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魔法組合の嫌な奴

 質問一つ金貨十枚という妥協点を引っさげて、男三人は僕を魔法組合の建物へと先導した。目的は達成と言えるのだろうけど、上に叱責を受けそうだとぼやいて戦々恐々としていた。阿呆な交渉を持ちかけるからそうなるんだ、馬鹿たれめ。


 魔法組合は、五階建ての塔だった。太くて背の高い、テト北の遺跡の地上部分と同じくらいに大きな建築物だ。真っ直ぐな円柱で、所々に板戸の窓が設けられているのが見える。遠目にはその姿を確認していたけども。こうしてそばまで来て見上げると、その大きさに溜め息がこぼれるな。


 エルフの男は気を良くしたようで、またあの偉そうな笑顔になった。


「素晴らしいだろう。この偉容を見ただけでも、魔法組合の偉大さがわかろうと言うものだ」


「あ、そう」


 心酔してんのかね。


 僕の態度に舌打ちして、彼は先を歩き始める。手下二人が後ろから背中を押してくるので、僕も仕方なく後に付いて歩く。


 魔法組合の入口には、彼らが着ているコートと同じ色の旗が掲げられていた。そこには七芒星の紋章がある。七つの点を一つ飛びに一筆で繋いだ形で、一点が下に行く向きだ。


「それは魔法の七つの分野を表している」


 まあ、そうかなとは思ってた。でも本当は、魔術があるから八つなんだよね。だから、その考え方なら八芒星が正しいね。




 建物の中では青コートの魔族達が思い思いに過ごしていた。一階は酒場に近い様子で、休憩したり食事したり出来るようだ。


 青いコートは、魔法組合に所属している証なんだな。同じデザインで、同じく襟元に七芒星がある。


 入ってすぐ右手に受付のようなカウンターがあり、僕はそちらに案内された。


「ハルト・ハナヤマを連れてきた。ルーゲル導師に連絡してくれ」


 受付はやはり女性のようだ。お綺麗なラミアの彼女から魔力の白い小鳥が現れ、何事か呟くと小鳥は風となって何処かへ流れて行った。


 なるほど、風術か。大気に音、つまり声を乗せて送ったわけだ。僕はそれを目の端に留めるだけにしておく。追いかけたりしたら、勘の良い者はそれで気付くからね。


 風術のレパートリーがまた増えた。ラミアのお姉さんに感謝。


 少しして、彼女のところに風が戻ってくる。そして彼女の周りを包んで旋回し、消えた。


「三階の応接室へ向かって下さい」


 本当に便利そうだな。しかと覚えておこう。




 手下二人は二階以上に上がれないらしく、一階で別れた。リーダー格のエルフに連れられて、外壁に沿う形にある階段を三階まで上がって行く。心なしか彼の表情は優れない。


 さて、ここは言わば敵地だ。何をされるかわからない。念のために魔眼へ回す魔力を増やしておこう。それで周りのものに宿る魔力も見え、感じられる。


 すると驚いた事に、外壁が魔力を持っていた。地術だろうか、頑丈に作られている。魔力量はそれなりなんだけど、かなり強固そうだ。技術的なものかな?


 魔法もやはり習熟度合いでこんな風に出来るわけだね。僕も頑張ろ。頑張るのはあまり好きじゃないんだけど、魔法は面白いからなあ。考えれば考えただけ、頑張れば頑張っただけ便利になる。面白い事も出来るようになる。やり甲斐もあるってもんだよね。


 ちなみに、魔眼で見えたエルフの彼の魔力は、深く澱んだような緑の水だ。あまり綺麗ではないね。僕の視線を感じたのか、ちらとこちらへ目を向けてくる。それに対して小首を傾げて見上げると、ぶふっと吹き出された。どうした?


「いや、何でもない。気にするな」


 気にはなるけど、敢えて聞こうとは思わなかった。浮かない表情がなりを潜めたし、多少なりとも晴れたのならそれで良いさ。


 そして到着した部屋は、応接室とは名ばかりの取調室のような場所だった。僕は奥側の椅子に座らされて、彼は扉のそばに立つ。


 そのまま行儀良く座って待つ事しばし、黄と緑の斑な皮膚を持つ年老いたようなリザードマンが姿を現す。銀の縁取りのある青コートを纏い、老いた見た目とは裏腹にしっかりした足取りで姿勢良く歩いて、僕の正面に置かれている椅子に腰かけた。彼の内側には灰色の煙が宿っている。


「ルーゲル導師、この者がハルト・ハナヤマです」


「うむ、ご苦労であった」


 後ろに控えたエルフへ一瞥すらせずに声を返し、ルーゲル導師はそのまま緑の瞳をぎょろりと向けて、僕を頭の天辺から爪先まで眺め回す。嫌な目付きで、不快感が湧くのを止められない。


 見下す眼差しでぎろりと睨み、ようやくルーゲル導師はこちらに口を開いた。


「では、話せ」


 その声色はそれがさも当然であるかのようで、礼儀も何もあったものではなかった。僕と彼の間には何の関わりも無いのだけどね。周りは自分の思い通りに動いて当たり前だと本気で思い込んでいるのかな? もう良い年だろうに……。


