表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

19話「己の契術」


 村から旅立ちから早3日。

 2回の夜が過ぎ、この異世界で3度目となる朝を迎えた。


 馬車は問題なく安全に進んでいる。

 レイネによれば、帝国まであと半日程度とのこと。

 地図もないのによくわかるものだと感心した。


「ほら、いつものパンよ」


「ありがとう」


 目が覚めてから数分後。

 焚き火の前に腰を下ろしていた俺に、レイネはパンを持ってきてくれた。

 

 俺とレイネにあった距離感の壁。

 それは段々と薄くなっていった。

 お互いの話し方も、多少の変化がある。


 ぎこちない言葉選びが消えたことだ。


「相変わらず、かったいな」


「食べれるだけマシでしょう」


 村から頂戴したパンをかじる。

 いや、かじるのではない。砕く。

 保存用だから仕方ないのだが、よく食べていたスーパーの菓子パンが恋しい。


「どう、契術は使えこなせそうかしら?」


「……わからないってことがわかったよ」


 俺は昨日の進捗を振り返る。

 

 契術を極めろ。

 レイネにそう言われたので、何度か試してみた。


 俺の契術の能力は偽装。

 頭に思い描いた人物を、そのまま自己へ投影する力。

 前にそう仮定した。

 

 偽装を使う際の手順は簡単だ。

 魔力を込め、「偽装」と声に出し、偽装したい対象の名称を後に続かせる。


 簡単なのだが……問題は細かい部分だ。

 

 まず、魔力を思うように引き出せない。

 魔力を込める。この工程がいまいち理解できなかった。

 魔力よ体に漲れ! と自分に念じても、アルタ戦の時のような感覚が訪れてくれないのだ。


 次に契術の発動条件について。

 俺は昨日、レイネの姿に偽装しようとした。

 だが、不発した。契術は反応を示さなかった。

 

 つまり、何でもかんでも偽装できるわけではない。

 俺が想定していたより、詳細な条件が設定されているらしい。

 

 もしくは……仮定した能力とはまた別の――

 

「少し席を外すわ」


「ん、どこ行くんだ?」


「燃えかすにされたいの?」


「なんで!?」


 レイネは俺を睨みつけて、茂みの奥へ歩いていった。


 朝から鋭いものをもらったな。

 安易に聞いちゃいけないことだったのか?

 もっと気をつける必要があるようだ。


「……まあとにかく、何事も試行錯誤あるのみだな」


 俺は立ち上がって、凝った体を伸ばしてほぐす。

 そして顔を両手でパチンと叩いた。


 魔神と戦うと決めたんだ。

 日和っているようじゃ、サクっと殺されるぞ。

 悪魔との物騒な契約だけが気がかりだが……。


「……この木の枝とか、焼き鳥になったりしないかな」


 足元に落ちていた枝を拾い上げる。

 手で待ち、まるで剣のように構えた。


「いや、カッコいい剣がいいか。切れ味があって、敵をバッタバタ倒せる剣――」


 脳裏にアルタの剣がよぎった。

 嫌なものを思い出した。あのギラリと光る刃。

 ……俺の体にトラウマ残してくれやがって。


「偽装、剣」


 頭に思い浮かべ、つぶやいてみる。

 黒い霧が出てきた。


「え」


 枝は霧に包み込まれる。

 再び姿を現した時には、俺が想像した剣になっていた。


「で、できた……」


 両手に重さが乗っかってくる。

 この柄、それに星形の紋様。

 間違いなくアルタが持っていた剣だった。


「うおおおおっ! 偽装できた、俺自身だけじゃなくて物にもできるんだ!」


 俺は剣を掲げて喜んだ。

 偽装だから、これも本物ではなく偽物なのだろう。

 それでも本物に見間違うほどの出来に見える。


 契術の一端をまた知れた。

 これは物に違う物を被せる能力なんだ。

 木の枝だろうと、こんな立派な剣に早変わり。


 俺を斬った剣とはいえ、見惚れるほど美しい造形だな。

 思わずポーズを取ってしまう。


「レイネにも、帰ってきたら見せてやろ」


 きっと驚くぞ。

 役に立てることも多いはずだ。


 ゲーマーとして、能力の新しい一端が垣間見えるとテンションが上がる。

 俺なりの戦闘スタイルを開発し、オーバーキャスターをもしもの手段として温存すればいい。

 そうすれば、魔力切れで体調不良にもならずに済む!

 

 これだ!

 やっと、曇雨晴が活躍できる!

 俺の中で小さな俺がガッツポーズをした。



 

 

「……遅い」


 俺は丸太に腰掛け、彼女を待っていた。

 30分は経過した気がする。

 さっきまでの興奮も冷めてきた。

 

「もしかして、何かあったとか?」


 この異世界だ。

 ありえない話じゃない。

 

 俺は腹を決めて、彼女を探しにいくことにした。

 早朝の肌寒さが木々の向こうから流れてくる。

 林を掻き分け、やがて空間が開けた。


「湖があったの、か――」


 広い湖があったとは知れず。

 水面が太陽光で輝き、小鳥のさえずりが鳴る中で。

 


 俺の視線は、湖のある一点に釘付けになった。



 燃える炎をおもわせる、鮮烈の赤。

 その絹のような細かな髪は、艶やかに濡れていた。


 背を向けた彼女のしなやかな曲線美。

 完璧なプロポーションと、白くなめらかな肌を湖の水面に映していた。

 優美な所作は、小さな波の揺れを起こさせる。

 

 俺の脳内は美のスタンにかかった。


 目線を離せるものか。

 マズイと考えたときには、もう遅い。

 

 そうして見惚れている間に、彼女がこっちへ振り返ってしまった。


 無防備で、ありのままのレイネ。

 彼女は俺を見て、目を見開いた。

 

「わ、悪気はない! 一切……断じて! レイネの帰りがあまりに遅いから、心配で、それで……」


 スタンが解けた第一声。

 咄嗟の言い訳を捲し立てることに。

 

 レイネは両手で、自分の体を無理やり隠した。

 下を俯き、掠れた声を発する。


「……いいから」


「へ?」


 レイネの顔は耳まで赤くなっていた。

 その羞恥の心境を一気に爆発させんと、


「いいから、はやくきえなさいよぉ――ッ!」


「は、はいぃぃっ!」


 彼女の怒声が、この清々しい朝に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