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侯爵との謁見

「それは真か!?」


「だから言ったでしょ」


 白馬の話である。


 早速レヴィニア様が三人に聞いたんだ。三人が話をしてくれて、あれは僕の馬だとの証言を得た。いや、わりとどうでもいい話なんで、放っといてくれないかな。


「では改めて」


 一応跪いて、名乗って挨拶する。


「戦士組合所属の戦士、ハルト・ハナヤマにございます、閣下」


 ほう、と意外そうな目で見られた。まあ、お互い第一印象は悪かったよね。仕方ないさ。


「お主がハルト・ハナヤマであったか。戦士組合の支部長、ジブ……レベッカから報告を受けておる。立って、顔を見せよ」


 本名は閣下にまで頑なに隠させてんのね。そんなに嫌か。


 許可をもらったので立ち上がり、真っ直ぐ閣下の目を見る。そしたら顎を指で上げられ、じろじろと眺められた。


「かように幼いとは思うておらなんだが、実力は本物という事か」


 一頻り眺めて指を放し、そのまま手を頭に置いた。そしてにやりと笑ってぐりぐり撫で回される。


「よくぞミリヘルドを守った。妾自ら、誉めおいてやるぞ」


 ちと痛い……。


 ひとまず全員でサロンへと移動した。閣下とミリヘルド様二人だけが座るという事態になったけど、座れというお言葉に従って全員が腰を下ろした。


 そこで話し合われたのは、やはり爵位の継承や領地の事などだ。後継ぎは無難に、ミリヘルド様の兄であるエンゲルド様になるようだ。そして伝令は閣下の方で出すという。おかげで少ない人数を割かないで済む事になった。


 エンゲルド様がレヴァーレストへ来た際にはミリヘルド様がエルドロードへ戻る護衛も引き受けてくれるとの事で、僕らの悩みがほぼ片付いてしまった。


 いっそそれまで領城で守ろうかという閣下の案は、レナードさんだけでなくミリヘルド様自身にも却下された。肩入れが過ぎていて、他の貴族に付け入る隙を与えてしまうというのだ。


 今こうして来ているのも、それを考慮したんだろうね。こんな夜更けでなければ来れないわけだ。難儀だけど、この領地を統治する立場にあるからな。どうにもならない事だ。




 無事な姿を見て安堵し、話すべき事も話し終わった。ほっと一息吐いた閣下は話題をがらりと変え、今日行われた魔法発表会の事を尋ねた。


「水術に新しい魔法が発表されたそうだな。ミリヘルドはどんなものか見なかったか?」


「滑るように踊っていらっしゃいました。わたくしは魔法を使えませんので何とも言えません。それについては、きっとハルト様がお詳しいです」


 話を振られてしまった。目が全て集まる。まあ、見入ってたからね。言い逃れ出来ない。


「ええまあ、把握はしておりますが」


「ほう、見て理解したと言うのか?」


「靴の裏に水を作り、接地する箇所の摩擦を制御するんです。それで滑る時には弱め、蹴る時や曲がる時、止まる時には強める。水は即時蒸発させる事で後を濡らしません」


「ほほう! なかなか面白い事を考えよるわ! そこまで理解しているという事は、お主は水に適性があるのであろう。ならばハルト、ここで見せてみよ」


「それは構いませんが、まずミリヘルド様に許可を取って下さい。ここはミリヘルド様の邸宅ですから」


 僕の言葉に、レナードさんが深く頷く。それを見て、渋々という様子で閣下はミリヘルド様の許可を得る。そんなやり取りに、邸宅の主人はくすりと笑った。


 許可が出たので、サロンを舞台にデモンストレーションを行う。とは言えヘルミッドと違って踊る事は出来ない。まあ、簡単に見せればそれで良いかな。


 ブーツの底に水術で水を出現、定着させる。摩擦を減らし、滑り易くした。そして後に残る水は蒸発するよう仕掛けておいて、まずは円を描くように滑る。


「なるほど、これは面白い! 魔法組合にも、なかなかの逸材がおるではないか!」


 だんだん調子が出てきた。くるくると回転してみようか。それこそあっちの、フィギュアスケートみたいに。


 開けた中央の一点に脚を蹴るように振り回してから止まり、癒術で狂う平衡感覚を回復しながら高速で回転する。初めは身体を倒して片手片足を伸ばし、Tの字で緩やかに回る。それから少しずつ伸ばした手や身体を縮めて脚を畳みつつ、回転の速度を上げていった。でもこれ、やっぱり魔術で補助しないと無理だ。


