初めての拠点
これまでのあらすじ)
傭兵試験を受ける為にカイン王国へとやってきたパイン。
会場で知り合ったアリスと共に無事に試験に合格する。
試験中に起きた不可解な出来事。
傭兵協会会長のバーバラは、試験官サールを2人に同行させる。
そして3人は、初めてのクエストを完了した。
連合暦20年3月18日、
パイン達は宿泊料金を支払い宿を出ると、
朝食をとるため食事処へと向かった。
3人は、食事をしながら会話していた。
パイン:「このまま宿屋生活を続けていたら、生活できなく
なってしまうよ。」
サール:「そうですか。あっ、私の分は自分で払いますので、
その点は気にしないでください。」
パイン:「えっ、いいの?」
サール:「仕事ですので、、、。」
パイン:「あぁ、そうか、仕事でしたね。」
サール:「そうそう、拠点を作るというのはどうでしょう?」
パイン:「拠点?」
サール:「えぇ、どこかの王都に家を借りて、自炊しながら
クエストをこなすのです。」
パイン:「拠点か。」
アリスを見ると、食事に夢中だった。
パイン:「アリスは、どう思う?」
アリス:「んぁ?、もぐもぐ、もぐもぐ、、、ごっくん。」
水を飲むと胃に流し込む。
そして一息つくと答えた。
アリス:「なんですか?」
パイン:「クエストをやるために家を借りて自炊しようと
考えているんだけど、どうかなと、、、。」
アリス:「私は問題ないです。
ただ、どこに拠点をするかによるかな。」
パイン:「なら、まずは場所を決めよう。」
アリス:「はーい。」
そう言うと、アリスは再び食べ始めた。
パイン:「拠点候補は、いくつかある。
まず、ここ、カイン王国。
西にあるクライム王国。
さらに西にあるカルラド王国。
そして、東にあるルシード王国。
どれにするかだな。」
パインは話を続けた。
パイン:「俺としては、故郷であるクライム王国は、
出来れば避けたい。
実家があるのでどうしても甘えがでそうだし。」
サールは、ちょっと驚いたような顔をして言った。
サール:「なるほど、背水の陣ということですね。」
パイン:「えぇ、そうしないと強くなれない気がして、、、。」
サール:「ということは、
カイン王国、カルラド王国、ルシード王国の3つの
どれかということですね。」
アリスが突然、左手を上げた。
2人がアリスに注目する。
アリス:「もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、ごっくん。」
水を飲むと胃に流し込む。
そして一息つくと口を開いた。
アリス:「ルシード王国は、却下。」
パイン:「えっ、なんで?」
アリス:「なんででも、却下です。」
パイン:「・・・。」
パイン:(なにかありそうだが、これ以上質問して、
ごねられると後が大変だからな、、、。)
パイン:「分かった。
じゃあ、カイン王国かカルラド王国ってことか。」
サール:「いや、カルラド王国一択になりそうですね。」
パイン:「えっ、なんで?」
サール:「ここカイン王国は、傭兵学校や試験会場があるため、
D級のクエストが少ないんですよ。」
パイン:「なるほど。
じゃあ、カルラド王国に決まりだな。」
サール:「分かりました。」
アリス:「もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、。」
アリスは、左手を上げて、それに答えた。
そして、カルラド王国に拠点を作ることが当面の目標となった。
サール:「カルラド王国は遠いので、転送してもらいましょう。
お金はかかりますが、一瞬で行けますよ。」
転送、それは傭兵王カインが成し遂げた事業の一つとして
有名なものだ。
カインは、精霊魔導士の育成に力を注いできた。
多くの精霊魔導士を育成すると、魔法陣の研究所を作り、
その研究所の所長にバーバラを指名した。
バーバラは優秀だった。
バーバラの発案により、様々な魔法陣を考案して行った。
そんなおり、カインはバーバラに、傭兵を各国に安全に
派遣するための研究を依頼した。
そして、出来たのがこれであった。
基本的な原理は帰還の巻物と同じであったが、
術者を必要としないことが画期的だった。
パイン:「で、いくらかかるの?」
サール:「銀貨1枚です。」
パイン:「えー、高すぎ、、、。」
サール:「まあ、そのぐらいの価値はありますよ。」
パイン:「まっ、まさか、1人1枚じゃあないですよね?」
サール:「えぇ、パーティーなら1枚ですみます。」
パインは内心ほっとした。
3人は食事を終えると、転送をしてもらうために、
傭兵協会へとやってきた。
そして、カルラド王国への転送をお願いすると、
部屋へと案内された。
係員:「これが転送の魔法陣です。
それでは、良い旅を。」
そう言って、係員はお辞儀をする。
3人は魔法陣に入った。
突然、魔法陣が光輝く。
しばらくすると目の前が真っ暗になった。
目の前が明るくなると、飛ぶ前と同じ内装の部屋だった。
係員はいない。
アリス:「ついたの?」
サール:「えぇ、着きましたよ。」
パイン:「これ、なんか実感ないよな。」
そして、目の前にある扉を開き外へ出た。
そこは傭兵協会の事務所であったが景色はまったく違っていた。
事務所の窓から外に見えたのは大きな川だった。
アリス:「あ、川がある。」
アリスが走り出し、外へと向かう。
2人が後に続く。
そして、3人が見たのは、町の中を流れる大きな川だった。
サール:「カルラド王国は別名、水の都って呼ばれるんですよ。」
パイン:「へぇ。」
アリスはサールのうんちくを聞かずに1人はしゃいでいる。
サール:「水が豊富にあるので、農業が盛んな国です。
都の移動も、小船が使われることが多いのですよ。
ほら、あそこに小船がみえるでしょ。」
パインとサールは小船を眺めた。
そのとき、悲鳴があがった。
「キャー!!、どろぼー!!」
それは、紛れも無くアリスの声だった。
声のする方向を見た。
アリスとその先にかばんを持って逃げていく男の姿が見えた。
アリスが男を追う、同時にパインとサールも走り出していた。
パインは男が右に曲がるのを見た。
アリスが続いて曲がっていく。
続いて、どこから来たのか分からないが、
警備兵と思われる服装の2人が続いて曲がる。
そして、パインとサールが角を曲がったとき、
アリスと2人の警備兵が白い糸のようなものに絡まって、
じたばたともがいていた。
サール:((あれは、拘束呪文か?))
