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異世界に転生したらBlenderを使えるようになっていた  作者: 登美川ステファニイ
第二章 ダンジョンへ
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第十七話 知を開く剣

 ローゼンさんの工房での研修が終わり、またしばらく自由な時間が出来た。と言っても遊んでいいわけではなく、毎月研修の成果を作るための時間だ。

 何を作るかは自由だが、木工職人として研修を受けているのでそれにふさわしい物で無ければならない。といってもそれほど厳しい制限はなく、木製の日用品という程度であれば問題はないらしい。

 ローゼンさんの工房では不器用なところを見せてしまい多少怪しまれたが、一応基礎的な技術は身に着けたつもりだ。本物の職人相手に偉そうなことを言えるほどではないが、日曜大工レベルならなんとかなる。

「机とかでいいかな……」

 部屋には机があるが、それを見ながら考える。Blenderでならいくらでも作れるが、実際に作るとなると失敗はできない。

 そんなことに悩みながらも、やはり意識はダンジョンに向かってしまう。

 結局、見る事が出来たのはダンジョンの入り口だけ。それも遠くからだ。リューバンに会ったあの後にもう一度行ってみたが、状況は変わらない。

 係の人にどうすれば見られるのかと聞いたが、ダンジョン管理組合に冒険者として登録するしかないと言われた。暇そうな冒険者の人にも聞いてみたが同じような答えだった。

 リューバンは鼻薬を使えば、つまり賄賂とかを渡せば係の人が中に入れてくれるようなことも言っていたが……いきなりお金を上げるから中に入れてくれなど、そんな事を言う勇気はなかった。よく分からないが、下手すると逮捕されるんじゃないか?

 あまり聞きまわることも出来なかったので、得られた情報は大したことがない。そしてうろついていると、何だか冒険者の人にじろじろと睨まれているようでひどく居心地が悪い。まあ冒険者でもない異国の人間がうろついているのだから、きっと目立つのだろう。悪意を向けられているわけではないのかもしれないが、俺はそれ以上そこにいることはできず、逃げるように帰ってしまった。

 情報が必要だ。そう言う場合はプロに頼むべきなのだろうか。リューバンは怪しいが、仲介屋という事で一応プロなのだろう。もっと良さそうな仲介屋を探すべきか。

「……待てよ。ひょっとして……何とかなるかも」

 情報。その事で思い当たる男が身近にいる事を思い出した。


「……ぁあー……リンタールか……こんな夜遅くにに何の用だ……?」

 土曜の昼過ぎにマジェスタの部屋を訪ねると、マジェスタはクマの浮かんだ疲れ切った様子で玄関に出てきた。欠伸をしながら、今にも眠ってしまいそうなとろんとした目つきをしている。いつもの快活さも今は鳴りを潜めていた。

「夜遅くって……今は真昼だよ。随分疲れてるみたいだな」

 少し心配になったので聞くと、マジェスタはまた欠伸をした。

「昨日徹夜で……今日だったか? とにかく徹夜でね……色々仕事を任されるのはいいが手が足りない……研修という名目で奴隷のようにこき使われている気がする……」

「そうなのか。新聞社だと忙しそうだもんな……」

「それで、何の用だ……悪いが急ぎでないのなら明日にしてくれ……今は少しでも休みたい」

「そうか。じゃあ……明日また来るよ。ダンジョンの事について聞きたかったんだけど……」

 マジェスタは少し考えこみ、言った。

「ダンジョン……アストラか? そういやダンジョンに行くとか言ってたが、行けたのか?」

「いや。行けなかったんだよ。正確には門を通れなかったというか……ダンジョン管理組合に金を払って登録しないとだめだって。もしくはどこかのパーティと一緒に行くか。どっちにしてもすごい大金がいるらしいんだけど……詳しいことを知っている人に心当たりがないかと思ってさ。新聞社ならいろんな人と付き合いがあるだろ?」

「ふうん……なるほど。確かに冒険者以外はダンジョンには入れないとは聞いたが……」

 目が覚めて来たのか、マジェスタの表情が少し元気になってきた。

「多少の事なら新聞社で俺も調べた。記事のネタになるかと思ってな……何だか目が冴えて来たし……中に入れよ。知っている範囲でなら俺が説明してやる」

「本当か? 悪いな、疲れている時に」

「いいさ。俺もダンジョンには少し興味がある。なんといっても俺らの国にはないものだからな」

 マジェスタは部屋の中に戻り、俺もついていく。俺の部屋と同じで八畳ほどの個室だ。ベッドと机と燭台があるくらいで他の家具はない。壁際にマジェスタの持ってきた鞄が広げられ服や荷物が乱雑に置かれていた。

 机の上には数冊の本と書きかけらしいメモの束。俺とは違ってここに帰ってまで何か調べ物をしていたらしい。普段はいい加減にしか見えないが、仕事にかける情熱は本物のようだ。少しマジェスタを見直した。