 内心でプロはすげえと当たり前の事を思いながら速度をどんどん上げて回転しつつ身体を上に伸ばし、最後には手と足を広げて使う事で勢いを逃がしつつバランスを取り、ぴたっと止まる。


 静まり返っていて、少し不安。


「こんな感じですが……」


「お主、とんでもないな! 素晴らしいぞ!」


「お見事です、ハルト様」


 閣下とレナードさんは拍手までしてくれて、大いに喜んでくれた。ミリヘルド様達三人は、唖然としていて言葉が出ないようだ。ううむ、やり過ぎたって事かな。


 でもこの分なら、フィギュアスケートも受け入れられそうだね。というか、ヘルミッド達開発部がそこに到達しそうだけど。それはそれで楽しみだから、どんどんやっていただきたい。


 サロンの床に敷かれた絨毯には、一切の水分を残していない。これ、よく思い付いたなあ。魔術で消さなくても、水術はそれだけで消せるんだ。これからは大いに使わせてもらうよ。




 その後はそろそろ時間だとレナードさんが閣下を連れて帰って行った。門まで見送って、しっかりと閂をかける。何だか盛りだくさんな一日だったけど、無事に終わる事が出来そうだ。


 門からの帰りにはまた馬に乗った。そう長い距離じゃないんだけど、ゆっくり揺られるのもなかなか良いものだからね。


 以降は特に何も起きず、僕と姉妹の三人で交代に見張るもその夜は穏やかだった。ただ、ミリヘルド様は夢見が悪かったのか、サラさんにくっ付いたまま眠っていた。まだ幼いからな……。父親に殺されかけたという事実は、これからも彼女に暗い影を落としていくのだろう。


 イルゲルドめ……。







 翌日は城に行くとの事で、僕も同行した。サラさんは変わらず馬車の中でミリヘルド様の世話、僕はシェラさんと御者台に座り、ちょうど良いので御者について教えてもらった。彼女は喜んで教えてくれて、色々細かなところまで聞くだけは聞けた。大丈夫、懐中時計が全部記録してくれるから。後で復習しよう。


 城へは、今いる貴族達の西地区から入った。城壁があり、衛兵が守る門を馬車でくぐって行く。そして目に入るのは、高く大きな尖塔だ。城は四角形を形作ってていて、南西の角に高い尖塔を持っていた。四角の辺に当たる部分は三階までで、統治に関わる諸々はこの四角の部分で行われているという。真ん中は中庭になっていて、立派な庭園があるそうだ。


 入口は北西、北東、南東の角の三点にあるけれど、正式な入口は北東の一つで、他二点は裏口のようなものらしい。北西は北から入ってくる貴族達の、南東の一つは商人や職人達が様々な物を納入するための入口だった。


 馬車は入ってすぐ右へ、北西の方へと先導される。そちらに馬車の駐車場と馬を管理する厩舎があった。北西入口近くで僕らが降りると、後は担当の魔族が連れて行ってくれる。


 兵の挨拶に言葉を返しながら入ると召使いが何人もいて、その内の一人が案内に立ってくれた。僕らは三階にある待合室まで彼に先導され、そこで待たされる事になる。


 お世話をする担当の召使いが茶を入れてくれて、しばしの間ゆるりと過ごす。この部屋は北側に窓があり、今は大きく開かれていた。そこからはレヴァーレストの街が望めて、僕はその眺望に見入る。


 貴族達の邸宅が手前に並び、その向こうには金を持っている住民の、さらにその向こうにはごく普通の家屋があった。その辺りまで視線を向けると北門が視界に入って北へ、テトへの街道が遠く伸びて行くのが見える。


 海岸や草原、森。その東には山岳があり、それ以上遠くは見えない。僕の視線は、海の向こうへ向いた。この何処かに、トオ・クレルがある。この身体の生まれた、かもしれない場所。いつかそこに辿り着く、それが今のところの目標だ。


