決着
閣下の命を狙った貴族は、レナードさんとその配下達によって見事に捕らえられた。毒物も一切合切回収され、証拠品として城に持ち込まれている。
この貴族は当然だけど、極めて重い処分が下された。当主と実行犯の息子はおろか、一族郎党全て極刑となった。
「閣下に対して弓引く事は、アーティマ王国に混乱を招こうとした事と同義です。例え閣下御自ら許されようと、覆る事はございません」
「うむ、そうか……」
レナードさんの厳しい言葉に、閣下は悲しそうな顔を見せた。
捕らえられた貴族は、やはり閣下に対抗する勢力の貴族だった。レナードさんはこれを機に、対抗勢力への攻勢をかけるつもりのようだ。
王国への反乱を企てたという事実を前面に押し出して対抗勢力の立場を悪化させ、駆逐する。そんな思惑で、この一件を利用するのだろう。
僕らにはあまり関係が無い話なので深入りするつもりは無いんだけど、毒についてだけは放っておけなかった。
「押収した毒の中には恐らく、ミードで使われた石化毒と同種の物が含まれてますよ」
「それは本当ですか! では、あの一件にも関与を!?」
閣下もレナードさんも、この話には驚愕していた。
疑いはあるよね。もし関与していたならあの事件もこの貴族か、或いは対抗勢力が企てた事だった可能性が高くなる。ただでさえアルグリッド子爵領は閣下寄りの領地。充分あり得る話だ。
そんなわけで二日後、閣下から僕らに報奨がもらえる事になった。サロンでの寛いだひと時の中、その話が進められる。
「暗殺の阻止、逆臣の情報、石化毒の情報、そして閣下の護衛も引き受けていただきました。ハルト様とマリエラ様には大変な功がございます」
「うむ。妾の臣下に加えたいくらいだが、それは望まぬであろう。お主ら自身には何か、望みはあるか?」
と言われても、困るんだよなあ。金には困ってなければ名声も要らないし、欲しい物も別に無い。
マリエラと二人で顔を見合わせて、苦笑いしてしまった。
「閣下が仰って下さったように、私も僭越ながら友人だと思っております。友人であれば守るのは当然の事です」
「僕も特に望みはありませんよ」
「無欲だな、お主ら……」
これだと、閣下は困っちゃうんだと思うけどね。
閣下もレナードさんもこちらと同様、苦笑いしていた。僕らの答えなんてわかり切ってたんだろう。
「ならばせめて、金だけでも受け取っておけ。妾の立つ瀬が無いわ」
そんなわけで、ずっしりと重い革の袋をレナードさんから受け取った。これで銀貨って事も無いだろうし、幾ら入ってんのよ?
そうして僕らは領城を後にし、ひとまず白海豚亭へ向かった。部屋で数えてみたら、金貨で二十枚も入ってたよ。何これえ……。
二人合わせて四十枚もの金貨を手にしてしまった。宿の部屋でテーブルに置き、その黄金の輝きに頭を抱える。マリエラも僕程ではないけど困惑気味だ。
「これ、どうしよっか。家とか買えちゃうね」
「ま、まあお金はあって困るものではないし。……困ってるけど」
僕らの場合はバッグがある。中に突っ込んでおけばかさばらないし重くもない。だから困らないと言えば困らないんだ。でもこんな大金、持ち歩きたくないよ……。
とりあえず二人それぞれバッグにしまい、二日ぶりのゆっくりした時間を過ごす事にする。城では気が休まらなかったからなあ。
楽しくはあった。閣下はあんな方だしミリヘルド様達とも再会出来て、賑やかにお喋りなどさせてもらった。マリエラも紹介出来たし、仲良くなってくれた。近況報告などもし合って、お互いに元気である事がわかって安心した。
綺麗な女性ばかりに囲まれて、非常に居辛かった事だけが問題だったかな。
ともあれ、今はこうして二人になった。すると、早速とばかりにベッドに押し倒されてしまう。見上げればマリエラは目を爛々とさせていた。何と言うか、初めて会った時を思い出すな。
要するに、吸いたいんだよね?
「えっと……。ひとまずはほら、湯浴みしようか」
抑えが効かないのか、僕の提案は聞き入れられませんでした。
そのまま襲われ吸うどころか色々されてしまって、気付けば朝になっていた。おかしい、帰って来たのは午前中だったはず。
伴侶になる宣言したからかな。一線はまだ越えてないんだけど、容赦が無くなって来たぞ。あんな事やこんな事までされて、嬉しいやら恥ずかしいやら……。
さらにそのまま昼過ぎまで触れ合いながら過ごして、湯を浴びてから食事した。主人さんや奥さんににやにやされてしまったけど、何も言い返せないよ……。丸一日以上籠もってたんだからねえ。
マリエラは笑みが絶えない。そして隙があれば触れてくる。頬だったり髪だったり、手を握ったり。その様子は本当に幸せそうで、気恥ずかしいけど僕もやっぱり満更でもなくて。
水竜走も無事形となったし、閣下の周りもこれから片付いていく。何もかもが一段落して、僕ら二人もようやく落ち着ける。二人でこうして、穏やかに暮らせる。
何でかこれまで嵐みたいな日々だった。遺跡に始まり、戻って来たら魔法組合が。それが片付いたところでミリヘルド様を守り、リアスタへの仕事や競技の話なんかがありつつコカトリスの情報が舞い込んできた。その最中に僕とマリエラは一緒になる事を決めた。
それからミリファ様に協力してアルグリッド子爵領を守り、競技の運営にも少しだけ関わってこれも無事に水竜走として完成した。閣下が襲われたけどそれも防いで、今はレナードさんの指揮の下で解決に向かってる。
思い返してみると、なかなか波乱に富んだ生活だ。でもその分出会いも多くて、たくさんの知り合いが出来た。仕事があるから再会は難しいんだけど、また何処かで会う事があったら嬉しい。その時は思い出話にでも花を咲かせるんだろうね。
「どうしたの?」
「ん? ……色々あったなって、思って」
「ふふ、そうだね。私とハルト君が出会って、まだ三ヶ月も経ってないのにね。あの時は、こうなるなんて思わなかったなー」
三ヶ月。そうなんだよ、まだ三ヶ月も過ぎていないんだ。ちょっと、盛りだくさん過ぎやしない?
僕ら二人の仲も、進展早過ぎるように思ってしまう。でも、好き合ってしまったらこんなものだろうか?
ま、僕らは僕らで良いか。気にしても意味なんて無いよね。
「……ねえ、ハルト君。今日もまた二人でいよう? 二人っきりで」
マリエラの言葉に、僕は赤面して頷く。
食事を済ませたら、二人でまた部屋に戻った。そして、事には及ばないまでも口付け合って触れ合って、長い時を二人で過ごす。
二人だけの大切な時間。何ものにも代え難い、特別なひと時。これまで味わった事の無い幸せを僕らは二人で享受した。
それから何日もが経ち、年が明ける。
寒い時には寄り添って、暖かな日差しの下では手を繋いで。二人穏やかな日々を謳歌した。これまでの反動が来たかのように何にも無い日常。仕事も大きなものは選ばない。ゆったりと、のんびりと毎日が過ぎるに任せる。
そうして寒い季節が終わる頃、僕は重大な事に気付いた。




