現場の状況と犯人の特定
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生徒会室には、生徒会のメンバーは当然として、事故後の教室に立ち入った三人の教師もいる――はず。
両目を包帯で塞がれている私は生徒会室に入るなりソファに座らされ、隣に連れて来てくれたゼリニカが座る。
「やあ、アレイヤ嬢。生徒会室へようこそ」
場の空気を支配したのはやはりというか、レオニールだった。
会長ではなく副会長が、という気持ちもなくはないが、王族はそれだけでどこでもトップなのだ。
座ってしまっているが、深く頭を下げる。
初めて入った場所なのに見えないのが残念で仕方ない。
「アレイヤ嬢が魔力暴走を起こした一件について、結果が出たので報告させてほしい」
そういうことになっているのか。と何も聞かされないまま連れて来られた私はレオニールの言葉に聞き入る。
「魔力暴走はクロード・ランドシュニー先生が犯人だと学校側が」
女性の凛とした声がレオニールに意見する。声が若いので生徒会の誰かだろう。
「うん。それは学校側が調査に入った者の意見を曲解した結論だ。実際に調査した我々ならおかしいことに気付く。そう。真っ先に疑われると分かっていてなぜ実行したのかの説明ができないんだ」
「では、アレイヤ・ノルマンド嬢はまだご自身の魔力を制御できていないということになるのですかね?」
次は男の声が意見する。こちらも若いので生徒会の誰かか。
「強力な光魔法を制御できないというのは問題ではありません? 学校に置いておいて大丈夫なのでしょうか?」と最初の女性の声。
「結論を決めつけるのは良くないよ、サンドラ嬢。もしまだ魔力を制御できていないのだとするなら、どうして彼女はそう発言していないのだろう。それは、彼女自身がすでに制御できているという自信を持っているからだ。そうだろう、アレイヤ嬢?」
レオニールの声が私に向けられる。
私は頷いた。
「もちろんです。そのために光魔法をご存じのクロード先生が私に付いてくれているのですから」
「うん。他の先生方からアレイヤ嬢は魔力を制御できないほど持て余してはいないとの証言も取れている。では、なぜ今回の事故が起きたのか……」
途中で区切ったかと思えば、廊下から一つの足音が聞こえた。場にいる全員の視線が動くのが気配で分かった。
「遅れてしまいましたか」
「いや、丁度よかったよ、ノーマン」
やって来たのはノーマンで、恐らく前に私が頼んだ結果を伝えに来てくれたのだろう。その内容はすでにレオニールにも知らされていたらしい。
「結論から申し上げます。事故直前に例の教室を使っており、事故後に教室に入った人物は四名。会長のサンドラ・トラント様、会計のニカ・ドレイル嬢、庶務のロナルド・ウェッジ様、備品管理責任者のラッセル・ドーム先生です」
「待って! まさか、事故ではなく、その中に犯人がいるとでも言うのですか⁉」
「落ち着いて、ニカ嬢。……アレイヤ嬢。すまないが、僕らにできるのはここまでだ。これ以上は」
「十分です、殿下」
容疑者が四人にまで絞り込めた。
なら後は、たった一つだけ分かれば特定できるはずだ。
「一つ、教えていただきたいことがあります」
「なんだい?」
「事故後、調査に入った時の状況です。生徒会の皆様と三名の先生方が入られたとお伺いしましたが……」
「入った順番かい? それなら」
「いえ、中に入った後の皆様がどういった場所をお調べになっていたのかをお願いします」
「どこを調べていたか……?」
意味が分からないといった声を出すレオニール。小さく息を呑む音が聞こえたが、それは意図を見抜いたノーマンのものだ。
生徒会室にいるのは事故の調査で教室に入っていた八名全員が揃っていたのだと、この時になってようやく私にも理解できた。
見えないんだから、音を出してもらわないと困りますよね。
全員が当時の記憶を掘り起こす中でたった一人だけ声を上げない人物がいることに、私は気付いていた。
