大量生産型爆弾投下機の序章
サファティガル城の中央、一際高い尖塔の最上階。
そこで突如切って起こされた神子ファルシアスと自称精霊の灯火達による契約を巡るジリジリとした戦い(?)は、新たな局面を迎えようとしていた。
――どうして嫌がるのー?ボクたちのこときらいー?――
純粋な悲しみと共に向けられた風の精霊の言葉は、ファルシアスの心に直撃した。正に会心の一撃。追撃にとでもいうように、他の灯火型精霊たちも弱々しい動きを見せる。
見た目はただの丸い発光物体だと言うのに、この醸し出される哀愁。ヨロヨロとよろけながら点滅するという中々の演技派である。
(コロ助~。)
前世は愛犬命な大の小動物好きでもあったファルシアスには、かなりの効力を発揮したようだ。
因に、よろめく灯火を見てファルシアスが幻視したのは、仏壇のイチゴを摘まみ食いし過ぎて下痢になり、叱られた時のコロ助であった。ぷるぷる震えてクゥ~ンは最強である。
さて、盛大にほだされかけたファルシアスだったが、なけなしの理性を総動員し、取り敢えずの時間稼ぎに取り掛かった。
よもやこれが最大の失敗とも知らずに。
「嫌いではないよ。ただ、私は契約どころかあなた達精霊の事も何も知らない。何にも知らない相手と契約なんてできないな。ちゃんと皆の事を知ってから、
――知ればいいのねー?――
考えたいな。と続けようとしたファルシアスの言葉は遮られた。
思いたったら即行動を体現するフライング精神まっしぐらな風の精霊の言葉と灯火達の行動によって。
彼らは言葉と共に一斉にファルシアスへと飛びかかって来たのだ。
(結局、強制なの!?)
余りの事に避けられなかったファルシアスは、全属性の精霊と同時に接触した瞬間、流れ込んできたモノによって意識を暗転させられた。
精霊達が知って貰うために起こす行動がどんなものかなど、人であるファルシアスには知るよしもない。
光と闇が交互に包み行く。
そこにあるのは裸の惑星。
母なる太陽と月に見守られて。
父なる六柱に支えられて。
惑星は世界を形どる。
其々の力が満ち溢れる。
満ちし力はやがて子となり生まれ落ちる。
一番初めの惑星の子。
ふと、浮上する意識を感じる。そこで自分が気絶していた事を理解したファルシアスは、ゆっくりと自身を覚醒させながら目を開いた。そこでファルシアスがまず目にしたのは、こちらを心配そうに覗き込む、八体の人型精霊達であった。
――大丈夫ー?大丈夫ー??――
――頭痛くなーい?きもち悪くなーい?――
自身らが引き起こした事だと言うのに、物凄い心配そうに此方を伺う精霊達を目にし、ファルシアスは脱力した。
例の如く、精霊達のしょんぼり具合に少しほだされたのだ。つくづく小動物系に弱い人間である。
「大丈夫だよ。ちょっと待ってね。」
自身に起きた前後の記憶を統合させつつ一言。
「取り敢えず。あなた達はもう少し限度を知ろうね。」
今後も共に過ごすのならば、これだけは言い含めておかなければならない。でなければこちらの身が持たないであろう。ファルシアスはそう強調したが、果たして精霊達がきちんと理解しているかは不明である。
==はーい!==
一斉に返されたお返事は大変よろしいものであったが。
さて、今回の事件を端的に表すならば、情報と言う名の爆弾投下。まさしくテロである。世界の始まりから現在までという途方もない長さの精霊達の記憶を、一気に流された事によるブラックアウトであった。
――ボクたちのことー。よーくわかったでしょー。――
わかったも何も、丸っきりまんまコピーを魂に焼き付けられたようなものである。
もはや突っ込んだら負けなような気すらしてきたファルシアスは、精神的疲労はあるものも、得るものも多かったと前向きに開き直った。
何せ、人間とは比べるまでもないぐらい長く存在する精霊達の記憶を貰ったのだ。情報量は凄まじいものがある。
