31 恐ろしい結論
夕方、小林と中村が資料保管室でお菓子を食べながら今日あったことを話していると、自宅にいるはずの明智が部屋に駆け込んできた。
小林が驚いて明智に聞いた。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
何か話そうとした明智が咳き込み、申し訳なさそうに2人に謝った。
「す、すみません。飲み物を買って来ます」
† † †
明智が紙パックのいちごミルクとペットボトルの緑茶を買って戻ってきた。緑茶をゴクゴク飲む。小林と中村は無言で見守った。
少し落ち着きを取り戻した明智を見て、小林が尋ねた。
「一体どうしたんだ? そんなに慌てて」
明智は、うっすら上気した顔で、向かいに座る小林と、隣に座る中村を交互に見た。
「すみません。自分の推理した犯人の目的があまりにも怖かったので、皆さんに直接相談したくなりまして。さっき小林さんからいただいたメールがヒントになりました」
「え? そんな内容あったかな?」
「はい、門野がOBの遠藤から聞いたという言葉です」
それを聞いた中村がスマホのメールを読み上げた。
「『防護性能が不十分な自衛隊施設を作ることは仕方ない。防衛省のためだ。吉田部員がこの流れを破壊するのを防がなければならない』ってやつですね」
「ああ、あれか。でも、何故防衛省のためになるのかは分からなかったし、何かのヒントになるかなあ」
小林が首を傾げた。明智が説明する。
「防衛省は、長い年月をかけて自衛隊施設の防護性能の確保・向上を少しずつ進めてきました。戦後、平和国家として歩んできた我が国において、防護性能の確保・向上に多額の予算を措置することは難しく、限られた予算で少しずつ進めざるを得なかったのでしょう」
「まあ確かに、平和な世の中であれば、NBC防護にお金をかけるよりも、福祉や経済にお金を回してくれって話になるだろうな」
「僕も無意識のうちに『平和な世の中』を当然の前提にしていました。ですが、平和な世の中じゃなければ、どうでしょう?」
「そりゃ、例えば実際に毒ガスが撒かれるおそれがあるなら、万難を排して対策する必要があるだろうな。人の生き死にに関わることだしな」
「そうなんです。現実に自衛隊施設がNBC兵器による攻撃を受けて、またすぐに攻撃を受ける可能性があれば、飛躍的に防護性能の確保・向上を図ることができる可能性が高まるんです」
「それって、まさか……」
小林は言い淀んだ。その内容を明智が答える。
「ええ、おそらく犯人は、自衛隊施設を狙ったNBCテロを計画しています」
明智の手が微かに震えていた。
† † †
「それは、つまり、春木や遠藤がテロを企てているということか」
小林が信じられないという顔で聞いた。明智が答える。
「まだ確たる証拠はありません。ですが、2人の命を奪ってまでして防護性能の向上を阻止し、しかもそれが防衛省のためになるということであれば、可能性は高いと思います」
「門野がまた勘違いしてるだけなら良いのですが……」
明智はペットボトルの緑茶を飲んだ。中村が小林に尋ねる。
「公安係に伝えますか?」
小林は少し考えてから話し始めた。
「いや、まだ証拠がない。いま公安に伝えても一蹴されるだろう。それどころか、俺たちがアイツらの畑を荒らしていると思われて、俺たちの捜査を中止させてくるかもしれん。そうなると、テロは防げん」
小林は、明智と中村の顔を見た。
「俺たちで証拠を掴む必要がある」




