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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣

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19話「カルヴェルム帝国」


 帝国壁門まで、まもなくの時。

 俺は徒歩で、レイネは馬車を動かしていた。

 

 遊園地の人気アトラクションのような長蛇の列。

 ここまで並ぶ事になるとは、夕方が近いからか?

 俺たちの他にも入国者は多いらしい。

 

 検問をしているところまで列が進んだ。

 その直前のことだった。


「……あの、落としましたよ」

 

 前に並んでいた商人らしき男に、俺は静かに話しかけた。

 彼が落とした一枚の板を拾い、それを手渡そうとする。


「ん? おお!? それは私の印章ではないか」


 髭を蓄えた、小太りの男だった。

 こっちを振り返って、すぐに笑顔になる。


「いやあ、君はいい男だなあ!」


「え?」


 彼は大口を開け、笑いながら俺の肩を叩いてきた。


「目の前に落ちた宝物を、素直に拾って返すとは!」


「普通のことじゃないですか……?」


 変な行動だったとは思わない。

 偶然、目の前で落とした物を拾っただけだ。

 盗むこともできたが、面倒な罪を作っても仕方ないだろう。


「その心、気に入ったよ。今度ウチのハルトライン商会に来るといい。少し贔屓してあげよう」


「はあ……」


「それでは、また会おう!」


 よくわからないが、気に入られたらしい。

 商人の男は、ガハガハと笑いながら去っていった。


「ハルトライン商会って?」


「世界屈指の商業組織ね。有名な商会よ」


 レイネは馬車の上から教えてくれた。

 世界屈指……彼の印章は確かにお宝か。


「機会があれば行ってみようかな」


「高いわよ」


「……それ以前に無一文でしたね」


 会話しているうちに、俺たちの足は止まった。

 やっと、帝国に入れる門まで辿り着いたのだ。


 改めて見ても、迫力がある大きな門だ。

 詰所があり、軍らしき兵士たちが立っている。

 ここで入国審査をするのだろう。


 さっきの商人の男がいた。

 1人の女性兵士と、短いやり取りを交わしている。

 兵士は頷き、微笑みを浮かべた。


「ようこそ帝国へ」


 兵士が歓迎すると、商人の男は門を潜っていった。

 アレを言わせれば、俺たちの勝ちとなる。


「次の方、前へお進みください」


 俺とレイネは頷き合い、足を進ませた。

 落ち着け、あくまで自然を装え。

 怪しまれれば、疑いは一気に加速してしまう。


「ここに訪れた目的と、通行税を」


「私たちはセレスの商人です。新しい商品を仕入れるため、どうか通していただきたい」


 レイネは冷静に、柔らかな表情で答えた。

 すると兵士は、ゆっくりと馬車に近づいていく。


「ふむ……そちらの袋の中身を確認しても?」


「えぇ、どうぞ」


 狼狽えることなく、レイネはそれを許可した。

 ここまでは想定内だ。

 

 中身のあるように見える、見せかけの袋。

 あらかじめ、俺が偽装しておいた物を詰め込んである。

 硬貨や香辛料、封筒やらを大量に生産しておいた。

 

 空っぽの中身を補うため、契術は惜しまない。

 特に体調も異常なかった。

 偽装する対象によって、負荷が違うのかもしれない。

 

 兵士は袋を確認する。

 ひと通り見て、馬車の荷台から離れた。


「それでは、印章はお持ちですか?」


 印章というのは、さっきの男に返した板か?


 まずい。想定外だ。

 レイネと兵士の間に、沈黙が数秒間流れる。


「……どうかしましたか?」


 商人を偽る以上、確認証は必須だった!

 懸念に入れなかったことを今更後悔する。


 どうすればいい、黙り続けるのは不味いぞ。

 俺は緊張で、ジャージのズボンを弄ってしまう。

 ふと、あるものが手に触れた。


「……偽装」

 

 もうこれしかない……!

 後ろを向き、誰にも気づかれない程度の小声で唱えた。

 

「印章は──」


「これで、いいですか?」


 訝しがる目の兵士に、俺は咄嗟に差し出した。


 商人が持っていた物と似た、一枚の板。

 その表面には、セレス商会らしき印章が刻まれている。


「拝見いたします」


 兵士はカードを受け取った。


 一瞬だけ見て記憶した、印章の形や文字列。

 それを元に偽装した、苦し紛れの一品だ。

 

 セレス商会の印章なんて知らない。

 ただ「それっぽい」というだけなんだ。

 イメージした文面と形が、そのまま投影されている。


「どうですかね……?」


 兵士はカードをじっと見た。

 彼女の審美眼、そして俺の偽装能力に賭ける……!

