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探索開始、行く手に黒い影

 翌朝、食事中にこの日の予定をソニアさんに聞かせた。


「探索に行こうと思う」


 紫の瞳を幾度か瞬いて、口の中の物を飲み下してから聞き返された。


「何と言ったのだ? もう一度聞かせて欲しい」


「探索に行こうと思う」


「私達だけでか?」


「うん、そう。調査隊は待たない」


 彼らが来るのに後何日かかるかわからない。そして調査に要する期間もだ。それを待っていたら、大地の魔力はさらに吸い上げられてしまう。それを指咥えて見てるだけ、なんてつもりはさらさら無い。


 全力で、出来る限りに早く動いているわけでもないから、誇れたものではないけどね。


 これは、ソニアさんにも聞かせてしまおうか。


「この遺跡はね、大地から魔力を吸い上げて奪っているんだ。遺跡の周りの土地をソニアさんが見たかわからないけど、既に酷く荒れ果ててた。遺跡に魔力を吸い上げられた土地は荒野になってしまうらしい。僕はそれを止めるためにも、ここへ来ているんだ」


 衝撃的だったようだ。驚き、神妙な顔付きになり、そしてじっと目を見つめ合わせる。疑いの眼差しではなく、真摯な目だった。その目を見れば彼女の答えも容易に想像出来た。


「本当なんだな」


「確証は無いけど、確信はしてるよ」


「わかった、行こう」


 それからは早かった。荷物をまとめ、明かりを手に持ち、作った家具類はそのまま残すけど戻って来なくても大丈夫なように持つべき物は全て持った。


 そして奥へ、昇降機の部屋へと踏み込む。


「使い方はわかるのか?」


「いや、全く。でも僕らには要らないでしょ」


 ソニアさんは大気を蹴って上がれるし、僕は水術で梯子を作った。下を見たら怖いんだけど、最悪魔力を使って念動で押さえるから何とでもなるんだ。


「なるほど、確かに問題無いな。よし、ならば早速!」


 大気を蹴り、あっという間に一つ上の階層へと向かってしまった、ずるい。僕も梯子をかけて、いそいそと上った。うん、もう怖い。


 特別高所恐怖症というわけじゃないんだけど、下を見下ろすとやっぱり怖ろしくはあるね。上がったら、さっさと縁から離れた。


 二人が第九階層に揃ったところで、探索を開始した。とは言え構造は十階とそう変わらない。やはり六部屋程が通路の左右に分かれて並んでいる。その先は行き止まりで、魔眼にも何も映らなかった。


 部屋の中も同じようなもので、ベッドの数を見るに二人用という作りだった。九階十階共に居住用の階層らしく見える。玉座の間の奥なのに、だ。玉座に見えるだけで、実際には違うのかもしれないけど。


 そして続く八階、七階、六階も同様で、下半分が居住用だとわかった。


 肩透かしを食らった気分で五階に上がるとそれまでと構造が変わっていて、少しの期待感を抱く一方で警戒心も湧き上がった。しかしここも大した事は無かった。


 通路に大きな広間が一つと付随する一部屋、それとは別に小部屋が二つあるが、踏み込んで思ったのは食堂のようだという事だ。テーブルと椅子が乱雑に並び、広間脇の一部屋は厨房のようだった。小部屋二つの片方は倉庫のようで、何かの残骸が残る程度。もう一方は階段だった。


「ここまでは、見事に居住スペースだったね」


「それもどちらかと言えば簡素なものだったな。このような遺跡を作り上げたにしては、何と言うか……」


「普通?」


「うむ、そうだな」


 使用人や兵士のような、身分の高くない者の部屋だったのかもしれないな。二人用だから、単純に考えて六十人程住んでいたと考えられる。


 その暮らしぶりはどのようなものだったのだろう。こんな地下にわざわざ住んでいた理由は? 何故地上に住居を構えなかったのか? 地上には住めなかったのか? 疑問は湧くけど、答えは無い。上に行けば見つかるのか。


「次は階段か? それとも戻って上るか?」


「階段にしよう。正直高過ぎて怖い……」


 僕は階段へと足をかけ、上って行く。途中で折り返して上がる形の階段で、四階へ上がるとそのまま三階へ上がれる階段へと繋がっていた。


「次も階段で上がれるな?」


「はは、助かるよ」


 くすくすと笑われる。いいさ、怖いものは怖い。仕方ないじゃないか。




 四階へ階段から入ると、ソニアさんの顔付きが変わった。おもむろにレイピアを引き抜き、盾を構えてゆっくり静かに前に出た。


「何か、いる」


 二人で息を殺す。そして僕は風術による大気の感知を行った。四階は中程度の部屋が四つあるようだ。そしてその全てに、人型の何かが相当な数で立っている。


 それが、ゆっくりと動き出していた。


「まさか人間、なのか?」


「そんな雰囲気じゃないけど……」


 こんなところで生きていられるはずがない。ならばファンタジー世界に付き物のアンデッドか?


