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シルトハルト

何故今更小説を書く気になったのだろうか……

読み専止まりだったのに

「起きろ、少年」


 俺は少年の頬をキツく(はた)いた。

 ようやく目を覚ます少年。開いたその目は虚ろとしていた。寝起きだからということではないだろう。


「生きてる……」


 どうやら自分が死にかけていた事実を認識できる程度には意識が介在していたらしい。

 頻りに切り裂かれた傷口をさする。


「蘇生も治療も俺が施した。礼はいらない。別に善意で助けた訳じゃない」


 少年は先程深く刻み付けられた傷口の部分を頻りにさすった。

 表面に跡こそ残ったが、それを除けば完治したようなものだ。処置は完璧だったので、何かのはずみで傷が開いたりするようなことなんて絶対にないだろう。

 ただ一つ懸念すべきは、邪神に直接触れて微かに穢れが体内に残ったことだ。だが、こんなのは時間経過でどうにかなるものだ。心配するようなことでもないだろう、多分。


「……それでも……命の恩人なんだ。……ありがとう」


 思ったより律儀な性格らしい。先程の餓狼のような眼光は露程も見受けられなかった。

 だが、そんなことはどうでもいいんだよ。


「単刀直入に聞くけどさ。どうして少年は“アレ”をどうにかできると思ったんだ?」


「アレ?」


「少年、君の大切なモノを奪った奴だ」


「大切な……モノを……奪った……?」


 ——ブヂュッ


 俺がそう言った瞬間、辺りに血飛沫が舞った。それは少年が下唇を噛み潰したことによるものだった。

 自傷を省みる前に憤怒が先走ってしまったのだろう。加減の一切ない全力の上顎と下顎による挟み込みよって、下唇は原型を失いかけるほどペシャンコのグチャグチャに潰れていた。

 口元から少なくない量の血液がダラダラと垂れていく。昔、漢方学で習った、唇が特に経絡の密集部位だということを思い出した。

 だが、何よりも、少年の人の物とは思えない程の憤怒に塗れた形相に目がいった。眉間や鼻には深く多重に皺が刻まれ、目は血走っていて瞳の奥には真っ赤な殺意の奔流が渦巻いていた。

 さっきは深夜ということもあって夜目頼りであり遠くから眺めていたということもあって、コチラを凄い形相で睨んできていることしか分からなかったが、至近距離で改めて明るい場所で見てみると思わず……。


 ——怖っ……!


 ってなった。

 何だコイツ?

 突然、豹変しやがったぞ。


「そう……思い出した。……皆……アイツに喰われたんだ……!父さんも……母さんも……ケミーも……アドルフも……ボブさんも……ハンナさんも……そして、サラも……ぉっ!!!」


 少年は吐き出す人の名称を一つずつ噛み締めて口にしていた。その度に目の端から涙を溢れさせていた。


「もう何もかも滅茶苦茶だぁ……っ。……全部……全部全部……全部全部全部全部全部全部全部全部アイツのせいだぁぁぁぁあああああああ!!!!!今すぐぶっ殺してや——」


「落ち着けぇ」


「あだーっ」


 ヒートアップするばかりで止まりそうになかった少年の脳天目掛けて少しキツめの手刀を叩き込んでやった。流石にこの痛みには参るか。何せ我が実家直伝の秘技だからな。実家が柔術の道場であったこともあって、当身には自信がある。

 このままだと本当に殺しに行きそうな勢いだったので止めさせてもらった。


「だーかーらー、どうして殺しきること前提で話しちゃってんだよ?君にアレを殺すのなんて到底無理だっつーの、アホが」


「出来るかどうかじゃねぇ!殺すんだよ!それだけが死体すらも残さず死んでいった皆への唯一の弔いなんだ!」


 感情的というやつか。可能が否かが完全に度外視されている。理解しがたいが、そういうものだと納得することにした。

 だが、それでもムカつくことはムカつく。

 俺はコイツのことを否定したくてしょうがない。


「……それを皆は望んでると?」


「そうだ」


 即答か。


「ほう。君は死人の気持ちが解るのか」


「そうだ。皆、一人一人が今後の生活に色んな思いを馳せてたんだ。それを踏みにじったのはあのケダモノだ!きっとアイツを憎みながら皆死んでいった!」


「それだと根拠が薄いなぁ。君は死んでいった全ての人々の人となりをきちんと完璧に深層心理の末端に至るまでを理解した上でそう言ってるのか?」


「ああ、そうだ。皆、十年間、俺が生まれてからずっと一緒に過ごしてきた人達だ。こんなにも長く一緒にいたのに解らないことがある訳ねぇ!」


「話にならないな。自分の事さえ理解しきれない人間が他人を完璧に理解するだと?ホラ吹いてんじゃねーぞアホ」


 数百年生きて自分を大体理解したと思っていた俺だって、突拍子もなく自分が剣士になりたいなぁとか思うなんて予想出来なかった。思ったその瞬間なんて、自分が意外すぎてショックだった。


