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異世界に転生したらBlenderを使えるようになっていた  作者: 登美川ステファニイ
第二章 ダンジョンへ
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第十六話 大工仕事

 その工房は大工職人の工房で、今建設中の家の為に木材を加工している所だった。のこぎりの音。のみを打つ槌の音。製図するペンの音。人の声はなく、六人の職人がそれぞれの仕事を分担して行なっている。

 みんな職人のようだった。などと当たり前のことに感動してしまったが、初めて見るこういう場所に、俺は少し興奮していた。

 そんな俺を見て、親方のローゼルさんは笑った。

「はははは! 何だか喜んでもらえて嬉しいよ!」

「すいません。なんかはしゃいじゃって……」

 仕事中の他の職人も、こっちの様子を見て少し笑っているようだった。

「うちは俺を含めて十二人の職人がいる。ここにいない連中は現場で組み立てをやっているが、そっちはまた今度だ。今日はここで俺達の仕事を見てもらう」

「はい、よろしくお願いします」

「しかし見てるだけじゃつまらんからな。最初にあんたの腕を見せてもらおうか。そいつと俺達の仕事がどう違うのか説明しよう。えーと、まずこの木を切ってもらおうか」

「これですか」

 ローゼルさんは作業机の脇のゴミ箱から木の端材を取り、ペンで線を引いた。

「この線に沿って切ってくれ。使うのはこの鋸だ」

「はい、分かりました……」

 やるのは分かったが……俺はすごく緊張していた。何故なら俺は実際に木材を切ったり加工するのは苦手なのだ。

 今まではBlenderの力で物を作って切り抜けてきたが、ここではそうもいかない。この研修旅行で一番の懸案事項だが、実際に手を動かす作業をなんとかクリアしなければいけない。俺はドキドキしながら鋸を手に取り、震えそうになる手を落ち着かせながら線に沿って切り始めた。

 時々つっかえながらも鋸で切り、端材の半分がポトリと床に落ちた。うまく切れた……だろうか。

「あの……切れました」

「ん? おお、終わったか」

 俺の作業が遅いのか、ローゼンさんは途中で他の職人さんの仕事を見に行っていた。こっちに戻ってきて俺の切った木材を手に取ると、断面を見たり指で触ったりと確認し始めた。

「ふむ……切れてはいるが……断面がちょっと荒いな。刃がぶれているからだ。それに何より、時間がかかり過ぎだ。こんな調子で切ってたんじゃ夜になっちまうぞ!」

 そう言うとローゼンさんは豪快に笑った。

「職人見習いならもっと手早くやらんとな。雑なのは困るが、早さは重要だ。普段は鋸を扱わないのか?」

「えっ?! ああ……小さい細工とかをすることが多くて、あまり大きな木材を切ったりするようなことがないんです……」

 俺は適当に思い付いた嘘を答える。心が痛むが、背に腹は代えられない。いつもはBlenderでやってるんですなんて言えるわけがない。

「ふうん、なるほど。そうか、大工じゃなくて木工職人だったな。しかし材料を切り出すにも鋸は扱えて損はないぞ! おい、ホーマ!」

「はい、親方!」

 職人の一人が答え、俺達の方へ歩いてくる。若い男の人……俺より少し年下、二十歳手前くらいに見える。

「リンタール。こいつはホーマだ。この工房で一番若いが二年ほどここで修行している。ホーマ。リンタールに基本的な技術を教えてやってくれ」

「分かりました」

 目が合い、俺は反射的にお辞儀する。ホーマは不思議そうな顔をしていたが、俺を真似してお辞儀を返してくれた。南方の民族の奇妙な風習と思われたことだろう。


 二時間ほどホーマさんに色々と教えてもらい、他の職人さんの加工した木材なども見せてもらった。単に木を切るだけでも色々な工夫があり、鋸も複数の種類を使い分けることが分かった。

 今まではBlenderでやっていたが、こうした実際の加工の知識や技術を身に着けていけば、モデリングにも役立ちそうだった。

 しかし、先は長い。

 本当に職人になろうと思ったら逆にBlenderを諦めなければならないかもしれない。それはそれでこの世界で生きていく一つの方法かもしれないが……やはり俺はBlenderの力を使って何かをやっていきたい。そうでなければ、この世界に転生して力を手に入れた意味が分からなくなってしまう。