「椅子、使えよ」

 マジェスタはカーテンを開けベッドに座り、椅子を俺の方に出す。俺は椅子に座ってマジェスタに向き直る。

「で、ダンジョンに入る方法を知りたいのか?」

「そうなんだ。どっちにしても金が必要らしいけど……そんな金はない。何とか入る方法がないのかと思ってさ」

「ダンジョンにただで入る……俺の知る限りはないな。しかし、誰か知っている人間がいるかも知れないから、会社で調べてみるよ」

「そうか。悪いな、何だか。助かるよ」

「いいさ、気にするな。親友の頼みとあればお安い御用さ」

 台詞はいつも通りだが、やはり眠いのか言葉に力はなかった。しかし友人というものはありがたいものだ。いつも邪険にしておいてこんな時だけ利用するのも気が引けるが、今度からは俺もマジェスタを助けてやろうと思った。

「しかしダンジョンね……あまり大っぴらにはできないな」

「何が?」

「山師の集まりだと思われているらしいからな。ついでにならず者や食い詰め者も冒険者として集まってるらしい。治安が悪いというか……町出身ではない得体の知れない奴らが多いから、結構嫌われているらしいな」

 おれはローゼンさんの工房で会ったホーマの事を思い出す。あいつもダンジョンに興味があるみたいなことは言わない方がいいと言っていた。

「ああ……なんかダンジョンとか冒険者への風当たりは強いらしいな」

「元々六百年ほど前にダンジョンが突然生まれて……周辺に魔物が生まれて、それでダンジョンを何とかしようってなったんだよ。でもいくら中に入って魔物を対峙してもきりがない。そのうち中で手に入る財宝や魔物の素材を取引する連中が現れて、治安が乱れて……それでダンジョンは長い間封印され誰も入ることを許されなかった」

「ふうん……六百年も前からあるのか」

「おい、リンタール。お前は基本的なことも知らないようだな……もう少し下調べはした方がいいぞ」

「いや、簡単に入れるもんだと思ってたから特に調べようと思わなくて……」

「まったく……まあいいさ。で、数百年封鎖されていたが、百年ほど前に広く開放されるようになったんだ。まず国王軍が中に入り財宝を集め、やがてダンジョン管理組合が出来て一般人も入れるようになった。それが冒険者となりギルドも生まれた」

「へえ、百年前からなのか」

「他のダンジョンも大体そんな感じらしい。長い間封印されていたが、数十年から百年くらい前から冒険者が潜るようになったらしい。で、アストラダンジョンには一獲千金を夢見て外国からも数多くの冒険者が押し寄せた。犯罪者やら食い詰め者も多かったそうで、治安は悪くなった。それで色々な問題が起きて……それが現在の冒険者への悪い風聞に繋がっている。近年は管理組合やギルドの役員が変わってかなり良くなったとも聞くが……毛嫌いしている人が多いのも事実だ。取材したわけじゃなくて一般論でしかないが」

「そうなのか……色々影響があるんだな」

 マジェスタが首をかしげながら俺の顔を覗き込む。

「お前はひょっとして……本当は冒険者になりたいのか?」

「えっ?! いや、俺は……」

 ダンジョンを攻略して神に会いたい。などと言える訳もない。

「まあいいや。建築技術が見たいんだっけ? ならそういう事にしておくさ」

「あ、ああ……そう言う事だよ」

「しかし……ダンジョンに詳しい人間を見つけるのは頼まれてやってもいいが、ただというのもな」

「何?! 金でも取るのか?」

「いや、ここはお前の技術で支払ってもらおう。ちょうど……」

 マジェスタは机の上から封筒を手に取る。

「開けるのが面倒だと思っていたところだ」

「封筒を?」

「そう。レターオープナーを作ってくれ」

 封筒の封を開けるための道具だったか。刃のついてない刃物のような道具だったはずだ。

「……分かった。お礼に作ってやるよ。形とかは?」

「任せるよ。ああ、剣の形にしてくれ! 片刃の剣」

「ああ、分かった」

「じゃあ……俺はもうひと眠りするよ……」

 マジェスタは大きなあくびをするとベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった。やはりかなり疲れていたようだ。

「お休み、マジェスタ」

 俺はカーテンを閉めて静かに部屋を出ていった。

 持つべきものは友、か。誰か詳しい人が見つかるといいが。しかしダンジョンには行ったところですぐ神に会えるわけでもないだろう。攻略しなければならないそうだが、一体どうすればいいのやら見当もつかない。

 Blenderの力が戦闘に使えればいいが……魔物と戦うなんて、それも想像が出来ない。

 でも、これで少しは前に進んだのだろう。前途多難だが、やれることだけのことはやってみる。このBlenderの力の意味を知るためにも、立ち止まってはいられない。

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