32GWの中の平日は大学があります
鬼崎さんは、私たちと同じ授業を取っていた。私たちが去年取らなかった全学共通の授業だ。ジャスミンは嫌がっていたが、綾崎さんが一緒に受けようと誘ったので、鬼崎さんと一緒に授業を受けることになった。
「なんで、蒼紗の隣の席に鬼崎さん、あなたが座るのかしら?」
「それを言うなら、佐藤さんもでしょう?」
「私は、朔夜さんの隣を希望します」
「大講義室の授業で、私たちは一番後ろの席を取ることができた。私が机の中央に座ることは確定らしく、その両隣の席にだれが座るかでもめているらしい。いつまでも続きそうな無駄な争いを止めるため、シンプルで簡単な決め方を提案することにする。
「そんなにもめているようなら、じゃんけんで決めたらどうですか?それなら、恨みっこなしに簡単に決められますよ。そろそろ先生が来る時間ですから、早く席に着いてください」
私の言葉にしぶしぶじゃんけんを始めた三人。その結果、私の隣に座ったのは、ジャスミンと鬼崎さんだった。私の左隣にジャスミン、右隣が鬼崎さんとなった。席が決まると同時に先生が入ってきて、その後は静かに授業を受ける私たちだった。
「鬼崎さん、ちょうどよかった。今日は、この後用事はありますか?」
「うげ、最近よく合うわねえ。あいつ」
ジャスミンがぼそりとつぶやく。授業後、大講義室を出て廊下を歩いていると、駒沢が私たちの近くにやってきた。
「この後は授業がないので、大丈夫ですよ」
「では、研究室に来てくれますか」
わかりましたと彼女が返事をすると、綾崎さんが彼女に質問した。
「美瑠は、ゼミは駒沢先生にするつもりなの?」
「ハイ。駒沢先生の研究に興味がありまして。先生にはいろいろお話を聞いてもらっています」
「彼女はとても勉強熱心で、今日は彼女が知りたがっていたことが書かれた資料を見つけたから、渡そうかと思っていたんですよ」
「私と同じだね!」
「綾崎さんも私の授業を熱心に聞いてくれているね。先生はとてもうれしいよ。どこかの学生には嫌われてしまっているからね」
駒沢と綾崎さん、鬼崎さんは気が合うようで、和気あいあいと会話をしていた。駒沢の皮肉にジャスミンが私より先に反応する。
「良かったですね。私はあいにく、先生の研究分野にはあまり興味がなくて。蒼紗も同じですけど」
「本当に残念だ。朔夜さん、本来、あなたのような人こそ、私の研究に必要な人材だというのに」
ぞくりと全身の毛が泡立つ。この教授のたまに発する、私の正体を見透かしたような発言は苦手だ。さっさとこの場から離れることにしよう。
「私はあなたのゼミには入りません。綾崎さんや鬼崎さんみたいな学生さんを大切になさることです。では、私たちは次の授業がありますので」
私とジャスミンは急いでその場を離れた。綾崎さんも私たちと同じ授業を取っているので、慌てて私の後についてきた。
「お前ら、ほんと、やばそうなやつに目をつけられているみたいだな」
「七尾!」
一難去ってまた一難か。授業が行われている講義室に入ると、退屈そうにイスに座っている七尾がいた。隣には九尾の姿もあった。さらにその隣には狼貴君と翼君の姿もある。
「狼貴がこの授業が受けたいと言っていてな。ついでに七尾の顔でも、見ておくかと思ったら、七尾のおもりも来ていた」
「外で待たせているだけだ」
「う、雨水君がこの近くにいるの?」
飛んでもないことになってしまった。大学の授業を取っていない人が大集合してしまった。
狼貴君が受けたいと言っていた授業は意外にも、心理学の授業だった。
「心理学の授業を受けたいなんて、何かあったの?」
つい、小声で翼君に質問してしまった。狼貴君は熱心に先生の授業を聞きながらも私と同じように声を潜めて答えてくれた。
「今更付け焼刃かなと思うが、人間の心理を知りたくなっただけだ」
「それって、犬史君のこと?」
このタイミングで心理学となると、犬史君が関わっている可能性が高い。なるほど、彼なりに犬史君と向き合う準備をしているのだ。私もしっかり授業に取り組もうと思ったが、先生の声を聞いているうちに、その声が子守歌のように聞こえ、ウトウトと寝てしまった。
授業が終わり、講義室を出る。今日はこの授業で終わりだった。その後は特に予定がないので、七尾についていき、雨水君に会うことにした。
「雨水君、久しぶり!」
大学の門の外で、雨水君は七尾を待っていたようだ。私が話かけると、驚いたように目を見開いたが、私に軽く会釈した。
「久しぶりだな。朔夜。それに佐藤も」
ジャスミンは来なくていいといったのだが、私が誰と会おうとしているのかわかった途端に、ついていくと言って聞かなかった。綾崎さんはサークルがあると言って、授業後に別れた。大学を出るときには私服に着替えているので、今は紺色のパーカーにジーンズである。
「雨水君は今、何をしているの?」
「オレか?オレは七尾の面倒を見ている。こいつも一応、西園寺家を代々守ってきたやつだったみたいだしな」
「偉そうなことを。九尾が裏切ってすぐに没落したしょぼい家だったな」
「この近くに住んでいるの?前は、雪子ちゃんも面倒も見ていたよね?」
「懐かしいな、雪子は京都に戻ったが、オレはこいつの道楽につき合うことにした。雨水の家に戻っても、いいことはないしな。今は、能力者たちが所属しているなんでも屋で働かせてもらっている」
今後、家に招待してもいい。
そう言って、雨水君は七尾を引きづって大学から去っていった。無理やり引っ張られた七尾は不満そうにしていたが、雨水君にされるがまま、引っ張られていた。
「あいつ、七尾の扱いに慣れておるな」
七尾についていくと言った私たちに、九尾たちもついてきていた。九尾の言葉に納得する。
「たぶん、西園寺さんの護衛としての癖が抜けなくて、そのまま役に立っているのかもしれませんね」
雨水君の現状を知り、私たちも家に帰ることにした。




