決闘、そして申し込み
追試期間中、日雇いの依頼を粛々と熟していたラヴは今日も依頼を探しに掲示板の前でたむろしていた。
「雪かき多いねぇ」
「仕方ない」
隣にはローラ。
他三人は職員室に用があるらしく、良さげな依頼を見つけて食堂で合流することになっていた。
「どの雪かきが良いかな?」
「最近はどれも変わんない」
のんびり依頼掲示板を眺めているが、いつまで眺めていても依頼内容は変わらない。
そろそろどれか一つに決めて食堂へ行かないとと思いつつも、未だに二人は決めあぐねていた。
「ラヴ……さん!」
「え、はい」
そんなとき、聞き覚えのない声がラヴの名を呼ぶ。
振り向くと、そこには小さな少女が仁王立ちをしていた。
見たことのない人だ。
この時期にここにいると言うことは追試を免除されたと言うこと。つまりあの吹雪の中を突破した猛者だと言うことだ。
「知り合い?」
ローラが訝しげにラヴを見るが、ラヴには何も心当たりがない。
「いや、えぇと……失礼ですがどこかでお会いしましたか?」
「初対面よ!」
初対面らしい。
失礼にならずに済んだものの、今度は何用か分からない。
雰囲気的に頼み事や相談の類いではないだろう。
今にも襲いかかってきそうなほど強く睨まれ、何やらただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「ご存知のようですが、私は一組のラヴと申します。お名前を伺っても?」
「お……」
「お?」
ふるふると両手を小刻みに震えさせ、目尻には涙が浮かんでいる。
「お前なんかに名乗る名前はないわ!!」
「えぇー」
くわっと目を見開いて白い布を投げつける。
その布は放物線を描いて宙を舞い、ラヴの胸元へぽふっと当たった。
「……くれるの?」
「あげるかぁ!!」
泣いているのか怒っているのかわからない表情でラヴを睨みつけて威嚇する少女。
伝わってくる情報も同じく恐怖と憎悪が入り交じった感情だ。
この子に何かしたっけと過去の自分の行いを思い出すも、今回ばかりは本当に心当たりがない。
しかし、そうしてラヴが戸惑っている間にも少女はどんどん話を進めていった。
「場所は第二運動場! 時間は明日の正子! 逃げるんじゃないわよ!」
「え、うん? 逃げる?」
「じゃあそういうことでー!!」
声をかける前に脱兎のごとく走り去ってしまった少女。
一体何が起こったのか当事者のラヴですら何も分からず、ただ走り去る彼女を見送ることしかできなかった。
◆
ひとまずは食堂へ移動するラヴとローラ。
そこには既に自分の飲み物を手に取って席取りをしている三人がいた。
「お、来た来た。こっちこっちー」
「もう。遅いですわよ」
「ラヴっち、ローちん。お疲れさまー」
三者三様に出迎えて、早速依頼の話をする。
しかし結局のところは雪かきだ。
ただ今回は、目先の利益ではなく慈善活動も兼ねて老朽化が進んでいる乳児院の雪かきをすることになった。
「ところで、さっき女の子から片方だけ手袋貰ったんだけど」
「へー、ペアルック?」
「ううん。白い無地の手袋」
「……白無地ですって?」
マリーが眉間にしわを寄せて聞き返す。
「ラヴ。もしかして投げつけられたり場所と日時を言われたりしませんでした?」
「おー、良く分かったねぇ」
「ラヴっち……それ決闘の申し込みじゃん」
決闘。
それはお互いのなんか譲れないところをかけて何かするやつ。
ラヴの認識は、そんなふわっとしたものだ。
しかしそれに反してマリーとカティの表情は強ばっていき、それが現状の深刻さを強く物語る。
「なんかマズった?」
「そーゆートコも好きだけどぉ……」
「もっと慎重になってくださいまし」
そうは言われても知らない慣習が蔓延る別世界で注意したところで、やらかす時はやらかすのだ。
しかし決闘とは何をするのだろう。
生前のころは男子が教室の隅で「デュエル!」と高らかに宣言しながらカードゲームをやっていたりしていたが、そういうものだろうか。
大富豪やババ抜きは二人でやるようなゲームではないが、スピードなら動体視力で勝てる自身がある。
「決闘って何やるの?」
「何って、そりゃあ勝負だよ」
「勝負って?」
「どっちが強いか勝負するんでしょ」
「え、危ないことするの?」
「え?」
何を言っているのだと言われているような視線を送られるラヴ。
まさか本当に危ないことをするなんて思うはずがないだろう。
こちらから危害を加えることを禁じられているのに向こうから仕掛けてくるとは思わなかった。
この場合決闘の申し込みを受けたら怒られるのだろうか。
「隊長に報告した方が良いかなぁ」
「でしょうね」
「でも今試験期間中だから……」
「あ、そっか」
試験期間中は職員室には入れない。
さらにノーマンは実力も相当なため万が一の捜索隊に選ばれている可能性があり、試験期間中は職員室の一角でずっと待機している状態らしい。
ここ一週間は自習だと伝えられているので試験が終わるまでは会えないかもしれない。
――まあ、正当防衛だよね。
殺すつもりはない。
相手をよく知らないのに殺すのは良くないとこの世界に来てから学んだから。
傷付けるつもりもない。
候補生に手を出したら保護者たちから折檻されるから。
しかし相手がパーティーメンバー並みの力を持っていたらどうしよう。
もし相応の力があるのなら無傷で捉えることはできないかもしれないし、こちらが傷付くことだってあるかもしれない。
「しかしお相手も古風なことをしますわね」
コーヒーをかき混ぜながらそんなことを呟くマリー。
一昔前、腕っ節が強い魔人は個人的な諍いを決闘で決めていたらしく、今よりも盛んに決闘が行われていたらしい。
今では裁判が身近な物になったので決闘はあまり行われなくなったものの、獣人族を初めとして一部の種族には未だに根強く残っている文化なのだとか。
「ラヴっち。お相手さんの素性って知ってんの?」
「……カティ、怒ってる?」
乱暴にホットココアをかき混ぜてラヴに詰め寄るカティ。
守護天使としての使命感なのか、ニコニコと笑いながら問い詰める。
「男? 女? 特徴は? 髪色は? 身長は? 体格は? 何言われたの? 服装は? 種族は? クラスは? 名前は?」
「落ち着いてカティ」
彼女の目がだんだんと暗くなり、今にもその人の所に特攻せんとするような雰囲気を醸し出す。
「とりあえず、雪かきしに行こっか」
「うん」
これ以上話していたら暴走しかねない。
とりあえずカティの気を紛らわせるためにも、五人は乳児院に赴いた。