「さすがアレイヤ嬢だね。たったこれだけで、犯人を突き止めてしまうなんて」
「よく練られた行動だったとは思いますが、魔力暴走に見せかけるために用いた道具の回収は必ずしなければなりませんから」
だから、当事者たちの視界を奪う必要があった。そのための光属性は都合が良すぎた。
足元に仕掛けられた物を見られたら、魔力暴走事故にならない。
「道具とは何でしょうか、殿下?」
大人の声がレオニールに尋ねる。答えたのはノーマンだった。レオニールが促したのか。
「プリズムです。光を乱反射する元の特性からさらに、受けた光を増幅させる魔法付与がなされていることも分かりました」
「そんな代物が⁉」
教師陣――学校側がプリズムの存在を知らないのも無理はない。事故後の調査で犯人によって回収されてしまってはないも同然となる。
私の魔力が強すぎて破裂したのが少しだけ申し訳ない。そのせいで、犯人を絞り込む方法が分かってしまったのだから。
「さて、まとめようか。まだアレイヤ嬢は目が見えていないし、父である国王陛下にも報告に行かなければならないし。ノーマン」
「はい、レオニール殿下。ご同行願えますか――サンドラ・トラント侯爵令嬢?」
私に最初に魔力暴走をする危険人物という印象を付けようとした人物で、先ほどの調査の立ち位置の再現では一言も話さなかったのは、新しく生徒会長になったばかりのサンドラだった。
問題は、動機だ。
私は生徒会長を直接顔を合わせたことなんてない。恨みを買った覚えもない。
ではなぜ、狙われたのだろうか。
「お待ちください、レオニール殿下! 捕まる前に私から進言申し上げます! その方との付き合い方を見直してくださいませ! その方は子爵家のご令嬢、貴族と言えども王族ともあろうお方が親しくしていいとは思いません! ご婚約者様のこともお考えくださいませ! さらに、子爵家には養子として入られており、元は庶民の生まれでございます! 王族であることをご自覚くださいますよう、お願い申し上げます!」
どうか、どうかと悲痛な声で叫ぶサンドラ。
なるほど、動機はレオニールが私を気に入っていることのようだ。
元庶民が王族――王太子と仲を深めていると誤解したらしい。
「……ふふ」
一瞬、沈黙が場を満たしたかと思えば、一人の小さな笑い声で弛緩した。
次いで隣からも上品な笑い声が上がる。
「貴族至上主義――とでも申しましょうか。とても理想が高い方のようですわね、殿下?」
「ああ。王族としてはね、確かにそういう思想や付き合いも大事なんだけどね。……いや、ふふ。本当に面白いことを言うね、会長?」
「れ、レオニール殿下……? ゼリニカ様……?」
二人が笑う理由は、私は知っていた。
――誰も事実を確認しようとしないのよ。私が公爵家の令嬢だから。
サンドラは、ゼリニカの言った噂だけを話す他の生徒たちと同じだ。
生徒会室に来る前に、ゼリニカが話してくれた。
――レオニール殿下と私は同じ興味をあなたに持っていますのよ。それが失礼であると分かっていながらも……ね。
――自身の危機を自身の手で解決しようとしている姿勢ですわ。
「知りもしないで肩書きだけで人を見るのは良くないね」
「ええ、隣の校舎に通う方々だって、私たちと同じ学園の生徒たちであり、あなたはその人たちの生徒会長でもあるというのに」
一体何を見て過ごしていたのやら。
王太子と筆頭公爵家の令嬢は、そう言ってサンドラの発言を退けた。
私はただ、見た目が庶民っぽいのは仕方ないよなぁ。前世から庶民だし、滲み出ているんだろうなぁ。としか考えていなかった。
「アルフォン様はっ! 分かってくださったわ!!」
サンドラの叫び声と共に、手の甲に痛みが走った。両手で触ってみればぬるりとした感触。
痛みの直前に風が吹いた気がしたから、恐らく魔法を使われている。
光魔法は魔法反射を得意とする人が多く、私も恩師のおかげで得意としている。だが、ここで発動すればレオニールやゼリニカが被害に遭いかねない。
他の魔法を使おうにも対象が見えていなければ危険すぎて使えない。




