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水の新魔法

 幾度もの戦闘を乗り越え、相当数の魔物を骸に変えて。


 二時間程彷徨い歩いて、僕らはその部屋の前までやって来ていた。ここまで、他の戦士とは一人として出会う事は無かった。ただしそれには生きた姿で、という言葉が付く。


 数時間は経過したような死体は食い散らかされた残骸が残るばかりで、その憤りをぶつけるように前衛三人やエニスさんは魔物達を屠っていた。そうして、そこまで到達したのだった。


 視界が一気に開けて、大広間が通路の先に広がる。中にはまだ入らず、外から見渡すように眺めた。部屋の中は暗い闇に包まれて、松明の光も向こう側まで届かない。部屋の広さを正確に把握出来ず、僕らは二の足を踏んでいた。


「ここが、例の部屋か」


「何にも無えけどな。見えねえ上に動きやがる壁があるんだろ?」


「そう報告にはありました」


「広いですわね。ここを壁に注意しながら進むんですの?」


 レベッカさんは唸っている。悩むような表情で、眉根を寄せて唇は引き結ばれている。腕を組んで右手を頬に添え、しばらくそうしていた。


「どうしたよ、レベッカ?」


「……決めたわ」


 腕を解き、一つ手を叩いた。


 そして、苦渋の選択を口にする。


「捜索はここまで。これ以上は、支部長として認められないわ」


 妥当な判断ではある。二次的な被害を防ぐなら、仮に奥へ向かった者がいるのだとしても救出には向かえない。


「まあ、仕方ねえか……」


「とても突破出来るとは思えないしな」


 特に反対する者もいなかった。一行は踵を返して帰途に足を踏み出す。


 ……僕以外は。


 レベッカさんが気付き、振り返って戻って来た。そして隣に立って、こちらを見下ろす。


「帰るわよ」


「壁が見えるとしても?」


 僕の目には、はっきりと壁が映っていた。白く透き通った壁が大広間を仕切り、迷路となって遮っているのが見えている。動いている壁も確認出来て、それが動いていると言うよりは現れたり消えたりしていると言った方が正しいのだと理解出来る程度には把握した。


 つまり、突破出来る。


「まさか、あれの力なの?」


「多分。だからこの壁は、魔力で出来てる」


 魔眼が捉えたのだろう。だから、僕にだけ見える。


 魔力はこうして固めて使う事も出来るんだな、勉強になる。硬さなんかも変えたり出来るのかな。色々試したくなってきたぞ。


 でもそれはまた今度だ。今はこの部屋を抜けて、先へ行かないとね。


「良いの? 彼らに見える事が知られてしまうわよ」


「一人で行って良いなら、僕はそれでも構わないけど」


「……それは駄目ね。仕方ないわ、しっかり口止めしましょ」


 レベッカさんは溜め息を吐いて、引き返す道で待っている皆を振り返った。そして呼び戻す。


「ハルトちゃんがどうにか出来るみたい。だから予定変更して、進んでみましょ」


「どうにかって、どうするつもりだよ?」


「この部屋は僕が先導するよ」


 そう言っておいて、僕は大広間へと歩みを進めた。壁は透き通っているし、魔眼はその構造を正確に捕捉してくれる。もう道順すら突き止めてしまった。


 いやらしい事に、消える壁を進むルートが正解だった。十秒ごとであったり二十秒ごとであったりするけど、現れたり消えたりする壁を抜けて行かなければ奥へ進む事は出来ない作りになっているんだ。


 普通に考えたら、見えない者にはとても突破出来るとは思えない。でも例えば、地術が使えるなら。土を撒きながら進めば気付く事は出来るだろう。


 この手段を使えば水術で誤魔化せるな。よし、それで行こう。


 僕は水を撒きながら見えない壁の位置を露呈させ、どんどん先へと進んだ。


「ほう、考えたじゃねえか!」


「なるほど。よく思い付いたわね、ハルトちゃん」


 レベッカさんが安堵した笑顔を見せた。これなら秘密はばれないから、口止めも要らないよね。


 消える壁はタイミングを合わせて当てる。そうする事で少量だけ向こう側に通過するから、それで気付いた事に出来る。後はその壁について調べている体で時間を測れば、難無く通り抜けられる。


