初めてのライセンスカード
これまでのあらすじ)
魔獣王討伐隊に参加することを夢見て、
試験会場のあるカイン王国へとやってきたパイン。
アリスと知り合い、2人で予備試験をクリアした。
続けて本試験へと挑む2人。
合格してライセンスカードを入手できるのか?
連合暦20年3月16日、
パインは夢を見ていた。
巨大な柱が左右に延々と並んだ通路のような場所を歩いていた。
通路の先は暗く、空気が淀んでいる感じがした。
延々と続く通路をゆっくりと進んでいくと広い空間にでた。
目の前を見ると、そこには巨大な壺があった。
それに近づくと、どこからともなく呪文のような声が
聞こえてくる。
何を言っているのかは分からなかったが、
なぜか危険であることだけは分かった。
声が聞こえなくなると、上空が急に明るくなった。
上を見上げると巨大な火の玉があった。
それが自分に向かって落ちてきた。
パイン:「うぁ!!」
目が覚めた。
身体中から滝のような汗が噴出していた。
パイン:(ふう、夢か。嫌な夢だったな。)
そんなことを考えながら身支度を済ませると部屋をでた。
廊下に笑顔のアリスが立っていた。
アリス:「おはよー。」
パイン:「あっ、おはよう。」
アリス:「突然、大声あげてどうしたの?」
パイン:「えっ?」
アリス:「うぁー!!、って声が隣の部屋まで聞こえたよ。」
パインは食堂へ向かいながら夢の話をした。
アリスは何か思案しているようだった。
食堂で食事を受け取り席に着くと、アリスが言った。
アリス:「それって、私の夢じゃないかな?」
パイン:「えっ?」
アリス:「まだ、パーティー組んでたよね。
たぶん、私の意識が入り込んだのかも。
その夢って、私がよく見るやつだもの。」
パイン:「そうだったのか、、、。」
パインは少し考えると、思い切って質問した。
パイン:「あの夢は一体何なんだ?」
アリス:「んー、よくわかんない。
あんな場所には行ったことないし、
あの詠唱も聞いたことが無いし、、、。」
パイン:「そうか。」
パインはこの時ふと思った。
パイン:(もし俺があんなことやこんなことの夢を見たら、
アリスがそれを見る可能性があるのか、、、。
寝るときはパーティーを解散しないとやばいな。)
そう心に深く刻み込むパインだった。
2人は食事を済ませると、受付へと向かった。
本試験の受付には、数人の受験者が並んでおり、
その後ろに並ぶと自分の番が来るまで待った。
そして、自分の番がやってきた。
受付嬢:「本試験受験の方達ですね。
そちらにいる係りの者についていってください。」
横をみると、サールが立っていた。
サール:「おはようございます。」
パイン・アリス:「おはようございます。」
サール:「それでは、こちらにおいでください。」
そして、予備試験とは異なる部屋に連れて行かれた。
部屋に入る2人をじっと見つめる男がいた。
男:(よし、予定通りあの部屋に入ったか。
あとは、結果を待つだけだな。)
その部屋は予備試験の部屋と似ていた。
サール:「それでは本試験の説明をいたします。
本試験ではパンフレットに記載されていた通り、
現在の装備で行います。
パーティーを組んでいますのでポーションなどの
アイテムの持込は禁止となります。
お二人には、これから連続で4回、壺の蓋を
閉じてもらいます。
無事蓋をすることが出来たら、壺の横に巻物が
あります。
それを使用すると、次のエリアへと移動します。
4回目の壺の横にメダルがありますので、
それをもって帰還してください。
これで、本試験の終了となります。
なお、魔獣の強さは、しだいに強くなりますので
注意してください。
これからお渡しする帰還の巻物は帰還時に
使用してください。
なにかご質問はありますか?」
パイン:「本試験は4回あると聞いていたのですが?」
サール:「パンフレットはお読みになりましたか?
