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[21]世界丸ごと桃源郷計画[22]考える村は今桃源郷?[23]考える村の『考堂』とは

[21]世界まるごと桃源郷計画


前回僕自身の『桃源郷』のイメージを具現化したら・・・

というテーマで、「肥沃な田んぼに善良そうな農夫がいて、農耕用の牛に犂を引かせている」まで書いたところで、例の『ムカデ騒動』で中断していたもの。

桃源郷については、その続きは・・・

 不思議なことに、彼らには貧富の差はない。いろいろな職業は、なければ生活出来ないだろうから、勿論あるが職業の中心はあくまでも農業であり、農夫達の家庭が主役となる。

それからもうひとつ、これは大切なことだ。

中央政府は悪ではあるが、ここ『桃源郷』には殆ど役人の出入りがない。場所的に中央から遠く離れているせいか、或いは一見豊かには見えないためか、殆ど忘れられた存在である。だから重い地租や租庸調など無縁の地と言っていい。

最後に、これが最も大事なことだと思うのだが、みんなが仲がいいこと。『桃源郷』で喧嘩など見たことがないから、毎日が楽しい。みんなが牧歌的にゆったりと暮らしているからストレスが皆無であり、正に桃源郷だ。

これが僕が描く『桃源郷』のイメージである。

これは一体何なのか。これも僕の単なる想像だが、桃源郷に住むみんなが全員頭がいいということ、つまり桃源郷に古くから受け継がれるDNA遺伝子が大変良質だった。ここで良質という意味は、近代文明或いは技術革新などを達成する頭脳は勿論兼ね備えているのだが、それらを達成することの愚かさをも知っているということである。そこまで良質でないと『桃源郷』は築かれない。それに私利私欲なんてことは、彼らの手のひらの上の出来事。だから『桃源郷』なのである。もちろん中央政府から忘れられるというラッキーも不可欠のことではあるのだが。

まあ早い話が、地球上全域がくまなく『桃源郷』になればいい話なんだが、神はそこまでのDNA遺伝子を用意していなかったということかも知れない。

今の世界情勢を見ていると、『地球まるごと桃源郷構想』なんて夢のまた夢という気がする。

一寸話は逸れるが、こんどの東日本大震災とか、中東の民主化運動なんかを見ていると、『人間の絆』って、それがないときよりも強まるというか深まるというか、そんな気がしないだろうか。

このことをどのように解釈して、どのように利用していくのか、これからの人類に課せられた大きな課題の1つなのかも知れない。



[22]考える村は今桃源郷?


僕の中にある『桃源郷』のイメージについて、その村は決して近代文明のなか最先端の文明の利器に囲まれた豊かな場所ではない。中央政府の重税に苦しむようなことはないが、さほど富を蓄えることもなく、村民みんなが平民であり特権階級は存在しない。人類の過去の過ちは富を蓄えるところから始まったと言っていい。資本主義にしろ共産主義にしろ、どうしてもそれが利権や特権へと繋がっていくのだ。桃源郷を構築するには、そこら辺を理解し乗り越える能力を持つ必要がある。


ある日僕と妻は、考える村.考堂のレストランに昼食を食べに行った。レストランにはいつものとおり感じのいいおねえさんふたりが居て、お互い僻地の人里離れた処に居る者同士、レストランの事だの山荘の事だのと近況報告をしたりして情報交換に余念がない。特に女性達はそういう習性が強いと見えて、先程からは狸狐庵窯で焼き上がったコーヒーカップの品定めで持ちきりのようだ。僕は話の輪から外れたのを幸いに、トイレに行くからといって席を立ち、考堂内を散策することにした。考堂内を散策というとちょっと大袈裟だと思うかも知れないが、それがまた結構広くて、坂本龍馬や自由民権運動或いは土佐に関する色んな資料が展示してある考堂のエントランス部分は、やはり文字通り講堂を思わせる。その回りには寄り合いができるような20畳余りの畳の部屋があったり、押入の付いた6畳くらいの和室が4部屋も北側に並んでいて、全部で20人以上は宿泊できそうである。

子供がわくわくしながら廃屋や倉庫なんかを探検する時のように、僕は堂内の長い廊下をゆっくりと歩を進めていた。途中、地下に降りる薄暗い階段があったり、或いは二階に繋がる小さな階段なんかもあり、どこか大きな寺院の宿坊を巡っているような独特な趣を持った建物である。

聞くところに由ると、この建物は山本長水(やまもとちょうすい)という地元では著名な建築家の設計に依るということだった。建物のほぼ北正面にあるトイレにやっと辿り着く。つまり今日の僕は、レストランからトイレに行くのとは丁度逆方向から大回りしたことになる。ここも未だに簡易水洗式、つまりパッコントイレである。そして男子用トイレには小用として、子供でも困らないような縦長の下まであるタイプの白い便器が5つくらい並んでいた。

