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12事件はすでに私の目の前で起きていた

 午後の授業は、私が苦手としている駒沢の授業だった。彼は私に興味があるらしく、ことあるごとに、研究室で二人きりで話さないかとしつこく迫ってくる。ハロウィン騒動の時には、私の能力や特異体質について、何か知っている様子で話しかけてきた。ぜひとも、自分の研究室に私を囲い込みたくて必死のようだ。


「では、授業を始めます。この授業は……」


 私が通っている大学は、普通の大学と違って、妖怪などの怪異を専門に研究する学部が存在する。私もその学部に興味を惹かれて入学している。ジャスミンや綾崎さんも、同じ学部に所属している。そして、駒沢が私たちの学部の教授だった。


 一年生では、「妖怪学入門」という初歩的な全学共通の授業を受講した。二年生になった今年は、さらに踏み込んだ専門教科として授業を受けることになっていた。




「やはり、駒沢先生の授業は素晴らしいですね。本当に妖怪などがいるのなら、一度会ってみたいです!」


 今回私たちが受講したのは、「伝承について~どのように妖怪などの怪異の歴史が受け継がれていったのか~」という、妖怪というものが世代にわたって受け継がれた理由を探っていくというものだ。


 そんなものは、私たち能力者にとって、簡単に答えられるものだった。私たち能力者が能力を使っているところを見られて、それが広まっていたのだと考えることは容易だ。実際に、ジャスミンは、能力を使おうとすると、身体に爬虫類のようなうろこが出る。そんな様子を見たら、妖怪の一つや二つを連想してしまうだろう。


「ねえねえ、蒼紗は興味がないみたいよ。綾崎さんがなんで、あんなじじいを尊敬しているのか知らないけど、蒼紗も私も、あいつのことが嫌いだから、私たちの前で、あいつの話題を出すのは控えた方がいいわよ」


「えええ!どうしてですか?私のサークルでは、駒沢先生って人気なんですよ。あのミステリアスな感じがたまらないし、授業はわかりやすいし、何より、私たちに夢を与えてくれます!」


 私が駒沢や妖怪について考えている間に、綾崎さんが駒沢について、熱弁していたようだ。ジャスミンがたしなめているが、効果はなさそうだった。


「人気?うそでしょ。私はこの大学の一番嫌いな教授だけどね。だって、あいつ、蒼紗に興味があるみたいで、勧誘がしつこいもの。いっそ、学生相談にも苦情を出そうかしら?」


「それはダメですよ!蒼紗さんに興味を持つのは、当たり前ですよ!いつも、何を考えているのかわからないところは、駒沢先生と同じで、ミステリアスです。それなのに、窮地に陥った私を救ってくれます。ギャップ萌えというのかもしれません!」


「ミステリアスなのはわからないけど、ギャップ萌えというのは、当たっているかもしれないわ。私の窮地も華麗に救い出してくれたもの。だいぶ、蒼紗について理解を深めてきたようね」


「佐藤さんに褒められてもうれしくありません」


 さて、このまま私はその場を離れてもいいだろうか。駒沢の話をしているかと思えば、私のことが話題になっている。聞いていられなくて、こっそりと逃げ出そうとしたが、行く手を阻むものがいた。



「なにやら、面白い会話をしていますね」


「こ、駒沢先生!こんにちは。今日の授業もとても勉強になりました。今年もよろしくお願いします」


「ふん、何よ。女性の会話に割り込むなんて、空気を読みなさいよ」


 噂をしていたら、本人が私たちに話しかけてきた。それに対して、二人が対照的に反応する。綾崎さんは、言わずもがな、頬を染めて嬉しそうに微笑んでいる。反対にジャスミンはむすっと急に不機嫌な様子になった。