 昼になり、俺は用意してもらった弁当を食べる。と言っても幕の内弁当みたいな奴ではなく、パンとチーズだけだ。サンドイッチですらない。クルド村でもこんなものだったが、そうもこの世界の人達は質素な食事で満足できるらしい。タリオテガイでもそれは変わらないようだった。

「リンタールは木工職人目指してるんだって」

 ホーマがパンを齧りながら言った。

「うん。木を削って細工物を作ったりとか、人形を作ったりとかね……」

 人形と言うと前に作った猫の人形を思い出す。顔の部分のポリゴンの貼り方が難しく、猫のようなそうでないようなものになってしまった。ああいう物もいずれはうまく作れるように練習しておかねば。

「ホーマは何で大工職人を目指してるの?」

「何でって……別に。雇ってくれたのがここだったから。親方と親父が知り合いでさ、面倒見てくれって。それでここで働いてるんだよ」

「縁故採用ってことか」

「エンコ……よく知らないが、まあそういう事だよ。別に大工になりたくてここに来たわけじゃないけど、最近は結構楽しいよ。思ったように切ったり削れるようになってきたから。まあ、仕事を任せてもらえるようになるにはもっと時間がかかりそうだけど」

「へえ、そうなのか。立派な職人になれるといいね」

「ああ。リンタールもな」

「所で……」

 俺はホーマの様子を見ながら、気になっていたことを聞く。

「ダンジョンに行ったことがある人って、知り合いにいない?」

「ダンジョン?」

 嫌な言葉でも聞いたかのように、ホーマが眉を顰める。

「建築の関係でさ……ダンジョンの中がどうなっているのか見てみたくてさ。でも中々簡単に入れないみたいだから……誰か行ったことのある人に聞いてみたくって……」

 俺が話している間も、ホーマは怪訝そうな眼付きで俺を見ていた。そして周囲を確認して、少し小声で言った。

「ダンジョンに行きたいとか興味があるなんて、ここでは言わない方がいい。特に親方の前ではな」

「えっ……何で?」

「お前は外国から来たばかりでよく知らないんだろうけど……冒険者のせいで何度か町でもめ事が起きていてな。それに前の疫病だってダンジョンから広まったっていう噂もある。まあそいつは眉唾だが……実際に疫病で家族を失った人の中にはダンジョンを憎んでいる人もいる。親方もお姉さんを亡くしてるんだ……」

「そう……だったんだ……」

 タリオテガイで疫病が逸っていたというのは知っていた。結構な数の死人が出ていたことも。しかしそれを身近な事とは思っていなかった。

「それがなくっても、ダンジョンとか冒険者ってのは……なんていうか山師のやることだ。嫌っている人は多いからな……話す相手は選んだ方がいいぜ。ちなみに俺の知り合いに冒険者はいない」

「そういう……ものなんだ」

「ああ。そういうものさ」

 ホーマはそう答え、残りのパンを頬張り一口に食べ始めた。どうもこれ以上ダンジョンについて聞くことはできなさそうだった。


 宿舎に帰ってから今日習ったことを復習する。といってもBlenderの中でなので、実際の手の感覚とは違う。だが木を継ぐ技術などはモデリングにも使えるだろう。

 以前に燃えた救貧院を建て直そうかと思ったこともあったが、今の俺ではちゃんとした建築はできない。Blenderとしては成立しても、細かな構造には粗が出てしまう。現実を知らなければブレンダーで作ることも出来ない。それが今日、実感できた。

 試しに俺は木の作業机を再現してみる。

 板に立方体を組み合わせ脚をつければいい。いいのだが、木の組み合わせ方を考える。継ぎ手を作ることまではしないが、釘で固定するとして必要な幅を考え、それを踏まえてモデリングする。マテリアルはテクスチャで何とでもなるが、これからはモデリングをするときにもっと深く考えないといけない。

 研修旅行なんてBlenderに役立たないなんて思っていた自分の不明が恥ずかしい。俺はもっと学ばなければいけない。この世界の全てを。

 俺はそう思い、いつしか3Dカーソルを持ったまま眠りに落ちていた。

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