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~結局、変わらなかった人~

【お詫び】【修正版】

すみません。話の切りが悪かったので、短いですが前話と切り離しました。

※前話の最後の話しです※

 

 小さな油断が大きな後悔へと繋がる事件が起きた。







 ーーパーティーから数日後。


 マゼラン家の親戚から手紙の返事が届いた。

 どれも二つ返事で了承してくれた内容が書き綴られ、気遣う言葉まで掛けてくれていた。

 言い伝えについても、予め文面で説明していたおかげで、興味を示してくれたことにも安堵する。

 手紙を確認してから、タウンハウスの手配を進めた。

 遥々遠い場所から来て貰うのだ。

 せめて帝都での出費は出来る限り負担したい。

 その為に必要最低限の物を手元に残し、私物のほとんどを売りに出して所持金を増やそうと考えた。

 幸い、問題続きでろくに外出も出来なかったので、以前新しく買い揃えた服や装飾品は、新品のまま保管されていたおかげで、高く売却する事にも成功した。

 いつもは居ないお父様が屋敷に居たことで、口出しされる前に用事をさっさと済ませたいと思っていた。

 また量も多い為、少しの間なら大丈夫だろうと、廊下の見張りを一時的に解除してしまったが、これがいけなかった。

 エイリーンが屋敷に戻っているのに、完全に油断した。

 急を要する様々な手続きに追われ、尚且つ前回の騒ぎで流石に大人しくしてくれるだろうと高を括っていた。

けれど思惑が外れて、使用人が一階で荷物の整理をしている隙に、エイリーンが部屋に入って来た。


「忙しそうだね? オルカ」

「! はぁ、すぐに出て行っ……あ、ちょっと!? 眼鏡を返して! 何するのっ!? 」

「ふふ、やだよ。すぐ逃げちゃうでしょ? 」

「返して! 」

「あはは、ほらほらこっちだよ~? 」


 書類の束をまとめて、誰かを呼ぼうと顔を上げた瞬間、眼鏡を奪い取られる。

 夕方前で外はまだ明るく、部屋のカーテンも全開だ。

 眩しさで咄嗟に目を閉じた後、両手を前にフラフラと歩いて、声を頼りに追いかける。

 使用人は全員一階だ。

 二階には私とエイリーンしか居ない。

 荷馬車に積み込む音が遠くから微かに聞こえて、まだまだ表の手続きが終わる気配もない。

 近衛兵を警戒して門番の横に待機させているので、当然気付いてくれる筈もなく、助けは来ない。

 最悪のタイミングに気持ちが焦っていると、何かにつまづいてそのまま倒れる。

 目を閉じたままじゃ受け身も取れず、腹から床に倒れた所為で息が一瞬できなくなり、動きも一層鈍くなった。

 立ち上がろうにも肩に重みを感じて起き上がれず、すぐ近くにエイリーンの声が聞こえる。


「ふふふ、痛かった? 」

「ぅ……っもう私を放っておいて、何で嫌な事ばかりするの? 私、エイリーンに何かした? 」

「んー……やっぱり変わったよね? 」

「は? 」

「あのさ、追い出された侍女にどんなことをされたの? 何を吹き込まれたの? 」

「……」

「あっそ、まぁいいか。もうね、準備は終わったから今日は迎えに来ただけなの」


 準備とは、何だ。

 何を考えているのかと問いただすと、肩の重みが消えたが、同時にすぐ近くで何かを叩き割る音が聞こえた。

 嫌な予感がする。

 クスクス笑う声を最後にエイリーンの気配が遠ざかる。

 ようやく身体を起こして、目を閉じたまま音がした方へ手を伸ばすと、鋭い何かに触れて鈍い痛みが走る。

 構わず、その鋭い何かをペタペタと両手で確かめるように触り続ければ、眼鏡のフレームらしき形に気付いてサッと血の気が引いた。


「噓でしょ……」


 眼鏡を叩き割られたのだと理解した瞬間、動揺する気持ちを抑えてスペアが保管された戸棚を手探りで探した。

 表の音が止んだ頃、複数の足音が部屋に入ってきた。


「失礼致します。荷物は全て……オルカお嬢様!? 大変! 手を怪我してる! 」

「すぐに主治医を呼んで参ります! 」

「誰か、眼鏡のスペアを取ってくれる? 」

「スペア……? いつも使用する鞄の中でしょうか? 」

「え? 戸棚の中にスペアがあるでしょ? 」


 沈黙の後、使用人は眼鏡のスペアが保管されている戸棚や各家具の引き出しの中まで探したが、どこにもない。

 そして元々無かったと聞かされ、顔面蒼白になる。

 誰かが怪我をした手を処置していると、また慌ただしい足音が複数部屋に入って来る。


「オルカ! 何でお前はいつもすぐ怪我をするんだ……眼鏡を落としたのか」

「オルカ、大丈夫?怪我しちゃったの? 何してた知らないけど、一人で居るから……」

「なっ!? これはエイリーンが……! 」

「誰か眼鏡のスペアを取って早く渡してあげて! このままじゃオルカが目を開けられないわ! 」

「し、しかしエイリーン様、スペアは何処にも……」

「え? もしかしてミルドッド邸に持って行ったの? 」

「ちがっスペアを持って行ってない! 戸棚に保管してたのにどこにもなくなったの……」

「チッ……執事長、眼鏡を今すぐ特注しろ。なるべく急いで作らせるように」

「かしこまりました。旦那様」

「ま、待ってっ! エイリーンが……」

「ええいっ! いい加減にしないか!? エイリーンが気に入らないからって、妬むことはないだろう! 」

「え……」

「お前達もオルカにあまり肩入れするな!! くだらない虚偽の報告なんぞ聞きたくもないっ!! 」


 妬むとは何だ。

 何を言っているんだ。

 何故か怒り心頭のお父様は、廊下の見張りを禁じた。

 そして、使用人達をその場で叱りつけた。

 大方、またエイリーンに何かを吹き込まれたのか。

 もしくは厄介な勘違いを引き起こしているのか。

 使用人が当主の決定に逆らえる筈もなく、どんなに引き止めても、お父様に事実を訴えても、処置を終えた後は気遣う言葉と共に足音が遠ざかっていく。

 最後に部屋を出て行った使用人が閉めたのか。

 扉が軋む音がやけに煩く感じた。


「何で信じてくれないの……っ」


 守られて当然、甘えていい存在。

 ミルドッド夫人の言葉を思い出して、虚しくなる。

 お父様にとって、私はやっぱり程度の価値なのか。

 ベッドに座ったまま項垂れていると、隣に誰かが腰掛けたのか、ベッドが揺れた。

 香水の香りでエイリーンだと気付くと虚無感が増す。

 鼻歌を混じりに、肩や頬を触られる感触が気持ち悪くて、振り払おうと首を逸らす。

 無理やり顔の向きを正面に戻され、ハープの音色を思わせる美声で、忌々しい歌を歌い出した。


「泣き虫オルカ♪ 泣き虫オルカ♪ 」

「っ……変な歌うたわないでっ! 」

「捕まったオルカ♪ 間抜けなオルカ♪ 」

「やめてってばっ! 」


 その晩、妙なアロマキャンドルを部屋に焚かれた。

 臭いを嗅ぐ内に強い睡魔に襲われ、深い眠りに落ちた。


※修正箇所※

字下げ、誤字脱字、一部言葉の言い換え、記号の変更。

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