パイン:((アリスを頼む。))
サール:((分かりました。))
パインは、サールにアリスを頼むと男を追った。
パイン:((くそ、あいつ速いな。))
パインとの距離が広がっていく。
そして、男が左に曲がるのが見えた。
パインがやっとのことで、左に曲がると、その男が倒れていた。
その時、視線の先に消えていく黒い影を見た。
倒れた男の横には、アリスのかばんが置いてあった。
パイン:(えっ、いったい何があったんだ?
それに、あの黒い影、、、。)
男に近寄ると男の生死を確認した。
どうやら、気を失ってるだけらしい。
そのとき、2人の警備兵と共に2人が曲がってきた。
アリス:「さすがパイン、捕まえてくれたんだ。」
パイン:「いや、俺じゃあない。」
アリスが自分のかばんを手にとる。
警備兵:「ご協力感謝します。」
そう言って、男を拘束する。
警備兵が言うには、最近旅行者を狙った置き引きや強盗が多発
しているため、警備を強化しているとの事だった。
アリスは無くなっている物が無いかの確認を指示され、
無くなっている物が無いことを確認すると、
その他にいくつかの質問に答えた後、解放された。
パイン:((それにしても、とんだ災難だったな。))
アリス:((だよねー。))
サール:((それよりも、気になるのは拘束呪文です。))
パイン:((えっ?))
サール:((アリスさんが、絡まっていた糸のようなものです。
アリスさん、あれは、あの男がやったのですか?))
アリス:((分からないけど、呪文とか唱えていたようには
見えなかったけど。))
サール:((そうですか。))
パイン:((拘束呪文というのは?))
サール:((精霊魔法の一つです。
しばらくの間、対象者の行動を拘束するものですね。))
パイン:((なるほど、俺は、さっきの警備兵にも言ったけど、
あの男を気絶させたやつの方が気になるな。))
サール:((そうですね。))
パインとサールは、自分達の知らないところで
何かが起こっているのではないかと考えていた。
このあと、3人は借りられる部屋が無いか傭兵協会に相談した。
これはサールが、傭兵協会が傭兵の抱える事案をサポートして
くれるという一言からだった。
傭兵協会が紹介してくれたのは、天馬の尻尾亭という
飲み屋だった。
3人はもらった地図を頼りに店を探した。
サール:「ここみたいですね。」
そこには、天馬の尻尾亭という看板が掲げられていた。
パイン:「すみませーん。」
そう言って、中へ入った。
老人:「なんじゃ? 店は夜からじゃが?」
パイン:「いえ、傭兵協会から紹介されてきたのですが。」
パインは部屋を借りたい旨を伝えた。
その小柄でひげを生やした老人は、ドレアルと名乗った。
ドレアル:「そうか、部屋を借りたいのか。
それならば、ついて来い。」
そう言って、3階まであがる。
どうやら、2階と3階は、宿屋になっているようだった。
ドレアル:「ここじゃ。」
扉を開ける。
パイン:「えっ、これって、ただの物置じゃないですか。
それも、狭すぎる。」
2m四方の空間に荷物が置かれていた。
ドレアル:「なにを勘違いしておる。
さすがに、ここに3人も住めるわけ無かろう?」
ドレアル:「あの梯子の上じゃ。」
ドレアルは荷物の奥の梯子を指差した。
ドレアル:「わしは登れんので、主らだけで見て来い。」
3人は、梯子を上がった。
そこは、縦10m横5mぐらいの広い空間だった。
しかし、天井が斜めに傾いているため、利用できる場所は
限られていた。
3人は、辺りを見回す。
パイン:「これなら、掃除すれば使えそうだな。」
アリスは奥に付けられた大きな窓を見つけ、近づいた。
そこからは、王都が一望できた。
アリス:「うぁー、凄い景色。」
そう言って、窓を開ける。
窓から心地よい風が入ってきた。
パイン:「うぁー。」
サール:「ウッキー。」
アリスは、振り返った。
舞い上がる埃の向こう側で、顔に蜘蛛の巣を貼り付けた2人が、
じたばたしているのが見えた。
アリス:「うふふっ。」
パインは蜘蛛の巣を取るとアリスを見た。
窓の外に見える王都、その前に髪をなびかせて笑顔で佇む少女。
それが、なんともいえない雰囲気を醸し出していた。
この後、部屋の契約を行うと、
その日一日をかけて部屋の掃除を行った。
そして、その日の夜、サールは傭兵協会に報告があると言って、
2人と別行動をとった。
傭兵協会の会議室では、バーバラとサールが会話していた。
バーバラ:「なるほど、そんなことがあったのか。
しかし、その盗人は関係ないだろう。
我々の監視の目を潜って巻物を入れ替えるという
手練が、あっさりと捕まるとは思えん。
気になるのは、拘束の魔法を使った者と盗人を
倒した者。
たぶん、同じやつだろうが、何故そのような事を
したのかが分からん。
サール、お前は引き続き監視をしてくれ。」
サール:「はい、分かりました。」
こうして、3人は水の都カルラド王国で、
新たなる一歩を踏み出す事となった。