受験者の数が増えたため、今回より4回分を一度に
実施する旨が書かれています。」
パイン:「そうだったんですか。」
サール:「他にご質問はありますか?」
パイン:「ありません。」
サール:「それでは本試験を開始させていただきます。」
そして、本試験が開始された。
最初の空間に現れたときに、アリスが言った。
アリス:((巻物が複数になるんだね、
分かりやすいようにしておこうよ。))
そう言うと、小さな紙に’帰還’と書くと、
帰還の巻物に貼り付けた。
パイン:(さすが女の子だな、細かいところによく気がつく。)
そして、遠くにうごめくスライムに向かって切りかかって
行った。
3回目までは、敵が強くはなってはいたが、
予備試験とたいして変わらなかった。
2人は多少疲労があったが、問題なく進むことができた。
そして2人は、最後のエリアにいた。
飛んだ先には小部屋ぐらいの空間があり、
その先に人1人が通れるぐらいの狭い通路が続いていた。
パイン、アリスの順に通路をゆっくりと進んでいく。
アリス:((パイン、ここ、なんかおかしい。))
パイン:((ああ、俺もそう思う。気をつけろ。))
パインもただならぬ気配を感じていた。
それは、その場にいるだけで、恐怖するような、
重くじめじめとした感覚だった。
丁度その頃、試験会場の監視部屋は騒然としていた。
水晶玉で受験者の監視を行っていたが、2人の受験者が
次の部屋に現れていなかった。
「なんだと、受験者の2人が消えただと。」
「はい、転移の巻物を使ったあとに消息不明に、、、」
「担当者はだれだ?」
「サール試験官です。」
「サールか、、、すぐに呼び出せ。」
「分かりました。」
パインとアリスは、今まで以上に慎重に前進していた。
パインは右手に剣を構え、左手に盾を装備していた。
アリスは、右手にメイスを持ち、左手にやや小ぶりな盾を
装備していた。
洞窟を少し進むと、その先に広そうな空間が見えた。
パイン:((壺はこの先のようだな。
慎重に進むぞ。))
アリス:((うん。))
その空間に入ったとたん、上空からうなり声が聞こえた。
そして突然頭上から魔獣が飛び降りてくるのが見えた。
それは、大人ぐらいの大きさの魔獣だった。
そして、アリスのすぐ横に着地した。
アリス:「キャー!!」
アリスは目を瞑り、メイスをめちゃくちゃに振り回した。
その攻撃の何発かが当たった。
そして、魔獣が空間の中央へと飛ぶのが見えた。
特にダメージを受けている様子はなかった。
パイン:((落ち着け、アリス。))
アリスは、その声にはっとして、メイスを振り回すのをやめた。
2人が魔獣の方向を見ると、その魔獣の後方から何匹もの
魔獣が近づいてくる。
アリスの声に反応して来たのだろう。
その大きさは、優に2mはあろうかと思えるほど大きかった。
パイン:((まずい、後退するぞ。))
パインはアリスを先に行かせると、続いて洞窟に逃げ込んだ。
1匹の魔獣が続いて洞窟に飛び込んだ。
2人は、通路を全力で逆走した。
魔獣が追走する。
そして、最初に現れた空間へ逃げ込んだ。
当然のことだが、その場所には他の道が無かった。
その狭い空間の端まで移動する。
アリスを通路と反対側の壁に移動させると、
アリスをかばうように立ち、迎え撃つように剣を構えた。
その時、魔獣がゆっくりと現れた。
そして、1回吼えると、飛び上がった。
少し前、監視部屋にはサールと共に、
パーティーの術式を行った係員がいた。
サール:「まずは、使用した転移の巻物の回収を行いましょう。
そこに描かれている魔法陣を見れば何か分かるかと。」
巻物は、魔晶石の粉末をまぜた絵の具で巻物に魔法陣を描き、
魔法の種類によって定められた魔法陣で術式を執り行うことで
完成する。
転移系の場合、転移先の魔法陣で行う必要があった。
ちなみに、帰還の巻物も転移の巻物も同じ物であったが、
転送先が町など、明確になっているの物を帰還の巻物と呼ぶ
習慣があっただけである。
術式によって魔晶石に魔力が封じ込まれ、
その力を利用して魔法が発動する。
その魔力は1回分しかなく、使用済みの巻物が手持ちに残った。
1回使用された巻物は二度と使用することができないため、
使い捨ての魔法という事になる。
そして転移系の巻物の場合、利用者を転移したあとに巻物だけが
転移前の場所に残る。
これは、床に描いた魔法陣が一緒に転移されないことでも
分かるとおり、魔法陣自体には影響しないということだった。
サールが言ったのは、3回目で使用した巻物を回収して
そこに描かれた魔法陣を調べることによって、
どこに転移されたかを知るというものだった。
そして、すぐに捜索隊が組織され、3回目の魔法陣へと転移した。
その隊長はバーバラと呼ばれる精霊魔導士のマスターだった。
バーバラは、落ちていた巻物を取ると魔法陣を見た。
バーバラ:((サール、この魔法陣をどう見る?))
