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魔法の研究

 採集依頼を終わらせてから三日が経過した。特に何事も無く、平和に過ごしている。拠点は白海豚亭に置いて、のんびりだ。ちょうど良いので、遺跡で手に入れた二つについて少し調べてみる。


 大容量ショルダーバッグは、入れたお湯が覚めない事から入れた時の状態を維持してくれる事が判明した。これにより食料の腐敗も防げる。食材を買い集めて、旅の間は料理するのも良いかも。


 懐中時計は、思ったより情報を持っていなかった。あの遺跡に関わる事くらいしか情報が入力されていないようで、他の事を聞いても僕と同様何も知らなかった。


 ただ、情報を入力する事は出来るらしく、その際には魔力を介して所持者から情報を受け取るらしい。そんな機能があるとの事なので、なるべくバッグから出して身に付けておく事にした。




 ショルダーバッグと腕輪の情報は持っていて、ショルダーバッグについては既に確かめた通りの魔導器だった。そう、時計の情報によればこのバッグを含めて三つ共が、魔導器であるらしい。ショルダーバッグに関しては使い道こそ個人で物を運ぶ程度でしかないけれど、使われている技術はとんでもないものだった。


『中へ収めた物の時を止め、状態を維持する』


「時を止めるのかよ!?」


 かつての人間達は、本当に何でこんな技術持っていながら絶滅したんだよ……?


 もちろん腕輪も相応にとんでもない。


『肉体の再生、活力の補給、魔力の充填、精神力の維持、魔力消費による一時的な身体機能強化』


 ……ソニアにはちょうど良さそうだ、今度会ったら教えてあげよう。


 時計自身は、まあ既に色々すごい事はわかってるからね。驚きも少ないだろうなと予想した。でもそれは早合点とも言うべき浅い考えだった。遺跡に関わる事しか知らないけど、それがとんでもなかったんだ。


『魔力を用いた所持者からの情報収集及び蓄積、表面への光術と闇術を用いた表示、人工知能による所持者の補助』


「光術と闇術って何よ!?」


『魔導と呼称する、魔法の上位存在』


 また聞き慣れない言葉が出てきたぞ……。


「魔導って何よ!?」


『個人での運用が不可能とされる強大な魔力技術が魔導であり、魔法と同じく九の分野がある。光術、闇術、時術、空術、天術、素術、命術、心術、霊術の九を魔導と呼称する』


 ほうほう、個人では扱えないのか。残念な気もするけど、聞いただけで強力そうだし僕はいいや。


 ……待て待て今何て書いてあった? 魔法と同じく九の分野? 魔法も九つあるの?


「魔法の九の分野とは?」


『炎術、地術、水術、風術、雷術、凍術、癒術、魔術、死術。以上を魔法と呼称する』


 死術って何だよ、聞くからに物騒だな! ネクロマンシー的な奴なんだろうか。死体を動かしてアンデッドにするとか? いや、この世界の魔法はかなり自由が利く。もっと恐ろしい事が出来るに違いない。




 とまあこんな調子で、魔導と魔法については遺跡にも関わりがあるのか色々聞けた。魔法の分野は九もあるんだね。死術が伝わってないのは、もしかしたら禁忌扱いなのかもしれないな。そういうの、よくあるし。


 それからは街を巡っての情報収集に勤しんだ。特に食材の相場。僕が見ればその情報は魔力を伝わって懐中時計に蓄積される。そうして集めた情報から大まかな相場を知り、質と価格を天秤にかけて良さそうな物を買っておく。この仕組みで、懐中時計は文字も取得したんだな。ようやくわかった。


 バッグに入れておけば一切の劣化が起きないのだから、買うだけ買って後で料理して食べるなんて事も出来るようになった。香辛料や調味料なども手に入れて、茶の類いも買い漁った。


 おかげで銀貨にして二十枚は吹っ飛んだ。だけど悔いは無い。







 その日は昼前くらいまで、白海豚亭に借りた部屋で魔法について考えていた。移動に使える物が何か作れないかと、朝からずっと思い描いていたんだ。


 自転車やローラーブレードも良いのだけど、あまりにもこの世界とかけ離れていて風情が無い。となると、考えられるのは馬などの生き物だ。ただ、形だけ作っても動かなければ意味が無い。動かすには魔力が要る。魔力を使い続けるなら魔術で飛ぶなり風術で大気を蹴るなりすれば良い。


 そんな風に、何か無いかと考えていた。


 そこに、宿の主人の奥さんが訪ねて来た。


「ハルトちゃん、お客さんが下に来てるよ」


「お客さん? 僕に?」


 珍しい事もあるもんだ。ついでに魔法を試すために出かけようかと考えて、バッグを肩にかけてクロークを羽織る。奥さんに伝えておいて、僕は一階の酒場へと下りて行った。


 そこには、困った顔のヘルミッドが待っていた。マジかよ、ここにいるって押さえてんのかよ……。


「おお、師よ! どうか知恵を貸していただきたい!」


 僕の姿を見るなり駆け寄って来て、ばっと跪いた。思わず一歩退く。


 と、ともかく話だけでも聞こうか。


 二人でテーブル席の一つに座り、飲み物を頼んで喉を潤す。それから話を促した。


「話というのは魔法の事だ」


「そうだろうね。それで?」


「新しい魔法を一つ、考えなければならないのだ!」


 聞いてみると、魔法組合の開発部では年に一つ新しい魔法を開発しなければ、色々と立場が悪くなる事に繋がるそうだ。階級を落とされたり予算が減らされたり人員が引き抜かれたりと、不都合ばかりに見舞われるという。