 私たちは駒沢の授業後、教室から出ないでその場で話をしていた。駒沢は教室から出ていったと思っていたが、教室に居座っていたようだ。


「用事があるのは朔夜さんなので、お二人は会話を続けてもらって構いません」


「いったい、私に用事とは何ですか。研究室への誘いには、応じませんよ」


「そこまで警戒しないでください。今日は、あなたのお友達の件について詳しく聞きたいと思っているのですよ」


 意味深な言葉を告げる駒沢に、私は警戒を強めた。警戒するなという方が無理な話だ。お友達とはだれのことを指しているのだろうか。


「お友達とはだれのことでしょう。私が友達だと紹介できるのは、じゃす、いえ、佐藤さんと綾崎さんになりますが」


 おそらく、彼がお友達と称しているのは、九尾たちのことだろう。しかし、彼に彼らを紹介する義理はない。


「では、私はこれからバイトが入っていますので、失礼します。二人とも、行きますよ」


「蒼紗に手を出したら許さないわよ。すでに話していると思うけど。念のため、もう一度言っておくわ」


「失礼します」


 ジャスミンと綾崎さんは、私の後を追うために、慌てて席を立つ。私がその場を去った後、駒沢はにっこりと笑って私の後姿を見ていた。





 帰宅すると、家には九尾しかいなかった。帰宅の挨拶をして玄関を上がる。リビングに入り、一息ついていると、玄関からガチャリと音がした。


「ただいま戻った」


「帰ったか。おや、ずいぶんとヒドイ格好だな。いくらわれの眷属と言えども、万能ではない。あまり大怪我すると、消えるぞ」


「今日はたまたまだ。今度は、へまはしない」


「こ、狼貴君、その怪我、どうしたんですか?ええと、まずは消毒とそれから……」


 狼貴君が帰ってきた。狼貴君は、額から血が出て、腕からも血が出ていた。しかも、ケモミミと尻尾が垂れ下がっていて、一目見てやばそうな状況だった。


「消毒はわれらには意味がない。そもそも、人間の施す怪我の対処では治らないからな。さて、そこまで深い傷は負っていないようだが、念のため、われの気を少し分けておこうか」


「必要ない。これくらい自力でなお」


「まあ、遠慮するな。誰に怪我を負わされたのか、われも知ることができるし、おとなしくしていろ」


 私の言葉を九尾は意味がないとバッサリ切り捨てる。何をするのか見守っていると、狼貴君は九尾のすることに予想がついたのか、嫌そうに顔をしかめた。心なしか顔色も悪いような気がする。



「なつ!これはなんと萌え、いや、これで何が変わるっていうのですか?」


 嫌そうにしている狼貴君に九尾が突然、ぎゅっと正面から抱き着いた。どちらも、小学校高学年から中学生くらいの少年で、しかもケモミミ尻尾つきの美少年ときている。その二人が抱き合っているのだ。うっかりときめいてしまうのは仕方ない。



「ただいま戻りました。えええ、何をしているのですか。二人とも」


「おや、翼も帰ってきたか。お前も傷を負っているな」


狼貴君に続いて、今度は翼君が帰ってきた。翼君も狼貴君ほどではないが、腕や顔にけがをしていて、血が出ていた。


「翼君、いったい、その怪我どうしたのですか。狼貴君も怪我をして帰ってきたのですが、二人は同じ場所で遊んでい」


「こい、翼にもわれの気を分けてやる。その方が怪我の治りも早い」


 私の言葉は九尾の言葉に遮られた。翼君は狼貴ほど嫌そうな顔をせず、おとなしく九尾にされるがまま抱き着かれていた。しかし、狼貴君のことも離そうとしなかったので、三人が一緒に抱き合っているように見えた。


「あれ、三人の身体が光っているような……」


 ただ抱き合っているようにしか見えず、九尾の言っている、気を与えるということがどういうことなのか理解できないでいると、三人の身体が急に光り始めた。数秒で光は治まったが、光の治まった彼らを見ると、驚くことが起こっていた。


「これでよかろう。さて、お前らが誰と戦っていたのか、何を守ろうとしていたのかわかった。だが、それは」


「わかっている。なるべく早くけじめはつける」


「九尾は手を出さないでください。僕たちできっちり対処します。九尾の顔に泥は塗りません」


 三人は離れると、深刻な顔をして、何やら話し合いをしている。私は目の前で起きた現象の説明を求め、質問した。


「け、怪我治っているけど、これが九尾の言っていた気を与えるということですか?」


「説明していなかったな。われの気を二人に分け与えてやったのだ。こうすれば大抵の怪我はすぐ治る」


「九尾、ありがとうございました」


「礼を言う」



 それから少しして、私はバイトに行かなければならない時間となり、バイトに向かう準備を始めた。翼君たちの怪我が気になるが、私に話してくれそうになく、今日は話を聞くのをあきらめた。


「翼君、狼貴君、怪我の理由は後でしっかりと聞かせてもらいますから、逃げないでくださいね」


「蒼紗さんにはあまり話したくはないな。面白い話でもないし」


「同感だ」


「それは、私が聞いて判断します。明日でもいいから、ちゃんと話してください。では、行ってきます!」


「行ってらっしゃい!」


 今日は、翼君はシフトに入っていなかったので、私は一人でバイト先である、車坂のいる塾へ向かった。


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