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僕が死ぬまで縛るのをやめない!  作者: + -
第三部 マイペース攻略準備編
53/162

縛り51,ディストーションフィニッシュ指定

クロ視点で始まります。久しぶり過ぎて口調に違和感が無いことも無い。

「ファイッ!」

「行くぜ! 【スラッシュ】!」

「いきなりかよ!」


 アレクサンドロスさんが試合開始の合図を出すと同時に対戦相手――確かエックスだったか――がまっすぐ突っ込んで来て、その勢いのままにスキルを使ってきた。とりあえずハンマーの柄で受け止めたが、接触箇所でスキルのエフェクトが散るのに合わせてビリビリとした圧力とわずかな痛みが襲ってきた。ユーレイが多用しているのと同じスキル名だが威力はこっちの方が明らかに上だな。

 スキルを使わずにただ武器で受け止めても攻撃の威力が高ければダメージを受ける。そんなゲームのルールを暗に表している現象に、スキルを使えない不利を噛み締めつつも続けて振るわれる片手剣を捌いていく。


「はっ、口ほどにもねえな! 【スラッシュ】!」

「ぎゃーぎゃーうっせぇ!」


 一回目と同じ軌跡で放たれた【スラッシュ】を、今度はハンマーの柄で受け止めるのではなく受け流して、エックスの体勢が崩れたところに勢いよくハンマーを叩き付ける。


「っ! 【ステップ】!」

「なにっ!」

「【トライスラッシュ】!」


 当たる。最低でもガードさせることはできると思った一撃だったんだが、移動スキルで躱されたうえに、逆にこっちが反撃をもらってしまった。素早く三連撃を繰り出すスキルが相手だと、とっさに受けようとはしたが、三発のうちの一発は直撃を食らった。

 移動系のスキルを使うやつが内にはいないから忘れてたが、攻略組なら持ってて当然か。むしろうちの遊撃組が持ってないのがおかしいんだろうな。


「クロさん頑張れー!」

「ほらほらー! リンドウちゃんに応援してもらっといて負けたら新薬の被験体待ったなしだよー! ほら、老師も何か言って!」

「とっとと負けてそこ譲れー!」


 ユーレイたちから無責任な応援が飛んでくる。俺だって別に戦いたくて戦ってるわけじゃねえんだから最初っから老師に任せとけばそれで済んだだろうが。

 あり得ない選択肢と分かってはいるがついつい益体も無いことを考えてしまう。とにもかくにも相手に回避手段が有ることを念頭に置いて戦うしかないか。大振りで避けれない攻撃を出すのもあり得なくはないが、避けられる可能性を考慮して隙の少ない戦い方をする方が確実か。


「俺の方がっ! 強い!」


 そんなことをがなり立てながらスキルを駆使して攻撃を加えてくる。強さに固執する理由が何かあるのかもしれないが正直興味ないしいい加減うるさい。そもそもユーレイに付き合わされてパッシブスキルで固めてる俺よりも強いことが何の自慢になるんだか。

 イライラして投げ出したくなるが、有る程度善戦はしないとユーレイが納得しないだろうし、今後有力な情報を仕入れた際のやり取りにも支障が出るのがな。さて、どうしたものか。



◆    ◆



「なんだかよさげなものを飲んでるな。俺にも一杯」

「あ、どうぞ。えっと、粗茶ですが」

「独特な風味だな。何かバフ効果とか付くのか?」

「いえ、特には……」

「料理スキル持ってる人がいないからウチではバフ付きの料理は使ってないよ。有ると楽になるんだけどね」

「生産職の確保と保護はやはり急務か」


 フラット僕たちが観戦してるところに寄ってきて、図々しくリンドウちゃんからお茶をもらって現状への文句をこぼすナンダゴンドさん。まあ長期的に見て料理スキルを使える人がいてほしいのは同意だけど、戦闘力のない人の保護にまで気を配らないとダメな立場っていうのはやっぱり大変そうだね。もちろん生産を専門にする人とのパイプはメリットも大きいんだけど、攻略するだけなら少人数を重点的に鍛えれば済むことを考えるとちょっと割に合わなさそう。


「あのー、一応【調合】スキルでポーション扱いで作ればお茶にも特殊効果は乗りますよ。そっちが好みなら……」

「なに! 是非見せてくれ! もちろん対価は払う! いくらだ!?」

「ひっ!」

「ナンダゴンドさん強面なんだからいたいけな女の子にそんな勢いで詰め寄っちゃだめだよ」


 テンションがおかしなことになってリンドウを怖がらせたナンダゴンドさんを窘めると、強面と言われたことにショックを受けて固まってしまった。ちょっと悪いことしちゃったかな?