「何だよ何だよ、順調じゃねえか! やっぱり遺跡の攻略には、閃きが欠かせねえな」


「全くだな。このように通る事が出来ようとは、考えもしなかった」


 ヘラルドさんのテンションがやたらに高い。遺跡探索とか、すごい好きなんだったり? 踏破まで行けたら大喜びしそうだね。




 大広間に踏み込んだ際、微かに奇妙な感覚を覚えた。何かに包まれるような、そんな感覚だ。そしてそれが、進むにつれて大きくなっている。包まれているように感じていたものが、やがて圧迫感を持ち始める程度に。


 さらには薄く霧でもかかっているように、辺りが白く見えるようになった。これはまだ視界を遮る程ではないため問題は無い。それどころか少し光っているのか、松明の光が届かないところまで照らされて見えるようだった。


 それは僕の身にだけ起きているようで、となればそれは魔眼の作用によるものだろう。圧力を感じられる程の密度をもった魔力で、包まれているんだ。


 今はまだ歩ける、立っていられる。でもこのままでは、僕はこの感覚に押し潰されてしまうかもしれない。そこまで強くならなければ良いのだけど。







 大広間は魔眼のおかげで乗り越えられた。その頃には魔法の使い過ぎで僕はへろへろに。魔力の圧迫も相まって、壁に手を突いて一息入れたら動けなくなってしまった。


「休憩にしましょ。ここなら比較的安全だわ」


 レベッカさんはそう言って、癒術による体力回復を行ってくれた。おかげで精神的な疲労さえどうにかなれば、進む分には問題無くなる。礼を言って通路の隅に腰を下ろし、膝を抱えて顔を伏せた。尻が冷たい。


 魔力の圧力はまだ然程強くはない。けれど常に押さえ付けられるような感覚を伴うこの状況は、思った以上に厳しい。物理的な影響力は持っていないのだけど、精神的に圧迫され続けているわけだから閉塞感はあるし、じりじりと追い詰められているような苦しさも感じていた。


 視界が良好な事だけは救いだ。


「敷いたわよ。こっちにいらっしゃい」


 また毛布を出してくれたらしい。体力的には問題無いはずなのだけど歩く気になれず、四つん這いでそちらへ向かった。


 前衛三人の姿が無い。見回していると、偵察に向かったと教えてくれた。松明は持って行ったようで、こちらの明かりには蝋燭を使うタイプのランタンが置かれている。柔らかな暖かい色合いで、見ているだけで心が落ち着く。


「こちらへいらっしゃいな」


 エニスさんが腿を叩いている。膝枕か? それは何とも、気恥ずかしいな。戸惑っていると、レベッカさんに寝かされてしまった。


「子供が遠慮してんじゃないわよ」


「んな事言われたってさ……」


 強制的に横にされるとエニスさんの右手が額を撫で、髪を払う。そして頬を覆って温めてくれる。すると驚く程温かく感じられ、自分の身体が自分で思うよりもずっと冷えていたのだと知らされた。


 こちらを見下ろす瞳は優しげに細まり、見上げていると照れ臭くあったけれど不思議と安堵を感じられた。頬が染まるのがわかり、フードを目深になるよう引っ張って横を向く。すると視線の先にはにやつくレベッカさんが見えた。


 そっちに顔を見せるのが嫌で反対向きになって、そちらにあるものに気付く。こっちもあまり良くないな……。


 また向きを変えようとしたけれど、後頭部が押された。顔が腹に押し付けられる。


「静かに寝ていて下さいませ。休まるものも休まりませんわ」


 この体勢でいたら休まらないと思うんだけど!?




