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41 大団円

 連休明けの火曜日、顔にまだアザが残る小林と、明智、中村の3人は、交通課長、警備課長及び刑事課長同席の下、署長にこれまでの経緯を説明した。独断専行に対する叱責を覚悟していたが、本庁の公安部長から署長にお礼・称賛の電話があったのが効いたらしく、お咎めなしだった。


 3人がホッとして署長室から出た後、売店で飲み物とお菓子を買って資料保管室へ向かうと、波越(なみこし)警部が炭酸飲料のペットボトルを飲みながら部屋で待っていた。波越の隣に小林が座り、向かいに明智と中村が座った。


 波越が笑いながら話し始めた。


「いやー、中村さんから電話があったときはビックリしたよ。テロリストが小林と明智くんを監禁したって言うんだから。でも、愛珍(アイジェン)の店員がドアのプレートを準備中にしたのを見て即座に連絡した判断は素晴らしいね。オレならビビって連絡できないよ」


「電話せずに後悔するよりは、電話して後悔した方が良いと考えたのでありますデス!」


 中村が得意気に答えた。波越が続ける。


「愛珍の店内に転がり込んだとき、もし小林たちが普通にニコニコ食事してたらどうしようって正直ドキドキしたよ。まあ実際は想像以上にヤバかったがな」


 そう言って、波越は炭酸飲料をゴクゴク飲んだ。小林が波越に聞く。


「結局、遠藤はどうなったんだ?」


「ああ、遠藤については、食料庫の中にあった抜け道から店外に脱出されて焦ったが、昨日、近くの建物に潜伏していたところを無事に逮捕できたよ」


 波越の話を聞いて、小林たちは安堵した。あんな怪物じみた奴が野放しになったら怖くて仕方がない。


「それにしても、今回の君たちの活躍のおかげで、公安部的には大収穫だよ。ここだけの話、遠藤と春木の関係は公安部では完全にノーマークだったみたいだしな。防衛省だけでなく、官邸まで大騒ぎらしいぞ。まあ表沙汰にはならんだろうがな」


「あと、逸材を発掘できたしな。オレが定年になる方が早いかもしれんが、将来、君にお仕えできる日を楽しみにしてるよ」


 波越は、そう言って明智の顔を見て笑った。明智は、はにかみながら頭を下げた。


「そうそう、春木による吉田部員傷害致死被疑事件については、うちの部と刑事部合同で処理する予定だ。小林が以前鑑識に依頼していた梅の花等の鑑定結果は、直接本庁に届けてもらう予定だそうだ。まあ事件の全容をどこまで表に出せるかという話はあるが、しっかりやってくれるみたいだよ。安心してくれ」


 そう言って、波越は炭酸飲料を飲み干すと、腹を揺すりながら帰って行った。



† † †


「そういえば波越のヤツ、遠藤や愛珍の店員がどういう組織の者だったのか、何も教えてくれなかったなあ」


 波越が帰った後しばらくして、小林が思い出したように言った。


「公安部が吉田部員のスマホを何のために持って行ったのかも分からず仕舞いでしたね」


 中村も首を捻りながら言った。


 突然、黙っていた明智が立ち上がり、小林に頭を下げた。いつの間にか涙目になっている。


「小林さん、奥様とお子さんのこと知りませんでした……変なこと聞いて傷つけてしまい申し訳ありませんでした!」


 小林が慌てながら答えた。


「お、おいおい、もしかして張り込みのときの話か? 全然気にしてないから! ほら、頭を上げてくれ。俺は、明智くんと一緒に仕事ができて救われたんだ」


 小林は、中々頭を上げようとしない明智の顔を優しく覗き込んだ。


「ナッチーは知ってると思うが、妻と息子を交通事故で失った俺は、ここ数年、仕事のヤル気を完全に失ってた。死んだように過ごしてた」


 小林は、自分の目が潤んでいることに気づいた。


「けどな、明智くん、息子と同じ名前の慧一郎(けいいちろう)くん。君のその仕事への熱意、誠実かつ真摯な態度、そして被害者や遺族への思いやり。そういうのを見ていて、俺ももう一度頑張ろうって思えたんだ。君は、知らず知らずに俺を救ってくれてたんだ」


「こ、小林さん……」


「うわ~ん! 良かったよう、良かったよう!」


 突然、中村が号泣し始めた。それを見た小林と明智は、顔を見合わせ、泣きながら笑った。ひとしきり泣き笑いした後、3人はお菓子を食べながら、時間の許す限りお喋りした。



† † †



 夕方、3人は交通課長席の前に立っていた。明智の交通課での研修が終わることになったのだ。

 交通課長が話し始めた。


「明智警部補、2週間ちょっとという短期間だったが、研修お疲れ様。いい経験ができたと思う」


「色々とご迷惑をおかけしました。ありがとうございました!」


 明智が敬礼した。交通課長が続けた。


「さて、交通課でのこの研修メンバーは解散となる……お、おい中村、泣くな。最後まで聞け」


 いよいよ解散と聞いて泣き出した中村をなだめると、交通課長が話を続けた。


「ごほん、明智警部補の次の研修先は刑事課になる。刑事課長によると、指導係は引き続き小林警部補にお願いするが、どうも刑事課がバタバタしているようで、交通課から1名応援を出して欲しいということだ。中村、お願いできるかな?」


「できます! できます! やりまーす!」


 中村が飛び上がって喜んだ。それを見た小林と明智が笑った。



 ……明智、小林、中村の3人は、刑事課でも不思議な事件に巻き込まれることになるのだが、それはまた別のお話。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。この物語を面白いと思われた方が一人でもいらっしゃれば幸甚です。


明智くんの刑事課での研修のお話は、「ひよっこキャリア明智くんと透明人間」となっております。こちらもお楽しみいただければ幸いです。

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