用を足そうとその前に立つと、便器の上に水の入ったペットボトルが置いてあって、『ご面倒ですが、使用後はこのペットボトルの水を流して下さい』とある。

「そうかー、汲み取りだから水洗みたいに水をジャンジャン流してたら、便槽がすぐ一杯になるのかー」などと独り言を云いながら事を始めた。

ところが、用を足す便器の中から大きな蚊、あまりに大き過ぎて見たことがないので判然とはしないのだが、多分蚊の一種、の集団が出てきて僕を取り囲み、恐らく10匹以上の数が、獲物を目の当たりにして、何処に止まろうかとブンブンやりだしたのである。

僕は彼らに刺されないよう、自分の体を揺すり、あるいはくねらせながらやっとのことで用を済ませると、急いでペットボトルの水をちょこちょこと流し、逃げるようにしてレストランの方に戻っていった。

僕がレストランのテーブルに着くとすぐに、妻が僕に言う。

「ねえねえ、またいい情報を聞いた」

「何々、今度はなに?」

妻の十八番(おはこ)を奪うセリフだった。

考える村ではサプライズの連続である。

僕のトイレでの体験談も出る幕がない。

「あのねえ、今小西さんから聞いた話やけどねえ、ここの水道の水ねえ、分厚い岩盤打ち抜いて、200㍍の地下から汲み上げてるんだって」

「そりゃあ、すごいねえ」

「それがねえ、頻繁に水質検査してるらしいんだけど、ミネラル分が豊富でねえ、スーパーで売ってる天然水なんかよりよっぽどミネラルが多いんだって。すごいと思わない?」

興奮気味に語る妻を見ていると、そのサプライズぶりがよく判る。

「それで、山荘の水道から出てるのもその水なの?」

「そうらしいの。それでねえ、その水を管理人の人がポリタンクに入れて安芸方面に売りに行ってるらしいの、週に一回くらい」

「へー、いいねえそりゃあ。すごい情報やん」

「まだオマケがあるの」

「何々、今度はなに?」

やったー!また言えたー、このセリフ!

「その水をお風呂に使うとねえ、お肌がツルツルなんやて」

「えー?、それじゃあ温泉みたいなもんやない。いいねえ、いいねえ。ここはいい話ばっかりやねえ。正に桃源郷やん」

「ほんまやー!」

『考える村』にはサプライズがよく似合う。



[23]考える村の考堂とは


『考える村は今桃源郷?』というテーマを掘り下げていくにあたり、先ずはそこに暮らす人々を知っておく必要がある。

考える村の中央には考堂という大きな建物があるが、昭和55年に先ずこれが最初に建ったようだ。ここは宿泊施設になっており、会社の新人研修などに使われている。

この建物内に喫茶兼軽食のコーナーがあり、この3月までは徳島出身の青年が一人で村内の山荘からここに勤務していた。ただ、男手一人では中々軽食までは手が回らず、一日に一人か二人くらい村に迷い込んで来たような人が施設に立ち寄れば、そんな客に一杯300円のコーヒーを出す程度だったらしい。要するに閑古鳥もいいとこの、なんでそんなことやってるの?と訊きたくなるような処だったのだ。ただ考堂からの眺望も抜群なんですがね。話に聞くところによると30過ぎの青年だったらしいが、それがもし僕の立場であれば世間から隔絶するとかあるいは世間から取り残されるといった不安は当然あるものの、人生のある時期そういう体験をして、この村のコンセプトである『自然のなかで人間の生き方を考える』を体現することによって向後の人生に役立てるというのも、一つの選択肢なのかもしれないとも思った。

僕は今年の6月頃この村の住人となったのだが、それと相前後してふたりの女性が考堂のレストランに着任した。

たまたま僕が考堂に行ったとき、考える村の事務局長の吉田さんからふたりを紹介され

「良さそうな人が来てくれるようになって良かったですねえ」

そう言った僕自身の言葉にどことなく違和感を感じて、勿論初対面だから彼女たちのことをよく知らないから「良さそうな人」になったわけだが、本人たちを前にして「良さそうな人」はないじゃないか、と自責したのをおぼえている。

どちらにしても、彼女たちのことをそこそこ知った今でも、やはり彼女たちはいい人だったわけで、何だかよくわからなくなったけれど、兎に角今度こそは本当に「いい人が来てくれて良かったですね」になったのだから、それでいいのだ!

今から思えば、彼女たちとの初対面のときに僕は、その外づらだけで彼女たちの中身までをも判断していたようであった。

そんなわけで考える村・考堂のレストランにいる女性二人は、双方甲乙付け難いなかなかの別嬪さんで、いい人なんですよ。

お後がよろしいようで。

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