31GWが始まりました
あっという間にGWに突入した。ジャスミンや綾崎さんとは遊ぶことはできないが、鬼崎さんの家にお邪魔するという用事ができた。そして、他にも楽しいとは言えない用事も追加された。
「GW中に犬史と会うことにした」
狼貴君の言葉に、私も彼に付き添うことに決めた。どうやって会うのか、会って話をして、それからどうするつもりなのか。いろいろ話し合うことは山積みだ。
「あいつは、GWは実家に帰るだろう。つまり、オレがいた家だ。だから、その時を狙う」
「どうやっておびき出すのだ?いくら、お前がその辺をうろついて、偶然会えたとしても、うまく話ができる場所まで誘導できるとは限らん」
九尾の言葉は最もである。さて、どうしたものか。
「だったら、僕たちが直接、彼に伝えればいいんですよ。何せ、彼は僕たちが勤める塾に行けば、狼貴に会えるといわれて入塾したくらいですから」
「とはいっても、もう塾はないですよ。GW中は夏季講習とかそういった期間限定の講習はやっていなくて、塾は休みになります」
「そういえば、もうGWでしたね。GW中は塾がないんでした」
「あ、あの、私、実はGWに」
犬史君とどうやって約束を取り付けるかで行き詰る中、私は一つ、報告をした。鬼崎さんと会うことを九尾たちに話すことにした。
「ジャスミンや綾崎さんにGWの予定を聞いたら、鬼崎さんがやってきて、いろいろあって、彼女の家にお邪魔することになりました」
「そうか。それなら、話は早いのではないか?」
「いったいどういうことですか?」
九尾の言葉に私も翼君や狼貴君は首をかしげる。
「その女、狼貴の会いたいガキとつながっている可能性があるのだろう?」
「そう言うことですか!」
犬史君が言っていたお姉さんが鬼崎さんという可能性を考えていなかった。そう考えると、彼女に犬史君と連絡を取ってもらえばいいということになる。しかし、そうなると、問題も出てくる。
「ですが、それは鬼崎さんに、犬史君と私たちの関係を話す必要があるということになります。どうやって説明したらいいのでしょうか?」
私の指摘に彼らは頭を悩ませる。鬼崎さんに犬史君のことを聞くのは簡単だが、彼女に彼とどういった関係かを聞かれるだろう。正直に話す必要もないが、何か理由を考えておく必要がある。
「それは危険が高いですね。彼女が何を考えているのか、いまだに理解できないので。それなら、職権乱用と言われようが、彼の連絡先を塾から拝借してこちらから、連絡を取る方がいいですよ」
翼君の意見に私も賛成である。彼女には、不用意にこちらの情報を渡しくたくないのが本音である。
「では、決まりですね。塾のカギは車坂が持っているみたいですが、連絡を取れば貸してくれるでしょう。蒼紗さん、連絡を取ってもらえますか?」
「わかりました。連絡がつくかわかりませんが、やってみます」
「本当に犬史と会うことができるのか……」
「なにやら、面白いことになりそうだな」
車坂に電話してみると、忙しくなかったのか、すぐに出てくれた。用件を話すと、これまたあっさりと塾のカギを私に貸してくれると言われた。その日のうちに車坂は私の家を訪れ、カギを届けに来てくれた。
「申し訳ありませんが、GW明けの塾から私は、しばらく休みますので、その間のことはよろしくお願いします」
別れ際に告げられた言葉に、わかりましたと返事をした。塾でアルバイトを始めて一年になる。彼がいなくても、翼君も一緒に居るのだし、大丈夫だろう。
外を見ると、雲一つない快晴だった。こんなにいい天気なら、どこかに出かけたらとても気分がいいだろうが、あいにく、私には予定がなく、九尾たちと家で過ごすことになりそうだ。
GW中にも平日は存在する。教授によってはGW中の平日に授業を入れない先生もいるのだが、私が取っている授業は平常通りに行われているため、私は大学に来ていた。
私は大学にいる間中、犬史君のことで頭がいっぱいだった。犬史で犬とは安直だが、今日は犬のコスプレをしてしまった。犬で思いついたのが、耳が垂れているダックスフンドだったので、頭にはぺたりと垂れた耳をつけ、尻尾はちんまりとお尻あたりに生やすことにした。
「朝から何を考えているのかしら?」
朝、大学に着くなり、考え事をしていることがジャスミンにばれてしまった。
「実は、私の家の居候が自分の親族に会うことになりまして」
詳しく話すことはできないが、狼貴君のことを名指しせずに、かいつまんで説明する。
「なるほど、自分のことじゃないのに蒼紗は律儀ねえ」
「おはようございます。蒼紗さん、今日は犬のコスプレなんですね。可愛いです!」
綾崎さんが私に挨拶する。後ろには一緒に大学に来たのか、鬼崎さんの姿もあった。
「おはようございます。蒼紗先輩、私、最近黒猫を拾ったのですが、GW中に紹介しますね」
「美瑠ったら、そればっかり。彼女、猫を拾ったみたいで……」
「すごい賢そうな黒猫で、私、一目で気に入っちゃって、首輪もついていないみたいで、ノラみたいだから、私、飼うことにしたんです!」
「黒猫、賢い、ノラ、飼う……」
わざわざそんなことを私に話す必要はあるだろうか。たかが、猫を一匹拾ったくらいで。
「これは世紀の大発見かもしれません。だって、猫がいた現場は殺人現場だったのですから!もしかしたら、私が拾った猫は、死神の使いか、それとも」
「鬼崎さん!」
大声で話を止めてしまった。まるで、猫の正体を知っているかのような口ぶりで話す様子に、嫌な予感が全身に駆け巡る。その猫の正体は。
「蒼紗にどうでもいいことを吹き込まないで頂戴。猫を拾ったことなんて、蒼紗にわざわざ報告するようなことでもないでしょ。蒼紗も、黒猫一匹に何、感傷的になってるの!」
バチンと顔の前でジャスミンが両手を打ち鳴らす。はっと現実に引き戻される。そうだ、別に黒猫が車坂のはずがない。車坂は死神であり、ただの猫ではないのだ。
「ご、ごめんなさい。つい、私、黒猫って聞くと、近所に住んでいる野良猫を思い出してしまって。あの猫は今どうしているかなと。鬼崎さんの家に今もいるのですか?」
「いますよ。蒼紗さんにも紹介しますよ!」
「蒼紗さん、猫に興味があったのですね……」
綾崎さんが何か言っているが、私は鬼崎さんの話に夢中で聞いていなかった。