「質問一つに付き金貨十枚という話でここに来ている。もちろん前払いだが、あんたは既に出す物を用意しているのか?」


 内心で既に呆れていたので、声に感情は乗らない。もうどうでも良い。どうせ払うつもりなんて無いんだろう。ならこちらも、話す事なんて一つとして無い。


 ルーゲル導師は特に顔色を変えず、変わらず睨んで高圧的に言う。


「そのような話は知らぬ。吐くまで解放もしない。貴様には選択肢など無いのだ」


 どうやら本当に、話にならないらしい。後ろのエルフは安堵したような表情を見せ、それから嘲るように笑みを見せた。僕は深く溜め息を吐いて立ち上がる。


「逃げるか? ここからは出られぬ。儂とこやつから逃れられるか、試してみるか?」


 もう聞く耳も持たなかった。外側の壁に手を当ててその地術に、魔力に干渉し始める。物理的には頑丈で強靭な、素晴らしい作りだ。そこから物を作る際の技術を見て解き明かし、理解出来た。魔力が本当によく練られていて、まとめ方や組み上げ方が非常に優れている。均一で丁寧で、一朝一夕には真似出来ない技だ。


「ここを作った魔法使いは、相当な腕前だよね。これは真似出来そうにない」


「小僧、何を言っている?」


「もしまだ存命なら、あんたが謝っておきなよ。あんたのせいで、風穴が開くんだから」


 その言葉の直後に、水が炸裂した。もちろんこれは目眩ましで、魔術によって分解して穴を開けている。水の爆発する音とそれによって生じる突風が、唖然とする二人を襲う。倒れたりする程強烈ではないけど、コートはばたばたと音を立てていた。


 そして開かれた穴へと身を投じる。すぐに足の下に水を二、三回噴出させて、その反動で落下速度を緩めて着地した。これも魔術による補助付きだ。


 上を振り返ればあの二人が穴から顔を覗かせている。一瞥だけくれて、僕は魔法組合を素早く後にした。


 塔の中から何人かの組合員が出て来ていたけれど、彼らは僕を追って来たのではなく単に、音の発生した箇所を見に来ただけだった。ルーゲル導師の僕を追えという指示に彼らが動き出す頃には、僕は既に姿を消している。


 しかしどうやら魔法組合は、少なくともあのルーゲルというリザードマンは、ろくでもない相手らしい。面倒な事にならなきゃ良いけど。嫌だねえ……。







 事の次第は、念のために戦士組合へ報告しておいた。するとすぐに裏取りなどに奔走してくれて、翌日には大丈夫だと太鼓判を押してくれる。


「魔法の専門家が魔法で逃げられたなんて、面白可笑し過ぎて向こうも突っついて来れませんよ! 公になったらあっちが赤っ恥かく事になりますからね!」


 との事だ。


 戦士組合では、何をしたのかなんて詳しくは聞かれない。事の流れを把握するために必要な部分だけ聞き取られて、それで終わりだった。だから壁の破壊にしても、水術で吹っ飛ばしたと言えばそれで済んでしまう。この適当さが何とも居心地良いね。


 今担当してくれてる組合員の彼女は、テトでも会ったハーフリング。お名前はリーシャさん。くりくりの金髪に明るい緑の瞳を持つ、愛くるしい女の子だ。年は僕より少し上なのだそうで、言葉遣いは丁寧にしてるけどお姉さん風を吹かせたいのか案外馴れ馴れしく話しかけてくれる。とっても微笑ましい。


 テトの時はレベッカさんの付き添いで向こうに出向いていたらしい。今こっちにいるのは、単にこちらが人手不足になったからだそうだ。調査隊に多くの戦闘能力のある人員を連れて行かれて、事務方は残されたというわけだった。


 ついでに登録を担当してくれた茶虎の猫獣人さんの名前も聞くと、彼女はタニアさんと言うそうだ。今後もお世話になりそうだし、しっかり覚えておこう。




 さて、無事魔法組合に睨まれる形となったのだけども。ああ面倒臭い。しばらくは魔眼に多く魔力を割いて、感知出来るようにしておかないと駄目だな。


 宿に泊まるための資金も稼がないといけないので、リーシャさんとの話の後は依頼を見に行ってみる。銅級にはなったけど、あそこに混ざると色々うるさそうだ。普通に級が要らない方を覗こう。


 採集の依頼が目に留まる。ちょっとやってみようかな。テトに向かう街道の東にある草原の先、森の浅い辺りで採れるという物の依頼が幾つかある。そのほとんどが常に出ている依頼らしく、特別受注する必要の無い類いのようだ。でも僕の場合は聞いて対象物の特徴を教えてもらわないと何もわからない。


 情報を得るために受付へと向かうと、リーシャさんが手招きしている。話し易い子だし、お招きに与ろう。


「採集依頼受けるんですね。今出ている依頼は……」


 そう言ってリーシャさんは紙にさらさらと絵を描いてくれた。特徴も文字で書き込みつつ説明してくれて、非常にわかり易い。彼女がそうして教えてくれたのは十種類にも及んだ。


 彼女は何も参考書類とか見てないけど、頭に入ってるのかな? 何気にすごくない?


「ありがとう。これなら僕でも探せそうだ」


「採集なら結構答えられますよ! 何でも聞いて下さいね!」


 礼を言うと、得意気に無い胸を張る。実に微笑ましい。


 いってきます、いってらっしゃいと挨拶を交わし、僕は早速採集へと戦士組合を出かけた。


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