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21鬼崎さんが私に近づいた理由

「朔夜先輩は、妖怪とか神様みたいな人外の存在って、現実にいると思いますか?」


 私は、大学のサークル棟の一室にいた。綾崎さんが所属するサークルなのだろう、見覚えある部屋ですぐに気付いた。部屋にいるのは、私と鬼崎さんの二人きりだった。


「鬼崎さんは居ると思いますか?」


 鬼崎さんの質問に答えず、逆に質問してみた。私の答えは簡単だ。『いる』という一言で事足りる。しかし、そんな簡単に答えていい雰囲気ではなかった。鬼崎さんは真剣な表情で私の回答を待っている。彼女の質問にどう答えたらいいかわからなかった。


「私は朔夜先輩に聞いているのになあ。まあいいです。私、朔夜先輩の秘密、知っちゃいましたから」


 私が質問に答えなかったことにいら立つことなく、逆に嬉しそうに私の秘密を知っていると話す鬼崎さん。いったい、私の何を知っているというのだろうか。私には他人には言えない秘密だらけだが、もしかしたらカマをかけているだけの可能性もある。



「私の秘密を知っていること、妖怪や神様がいることの話のつながりが見えないのですが」


 とりあえず、当たり障りのない言葉で質問の意図を探ってみることにした。とはいえ、私の秘密と妖怪云々の存在を関連付けている時点で、私の秘密を知っていると言っているようなものだ。


「わかっているくせに、往生際が悪いですね。それで、どうして神様なんかを連れているのですか?しかも、先輩を詳しく調べてみたら、死神ともつながりがあるみたいじゃないですか」


 どうやって調べたのかは不明だが、私の周囲をずいぶんと調べているようだ。しかし、その情報が本当だという証拠はないはずだ。話をそらすために軽く質問してみる。


「鬼崎さんって、そういう系に憧れでもあるのですか?確かにそんな人外の存在がいたらいいなとか、面白い世の中だなと思うことはありますけど」


「そうなんですよね。私、昔からそういうものに目がなくて。いつか本物に会ってやると意気込んでいました。そして、高校時代にこの大学を知った時は歓喜しました!ようやく私が追い求めていたものが見つかる、と」


「はあ」


 鬼崎さんが突然、自分の過去を語りだした。私は先ほどから何を聞かされているのだろうか。そもそも、どうして私と鬼崎さんは、二人きりでこんなところで話しているのだろう。


「この大学に入れて本当に良かった。最初は、半信半疑で入ったこのサークルも、大して面白くない授業もどうでもよくなった。朔夜先輩に出会ったから!」


 今度は、私に指を突きつけてきた。どう反応していいかわからない私を彼女が気にする様子はない。


「朔夜先輩の独特な雰囲気に興味を持ちました。そうしたら、私と同じ考えの教授に出会いました!彼との出会いで、私は朔夜先輩のこれまでの人生を知ることができました!」


 鬼崎さんは、どうも私の存在に興味を持ち、駒沢の助けを借りて私を調べ上げていたようだ。私について調べたことを嬉々として語ってくれた。


「調べてみれば、出てくるわ出てくるわ。蒼紗先輩自身が人外の体質、周りも神様に死神、果ては能力者に死者が生きている。蒼紗先輩の周りは、私にとって理想の場所だった!」


 理想の場所と言われても困る。鬼崎さんの理想であっても、それは私が思い描いていた大学生活ではなかった。今となっては、この生活も楽しいと思えるようになったが。



「いったい、私に何をして欲しいんですか。私の立ち位置を譲ってほしい、というのは無理ですよ。彼らは私にご執心で、きっと鬼崎さんには見向きもしないと思います」


「そうなの。だから、困っています。それで、一生懸命、考えて考えて、ようやく思いつきました!朔夜先輩さんって、どうやったら死にますか?」


「死ぬ?」


「朔夜先輩がこの世からいなくなれば、彼らは次の退屈しのぎを探し出す、先輩の後釜になることならできると思います。だから」


『ここで死んでください』


 きらっと光るものが鬼崎さんの手に握られていた。それを私に向かって振り下ろす。とっさのことで、私はつい、その光るものを手で受け止めて。






 ハッと目を覚ますと、隣にはジャスミンが気持ちよさそうに寝ている姿があった。慌てて自分の手を確認するが、幸い、血も出ていないし、怪我も見当たらなかった。私は自分の部屋のベッドで寝ていた。窓の方に視線を向けると、すでに日が昇っていて、カーテン越しに陽の光が漏れていた。


「鬼崎さんが私に近づいた目的って……」


「トントン」


「今、起きたところです。私が九尾たちの部屋に行きますよ」


 九尾たちがノックしたのだと思い、返事をする。部屋の扉を開けると、するりと黒い物体が部屋に入り込んできた。


「にゃー」


「もしや、車坂先生、ですか?」


「にゃーにゃー」


 正解だとでもいうように、私の周りをうろつき、黒猫は足下にすり寄ってきた。


「こいつが家に入れてくれと騒ぐので、仕方なく入れてやった。本来なら、死神なんぞと馴れ合いたくはないが」


『それは私も同じです。その辺の狐風情が私と張り合えると思っているようですが』


 頭の中に車坂の声が聞こえた。足元ではゴロゴロと喉を鳴らす猫がいるだけだが、車坂が私に直接脳に話しかけているのだろう。部屋を開けて廊下を覗くと、九尾たちが立っていた。



「ううん、うるさいわね」


 九尾たちが部屋にやってきて騒がしくなったため、ジャスミンがもそりと布団から起き出した。眠そうに目をこすりながら、現状把握しようと周囲を見渡す。


「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


「おはよう、ああ、昨日は蒼紗の家に泊ったんだったわね。おかげさまで、よく寝たら気分爽快よ」



「ぐー」


「すいません。とりあえず朝食にしましょう」


 私のお腹が空腹を訴えて音を鳴らす。恥ずかしくなり、早口で朝食にしようと提案する。


「それなら、僕たちが準備しますよ!」


 九尾の後ろには翼君と狼貴君の姿があった。その後ろには、ふてくされたような顔をした七尾の姿もあった。


「じゃあ、いつものように翼君たちにお願いしようかな」


「ハイ!お任せください」


 九尾もそうだが、翼君も狼貴君もケモミミ少年姿だった。七尾も、彼らより少し年上ではあるが、青年姿ではなく、高校生くらいの未成年っぽい年恰好で、狐の尻尾と耳が生やしていた。


「ねえ、蒼紗って、実はショタコンでしょ。良かったわね、女で。ていうか、男だったら、確実に捕まっていたかも。彼らを見る目が変態っぽくてやばいわよ」


 翼君の元気な返事にほっこりしつつ、じっと彼らを凝視してしまう。やはり、ケモミミショタは癒しの存在だった。顔が緩んでいるのをジャスミンに見られて、不審者を見るような目で見られてしまった。


 この場はいったん解散となり、九尾たちは一階のリビングに下りていった。黒猫姿の車坂も一緒に部屋から出ていった。その場に残された私たちは、急いでパジャマから私服に着替えて部屋を出た。


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