「だからどうしたっていうんだよ!全員が全員、仇討ちしてほしいって思ってなかったとしても中には思う奴はいた筈だ!まさか殺して欲しくないと思う奴がいるとは言わねぇだろぉなぁ!?」


 意外と食い下がりやがる。

 そっちがそう来るなら、コチラはこう攻めさせてもらう。


「あ、そうだ。言い忘れていたが、この村を襲った化け物なら死んだよ」


「…………は?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、少年の表情が憤怒から素っ頓狂な驚愕に変わる。


「君も見ただろう、あっち方面に逃げて行った化け物をな。ここらへんの人間なら地理はわかる筈だ。化け物が逃げた先にあったのはそれはそれは深い谷。奴はそこに落ちたんだよ。弱った状態で急な川の流れに揉まれながらあの高い崖を這い上がるのは到底不可能。そして、谷底の川の先にあるのは長大な滝。さしものあの巨体でも生き残ってる可能性は皆無。溺死って可能性もあるな」


「……そ、そんな……」


 意地の悪いだろう笑みが浮かびそうになるのを我慢して頬をひくつかせながら、俺は続けて言った。


「ま、でも、良かったんじゃないか?何せ、君の大切な人達を喰い殺した奴だ。実に相応な惨めたらしい死に方だと俺は思うな」


「……くっ……ちくしょぉ……っ」


 何処にもぶつけようのない感情の生まれた少年が地面に拳を叩きつけた。


「何をそんなに悔しがってるんだ?死んでむしろ清々したはずだろ?まさか生きていてほしかったとか思ってないだろうな?」


「そ、それは……」


「良い加減、認めろよ」


「…………何をだよ」


「本当はさ、ただムカつくから、憂さ晴らししたいから殺したいだけなんだろ?目の前で自分に殺されるアレの姿を見て、仇を討った自分に酔いしれたいだけなんだろ?弔いだか何だか言ってるけどよ。それとかも結局は自分が復讐に走りやすくするための大義名分なんじゃねーのか?違うのか?」


「……ああ、もしかしたら、そうかもしれねぇ。アンタの言うことは多分、……いや、普通に間違ってない」


 お、予想に反して素直。

 だが、少年の吐露には続きがあった。それはもう顔をクシャクシャに歪ませて苦しそうに気持ちを吐き出した。


「……けどよ、残された俺はどうすれば良いんだよ……。皆喰われたから死体を弔うことも出来ないんだぞ?どうやって皆の死を飲み込めば良いんだよ。この失った感覚って奴をさ……!?」


「知るかアホ。俺に聞くな。死体がなくても弔いとか出来るだろが。そんなことも出来ないくらい低脳なのか、君は」


 言ってやったぞ。

 とりあえず、どんなタイミングでも良いから低脳だけは言いたかった。

 容赦なく傷心中の幼い少年を虐めて平然と悦に浸っている俺かっけー。


「……ハハッ。アンタって本当に同じ人なのか?」


「半分くらいやめてるかも……」


「半分どころじゃねぇだろっ!家族とか失くして気持ちも滅茶苦茶なのに、何でこんなにも追い詰められなきゃいけねぇんだよ……!俺がどう思おうがアンタには関係ないだろ!誰かをからかいたいなら他を当たれ!てかどっか行け、このウンコカス野郎!」


「そうだな。そうするとしよう。君の底を知ることができて俺も満足だ。それを君自身に弁えさせることもできたことにも、な。俺は納得出来ないことが嫌いな性分だからこうしないと満足できないんだ。許せとは言わないぞ?君ごときに許してもらいたいとも思わない」


 てか、流石にウンコカスはないだろ。そんなの生まれてこの方数百年、一度も言われたことがなかった。

 ボキャからしてまさに凡人って感じだな……。あ、アホめ……。


「……それは……俺が弱いからなのか?」


「っていうよりも、格とか次元の違いだな。俺と少年とじゃあ比べ物にならないからな、人材的価値ってやつがな」


「ほんとアンタって、性格悪いんだな」


「よく言われるよ」


「言われるだろうな」


「昔から何でも出来たから雑魚の気持ちが全く理解出来ないし、だからこそ、雑魚が嫌いなんだ」


「……ま、出来ることがアソコまでいくとなると、そりゃそうなるか……。なんか、アンタと話してると、俺がどれだけ荒唐無稽なこと言ってたのか解った気がするよ。ハハハハッなんか笑えてきた」


「何故そこで笑う」


「さっき死んだ友人がさ、辛い時こそ笑えっていつも言ってたからさ。思い出したら、本当に笑えてきた」


 いや、笑うなよアホ。そこはどう考えても笑う所じゃないだろ。

 てか、辛い時こそ笑えって何だよ。チープ過ぎんだろが。どこにでもありそうなフレーズだぞ。寒いし臭い。そんなの真に受けんなよアホ。

 苦し紛れの反論を続けて、やり尽くして一切の抵抗も出来なくなった瞬間、悔しそうに口を噤ませて惨めな様を晒すことを期待していたのに。復讐を否定されることで遣る瀬無く心を打ちひしがれた脱け殻のような人間に仕立ててやろうと思ってたのに。

 何で笑うんだ。

 俺の実力不足なのか?思えば口喧嘩は負けた記憶の方が多い。やっぱ実力不足なのか!?