 その答えは、不明で終わった。


 姿を現した彼らは、全身がただ黒。まるで影が動いているようだった。明かりで照らしても照り返しが無く、輪郭線しかわからない。造形としては人間やそれに近い種族と同様の形。それが四つの部屋から通路へ溢れて来ていた。


「五階へ引き返そう。ここじゃ不利だ」


「そうだな、了解した」


 階段室でも良かったんだけど、上からも来ないとは限らない。ならば、ここまで見てきて何も無いとわかっている五階まで退いた方が安全に戦える。そう考えた。


 急ぎ階段を駆け下りる。すると影の人型は走り始めた。全員でだ。何人もが勢い余ってこちらに入れず、壁に追突している。そこに次々追突するけど、こちらに入れる者からばたばたと追いかけて来た。その頃には、僕らは折り返していて、五階まで一直線に跳び下りる。


 振り返って迎え撃とうとするけれど、奴らはあの勢いで突っ込んで来るはず。正面にいては危険だ。そんな事を考えた。


「ここは向こうまで退くぞ、ハルト!」


 声に振り返ると、ソニアさんはレイピアを収めていた。同じ事を考えたんだろう。そして僕の手を引いて走る。勢いを殺さず、ただ真っ直ぐに。その先にはもちろん、昇降機の部屋が見えた。まさか……。


 止める暇も無いまま、僕はひょいと抱き上げられる。そして空中へと二人で飛び出した。あまりの事にしがみ付いてしまう。もちろんソニアさんは大気を蹴っていて、落ちる事は無い。そのまま四階へとこちら側から上がった。


 階段から五階へと僕らを追って来ていた影達は、次々宙へと身を踊らせる。そしてその高さを落ちて行った。連続して衝突する鈍い音が鳴り響き始める。


 そして四階にもまだ影達は残っていた。彼らはこちらに気付いて振り返り、またばたばたと走って来る。真っ黒な人型が声も無く、顔も無いので表情すらも無く、出鱈目な走り方で複数が迫って来る姿は怖気を誘うに充分なもので、僕はソニアさんに抱かれたままおののいて、思わず彼女にしがみ付く。


 そんな僕に微笑んで、ソニアさんは再び大気を蹴って後ろへ飛び出し上へと駆け上がる。そこで翼を広げた。


 明らかに大きさは足りていないし、翼では滑空する程の広さは無い。羽ばたいて留まる事も出来そうに見えない。けれど翼は羽ばたきもせず、広げたままの状態で僕らを浮かせていた。その翼からは桜吹雪が舞い散っていて、彼女の魔力が作用しているのだと魔眼が教えてくれる。


「飛ぶ事は出来ないが、浮いたり滑空する程度の事は出来るのだ」


 驚いている僕に、彼女はそう話す。種族的な特徴であるらしい。サキュバスは、かつてはこの翼で飛ぶ事も出来たけれど、今はそこまでの力は無いそうだ。


 誘惑して敵を集めた眼の事と言い、魔族は種族によって色々出来る事があるわけだね。マリエラも僕に催眠を仕掛けたり出来たし、ちょっと羨ましいな。でも僕は、魔眼があるからまだ良い方か。


 そうして二人で、落ちて行く影達を見る。数十といた彼らは全て、この縦穴に身を投げた。もう五階にも四階にも、一人として残っていない。


 ソニアさんは四階へとそのまま降り立ち、翼を畳んで僕を下ろした。


「ありがとう。怖かったけど、機転の勝利だったね」


「魔法と同じだな。閃きが鍵だった」


 走り込んで来る姿はおぞましかったけれど、何も考えていないらしい事が今ので明らかになった。また出くわしたとしても、同じ手で葬れるだろう。


 しかし、一体何者だったんだろうか。扱いとしては魔物だろう。ただ、遺跡の外にいるような一般的な魔物とは違う気がする。少なくとも、生物には見えなかった。アンデッドだと言われた方が納得出来る。


 遺跡を調査すれば、それもわかるのだろうか。ともかく、四階の探索を始めた。




 四つある部屋には、何かの残骸があるだけだった。それが何なのか、明確にはわからない。黒ずみ、粉砕され、蹴散らされており、部屋中にばら撒かれている。微かに異臭がするような気もするけど、今一よくわからない。


 ソニアさんも同様であるらしく、腕を組んで首を傾げていた。


 それ以外には何も見つけられず、僕らはその場を後にして三階へと階段を上った。


 階段室を出る前に風術で探っておくと、この階層には人影は無かった。もしかしたら先程の騒ぎに合流しただけかもしれないけど。


 何もいないなら探索はし易い。三階へと踏み込んで、見て回った。


 三階は四階と同じ作りで、部屋の中も同様のあり様だった。多分ここにも影達はいたんだろう。そして四階の彼らと一緒に、昇降機の縦穴へと身投げした。階段を使ったのは良かったようだ。昇降機側から上がっていたら、上から飛びかかられていただろう。


 想像しただけでも恐ろしい光景だ。あの影達が大挙して、上から降り注いで来る。捕まったが最後、道連れに下まで強制連行されていただろう。


 階段を選んだ運とソニアさんの機転で、僕らは難を見事に回避したわけだ。危なかった……。




 三階でも何も見つからず、僕らは二階へと上がって来た。階段はここまでのようだ。二階には人影は無く、風術は奇妙なものは存在していない事を教えてくれる。


 通路に出ると、昇降機へと真っ直ぐ繋がる方に部屋が左右それぞれに一つある。ただ、僕の魔眼は逆方向を、行き止まりの方に引き付けられた。


 その壁に、またあの紋章がぼんやりと白く光っているんだ。


「そこに、何かあるんだな?」


「察しが良いね。あの紋章があるよ。逆三角形の奴」


 僕は思わず手を伸ばし、指先で触れた。またも魔力を少量奪われたけれど、同じように壁が消えた。そっとそのまま手を伸ばすと、ここは通れるらしい。逆向きだったり? でも行ってみないとわからないな。意を決して踏み込んだ。


 明かりで中を照らすと、そこには三つの台座がこちらから見て逆三角形の形に設置されていた。そこには一つずつ、何かが安置されている。


「もしかして、お宝?」


「かもしれんな。見てみよう」


 一応注意しながら近付き、罠の類いが無い事を確認する。部屋にも台座にもそれらしいものは見当たらない。素人が見たところで、わからないかもしれないけども。


 そうして、僕らは隠されていた物の確認に移った。


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