魔道具の作成
カーツィアルさんとユーリさんが帰ったところで、僕は水術で透き通ったワンドを一本作ってみた。長さ三十センチ程で、指揮者が持つようなあれだ。そして癒術を固めるイメージで、その先端部に埋め込む。すると魔眼が、そこに定着した癒術の魔力を見せてくれる。
そして地術の刃で指先をほんの少し切ってワンドを向けると、ゆっくりだけど治療が始まった。どうやら成功だ。
水術や地術、炎術だけでなく、見た目にイメージし辛いけど癒術も風術も形を与えられそうだ。また新しい発見があった。多分、どの術でも可能なんだ。それがわかってしまえば、想像も容易い。
「ハルト君がまた何かやってる……」
「もう少し強く込めて……、これでよし。マリエラ、これあげる」
重傷まで治せるかわからないけど、傷を治療出来るワンドが出来上がった。受け取ったマリエラはきょとんとしてそれを眺め、それから僕の方を見た。
「そっか、これって要するに魔道具なんだ……」
「うん。僕もさっき気付いた。人間ってさ、こうして魔道具を作ったんじゃない?」
「あ! そうかも! ねえ、それじゃ私達魔族にも作れる!?」
「絶対とは言い切れないけどね。僕だって原理を完全に把握してるわけじゃないし」
興奮気味なマリエラを宥めるように言って、少し考えてみる。
僕が魔法で物を作る事をマリエラにしろレベッカさんにしろ、物凄く驚いて見ていた。それは前例が無いからだろう。でも長い魔族の歴史の中において、これを思い付かなかったなんてどうしても考えられない。
先入観というものは確かにある。それが邪魔をして、可能な事も不可能にしてしまう。それが理由だと考えられない事もない。けれど些か苦しく思える。ならば、他に原因があるのではないだろうか?
真っ先に思い付くのは、魔術だ。一般に魔法は七つの分野だと言われている。という事は、魔術は知られていないか失われた魔法なんだ。だから誰も試せない。魔術が物を作るのに必要なのであれば、それは僕とマリエラにしか出来ないわけだ。
そしてマリエラは、作り方を知らなかった。彼女個人に関しては、多分先入観によって思い付けなかったんだろう。だから、僕が初めてこんな魔法を使った事になった。もっとも、何処かには誰かいるかもしれないけど。知られていないだけでね。
「魔術が関わっている可能性があるよね。でなければ、これまで誰も試さなかったとは思えない。そして試していれば、誰かが成功させてると思うんだ」
「確かにそうだね。それじゃハルト君と私限定の魔法? ちょっと試してみる!」
マリエラはひとまず簡単に、水術のゴブレットを作り出した。けれど直後そのゴブレットはただの水になり、マリエラの手とテントの床を濡らして終わった。
ふむ、魔術の働きが弱かったように見える。僕も改めて同じ事をして確認した。するとやはり魔術が働いている。なるほど、魔眼があればこんな風に見極める事も出来るんだな。
「ねえ、ハルト君。もしかして水術と魔術の併用じゃなくて、混ぜてたりする?」
「え……?」
再度改めて、魔眼でゴブレットを見つめる。ゴブレットだけでなく、周りの作り出した物全てへ目を走らせた。
…………納得。確かに混ざってる。想像で魔法を使ってたから考えもしなかったけど、どうやら僕は無意識に魔法を混ぜて使っていたらしい。
でもよく考えれば、今なら理解出来る話だった。物を作るのに魔術が必要で、その上で水術や地術を使って作るのだから、混ざっていて当然だ。
わざわざ確かめる必要なんて無かったな。
「うん、そうみたい」
「混ぜて使うなんてやり方も、私初耳だよ……。でもこのワンドだってそうだもんね。水術と癒術が混ざってるから、こうして出来上がってるんだから」
そうとわかってしまえば、さすがのマリエラだ。水術のゴブレットを簡単に作ってしまった。
彼女は出来上がったそれを見つめながらおもむろに立ち上がり、天に掲げる。初めて使ったわけだし、気持ちはよくわかるな。
「出来た……。出来ちゃったよハルト君!」
「マリエラなら簡単な事だって」
「ありがとね! どうやってるのかわからなくて試せなかったんだけど、これからは私も作れる!」
そして感動した感情のまま、マリエラは僕を抱き締めた。顔が大ボリュームの胸に埋められて、少し苦しい。でも、あまりの状態にそれどころではない。初めてなわけじゃないけどさ。慣れないんだよね。