 でも、あんだけ心を追い詰められてた状態から、こうも開き直れるのか。


「アンタはただの意地悪いおっさんだったけど。それでも、アンタのおかげで吹っ切れた気がするよ。……ありがとうな」


「礼を言われても困るんだが」


 礼を言われるようなことはしていないし。


「言いたかったんだから良いだろ?」


「そういうものか?」


「そういうもんだよ」


「……ふん、それじゃあ言うが、ちなみにさっきのは嘘だ。実は化け物は生きてる」


「っ!……流石にもう嘘はやめてくれよな」


「今度のは嘘じゃない。アレは自然の力でどうこう出来るようなモンじゃない。アレに詳しい俺だからこそわかる」


 いつの間にか俺はそんなことを口にしていた。死んでるか生きてるかなんてハッキリわからない。為り損ないは確かに強靭だが、その強靭さがフニャフニャになるくらい俺がボコボコにしたのも事実だ。


「……じゃあ、やっぱり、復讐はしないとな。アイツが谷に落ちてからどんだけ時間が経ったんだ?」


「まだ言うか。……丸一日だよ」


「丸一日ぃ!?……それは間に合わねぇな」


「君は俺の言ったことをちゃんと理解したのか?」


「ああ、そうだな。なんとなくはわかったよ。でもな、例え、自己満足だとしても俺の納得のいく形で皆を弔いたいんだ。……いや、言われなくても、ちゃんと身の程は弁えて慎重にやるよ」


「弁えたらやめてほしいところなんだけどな」


「やめねぇよ」


「そうか」


 なんか面倒臭くなってきたので、ここらへんに止めておくにした。そもそも、こんな見るからに冴えない、人材的価値も農民止まりで、頭の悪そうなガキ一人を相手にすること自体が時間の無駄だった。いくらこの先無限にあるからって、過ぎた時間は戻ってこない。あーあ、クソガキ滅びろ。死ね。アホ。

 話が終わったのを雰囲気で悟ったのか、少年は膝を杖にして立ち上がると、この場から去るべく俺に背を向けた。他の生き残りを探しに行くのだろう。先程の上空からの観察から考えるに、心中や炎への特攻、あるいは俺の攻撃の巻き添えにさえなっていなければ、少なからず生き残りは存在することだろう。


「俺みたいな一介の村人ごときに時間とらせて悪かったね、意地の悪い暇人さん。俺、もう行くわ。改めて言うけど、命をありがとう。でなければ、復讐の機会すらなかった。アンタほどは無理でも俺も強くなって、せめてアイツにトドメを刺せるようになるまで強くなって、強くなったその時にまだその気ならやってみるとするよ」


「そうか」


 強くなる……か。

 きっと、凡人であるコイツには凡人なりの意思があるんだろうな。心の芯ってやつが強いんだろう。

 その芯の強さがあれば、コイツはそれなりに強くなるんだろうな。それでも為り損ないを只の人間が倒すなんて無理だけどー。

 でもまぁ、そんなことどうでもいいか。コイツと会うことはもうないんだから。俺は流浪の旅人。弟子を探して再び他の地に来訪することをただ繰り返すだけだから。

 ……でもなぁ、最近、弟子探しも正直面倒臭くなってきたんだよな。

 もういっそのこと、コイツでもいいかなぁ。俺は徐な足取りで去り行く少年を見つめた。

 なんか強さ求めてるっぽいし、復讐とかいう原動力もあるから努力できそうだし、素質だって、見たまんまじゃなくて、もしかしたらすごい才能が眠ってるのかもしれない。俺と長々と会話をしたという縁もある。全くの希望的観測だが、なんかイケそうな気がしてきた。

 よし、コイツを足掛かりにして、今度こそ俺の新たな剣士道を歩もうではないか。

 てなわけで。


「少年、君の名前は何というんだ?」


「は?今更かよ。シルトハルトだよ」


盾のような男(シルトハルト)か。これまたチープな名前」


「嫌味はもうコリゴリだよ。俺もう行くからな」


「待て。俺は、民草から……そう、剣術の神、《剣神》と呼ばれているくらい凄い剣士なんだ。名は……名はシュヴァルフ・フェッターという。シルトハルト、俺の弟子になれ」


「は?」

折角の弟子入り回なのに適当に書きすぎた……

機会があれば改変するかもしれません

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