表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/60

傍若無人な来客

 邸宅に残っていた使用人達の行動は早かった。全員で出迎えて、馬車から下りてくる僕らをいきなり襲撃した。何となく読めてはいたと言うか、想定はしていたんで問題無く捕縛。同様の手枷足枷猿ぐつわを用意し、引き渡し準備は完了した。


 その間にシェラさんが馬でひとっ走りしてくれて、またも衛兵が来てくれた。苦笑いで。こっちも愛想笑いで対応するしかないな。本気でろくでもない。


 こうして瞬く間に、邸宅には誰もいなくなった。




「では、今後どうするのか聞かせてもらえますか?」


 サロンでサラさんから茶をもらって、全員で一息としたところで口にする。答えてくれたのはサラさんだった。肩にぎりぎり届かない程の髪を耳にかけ、こちらに目を向けて話し始めた。


 ちなみに、髪と瞳の色はシェラさんと同じだ。顔立ちも体格も似ているし声もそう変わりが無い。なので、僕は髪の長さで見分けている。シェラさんは耳が出るショートヘアなので、わかり易くて助かった。


「まず、領地にいらっしゃる奥様のミリファ様と後継ぎのエンゲルド様にお伝えしなければなりません。それともちろん侯爵様にも。けれどこの邸宅を空ける事は出来ませんので、ミリヘルド様には残っていただく必要があります」


「それじゃ、誰が領地へ伝えに行きます?」


 これが問題だった。姉妹は、自分達ではミリヘルド様を守れないと考えていた。しかしどちらか一人で伝令に向かったとして、領地までの道中で魔物に襲われればひとたまりも無い。つまり行くなら二人で行く事になるわけだ。そうなれば、ミリヘルド様の守りは僕だけになる。二人が如何に僕の事を評価していると言っても、二人きりで残す事には抵抗があるだろう。


 領地への伝令とミリヘルド様の護衛、この二つが両立出来なかった。


「領地までの距離は、例えば徒歩で何日の道程ですか?」


「およそ三日ですね。レヴァーレストから東に向かった宿場町のリアスタまでが一日。そこからさらに東へ向かって二日で、私達のアルグリッド子爵領に入ります。領都のエルドロードはそこにあるので三日で到着出来ます」


 テトまでが僕の白馬で恐らく二時間半。多く見積もって、エルドロードまでは四時間か。時間的には一日で往復出来るな。僕が行くなら、体力回復があるから大丈夫だけど。


「僕の馬なら、四時間で到着出来ます」


「よ、四時間!?」


「それは、走り続けさせるのですか!? そんな無茶な! 馬が持ちませんよ!」


「持つんですよ。特別な馬なので」


 とりあえず、見せるか。


 三人を連れて、外へ出た。そこでバッグから白馬を引っ張り出す。すると当然の反応だと思うけど、物凄い怒られた。


「馬を入れているのですか!?」


「酷いです! あまりにも非道ではありませんか!」


「そう慌てないで。口の中を見て下さい」


 白馬に口を開かせると、覗いた三人は驚いて引く。


「塞がっている……」


「これは一体? 馬、なのですか?」


「ゴーレムって、知ってます?」


 僕はこう説明する事にした。


 この白馬は遺跡で見つけた馬型の魔道具で、食事も水も無しで動き続ける作り物である。遺跡って、便利!


 幸いゴーレムは存在しているらしく、もちろん珍しい物なんだそうだけどサラさんが知っていた。それで納得してくれて、それならばとシェラさんが乗って鐙を調整し、少し敷地内を乗り回した。


「すごい素直な子……。良い馬ですね、ハルト殿!」


「そうでしょう? お気に入りなんですよ」


「遺跡では、本当に色々な物が発見出来るのですね」


 ミリヘルド様が何やらそわそわし始めて、勘付いたシェラさんが前に乗せてあげた。それでゆっくり歩くと、帰って来て初めて笑顔が見えた。


 父親も執事も私兵も使用人も全て失って、残ったのはこの二人だけ。これまでずっと表情を無くしていた。そんな彼女がようやく笑顔になってくれて、サラさんもシェラさんもその瞳が少し滲んでいた。