 それでどうするという事も特に無いんで、急ぎもしなければ焦りも無いけど。早く行ってみたい、そんな好奇心があるくらいか。


 現時点では、お金を稼ぐよりも魔力を鍛えて魔法に習熟して、自力で行けるだけの能力を得る事の方が早くて面倒も無さそうに思っている。またそれ自体も、望んでいる事だ。


 楽しみだ。空を飛ぶか、海を滑るか。潜って行く事も出来るだろうけれど、これは現実的じゃないよな。水術の船を作って行くのも楽しそうだし、飛行機でなくともハングライダーのような物で飛ぶのも良いよな。


 魔法さえあれば、必ず辿り着ける。その時にはまた、遺跡探索だな。何故か肌色ばっかり思い出すんだけど……。







 三十分程待って、僕らはようやく謁見が叶った。南西の尖塔のある方へ歩き、そこにある玉座の間に通される。入ってみれば広間になっていて、一番奥に壁は無くて柱のみが立つ。柱越しに海が見渡せた。その手前に玉座があり、二人の人影がある。


 ミリヘルド様が一人前に立ち、僕と姉妹はその後ろに控えて進む。そして四人で跪いて、閣下の許しを受けてから顔を上げた。


 今日は髪と同じ鮮烈な青の、豪奢なドレスをお召しだった。首から肩、胸元当たりまでが露出していてまあ、お綺麗なのだけども。そこから下を幾重ものレースで飾った、華やかな装いだ。首には金のネックレスを、指には色とりどりの宝石を飾っていて、侯爵と言う身分に相応しいお姿だった。


 そばにはレナードさんが控えている。彼は昨夜とそう変わらない。黒を基調としたフォーマルな装いで、穏やかな笑みを浮かべている。ただし、閣下の周りに護衛らしき者の姿が無い。それはつまり、彼こそがそうである事を表しているように思える。きっと凄腕なんだな。レナードさん完璧じゃないか?


「それではまず、わたくしの方から昨日行われた聞き取りの結果をお伝え致します」


 聞き取りというのは、多分捕らえられたイルゲルド達への尋問の事だろうな。穏当な言い方してるけど、一体どんな尋問だったんだろうな……。残酷なやり方してなければ良いんだけども。


「イルゲルド・アールガルドは自分の罪を認めました。娘であるミリヘルド・アールガルドへの殺意と計画の立案、実行、及びその計画内での戦士三人の殺害などを主導したとして、裁きを受ける事となります。極刑は、免れ得ないかと」


 ミリヘルド様の肩がびくりと震えた。


 まだ幼い彼女には酷な事だと思うんだけど、これ聞かせなきゃいけない事なのかな。ああでも、ミリヘルド様は聞く事を望みそうだな。それに貴族としての責任なんかもあるのかもしれないか。でもやっぱり、酷だよなあ……。


 戦士三人の殺害とあったけど、やっぱり殺されちゃってたんだな。僕も狙われたし、決して他人事ではない。信用も実力もある戦士だからこの依頼を持ちかけられたんだろうし、戦士組合としても大きな損失だ。そういうのって、この世界やこの国ではどうするんだろうな。


「爵位は剥奪となりますが、閣下の温情と元子爵の忠誠と働き、そしてアールガルド家の領地への貢献を鑑みて、継承権者への継承を許されました。この事については既に使いを出しておりますのでご安心を」


「感謝致します、閣下……」


 少し震える声で、ミリヘルド様が何とか口にした。それを聞いた閣下の表情も、辛そうに曇っている。聞いているとイルゲルドという人物も、そう悪い奴ではないようなんだけどな。それでも殺そうと思ってしまう程、ミリヘルド様の体質はまずいのか?


 でも彼の娘を睨む目は、相当なものだった。明らかに嫌っており、そこには父親としての情を感じなかった。そんな風になってしまうような体質って、どんなのだよ。


「済まぬな、ミリヘルド。これは司法に関わる事でな。妾にも動かせなんだわ」


「いえ、閣下。そのお気持ちだけで充分にございます。司法の決定には、わたくし共も従います」


 サラさんとシェラさんも目が滲んでいる。仲間、同僚に裏切られたのは彼女らもそうだけど、それよりも多分ミリヘルド様が不憫なんだ。気遣わしげに視線が集中しててわかり易い。


 それからはその他の連中の話になるけど、結局全員が極刑になるとの事だった。酌量の余地なんて無かったのかね。命令に従っただけの者もいたと思うんだけど。そういう考え方とか制度とか、無いのかもしれないな。


 何というか、惨い……。


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