その凄まじい量をくらったからこそ気絶したのだか、逆に良く気絶で済んだものだ。自身の、むしろ神子のスペックの高さには舌を巻いたファルシアスであった。
そもそも人間にとっての記憶とは、脳に焼き付けられ、関連付けられた情報を辿って再生される。
一方精霊とは、実体を持たない精神体であり、脳みそなど持っていない。ファルシアスが前世の記憶を魂に保持しているように、精霊達は自身の存在自体に記憶を保持している。
故に、ファルシアスが得た精霊達の記憶は、彼女の魂に焼き付けられたのだ。
また、この事と、得た情報量が凄まじく多かったことから、ファルシアスの魂は自身への負担を減らすために、あるシステムを構築させた。それは得た情報をカテゴリー毎に分類・収納し、単語から検索をするというものである。インターネットと辞典を掛け合わせたようなものとも言える。このシステムを無意識で構築できたのは、町田 結であった時の知識があってこそと言えるだろう。
はてさて、期せずして大量の知識を得ることができたファルシアスではあったが、だからといって勉強すべき事が減ったという訳ではない。
何故ならまず第一に、情報の元となった精霊が人間とは大分異なる感覚を持つ事である。
例えば、ファルシアスが今いるここエルヴィガルナで検索するとする。すると王都から始まり未開の地まで人やら建物やら生態やらなんやらと、かなりの件数の情報がある。だが、それらの情報は年月が曖昧なものが多く存在するのだ。
ぶっちゃけた話し、精霊にとって、昨日も百年前も大して変わりがなく、特に本人達にさほど重要でない事は、いつの事かなど正確に把握していないのだ。よって、上手に件数を絞らなければ、今使える情報かすらも危ういのである。
さらに第二に精霊達の主観が強く含まれているものが多い事も、参考にしにくい理由である。
先ほどのエルヴィガルナを検索した例であげるならば、水の精霊由来の知識は好きとか楽しいとか幸せとか、肯定的な情報が多いが、対極にある火の精霊由来の知識は、ちょっと寒い、つまんない、危ないとと言った否定的な情報も多々見られる。
そして最後に、実はこれがファルシアスが一番残念に思ったことでもあるのだが、精霊達は文字を知らなかったのである。
正確には、現在使用されている言語の文字を知らなかった訳で、今は大部分が失われて久しい古代神聖語は完璧に習得していた。
故に、ファルシアスも図らずとも習得してしまった形になるのだが、投影で十分満足のいく結果を出せる彼女としてみれば、出来れば一般語を習得したかったと嘆かずにはいられなかった。
もっとも、教会を筆頭に、古代神聖語の祝詞獲得に躍起になっている世界中の関係各所が聞けば、盛大に卒倒しかける嘆きなのだが。
「やっぱり自分で勉強するしかないか。」
自分の状況を確認し終わったファルシアスは、誰ともなしにポツリと呟いた。
それは所謂一人言のようなものであったが、幸か不幸か今ここにいるのはファルシアス一人だけではなかった。
――なになに~?べんきょーするのー?――
――ボクたちもーお手伝いできるー?――
――ばかだなー。ファルちゃんはー、もうボクたちがー知ってることはー知ってるよー。――
――お手伝いーできないのー?――
――えぇー。そんなー。――
――きっとー、考えればーなにかあるよー。――
ファルシアスを余所に突然やいのやいのと始まった精霊会議を見ながら、一人ごちる。
(う~ん。教本を待ってから勉強をするだけなんだけどな。)
特にお願いをした訳でもないのにファルシアスを手伝おうと頑張っている精霊達にほっこりしつつ見守る事にしたのであった。
これが二度目の失敗になるとも知らず。
まだまだファルシアスは精霊達に振り回されるのであった。
精霊会議が終わるのはまだもう少し先。




