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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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追試、そして引っ越し

 翌週の木曜日。試験の結果が帰ってきた。


 その頃には大半の候補生たちが授業に復帰していて、運営陣がそろそろ全体連絡をしても問題無いと判断した。


 そう。

 そんな判断がされるまで各班の試験が長引いたのだ。


「今回の試験内容は一部の上層部が強行したことにより多くの脱落者を出した」


 多くの、と言うよりは大半のと言った方が正しいだろう。

 一週間以内に戻ってこれらのはたったの一六班。

 指定期間は過ぎたが最後まで自力で戻ってこられた班が一八。

 リタイアした班が一八。


 幸い死者は出ていないようだが実に三分の一の班が脱落し学校史上最悪の結果となった。


「よって来週、追試を執り行うことになった」

「隊長。クリアできた班の評価はどうなるんですか?」


 本試をクリアした者と追試をクリアした者の評価が一緒というのはダメだろう。

 ラヴたち含めクリアした班は雪中行軍ということで一週間前から訓練をしていた。


 最初はラヴたちだけだったのに、二日三日続ける内にラヴたち以外にも王都周辺で雪中行軍の練習をする班も増えていた。

 ラヴ調べではその時軽く会話した班はだいたい期限内に試験を達成し、そうでなくても自力で帰還していたのだ。


 できなかった班は試験が中止になると見込んで何もしなかった班ばかりで、その者らが追試して好成績を取ったとしても同じ評価というのは努力した者が報われない。


「今回期間内にクリアできた者は最高評価となる」


 追試の対象は期間内にクリアできなかった班たちで、最高評価は取れないもののそれ以降の評価が付けられるらしい。


「まー、それなら?」

「てコトわ、一組全員最高評価ってコトね」


 一組メンバーはあまり他クラスの評価に頓着していない。

 もちろん自分が抜かされていたら悔しいが、それ以前にもっと自分を磨きたい、もっと好い成績を修めたいといった願いの方が強いのだ。


 魔王に褒賞を与えられたからだろうか、それとも五人組の影響を受けたからだろうか。

 学年の頂点集団――一組の、さらに頂点を独占する五人組にすら挑戦し続ける者たちだ。相対的な評価なんて意味はなく、絶対的な評価でしか満足しない。


「連絡事項は以上だ。お前らは他の班が追試を行っている間は暇になるわけだが、その内に更なる自己研鑽に励むように」

「はい!」


 そうしてノーマンが教室を出る。


 彼の姿が見えなくなると、ざわっと教室が騒然とする。

 試験結果への安堵、追試への興味などなど。


「どう言う試験内容なんだろうね」

「一週間かかると言うことは再び行軍演習なのでしょうけれど」


 情報の漏洩を恐れてか、ラヴたちにも試験に関する情報は伝わっていない。

 尤も教えられたところでどんな内容であれ反対するつもりもないが、知っておきたいという気持ちはある。


「それよりさ! 引っ越しいつやるの?」

「そうですわよ!」


 そう。

 今のラヴたちには他クラスの追試よりも重要な内容があるのだ。


 それは引っ越し。

 ラヴの要望を聞き届けたヨハネスはさっそく一〇一班の四人に期日までに私物を纏めて旧舎へ移すようにと指令を下した。


 それからというもの、カティとマリーはまさに有頂天といった雰囲気で今か今かと待ち望んでいるのだ。


「それじゃあ、今からやろっか」

「おっけー!」


 そうしてカティの部屋にお邪魔するラヴ。

 何気に寮に訪れるのも初めてだったラヴはどこか新鮮な気持ちで辺りを見回す。


 ――え、すごい綺麗なんだけど……。


 廊下は軋まないし夜でも肉眼で足元が見えるくらい明るい。

 床には埃一つなく、まるで宮廷にでも住んでいるかのようだった。


「ここがアタシたちのお部屋」

「お邪魔しま――」

「あーっ! ちょっと待って!」


 ラヴが部屋に入ろうとすると、勢いよく扉が閉って危うく手を挟みかける。

 なんて危ないことをするんだと驚愕を通り越して恐怖するが、どうやらカティはそれに気付かないほど焦っているようだ。


 彼女から伝わってくる感情は羞恥と焦燥。

 その気分に当てられて、すっかり怒る気も失せたラヴは念話によって会話する。


『カティ、どうしたの?』


 ぴゃっと短い悲鳴が部屋から聞こえ、ガラガラと何かが崩れる音がする。


『お部屋片付けるから五分だけ待って!』

『お部屋片付けるために呼ばれたんじゃないの?』

『そーだけどそーじゃないの!』


 共同生活なのだからそんなに汚くなることはないだろう。

 それともカティ含めこの部屋の住人たちは皆だらしないのだろうか。


 カティが中で何を隠しているのか考えること早五分。

 ようやく静かになったと思ったらカチャリと扉が開けられて、中から息を切らしたカティが顔を出す。


「お、おまたせーラヴっちー」

「お疲れ様。入って良い?」

「い、いいよー」


 部屋に入るとカティが普段から使っている香水が微かに鼻をくすぐり、本当に普段カティが生活している部屋なのだと実感する。


「カティに包まれているみたいで素敵」

「ラヴっちーっ!!!」


 顔を真っ赤にして蹲るカティ。

 そういう純情なところがカティの可愛いところなのだ。


「さっさと引っ越し作業進めちゃお?」

「……うん」


 しかしカティの部屋を見て改めて思う。

 テディベアを始めとし、他にも兎や犬、イルカたちをデフォルメした人形がベッドの上に所狭しと置かれていた。


「カティ、お人形好きなの?」

「う、うん……こんな歳になって、変だよね」

「ううん。可愛いよ。カティ」

「……もう」


 何を言っても褒め殺しされて、一向に作業が進まないカティ。

 何せ箱詰するたびに「可愛い」とか「センス良いね」とか「カティの着ているところ見てみたい」とか言いながら箱の中にしまうのだ。


 その呟きは後ろで作業しているカティに聞こえないはずもなく終始顔が紅潮しながらの作業となっていった。


「よし、箱詰終わり」

「んじゃ、あとは運ぶだけだね」

「クローゼットはローラを呼ぼうね」


 浮遊魔法で木箱を浮かせて旧舎に戻る。


 重い物を運ぶ作業はローラに一日の長がある。

 念話でローラを呼び出して、何とかその日のうちに全員の移住作業を終わらせた。



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