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33 呼び出し

「よっ、小林」


「な、波越(なみこし)じゃないか……お前また太ったんじゃないか?」


「余計なお世話だよ!」


 警備課の会議室に入ると、小林の同期の波越警部が座っていた。確か今は本庁の公安部だったはずだ。でっぷりと太った体に愛嬌のある顔。波越が公安畑ということもあり最近会う機会はめっきり減ったが、警察学校時代からの小林の親友だ。


 小林がパイプ椅子に座ると、波越が話し始めた。


「昨日は防衛省近くの住宅街を歩いてただろ? どこ行ってたんだ?」


「ああ、多分お前の部下っぽい奴とすれ違ったぞ。昨日はうちの管内の()き逃げ事件の関連で『遠藤中央コンサルタンツ』を調べに行ってた」


 小林の話を聞いた波越は、拍子抜けした顔をして、パイプ椅子の背もたれにもたれかかたった。椅子が軋む。


「……なんだ、うちの対象じゃないのか。ヒヤヒヤしたぞ」


 そう言って、波越は豪快に笑った。どうやら勘違いだったようだ。ひとしきり笑った後、波越は人なつっこい顔で聞いてきた。


「ところで『遠藤中央コンサルタンツ』って轢き逃げと何か関係があるのか?」



† † †



 小林は、少しためらったが、波越を信じて全て話すことにした。波越は真剣に聞いてくれた。


「……なるほど。その明智っていう新米キャリア、逸材だな。将来うちの課長に来て欲しいもんだ」


「まだ確たる証拠はないが、彼の推理は筋が通っている。信じてくれるか?」


 小林が聞く。波越が笑顔で答えた。


「当たり前だろ。お前がデタラメ言う訳がないからな。防衛省の技官が偽OBと結託してNBCテロを計画している兆候ありか。末恐ろしいなあ」


「なあ、波越、言えないかもしれないが、このテロ計画の兆候について本庁は何か把握して動いてるのか?」


 波越は少し考えてから、チョイチョイと手招きした。小林が波越に顔を近づける。波越が誰もいない会議室の中を見回してから小声で答えた。


「誰にも言うなよ。少なくともオレは初めて聞いたし、オレの知っている範囲ではそういった動きはない。ということは、少なくとも国際テロ絡みでは本庁で動きはない」


「そうか……」


 小林がパイプ椅子の背もたれにもたれかかった。波越もパイプ椅子にもたれかかった。椅子の軋む音が会議室に響いた。


 少し考えて、波越が小林に聞いてきた。


「そういえば、轢き逃げ被害者のスマホを署の公安係が持って行ったんだよな」


「ああ、まだ返してもらってない」


「ってことは、どっかの課が動いてるのかもな。何か接触はあったか?」


「いや。公安からは、お前が初めてだ」


「そうか……分かった。今日教えてもらった話は、タイミングを見て関係しそうな課に伝えておくよ。あと、その偽OBにはくれぐれも気をつけろよ。少なくとも国際テロリストではないと思うが、話を聞く限り、かなりヤバい奴かもしれん。何かあれば連絡してくれ」



† † †



 小林が資料保管室に戻ると、明智と中村が心配そうな顔をして待っていた。


「係長、我々は今日で解散でしょうか……」


 中村が神妙な顔で聞いた。小林が笑いながら言った。


「大丈夫だったよ」


「やった!」


「ありがとうございます!」


 中村と明智がお互いにハイタッチして喜んだ。小林が2人に話しかける。


「まあ、今後いつ解散させられるか分からんが、やれるところまでやろう!」


 そう言って、小林は明智と中村にハイタッチしようとしたが、タイミング悪く、明智は椅子に座っていちごミルクを飲み始め、中村はお菓子を取りに部屋の外へ出て行ってしまった。


 小林は、背伸びをするふりをしてから自分もパイプ椅子に座った。恥ずかしい。


 小林の照れが消える前に、中村がお菓子を持って戻ってきた。小林は中村にお礼を言ってお菓子を手に取り、食べながら話す。


「さて、やれるところまでやろう、とは言ったものの、次のステップとして何をすべきだろうなあ」


 それを聞いた明智は、いちごミルクを机に置くと、小林と中村に提案した。


「張り込みをするのはいかがでしょうか?」

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