サールは巻物を受け取ると、それを見た。
サール:((はい、これは私の作ったものではありません。
ここに描かれている魔法陣はここで使われている
ものとは明らかに違います。))
バーバラ:((やはりそうか。
この件は、別途調査の必要があるようだが、
まずは、2人の救出を優先する。
ユーリ、気配を感じるか?))
ユーリと呼ばれた者は、パーティーの術式を行った者だった。
ユーリ:((わずかながら、南西の方角に気配を感じます。))
バーバラ:((詳細な位置を特定してくれ。それまで待つ。))
ユーリ:((わかりました。))
そう言うと、ユーリは、魔法陣を描き始めた。
パインは、魔獣を迎え撃つため、剣を構えていた。
魔獣が通路から現れると1回吼え、飛び上がった。
その時魔獣は、天井の高さを考慮していなかったのだろう。
天井に頭をぶつけると、そのまま落下し、
ふらふらとよろめいている。
それを見ていたパインは、魔獣に近づくと剣を突き出した。
剣は難なく魔獣に突き刺さる。
パイン:(こいつ、アホすぎる。)
アリス:((やったね、パイン!!))
パイン:((俺にかかれば楽勝さ!!))
そう言ったあと、パインは今のは言うんじゃなかったと
また後悔した。
他の魔獣がやって来ないことを確認すると、
2人はこれからどうするかを検討した。
パイン:((奥の魔獣はこいつとは比べ物にならないほど
強そうだ。
どうやって、メダルを取るかだな。))
アリス:((それにしても、なんでやってこないんだろう?))
パイン:((あいつらデカすぎて通路に入れないんじゃないか?))
アリス:((そっか。))
その後、2人はどうやって魔獣を倒すかを話し合った。
結局、良い案は出なかった。
とりあえず2人は、状況を確認するため、広い空間へと
慎重に進んで行った。
その時、後方が光った。
パインはあせった。
パイン:(まずい、後ろに敵が出現したのなら挟み撃ちだ。)
この通路ではアリスと入れ替わることができない。
パイン:(どうする?)
そう考えていると、アリスが後方に走り出した。
パイン:((まて、行くな。))
アリス:((大丈夫だよ。魔獣じゃないみたい。))
パインはアリスの後に続いた。
最初の空間にもどると、そこには3人が立っていた。
その中にサールを見つけた。
サール:「お二人とも無事でしたか。それはよかった。」
バーバラは下に転がっている魔獣の死体を見ると言った。
バーバラ:「こいつはお前らが倒したのか?」
パイン:「そうですが、、、なにか?」
バーバラ:「そうか。」
そう言うと、バーバラは少し考えて口を開いた。
バーバラ:「この試験は中止とする。」
パイン:「えっ、どうしてですか?」
2人はびっくりした。
バーバラ:「安心しろ、お前達は合格だ。」
パインは、訳が分からなかった。
隣では、アリスが飛び上がって喜んでいる。
バーバラ:「すぐに帰還の巻物を使って帰還しろ。」
2人はそれに従って、帰還の巻物を使った。
2人が戻るのを確認するとバーバラが言った。
バーバラ:((さて、我々はここの調査を始めるか。))
そう言うと、バーバラ達は奥へと進んで行った。
パインとアリスは、試験会場に戻ると受付へと向かった。
そして明日の朝、受付に来るように言われると、
パーティーを解散した後で部屋へと戻った。
丁度その頃、とある場所では、2人の男が会話をしていた。
男B:「残念ながら、失敗しました。」
男A:「なんだと!!、、、まあ良い、次の手は考えてある。」
連合暦20年3月17日、
2人は、朝一番で受付の前にいた。
彼女の言っていた通り、合格と判定された。
そして、無事にライセンスカードが発行された。