 求められる魔法は形で言えば炎を飛ばす、なんてものでも良いのだけど、これまでにそう言ったものは散々出尽くしていて、彼らには良い案が見つけられなかった。そこで、先日の一件に繋がる。


 遺跡踏破に使われただろう魔法の中に、新しい魔法があった。そんな不確定な情報が舞い込んで来たのだそうだ。


「ここだけの話で済ませてもらいたいのだが、戦士組合内で魔法を使って盗み聞きを行っている者がいるのだ」


 声を潜めて、誰にも聞かれないよう聞かせてくれた。


 組合の奥で、そんな事を話している者がいたんだね。で、それを盗み聞いた魔法使いが魔法組合へ情報を売った。そういうからくりだったというわけだ。


「師の情報もそうして得たものだ。悪事である事は、今の俺にはよくわかっている。しかし、もう後が無いのだ」


 苦渋の滲んだ顔で、ヘルミッドは白状した。


 魔法組合では年末に当たる十月末に発表会が行われる。それに先んじる形で、各支部でも発表会が同様に行われる。それが七月末の予定だった。


 支部で発表された優秀なものは、本部での発表会に集められる。年末に行われるこの発表会は招かれるだけでも相当な名誉であり、王族すら姿を見せるという。目に留まる事が出来れば、思いも寄らぬ役職への抜擢もあり得る。皆それを期待して、努力するのだろう。


 ヘルミッドはそこまでの事を求めてはいないそうだけど、とにかく七月末の発表会に間に合わせなくてはならないとの事だ。


 そして現在は、日々寒くなり行く七月。要は今月末に発表する新しい魔法を何とか間に合わせなければ、開発部は発表無し。そんな事情だったわけだ。


「もう何日も無いね?」


「そうだ。今日は二十四日だからな……」


 ヘルミッドにしてもルーゲルにしても、馬鹿なんじゃなかろうか。もう六日で当日じゃねえか! 普通に頼めよ! ああ、こいつらは無駄な自尊心の塊なんだったな……。


 そんな中でヘルミッドだけは何とか折り合いを付けて、こうしてやって来たという事か。その思いには応えてあげたいけどなあ。


「ヘルミッドは、適性は何?」


「俺は水術を使える」


「水か。それなら僕と同じだ」


「他に癒術も使えると聞いている。そちらでも構わないんだ」


 僕が使えるのを教えても良いんだけど、それじゃヘルミッドの立場も無い。ここは二人で新しい魔法を考えるか、ヘルミッドに気付かせる方向で行きたいね。


 さてさて、どうしたものかな……。







 場所を移して、僕らはレヴァーレストの北の海岸へとやって来た。出来れば水術で、ヘルミッドに使えるものを考えたい。そうしたら海がちょうど良いかなと思ったんだ。


 海と言えば、日本人的には海水浴とか思い付くわけだけども、この世界の魔族達はどうなんだろ?


「海と言えば、何か思い付く?」


「魔法組合では演習を行う場所だが、そうだな……。時折子供達が遊んでいるのを見かける。波と戯れたり、木の板を浮かべたりな」


 木の板ね。サーフボードとは違うのかな?


 波乗りか……。ボードは無くとも水術師なら出来るんじゃないかな。


「水術で、波に乗れたら面白そうじゃない?」


 聞くと、頓狂な顔をされた。こっちでは乗らないのか。じゃあサーフボードじゃなくて水泳の補助とか浮き輪の代わりか?


「波に乗る、か。面白い事を考えるものだ」


 ヘルミッドは早速コートと靴を脱いで、ズボンをまくり上げて海の中に入って行く。そしてそのまま、水の上を歩いた。


 これは普通に出来るんだな。


「このままではただ、水に乗っただけだ。波に乗るのなら、あの上に乗って流されるイメージなのだろう?」


「そうだね。出来たら楽しいと思うよ」


「ふ、そうだな。それにはただ水に乗るのではなく、水との摩擦を変えなければ……」


 そこで、ふと何かを思い付いたように目を大きくする。


「摩擦を変えると滑るな。波に乗るのとは少し違ってしまうが、滑るのはどうだろう?」


「それも楽しそうだね」


 アイススケートじゃなくて、ウォータースケートか。これはなかなか良いじゃないの。そうと決まれば僕も行こう。クロークとブーツをバッグにしまい、ズボンを同じくまくり上げて海に飛び出して乗る。やってみると簡単なもんだね。


 足の裏は濡れちゃうけど、しっかり立てる。ただ、波に合わせて体重移動しないと寄せては引いてとしてるから倒れちゃうね。こっちが案外難しい。ヘルミッドは何でもなくやってるな。さては、慣れてる?


「摩擦を少しずつ減らしてみるか」


 あっちは早くも滑り始めている。くそっ、本気で上手いじゃないか。


「おお、はっはっは! これは愉快だ! 師よ、相談して良かったぞ! 魔法とは、このようにも使えるのだな!」


「もうものにしたの!? 早過ぎでしょ!」


 まあ、即日で解決出来て良かったか。


 僕はこの後三十分程かけて、やっと滑れるようになった。魔力消費はヘルミッドの方が圧倒的に少なくて、そんなところでも技量を見せ付けられてしまった。


 まあまだ魔法使い始めて一ヶ月経ってないし、これで僕の方が腕まで上だったら酷い話になっちゃうよね。


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