 でもまだ今日の事なんだ。それでも笑えたのだから、ミリヘルド様は案外強い子なのかもしれないな。何だか僕まで、じんわりとしてきてしまった。


 守る事しか出来ないけど、それだけでもしっかりやって行こう。




 伝令は、シェラさんが一人で馬を走らせて向かう事になった。しかし魔物が心配なんだよね。何か良い手は……。


 せっかく金属も扱えるようになったんだ。白馬を武装させてしまおうかな。イメージは装甲を纏った重装騎兵。胴を前から後ろまでしっかり守る曲線の鎧を着せた。ただし、強度は魔力で確保するから非常に薄くて軽い作りだ。頭部には角のある兜、足には爪先に刃物を装備させる。その状態でシェラさんに走らせてもらって、調整しながら完成させた。


 ついでだし、そのまま番犬よろしく置いておく。目には炎術の明かりを入れた。暗くても炎の光が前を照らす。そして暗闇に見えるのは二つの赤い瞳だ。


「格好良いです!」


「やり過ぎでは……?」


 シェラさんは気に入ってくれたけど、サラさんは苦笑い。乗って行く本人が良いなら問題無しよ。


 それから、色々諸々秘密にしてもらった。ちと見せ過ぎたな。







 そうして色々支度を整えたのだけど、予定というものは時として大きな変更を余儀無くされる事がある。ただし、今回に限っては楽な方への変更なので、僕は内心で喜んだ。




 その夜、唐突な来客があった。現在私兵は二人しかおらず、夜になど当然門は閉め切り見張りもいない。けれど僕が魔眼と風術で感知していたので気付く事が出来た。


 来客は、門の前に馬車を停めていた。このタイミングであまりにも怪しかったので、三人には警戒していてもらって一人で様子を見に向かった。


 近付いてみると、話し声が聞こえてくる。女性と男性の二人組で、男性が女性をなだめている様子だった。


「構わん。費用は持つと言うておるだろう」


「そのような問題ではありません。夜更けに訪れて力尽くで押し入るなどとは、例えあなた様であろうと許される行いではございません」


 丁寧な声の方が男性だ。


 難儀している様子。彼はしっかりした人物のようだ。門の上からひょいと顔を出して見ると、男性は執事のような整った衣服を着た髪の白い青年の姿。ただこの世界、青年に見えても種族によって年齢がかけ離れてるからな。頭の捻れた一対の黒い角からは、悪魔的な種族のように思える。


 対する女性の方は馬車から顔すら出していないので、全くわからない。ただ、男性の態度からして身分ある者なんだろうとは判断出来る。


 でもなあ……。


「夜襲でもかける気かよ?」


 二人の目がこちらに向いた。男性の方はまるで助け船が来たような、そして女性は顔を見せて睨むように見上げてくる。


「私兵に雇われている方ですかな? このような夜分に押しかけてしまい、申し訳ありません。ですがミリヘルド様にお目通り叶いませんでしょうか?」


「レナード、妾が会うと決めたのだ。通せと、それで良い」


 随分な人物だな。それだけ、爵位が高い? でもそんな貴族がこんな夜更けに来るもんかね?


