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32 事務所訪問

「本当に映画みたいになってきましたね。どうやって証拠を掴みます?」


 中村が少しワクワクした表情で明智と小林を見た。

 それを見た明智が、いちごミルクを飲みながらクスッと笑った。明智は小林たちに話を聞いてもらって、少しホッとしたようだ。小林が笑いながら答える。


「まあ、映画のように、いきなりアジトに潜入できる訳でもないしな。まずは遠藤の素性を調べるところからかな」


 そう小林が言ったとき、3人のスマホが同時に鳴動した。3人がそれぞれスマホを見る。


「姉さんからのメールだ。遠藤に関する情報です」


「真由美さん、俺たちの話をどこかで聞いてるんじゃないだろうな」


 小林はそう冗談を言ってメールを見た。



† † †



 真由美が高柳専門官に聞いたところによると、遠藤はNBC防護の専門知識があるOBという触れ込みで、最近、防衛省によく出入りしているということだった。

 しかし、高柳によると、最近のOB会の名簿に遠藤は載っておらず、高柳自身も遠藤の現役時代のことは良く知らないということだった。相当昔に退職したのではないか、ということだった。


 遠藤は防衛省の近くに「遠藤中央コンサルタンツ」という事務所を構えているとのことで、高柳が以前もらったという名刺の写真がメールに添付されていた。


 真由美が商業登記簿等を確認したところ、名刺の住所に「遠藤中央コンサルタンツ」は存在しなかった。不動産登記簿上は、遠藤とは異なる名義の古い一軒家が建っていることになっていたが、ネットのマップを見ても、どの建物かまでは分からないということだった。



「あ、怪しい! これ、ドラマなら絶対にテロリストですよ」


 中村がメールを見ながら声を上げた。


「まあ、たまたま高柳専門官が知らないだけかもしれんし、個人事業主で商号登記していないだけかもしれん。とはいえ怪しいな」


 小林はそう言って笑い、2人を見やった。


「よし、明日は事務所を見に行ってみるか」



† † †



 翌日午後、3人は防衛省の南側にある住宅街の細い路地を歩いていた。中村が住宅地図のコピーを片手に案内する。


「この奥ですね」


 中村が、住宅と住宅の間、人一人がようやく通れそうな細い通路を指差して言った。


「とんでもないところだな」


 細い通路は、しばらく進んだ先で左に曲がっており、先が見えない。3人は、明智、中村、小林の順で通路に入っていった。


 通路の突き当たりを左に曲がった明智が立ち止まった。後ろを歩く中村たちに振り返る。


「これ、見てください」


 明智の目の前には、窓ガラスが割れ、建物全体が傾いた、廃墟同然の木造家屋が建っていた。


「明智警部補殿、遠藤は偽OBかつテロリストで間違いありません! ここ、きっとテロリストのアジトですよ!」


「さすがにこの廃墟を使うことはないとは思いますが……」


「地下に秘密基地でもあったりして」


 中村がスマホで廃墟の写真を撮った。その後、3人は通路を引き返し、四ツ谷駅に向かって歩き始めた。


 少し歩いた先の小さな十字路で、ラフな格好の男性2人とすれ違った。スマホの地図を見ながら道を確認しているようだ。

 うち1人の男性が小林の顔を一瞬見た後、小林から顔を(そむ)け、電柱の街区表示板を見た。


 すれ違ってからしばらくして、小林は後ろを並んで歩いていた明智と中村を見るふりをして、先ほどの男性2人が見えなくなったことを確認すると、明智と中村に小声で話しかけた。


「念のため後ろを振り返らずに聞いてくれ。今すれ違った奴、たぶん公安だ」


 明智と中村が驚く。中村が興奮しながらヒソヒソ声で聞いてきた。


「すごい! どうして分かるんですか? 公安特有の歩き方とかですか? それともベテラン刑事の勘?」


「以前、本庁で勤務していたときに見た顔だ。その時あいつは公安部だった」


「なあんだ、つまんない」


「ということは、向こうも気づいたでしょうか」


 明智が心配そうに聞いてきた。小林が答える。


「多分な。俺から顔が見えないようにしていたからな。まあ、何か接触があるとしたら、明日だろう」


 翌日、小林は公安係から呼び出しを受けた。

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