柔らかくって良い匂いして、昇天しそうだ……。
気付かぬ内に魔道具を作っていた事が発覚した。ならばそちらの視点も踏まえて考えてみようと、魔力を補う手段について思案する。
ゲームなんかでは、魔法の薬で回復するのが一般的だったね。後は敵から奪ったり自然回復力を強化したり。
…………奪う、か。魔術でやれば充分可能な気はする。
ちょっとマリエラに協力してもらおうか。
「ねえ、マリエラ。ちょっと実験に付き合ってくれない?」
「良いけど、どんな?」
「魔力を奪えるか試したいんだ」
「怖い! ハルト君がまた恐ろしい事考えてる!」
あらら、駄目か。強引なのは嫌いだし、駄目なら他の手段を考えるからいいや。それに他者から奪うのは、抵抗とかあって上手くいかないかもしれないしね。
「別に構わないけど……、優しくしてね?」
「ぐふっ!」
ああ、心臓に直撃しちまった……。
結局試したけど、可能ではあった。ただし、抵抗も容易いらしい。心を開いて受け入れる、くらいの心持ちでなければ成功しないようだ。これでは使えない。僕とマリエラの間でやり取りするには充分だけど。
「欲しかったら、いつでも言ってね!」
「態度が反転しとる……。まあでも、ありがとね。マリエラも言ってくれたら融通するからね」
「うん!」
これはこれでありな結果か。それにこの魔法、奪うだけじゃなくて渡す事も出来る。充分だな。
「そっか。この魔法があれば、今度はハルト君を気絶させないで済むんだね!」
「そういう事だね。その時には頼りにさせてもらうよ」
「任せて!」
二人で力を合わせれば、石化を治すのに充分な魔力となる。一日一人だけだけど、治せなかったこれまでより遥かに良い。これは後で、カーツィアルさんに伝えた方が良いな。
……あれ? 魔道具視点は何処行った? ま、まあヒントにはなったよね!
そうして一頻り魔法であれこれ試した後にようやく思い出して、この三日間で捜索はどうだったのかと聞いたのだけど、コカトリスは全く姿が見えず、そのため進展も無いらしい。
三日程度じゃ、そんなものかもね。この森の中から探し出そうというのだから、気長に続けるしかない。
ただ、開拓をいつまでも止めてはおけないとの事で、西側のみ作業が再開されたそうだ。そこに農地を作れれば、他はのんびりでも構わないだろうし妥当なところか。
「そろそろ十九時だけど、ハルト君眠れそう?」
「げ、変な時間に起きちゃったんだね。ゆっくり湯浴みでもして、時間潰してようかな」
「それなら洗ってあげるね!」
「言うと思ったよ」
手早く湯を用意したマリエラは、わざわざ魔術を使ってまで僕の服を剥いで自分も裸になる。もう、好きにしてくれ……。
「待っ……! 好きにしてくれとは思ったけど、そこは駄目!」
「好きにして良いんだね? やったあ!」
「いや、だから駄目だって!」
ああ、全身隈無く隅々まで……。
案の定そのままベッドに直行で、マリエラは眠ってしまった。そして結局僕は眠れず、翌朝を迎える。触られた感覚がなかなか消えなくてくれなくてさあ……。
この状況に慣れる気配も一向に現れず、心臓はひたすら早鐘を打ち続けた。怖いので時々癒術で回復してる。
さすがに慣れるかと思ったんだけどなあ。目を開ければ視界が肌色で大きなものが目の前だし、時々腕に力が入って身体が押し付けられて来るし、喘ぎ声が聞こえたり匂いも素敵だったりで、五感の内四つも支配されてたらそうもなるのだろうか。
正直おっさんには辛いぞ……。
首を捻って、その拍子の喘ぎ声は聞かなかった事にしつつぶら下げておいた懐中時計に目をやれば、時間は五時の少し手前程だ。そろそろ起きて、朝食の用意をしたい。
日付が変わる頃にマリエラは眠ってたから、ほぼ五時間か。長いな。彼女も疲れてたんだろうな。何かでしっかりねぎらいたいところだ。
振り返って様子を見れば、マリエラはゆっくりと瞳を開けるところだった。唐突に引き寄せられ、力いっぱいに抱き締められる。
「おはよ!」
「おはよう。あの、朝から刺激が強過ぎるんだけど……」
「もっと刺激的な事しよっか?」
「早い! 僕らにはまだ早いよ!」
「ハルト君には、まだ早いかもねー」
マリエラはそれなりの年齢だろうけど、こっちは子供の身体だから。と言うかね、子供相手に言う冗談じゃないと思うの。
ともかく、二人で起きて支度を始めた。




