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12話「束の間」


 6畳ほどの広さ。

 木製のシングルベッドと、小さな机と椅子がある。

 意外にも窮屈ではなかった。

 簡素で必要最低限といったところだ。


「きたわね」


 先にいたレイネに出迎えられた。

 彼女はベッドの上に腰を下ろしいる。

 そして部屋に入ってきた俺を、凝視してきた。


「ようやく、落ち着いて話せるな」

 

 俺は備え付けてある机へ向かい、椅子に腰掛けた。

 彼女の隣に座る度胸はない。


「じゃあ改めて……君が何者なのか聞かせてほしい」


「いいわ。

 アメハルは人畜無害みたいだしね、教えましょう」


 どういう評価に落ち着いたんだ?

 でも、信用してくれてなによりだ。


 レイネは一呼吸して、話し始める。


「私は、この世を荒らす悪――魔神を殺すために旅をしているの」


 彼女の目的がそれか。

 度々出てくる、“魔神”という存在。

 それを倒す旅ねぇ……。


「そもそも、魔神って?」


「100年前、勇者に退治された魔王と入れ替わるように、奴らは現れた。

 そして、多くの国を壊滅に追いやった」


 それが魔神。

 まるで漫画みたいだ。

 でも、実際にあったであろうお伽話らしい。

 

 魔王を倒したと思ったら、次は魔神です。

 ……なんて、たまったもんじゃないな。


「当時の勇者が戦って、なんとか相討ちまで持っていったらしいわ。

 けれど、魔神の存在は世界各地で確認されている」


「それが、あのフェイルノートだったと」


「魔王に引けを取るどころか、はるかに超えた力を持った巨悪の怪物……それが魔神よ」


 噛み砕いて、要約しよう。

 とんでもなくヤバい奴ってことか。

 レイネはそれを相手に、戦うと言った。


「聞いただけでかないっこないって感じだけど、どうして――」


「私の兄は魔神に殺された」


 なぜ魔神を倒したいのか。

 そう聞く前に、レイネは言った。


「だから殺し返す。兄の仇を取る。

 シンプルだけど、これが私の強い原動力なの」


 それは至極当然で、真っ当。

 正義のためではない。

 あくまで私欲。


 レイネの瞳を見た。

 そこには、憎悪のような感情が含まれている気がした。


「あー……そうなんだ」

 

 俺は反応に困って、素っ気ない返しをしてしまった。

 

 復讐のため、か。

 家族を失う辛さは理解できる。


 他人に奪われたのならなおのこと。

 一生消えない傷をつけられた。

 であれば、その怒りを捨てることは不可能だろう。


「長く旅をしてきてようやく、魔神の1体がアスタフィア王国にいることを突き止めることができた」


 レイネは俯き、声のトーンが下がった。


 ……魔神の1体?


「ちょっと待ってくれ。魔神って、フェイルノートだけじゃないのか?」


「そうよ、全部で3体いるらしいわ」


 その事実が驚きだ。

 フェイルノートの他にあと2体?

 

「なのに……魔神と戦うどころか、眷属に遅れをとるなんて笑い話ね」


 レイネは渇いた笑いをこぼす。

 彼女は自分の短剣を、強く握りしめていた。


 眷属っていうのは、アルタのことか?

 恐ろしいほど強かった。

 それでいて容赦がなかった。


 フェイルノートを打倒する前の問題だ。

 あのアルタよりも魔神が強いことになる。

 おまけに国そのものが操られている、と。

 

 それをレイネ1人だけで、成そうとしていたとは。

 まさに鬼畜難易度じゃないか。


「でも、俺を助けてくれた。おかげでこうして生きてる」


「ただの、なりゆきよ……」


 謙遜できたんだ。

 そんな言葉が頭に浮かんだが、言わなかった。

 強気な彼女が、弱気になっていたから。


 俺に、できることはないか?

 恩返しというやつをしたい。

 レイネが可哀想に見えて、何か言葉をかけてあげたかった。


『すべての魔神殺し』


 誰かが、そう呟いたのを思い出した。

 気づけば口は、自動的に開いている。


 待て。

 気軽に言っていいのか?


「大丈夫。これからは俺も手伝うつもりだ、だからなんとかなるって」


 言ってしまった。

 楽観的で、馬鹿っぽい。

 お人好しにも似つかない無責任なセリフを。


「いいじゃん魔神討伐。魔王退治よりもすごい感じがしてさ!」


「……え?」


 そうだ。

 今ここには俺がいる。


 慰めになるかはわからない。

 目的は一緒なんだ。

 協力すれば、突破口は見えるはず。


「どうして、まだ手伝ってほしいなんてお願いは……」


「ん? あれ、なんでだっけ?」


 魔神を倒さなきゃいけない。

 そんな気がする。

 疑問に思う前に口が動いていた。


 善意?

 それとも、雪辱を晴らしたいから?


「まあいいか。とにかくもう休もう、体がクタクタでしょうがないんだ」


「そう、ね。ますますアメハルのことがわからなくなったけれど」


 俺たちは一旦切り上げた。

 疲れた体を癒す方向にシフトする。


 しかし、ベッドが一つしかないということは。

 やはり一緒に寝るほかないのでは――


「あ、そうだ。受付のおじさんからリラックスできるものもらったんだよ。つけてもいい?」


「リラックスできるもの?」


 俺はさっきもらった包み紙を、ポケットから手のひらに出す。


「それは……」

 

 思ったよりも、紐は硬く結ばれてなかった。

 するりと引っ張る。

 俺は中身を見るために、封を解こうとした。


「火の魔法って使える? ぜひご教授――」


「ダメ、捨ててッ!」


 なぜかレイネがベッドから飛び出した。

 必死に手を伸ばし、焦った顔をしていた。

 彼女の声が、異様にスローに聞こえる。


「はい?」

 

 熱い。

 手のひらでジリジリとした痛みが走る。

 熱々のやかんを、直に触ってしまった時のような。


 何事だ。

 俺は下に目線を落とす。

 赤と黄色の光が、飛び込んできた。


 瞬間。



 目の前が爆ぜた。



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