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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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村、そして支援

「あの、ラヴさん。一つお願い事を聞いて頂けないでしょうか」

「お願い事?」


 村長娘から聞かされた願い事とはシカを狩ってきて貰えないかと言う内容だった。


 今年は山の冬入りが予想以上に早く、準備に追われていたことに加えてここ数日の吹雪によりすっかり獣たちが身を潜めてしまったらしい。

 そのおかげで冬越しの備蓄が万全でない家が何軒かあって、もし冬が長引くことがあれば飢え死にしてしまう可能性もあるそうだ。


「一頭だけで良いのです。シカ一頭あれば一家丸々冬を越せるのです」

「ふむ」


 時間的には丸一日ほど猶予がある。

 急いで帰れば一日半は大丈夫だろう。


 それに人命が掛かっているというのであれば試験なんか二の次三の次。

 ラヴとしては試験の結果より人命の方が重要だ。


 ラヴは高官を目指しているわけではないので正直順位どうこうはあまり興味がない。

 第一部隊を目指しているのだって師とも言える彼らが第一部隊でその彼らに報いるために頑張っているのと、マリーやカティが第一部隊を目指していたからだ。

 出世欲とか崇高な思想、熱意といったものはあまりない。卒業後前線に出られるのなら何でも良い。


 ラヴはただ自分が満足できればそれで良い。

 結果なんてそのおまけ。


「私は良いけれど、皆は?」


 しかしそれはラヴの都合。

 カティやマリーには家の都合があるし、ローラには推薦された者としての責任、ケイトは出身村の代表という立場がある。

 その中にはきっと多少の犠牲を厭わない覚悟をしている者もいるだろう。


「困っていたら助けるのは当たり前ですわ!」

「特に異存ないかなー」

「アタシもいーよ」

「内申稼ぎ」


 一人本音を隠しもしない者がいるが相手の利益になるのなら問題ないだろう。


 全員の了解を得たと言うことで、ラヴたちはさっそく雪積もる森へと出発する。


「お嬢ちゃんら、いつもこんな遅くに森に入ってんのか?」

「はい。私が夜行性なので皆合わせてくれているんです」


 一〇一班はラヴ以外の全員が両行性。

 ケイトは隠密が得意と言うことでどちらかと言うと夜の行動が嬉しいとは言っていたが、それでも日中に出歩けないのはラヴだけだ。


「凄いんだなぁ夜行性って」

「いえ、代わりにお昼だと光が強すぎて何も見えなかったりするんです」

「ほほう」


 夜行性の魔族は強烈な光を見ると視力が落ちたり失明したりするらしい。

 ラヴは太陽光を見ると死に反射光だけでも目が焼けてしまう。


「皆、止まって」


 二人で情報交換していると、ケイトが獣の足跡を見つける。


「これ、シカじゃない」

「イノシシ」


 イノシシは警戒心が高く一度逃すと捕まえるのは難しい。


 どうしようか迷っていたら隠密魔法で姿を消したケイトが先行して調査してくれるようで、ラヴたちは他にいないか別方向に進むことになった。


 何もない場所にポスポスと足跡が付いていくのを確認すると、ラヴたちも次の獲物を探しに歩みを進めた。


『ラヴっち』

『声で喋りなさい』

『えっ!? ご、ごみん……』


 ラヴは知っている。

 仲良しグループで特定の人たちだけが個チャで話し出すと不仲の原因となるのだ。

 ラヴはクラスのリーダー的な役割を押し付けられることが多かったのでそうならないような管理は徹底していた。


「……ラヴっち」

「なぁに?」

「怒ってる……?」

「怒ってないよ」


 恐る恐るラヴに聞くカティだが事情を知らない他のメンバーは頭に疑問符を浮かべている。


「この際だから言っておこうか。ケイトいないけど」


 ラヴはグループの中にグループを作ることを是としない。

 個チャ――もとい個人宛の念話は必要なときだけにすべきであり、それ以外は常に声に出すか五人に共有する形で念話を出すように。


「何故ですの?」

「私たちは五人で一班でしょ?」


 前世で隣のクラスが表のLINEグループの他に裏グループなるものを作ったことがあった。

 最初は表のグループで活発に発言する人たちだけで作ろうといったコンセプトで作ったグルだったらしい。


 それで結局いつメンの集まりが身内のノリで話している内に悪乗りが興じてグルに入っていない人たちを排斥しようと走ったらしく、それがいじめに発展してグループに入っている人みんなで一週間の補講が行われた。

 ラヴのクラスはその教訓を活かしてクラス単位のグループは一つだけと決めていたのだ。


「もちろん緊急事態や遠距離、個人的な相談であれば話は別だけどね」

「……なんかラヴっちやけに念話に詳しくない?」


 現代社会のインターネットの闇の中に生きたラヴはこの世界の誰よりもリテラシーを知っている。

 昔は裏サイトとか何とか掲示板とかがあったらしいので結局今も昔も人間のやることなんて変わっていないのだ。


「……そう言えば軍学校ではいじめって聞かないよね」

「いじめ?」

「え?」


 学校が軍の本科予科しかないこの国ではいじめという単語が聞き慣れないようだ。

 実際日本でも一年生より二年生の方がいじめの件数は増えており、一年で環境ががらりと変わるこの国では加害者グループ被害者グループというのはできにくいのだろう。


 そしてその変わりよく使われている言葉が――


「いびりは怖いって、聞いた」

「あーね」


 軍に入って最初に来るのが階級差による新人いびり。

 軍学校では無駄に権力を振りかざすと問題行為として憲兵に摘発される場合があると習うが、その代わり兵卒などの下級兵がいびりを受けることが多々あるらしい。

 下級兵は士官に睨まれたら軍にはいられない。

 完全な上下関係が構築された軍という組織には切っても切り離せない問題だった。


「ラヴは部下いびりをする上司になんてなってはいけませんわよ」

「ならないよ……」


 ラヴは人を殺す趣味はあっても弱者に権力を翳す趣味は持ち合わせていないのだ。

 そのくらいの線引きくらいできる。


 一緒に付いてきてくれた村の狩人には悪いが、ここは班員との団欒を楽しむとしよう。


 そうして茶化されながらも冬のシカ狩りを楽しんだ。



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