表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/60

サキュバスの戦士

 気付けば、僕はソニアさんの腕に包まれていた。温かい胸に抱かれ、その柔らかなところを涙で濡らしてしまった。


「落ち着いたか?」


「うん、ありがとう。何か、恥ずかしい……」


「声も上げずに泣くものだから、少し心配だったぞ。大丈夫なら良いが」


 ぎゅっと抱き締められ、大きな二つが押し付けられ、一気に心臓が活性化する。しかも服がずれてて、もう見えてんですけど……。そうか、下には何も着てないんだね。道理で感触が。


「色々、色々やばいんだけどさ!」


「ん? おっと、済まない。その、見苦しいものを見せてしまった……」


「いや、素敵だったけども」


 一旦離れて、二人して居住まいを正す。僕は水を出して顔を突っ込み、洗い流して消した。さっぱりはしたけど、顔の熱は引かない。


 ソニアさんの顔も、それまで以上に赤く染まっている。目は泳ぎ、挙動がおかしく落ち着きが無い。そんな彼女を見ていたら、何だか可笑しくて吹き出してしまった。お互いにこういう状況、慣れてないんだね。親近感湧くなあ。


 驚いたような目がこちらに向く。


「いや、ごめん。何だか可愛らしくてさ」


「……可愛らしいとは随分じゃないか」


 少し調子が戻ったろうか。まだまだ赤いけど、目付きと挙動はこちらに意識が向いた事で少しは収まったらしい。


「あんな風に泣いてしまう程、私の魔力は懐かしいものに似ていたのか」


 僕の肩を抱くようにし、ソニアさんは問う。声色は少し低く、顔を見れば自責のような色が見える。自分の魔力が僕を悲しませ、泣かせてしまったのだと考えているのだろうか。


「うん、そっくりだった。もう二度と見られないと諦めていたから、嬉しかったよ。ただ、やっぱり思い出す事は多かったからさ。泣いちゃってごめんね。また見せて欲しいんだけど、良い?」


「辛くはないのか?」


「少しはね。でも、もう見られない景色だから。忘れたくないからさ」


 僕の心情を少し理解してもらえたようで、納得したように頷いてくれた。このまま忘れ去ってしまうのはあまりにも悲しい。そんな感情に気付かせてくれたソニアさんの魔力は、僕にはありがたいものだった。


 今一度魔力を放出して、僕の目に見せてくれる。もうすっかりやり方を掴んだみたいだ。


 桜並木に風が吹いたような、見事な桜吹雪が部屋中を満たして舞い踊る。涙は滲んでしまうけれど、今度は笑顔のままで眺められた。


「ありがとう。とても綺麗だ……」







 ソニアさんは、炎術と風術に適性を持っていた。二つあった事に驚き、そして大いに喜ぶ。


「ありがとう! ハルトは私の師になるのだな、嬉しく思うぞ!」


「そんな大層な事してないけど、上手く使えるようになれて良かったよ」


 風術が使えるなら、リリーさんと同じ手段で感知出来る。もっと言うなら、風術は大気の魔法。大気のある場所なら感知し放題なんだ。持続的に消費してしまうので、扱いには注意が要るけども。


 そんな話をすると、ソニアさんは面白い事を考え出した。


「大気を扱えるなら衝撃波の威力を調整する事で、大気を蹴れないか?」


 彼女は早速試す。片足を上げて足の裏に大気を集束。弱い衝撃波と同時に、それを蹴った。すると考えた通りに跳び上がれて、彼女は危うく天井に頭をぶつけるところだった。体勢を崩して、四つん這いに着地する。


 制御に難ありか? けれどこれは、修得する価値が感じられる移動手段だ。


 ソニアさんの目が感嘆に見開かれる。どうやら僕と同意見のようだ。


「ソニアさん、すごいじゃないの」


「ああ、そうだな。魔法とは、このような閃きこそが力になるのか……」


 おっと、魔法の沼にはまりかけてるな。もうこれ、遅かれ早かれどっぷりになるぞ。




 ともあれ、そろそろ眠ろうという話になった。


「時間はたっぷりあるからな。しばらくは二人きりなのだ。しっかり教えて欲しい、お師匠様」


「む、むず痒い……」


 ソニアさんがベッドに横たわりながら、くすくす笑っている。僕もそこに横たわる。そこで、服についての話になった。


「着替えないで、窮屈ではないか?」


「持ってないんだよね、着替え」


「ハルトなら作れるのではないか」


「そっか。……いやいや、透けるじゃないか」


「それもそうか。ふむ……、表面をあの明かりのようにしてしまうのはどうだ?」


 彼女が指差した先には、さっき作った明かりがある。表面に凹凸を付けてぼやかした、あれだ。一理あるね、試してみよう。


 寝巻きにするなら、形は僕が一番最初に着ていた丈の長いチュニックで良いな。表面に細かく模様を入れて、透けないようにしてみる。単純に格子柄で、とにかく細かく縦横に線を入れた。


「どうかな?」


 広げて見せて、二人で眺めた。形は問題無いな。透け具合もこれなら大丈夫……だよね?


「なかなか良いじゃないか。そうしたら、明日は洗濯してしまおうか。お互いそろそろ綺麗にしたいだろう?」


「それも良いね」


 先に進めなくなるけど、一日二日くらい構わないな。ささっと着替え、服は棚に置いておく。


 改めて横になると、じっと眺められた。


「す、透けてないよね?」


「大丈夫だと思うぞ。多少肌色がわかるが、それだけだ」


「まあ、それくらいなら良いか」


 おやすみと言って目を閉じると、もぞもぞ音がして抱き寄せられる。案外くっ付くの好きなんだな。……じゃなくて、冷えるのか?


