろしく頼む」
「大丈夫です!! 母は、お……私の母です!! 」
「あぁ、それなら良い。幸せなら、俺は嬉しい。大事な姉貴をもう失いたくないからな……」
一瞬寂しげに益徳の声はしめる。
……その顔を月英は見つめる。
と、話をそらす。
「あぁ、それより孔明。ゴタゴタしている屋敷に長居は申し訳ないだろう? 」
「そうでした!! 月英。父上と母上によろしくお願いします。もし、兄に会ったら、暴走しないようにと、くれぐれも伝えておいて頂けますか? 」
「解った。伝えておく。じゃぁ、孔明。再見」
その言葉に……孔明は、苦しげに笑い……。
「再見……マタアイマショウ。兄上」
手を振り立ち去る。
孔明の襄陽行脚は、これで終わったのだった。




