Refuse to fail 6
俺の視界に広がっているのはあの頃の三中サッカー部の部室だ。
何の変哲もないホワイトボードと磁石で作られた、戦術やフォーメーションを確かめるための作戦ボード。どこのホームセンターでも売ってそうな赤いカラーコーン。そして白と黒の六角形を組み合わせた模様のサッカーボール。
どこのサッカー部でも同じような光景が広がっていてもおかしくはない。
だが、ホワイトボードに貼られた磁石に俺やセミの名前、そしてあの頃のチームメイトの名前が書かれてあったことに気付いた俺は、ここがあの頃の三中サッカー部の部室だと確信した。
もっと詳しく言えば、このメンバーでこの配置は......
「おーい未場ー。早く戻ってきてくれー。お前がいないと奇数になるからセミが余る」
「なんで俺が余るって決まってるんすか!?」
俺を呼ぶコーチの声、そして決まって余りものにされるセミの声。
毎日のようにセミの相手として呼ばれていた日常を思い出す。あれから1年近く経っていたのにも関わらず、俺は反射的に部室を出てグラウンドで待つセミのもとへと走った。
グラウンドのサッカーコートへと走ると、案の定コーチとセミが既に練習を始めている集団から少し離れた場所に立っていた。
「よし来たな。それじゃ未場、後は頼んだぞ。俺はシュート練の道具取ってくるから」
入れ替わるようにコーチは俺に言い残して部室の方へと歩いて行った。
声が届かないくらいのところまでコーチが離れたのを振り向いて確認して、セミに話しかけようと前を向き直すと、セミは少し離れたところから俺に向かってボールを蹴ってきた。
「ッおい!? 何してんだお前!」
間一髪のところでそのボールを胸でトラップし、宙につく前に蹴り返し怒鳴る。
「ッうお!? なんで初っ端から浮き球で返してくるんだよ!」
胸トラップに失敗したセミは足元に落ちたボールを拾いながら怒鳴り返してくる。
「なんでじゃねえよ! なに平気な顔してサッカーの練習してんだ!」
さらに俺が怒鳴り返すと、セミはハッとした顔でこっちを見てきた。
「あっそういえばなんで俺たちここにいるんだ? さっき俺保健室で砂時計を取って未場のとこに戻ってて......あれ? その後どうしたんだっけ?」
「お前がコケて砂時計が割れた。そのあと気付いたらここにいたんだろ」
大事なところを忘れているセミの記憶の補完をしながら意識が消える直前の光景を振り返る。すると、セミは理解したかのような本当は何も理解してない顔で少し頷きながらそうだそうだと呟く。
「お前どのタイミングからここにいる? 俺はコーチの呼ばれる直前から意識があるんだけど」
こいつが砂時計を割ったかどうか覚えていなくても俺が覚えていればいいので、話を進めて尋ねる。
「俺が気付いた時にはコーチが『次ペア練だから誰かと組め―』って言ってたな」
コーチが俺を呼んだ時の会話から察すると、意識が戻ったのは俺と同時くらいだろう。タイミングにズレが無かったことを確認すると、俺はセミを連れてサッカーコートの練習してる集団がいない方のコートに移動した。
「セミ、この状況どう思う?」
誰にも聞こえない位置まで離れたのを確認して、弱めのパスをしながら俺はセミに話し掛ける。
「今部活中だな」
「そんなのは一目瞭然だろ!」
真面目な話をしようと思っていたところに帰ってきたアホ回答に反射的に怒鳴る。
「今三中サッカー部の部活中で、俺たち三年生最後の大会の二日前ってことはもうわかってんだよ! そうじゃなくてこの状況ってのは、なんでさっきまで夜の学校にいた俺らがここにいるのかって話だよ!」
「未場よく今が大会の二日前だって分かったな。俺なんて今言われて三年生ってことに気が付いたぞ」
「それぐらい他の奴の顔見て気付けよ......後輩と同級生しかいないだろ。あと、さっき部室の作戦ボードのフォーメーションがあの大会の初戦のやつになってたから大会の二日前ってのは間違いない」
俺が詳しく説明すると、セミはすげえなと言いながら感心して頭を大きく上下する。
作戦ボードを見て俺が今この状況がいつ頃なのか分かったのは不思議な事じゃない。俺は気付かなければならない立場なのだ。
だって俺がずっと戦術を考えてきたから。
俺一人でずっと。
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