「いけません。特に現在は慎重を期さねばならない状況でございましょうに。わたくしなら、絶対に通しません」


「お主、妾をなんだと思うておる!」


「わがままの過ぎる迷惑貴族の令嬢、でしょうか」


「ぐぬぬぬ……」


 漫才しに来たのだろうか。わりと好きかもしれん。とりあえず、レナードさんの名前でわかるだろうかね。


「レナードさんは、ミリヘルド様と面識ある?」


「はい、ございます」


「それじゃ聞いてみるから、少し待ってね」


「恐れ入ります」


 暗くてちょうど良いから、大気を蹴って行こうか。練習したい。


 やってみると、まだまだソニアのようには出来なかった。まあ当然か。魔術併用しても及ばない。さすがは銀級戦士だと再確認するね。


 二階サロンの窓に掴まり、戸を開けた。そして声をかける。


「ミリヘルド様、レナードさんってご存知の方ですか?」


「レナード様がいらしたのですか? それではもしかして、レヴィニア様も!?」


「横柄な女性のお伴でいらっしゃってますよ」


「す、すぐにお通しして下さいませ!」


「ハルト殿。レヴィニア様はリヴァース侯です。侯爵様ですよ」


 サラさんが教えてくれた。


 なるほどね、それであんな態度か。


「そうですか。では、入ってもらいますね」


「ハルト殿の反応が淡泊……」


 あまり好きなタイプじゃないんでね。例えどんなに偉かろうとも、目覚ましい偉業を成し遂げた人物であろうとも、門を破壊して良いなんて言う奴は駄目だろう。


 ともあれ許可は出た。門へと、今度は白馬に乗って行く。重装騎兵のままだけど、軽いから速度は全然変わらない。


 白馬は脇に控えさせ、門の閂を外して開いてやればレナードさんが馬車を進めて入って来た。彼は適度なところで一旦停めて、こちらが門を閉じるのを待っている。白馬に驚いていたけど、乗って先導すればしっかり後を付いて来てくれた。丁寧な方だね。好感度が滅茶苦茶上がるわ。


 邸宅の前に停めたら、長居はしないからそのままでと言ってくれる。そして馬車の扉を開けて、中からレヴィニア様とやらに手を貸した。


 姿を見せた彼女は、不思議な種族だった。見た目からは何なのかわからない。人型ではある。


 玄関前に灯された光が照らし出す髪は綺麗な青。艶があり真っ直ぐな質感でさらりと流れ、少し控えめな胸に届いていた。こちらを一瞥する瞳はシアンに光る。切れ長で少し吊り上がり、青く長いまつげが彩った。肌は白く透けるようで、凛々しい顔立ちと相まってとても美しく見える。唇は真紅。少し強い色合いで、薄めの唇に存在感を持たせていた。


 衣服は、然程派手ではなかった。公の場ではないからだろう。首回りが肩や鎖骨まで露出するくらいに大きく開いた七分袖程のワンピースで、色は橙色、丈は膝下辺り。馬車を降りる際に肩へ白いショールを羽織った。地へと伸ばされた足を覆う靴も白で、パンプスに似た物を履いていた。


 すらりと立つ姿勢は良い。優雅と言うより毅然、堂々たる威風を感じさせるような、女性らしからぬ立ち居振る舞いだ。レナードさんを従えている、そう言うに相応しい。


 問題は彼女の背面側だ。紫がかった青の鱗に細かく滑らかにびっしりと覆われていて、それが彼女の種族をわからなくしていた。ただ、彼女がレヴィニア様だとすれば、確か海竜だ。人型だけど、竜族なんだろう。変身とか、するの?


 そんな彼女の表情は不機嫌そうで、今も白馬のそばに立つ僕を見下すように睨んでいる。けれど、白馬に目が向くと途端に軟化した。それどころか興味津々に早足で近付いてくる。


「何と立派な! ふうむ、さすがはアールガルドよ。センスと物を見抜く目は確かであるな」


「それ、僕の」


「なぬ?」


「僕の馬」


「何だと!? 私兵如き……いや、お主は戦士か? 戦士が馬に着せるような馬具ではあるまい。下らぬ見栄を張るでないわ。しかもまだ子供ではないか」


 着ている制服に気付いたらしい。それで戦士組合の者でなく戦士と判断したのなら、事件の話は聞いているって事かな。


「中で聞きなよ」


 先に行って扉を開けて、中へと促す。レヴィニア様は鼻を鳴らしロビーへと足を踏み入れた。そこではミリヘルド様達三人が待っていた。


「ミリヘルド!」


 レヴィニア様は名前を呼んで駆け寄り、その身体を抱擁した。


「無事か? 怪我は無いか?」


「わたくしはこの通り、全くの無傷でございます」


「私兵が勤めを果たしたのだな。よくやったぞ、そこな二人よ」


 何だ、心配で飛んできた感じか。なるほど、そういう事なら悪い人物ではないね。その様子が微笑ましくて、思わずにやけてしまった。それはレナードさんも同じなようで、目が合うと思わず二人でくすりと笑ってしまった。


 お二人共、決して敵ではないようだ。前例があるから恐ろしくはあるけど、立場ある侯爵とその配下が妙な事もしないだろう。僕は少し安堵して、抱き合う二人を笑みで眺めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