 

「──ようこそ帝国へ」


 勝った。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


 

 俺たちは清々しい顔で、帝国の門を潜った。


「まさか上手くいくとは」

 

「アメハル……いつの間にあれを?」


「あぁ。人を騙してホッとするのって、中々ないよ」


 偽装した印章をヒラヒラと見せつける。

 効果が切れたのか、印章は元のスマホに戻ってしまった。

 

 偽装は実に便利だ。

 口にすれさえすれば、どんなに小声でも発動できる。

 戦い以外でも俺の契術は、かなり使い勝手がいい。


 相変わらず魔力の感覚は掴めないが、些細なことだ。

 多く込める、少なく込める。意識することはそれだけ。

 そのうち、魔力を使いこなせればいい。

 

 とにかく、やり遂げた。

 今は達成感で溢れている。

 拳を振り上げたガッツポーズを取ってしまいたい。


「これで、本当の意味で帝国に到着、し……た……?」

 

 待ちに待った帝国の景色を、上機嫌で眺めようとした。


 ──アレが、目に入らなければ。

 

「は?」


 目を疑った。

 無意識に足も止まり、一点を凝視してしまう。


 帝国兵が利用している門の詰め所。

 そこには掲示板のようなものも建てられていた。

 多くの張り紙が載せられている。


 その中に、一際目立つ張り紙があった。

 最近貼られたのか、新しい質でできている。


「どうしたの?」


 俺は掲示板へ歩いていった。

 目を擦って、改めて見てみる。

 どうやら、幻覚じゃないらしい。

 

 紙に描かれた人物の顔。

 明らかに……見覚えがあった。


「──オーバーキャスター?」


 そう、俺だ。

 

 いや、正確には白い彼の方だ。

 真剣な面持ちの似顔絵が、なぜか紙媒体にされていた。


「ちょ、は!? なんでアイツがここに飾られてんの!?」


 掲示板をバンッと叩いてしまう。

 異世界で二次元化されるやつがあるか!

 

 紙に書かれた異世界語は読めない。

 読めないが……刺々しい字面な気がする。

 この構成と色、まるで指名手配書みたいな──

 

「……フェイルノートね。根回しされたんだわ」


 馬車から降りたレイネが、張り紙を見て眉をひそめた。


「これ、なんて書いてあるんだ」


 荒々しい文面に指を差した。

 似顔絵の下に書かれているそれを、レイネが読み上げる。


「『本人物は極めて危険かつ凶暴。己の容姿と力を誇示するため、理由なき殺傷を行う外道である』」


「げ、外道!?」


 さっそく、身に覚えのない罪状を言い渡された。

 容姿と力を誇示? 理由なき殺傷?


「『その行動は各国の秩序を著しく乱すものと判断され、本日付をもって大陸共通の要注意人物として登録された』」


 各国って、他の国にもこの紙があるのか?

 ほ、本当に指名手配されているって?


「『よって、当該人物を発見した場合は、不用意に接触することなく、直ちに最寄りの衛兵詰所または領主に通報せよ。なお生死は問わず、本人物を確保した者には、各国連名により多額の報奨金と、相応の爵位または恩赦を与えるものとする』──」


 レイネの長い読み上げは終わった。


 なんという、鮮やかな理不尽コンボ。

 アウトラインはとうに超えている。

 オーバーキャスターの、不当な犯罪者扱い。


「お、おかしいだろ! なんだよこれ!」


「迂闊に変身すると、通報されかねないわね」


 オーバーキャスターは最後の手段だった。

 アイツになると体調が悪くなるし、俺という存在も薄れる。

 異世界に来てからは、変に毛嫌いしてしまっていた。


 だから、いざという時の切り札にしていた。

 でも使うと、通報されて面倒になるらしい。

 

「なんでこんなことを……」


 フェイルノートの策略と、レイネは言った。

 追手が来なかったのは、指名手配をしたから?

 自分の国以外にも、こんな手回しができるなんて、

 

「──悪い知らせは、他にもあるわ」


 突然、レイネが険しい顔でそう告げた。

 彼女の頬に、一滴の汗粒が流れる。


「え、なんだよ……」


 恐る恐る聞いてみる。

 息を呑むと、答えはすぐに返ってきた。

 

「この国のどこかに──魔神がいる」


 これがカルヴェルム帝国での、戦いの幕開けとなった。

 


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― 新着の感想 ―
 早いうちから窮地に陥るので展開が早く、ストーリー的な意味で読みやすく思えました。今回たくさん読んだ小説の中ではかなり文章としても読みやすかったので正直たすかりました〜この後はゆっくり読み進めますね
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