 扉無いんだっけね。さっと作って塞ぎ、冷気の侵入を防ぐ。それと明かりの温度だけ上げて、部屋の気温を上昇させる。これで寒くない。


「ありがとう。温かくなったな」


「気付かなくてごめん。僕、体温高いんだね」


「そうだな。だからつい、こうして抱いてしまうんだ」


 あはは、温かくて柔らかくて幸せだけど気恥ずかしい……。







 朝……多分朝起きると、ソニアさんは色々見えてしまってて大変な事になっていた。下着、上も下も着てないんかい。見えちゃってるじゃないかよ……。


 戻しておいてあげると、少しだけ起きたのかお礼の言葉が聞こえた。


「あり……がと……」


「どう致しまして」


 静かに囁いて、返事をしておく。


 結局その後は眠れず、一足先に起きた。しばしソファでぼんやり過ごす。いや、目に焼き付いちゃって……。


 その内にソニアさんも起きて来たので朝食を食べた。


 それから二人で洗濯する。水は僕が魔法で作るから、洗った後は消してしまえば乾燥も一瞬だ。


「本当に便利だな、水術は……」


「水なのかも怪しい使い方してるけどね」


 土や石だと硬いし融通利かないところがあるからね。でも硬い方が良い物を作る時は確実にそっちの方が向いてるはずだから、適材適所ではあるな。


 今のところ家具だったり小物中心だからどうしても水ばかりになる。そう考えたら、水術を前面に出しておいたのは正解だった。


 ちなみに水術で作った物は、硬いゴム程度の硬度までだ。テーブルや浴槽などなら問題無いけど、小屋の壁なんかに使ったとして攻撃を受けた際に守り切れるかわからない。




 洗濯は二時間とかからず終わってしまったので、今日の予定も特に無くなった。本当は探索に行っても良かったんだけど、せっかくソニアさんが魔法を使えるようになったのだからと、二人で魔法について考えたり実践したりする事にした。


 幸い場所なら、ソニアさんしか行けないけど玉座の間がある。あちらなら多少派手に魔法を使っても大丈夫だろう。


 服は、洗ったばかりの物を使うのも馬鹿らしかったので、水術で彼女の分も作った。元々着ていたホルターネックのキャミソールをモデルに作ったトップスとビスチェ、下はタイツとホットパンツにショートブーツとした。


 なるべく重ね着になるようにした理由は、やっぱり透けてて少し見えちゃってたからだ。重ねたところはその分濃くなって見えなくなった。デザインはシンプルを心がけたのが良かったのか、気に入ってもらえた。


 玉座の間は天井もそこそこに高く、ソニアさんが大気蹴りを試すのに向いている。持ち前の運動性能を如何無く発揮して縦横無尽に駆け巡る姿は凄まじいもので、そこから繰り出されるレイピアの突きや斬撃はまさに変幻自在という言葉に相応しい動きを見せた。


 ただ、まだまだ魔力の扱いに難があるようで、息切れを起こして帰って来た。


「魔力が、持たないな……」


 呼吸も荒く、ソファへと身を沈める。グラスに水を注いで手渡せば、少しずつしっかりと水分を補給した。


「すごい動きだったね。格好良かった」


「ありがとう。でもまだまだだ。合間に風や炎を纏わせた攻撃を挟みたいのだが、そこまで魔力を回せない。魔力が少ないのか、単純に使い慣れていないのか……」


「使えるようになったばかりだしね。焦っても良い事無いよ、きっとね」


「そうだな。剣の道もそうだった。修練を重ね、地道に高めて行かなくては」


「でも楽しくて、つい使っちゃうんだよね」


「そうなのだ! やはり楽しくてな!」


 二人で大笑いした。


 そんなところは、誰でも同じなんだろう。特に僕やソニアさんは、元々は使えなかったんだ。僕は魔法なんて存在しない世界の住人だったし、彼女は自分の魔力を上手く扱えなかった。それがいきなり使えるようになったんだ、楽しくないわけがない。


 それからは主に炎術と風術で出来る事を模索した。ソニアさんからはこれまで彼女が見てきた魔法の数々が聞けて、それを炎や風に応用してみたりなど実験の足がかりが得られた。


 僕からは大気による感知魔法の話や炎術での熱感知魔法を思い付いたので、それを教えた。他に魔力を節約する方法として、代用する方法を提示した。ただ魔法を撃ち出すよりも、ソニアさんの場合はレイピアの突きから撃ち出すという手段を用いる事で、魔法自体に推進力を用意する必要が無くなってその分節約になる、などだ。


 爆発する火炎弾を撃つよりも、鋭い突きのような風の弾丸に炎術を乗せて、相手の体内に突きのように撃ち込んだ弾丸を爆発させた方が殺傷力が高いなども話してみたら、これは戦士としては有効な考え方だったらしく気に入ってくれた。


 そうしてお互いに興味のある話を続いていれば、夕食の時間を迎えていた。腹時計で、だけど。


 ただソニアさんは一分一秒でも魔法について話していたいらしく、食べながらでも止まらなかった。それはまだ全然構わなかった。問題はその後だった。


「さあ、湯浴みに行こう。背中を流させてくれ」


「いやいやいや! そこはさすがに別々でしょ!」


「私はもう見られてしまったからな、構わん」


「えええ……」


 強制連行でした。


 しかも連れて行っておきながら、だ。


「私は何故こんな事をしてしまったんだ……」


「今更正気に戻る!?」


 二人で裸になって浴槽に入り、背中を流し合っている最中にこれだ。昂揚すると周りが見えなくなるタイプだな?


 もうこっちは腹決めちゃったからね、背中から翼くらいは綺麗に流してあげた。それ以上は無理なんで、背中合わせに入ったけども。


 滅茶苦茶凹んでて、見てて可愛くて仕方なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