 硬直したナンダゴンドさんに責任を感じたのか、リンドウちゃんがこれまたすごい勢いでフォローしに行ったね。


「すいません! 大丈夫です大丈夫です! えっとこれ、たぶん二十分ぐらいスタミナ回復量に3%の補正がつくお茶です」

「ああ、ありがたいな。効果は大きくないが生産コスト次第では有用だろう、出来ればあとでレシピをゲロッマズゥァー!」


 ナンダゴンドさん、雑草茶に散る。なむなむ。


「ふぅ…… さて、そっち側の切り札次第だが、今のところはエックスのやつが優勢か」


 自分のアイテム欄から水を取り出し、一息ついたナンダゴンドさんが今までろくに注視していなかった試合運びに言及した。ちなみに、一口目を飲んだ際の衝撃でいくらかはこぼしてしまっていたけど、ポーション便に残っていた分の雑草茶|(不味い)は苦悶の表情を浮かべながらも確りと飲み干していた。アイテムを無駄にしない、効率の前には多少の精神的なデメリットには目を瞑る。そういうスタンスなんだろうけど正直今飲んだところで効果時間が無為に過ぎて行って結局無駄になる気がするんだよね。

 そんなナンダゴンドさんに心の中で労りの言葉をかけつつ、対戦についての意見を交わす。


「言うほど戦況傾いてはいないと思うけどね。動き見たところSTR特化でも無さそうだし、たぶんまだクロのHP七割五分を切ってようやくHP補填が動き出したくらいだと思うよ?」

「おいおい、もう結構な時間戦ってるぞ? 大盾持ちのタンクでもあるまいし、これだけの時間戦ってて受けたダメージが三割ってのはあり得ねえだろ。装備から見て五割、VITを伸ばしてても四割は削れてるはずだ」

「結構な時間戦ってるからこそだよ。受けたダメージは四割に近いだろうけど、弱リジェネ効果のあるパッシブで長期戦だとけっこうカバー出来ちゃうんだよね」

「弱リジェネとは渋いチョイスを…… 範囲狩り度外視のPvPタイマン野郎なのか? それにしては動きが冴えねえな」

「まあ別にPvPを意識した構成でもないしねえ。そもそも相手の火力が高かったらあの装備で持久戦なんて出来ないし」

「うちのあいつも下手ではないが場慣れしてねえからなあ」


 エックス君も別に動きが取り立てて悪いわけではないんだよね。速攻を仕掛けたり、削りきれないと見て取るやペナルティーが発生しないようにスタミナを管理したり、【ステップ】で動き回って堅実にダメージを積み重ねたり、盾を使って被ダメージもしっかり減らせてるし。モンスター相手での戦闘ならかなり優秀な前衛だと思うんだけど、戦い方がまっすぐで駆け引きがなさすぎるよね。

 対するクロもクロで、慎重に戦おうとしてる結果普段以上に頭が固くなってるね。普段のクロならもう少しいろいろと上手に戦うのに。

 なんだかんだ僕らのパーティーメンバーで一番ログアウト出来なくなったことを精神面に響かせてるのはクロなんだよね。この機会に適度に開き直ってくれたらいいんだけど。

 うん、応援頑張ろう。


「いつまで試合やってんだー! さっさと決めろー!」

「腰使って腰!」

「あー、そこで外すなよー」

「ほらクロ! 今こそ黄金の右ストレートを開放する時だよ!」


 ナンダゴンドさんと二人で、ノリノリで各自のパーティーメンバーを応援する。こういうノリを共有できる相手がいるのはやっぱり楽しいね!


「明日のためにその百八を思い出せー!」

「D技しっかり使ってこー!」

「お二方~? それは~、応援ではなく~、ただのヤジですよ~? 教育に~、悪いので~、マナーよく応援しましょうね~?」


 気づいたらコノカさんが笑顔で後ろにいた。すごく怖かった。


次回更新は未定。

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