 戻った三人は休むのにちょうど良い部屋を見つけたそうで、今夜はそこで休む事になった。道中に魔物の姿は無く、死体も無い。どうやらこちら側には来られなかったようだ。


 案内された部屋は大広間に程近い一室で、大きさは少々手狭。入口は一つしかなく、つまりは袋小路だ。ただ雑魚寝になるし、広いと寒々しく感じてしまう。通路が他にあると空気も流れてしまうから冷える。そう考えたら、この部屋はちょうど良いかも。


 中央に松明とランタンを置いて、その周りに集まって支給された保存食を食べながらの話し合いを行う。


「一応見張りは立てましょ」


 魔法を使える三人はばらばらにする方が良いだろうという事で、前衛と後衛一人ずつの三組に分かれる。一組目はミツキさんとエニスさん、途中で起きなくてはならない二組目をレベッカさんとヘラルドさんが担当し、ソニアさんと僕が三組目となった。


 そんな話をしている間、僕は寝床について考えていた。さっき一度横になってみて、やっぱり床の冷たさが堪えたんだ。毛布を敷いたとしても、そこに一時間も二時間もは寝ていられない。


 あの壁のように、魔力を固めてベッドに出来ないかな? ああでも、魔力をそんな風に使える魔法使いはマリエラしか知らないんだよな。分野としても確立されていないみたいなのに誰しもが使わない、使えないなら、隠した方が良さそうだよな。


 水術でベッド作れないかな。ゴムみたいに柔らかくしてこの部屋いっぱいに作れたら、皆で余裕持って眠れるね。ちょっと試してみようか。


 魔力を手の平に集めて、イメージは昔懐かしのスーパーボール。でもあれじゃ硬過ぎるからもっとずっと柔らかくして……。


「ハルト、それは何だ?」


 見張りの相方として組んだソニアさんが、すぐそばで僕の手の平を覗き込んでいた。そこにはぷよぷよとした小さな球が現れている。


「お、出来た。水術なんだけどね、触ってみる?」


 渡すと、ソニアさんは興味深そうに弄り回し始めた。こんな物はこの世界に存在していないのか、目が楽しそうに輝いていてとても可愛らしい。指で潰しては弾力で戻って、手に握ってはまた戻ってと繰り返した。


「何だそりゃ?」


「ハルトちゃんの魔法ね? あなた、何作ったのよ…?」


 まだまだ終わりじゃないぜ。このままベッドを作っても、床から冷やされて冷たくなるだけだ。魔力も水もこうして形にしてしまえるなら、炎だって同じはずだ。そして熱も。


 また同じように水の球を作るけど、今度は炎術を併用して温度を持たせようと試みる。すると、温かい球が出来た。成功だ、これで温かく眠れるベッドが作れる。


 水の球は返してもらって消し、一旦荷物を持って部屋から出てもらうとしよう。


「ちょっと面白い事出来るようになったから、一旦出よう」


「今の以上にかよ? 妙な事考えるもんだな」


 そう言いつつ、ヘラルドさんは楽しみなのか顔がにやにやしている。他の五人も似たようなものだった。


 全員が出たところで、部屋いっぱいに水のベッドを作り出した。硬さは沈み込み過ぎない程度、温度は普通のベッドと同程度でも温かいはずだからそうしたけど、これは実際に寝てみて調整しよう。


 全員が不思議な物を見るような目で眺めていた。けれど。


「とうっ!」


 と、一番に飛び込む。その姿で皆理解したようだ。


「これ、ベッドなのね!?」


「すげえじゃねえか! しかも温けえぞ!」


「何ともはや、このような事を考えていたとは……」


 僕の次に飛び乗ったのは、エニスさんだ。満面のみ笑顔で、ごろごろと転がる。


「ああ、羨ましいですわ! 水術はこんな事が出来てしまうんですのね!」


「硬さと温度はどうかな? 調整するから教えてね」


 そして一人、また一人と乗ってきて、それぞれに寛ぎ始めた。松明とランタンは中央に穴を開けて、そこに置く。透明なベッド越しに見える灯りは存外美しく、水に遮られてぼんやりとした光に少しの間見取れた。


 ヘラルドさんが寝心地の追求に頭が向いていて、ベッドの調整にこれ以上無く協力してくれた。そのおかげでより快適性が上がり、非常に優れた寝具に。


 これからの野宿は、これで眠れるな。季節に合わせて温度も変えられるし、やっぱり魔法って便利だなあ。


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