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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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奴隷、そして吸血鬼

「あがっ!? あっ! あぁっ!」

「セカンド?」


 今までの快楽に浸った姿とは明らかに違う。

 およそ人とは思えない絶叫に、ラヴは咄嗟に飛び退いた。


「あアァァぁァああアああァ■■■――!!!」

「ご、ご主人様!?」


 あまりの絶叫に異変を感じ取ったファーストがセカンドの部屋へと戻ってくる。

 その姿は腕捲りをして手に石鹸をつけたままだ。

 よほど焦ってきたのだろう。しかし焦っているのはラヴも同じだ。


「えっ、えっ、セカンド?」

「ファースト! 危ないから退いてなさい!」


 セカンドの体内からぼこぼこと何かが沸き立ち、今にも皮を突き破って出てきそうな勢いだった。


 尋常じゃない光景が目の前に広がる。

 しかしそれも長くは続かず、ぼこぼこと沸き立っていた身体の異常も次第に鳴りを潜めていく。


「あ……あ……」


 虚ろな目をして横たわる彼女に近寄り、つま先で小突いて反応を見る。


「ご主人、しゃまぁ……」

「生きてはいるのね」

「はい……」


 もぞもぞと体を動かし起き上がる。

 その様子は普段の彼女と何ら変わらなかった。

 全体を観察しても特に出血や痣になっているようなところは見つからない。外見から分かる傷は今のところなさそうだ。


「何だか、身体の奥にご主人様を感じます……」

「は?」


 お腹を摩って呟くセカンド。

 何を言っているんだと正気を疑うが、確かカティが似たようなことを言っていた気がする。


 魔法による主従関係は魔力的な繋がりができるらしく、従者は主人の危機などが分かるようになるらしい。

 事前知識がある者はそれが主従関係の影響によるものだと理解できるが、きっとそうでない者はセカンドのような表現になるのだろう。


 つまり――


「セカンド。もしかして、今とても喉渇いてない?」

「言われてみれば……」


 それを自覚したときから彼女のラヴを見る目が変わっていった。


 その目をラヴは知っている。


「ファースト。脱いで」

「はっ、はいっ!」


 言われるが否や首筋を差し出したファーストに、遠慮なしに牙を立てた。


 んっと小さな声で喘ぐも彼女はラヴを受け入れる。

 次第に力が入らなくなっていったファーストはそれでもなお血を啜るラヴのため、首に手を回して何とか笑う膝に抗った。


「ちゅるっ……。んーん」


 指で合図を出してこちらに来るよう促した。

 二人の行為を食い入るように眺めていたセカンドは、若干の間を置き自分が呼ばれているのだと気付く。


「い、如何致しましたか、ご主じ――んむっ!?」


 不用意に近付いたセカンドに、ラヴは前触れもなく口付けする。

 そして口の中に溜まったファーストの血を、少しずつ、少しずつ彼女に送る。


「んんっ……んくっ……んくっ……」


 不意をつかれて驚くセカンドだったが、さすが調教済みの性奴隷。

 すぐにもキスを受け入れて、恍惚とした笑みを浮かべていた。


「ぷはっ……」

「あぁんっ、もっとぉ……」


 蕩けた瞳で訴えかけるセカンド。


「調子に乗らない」


 パシッと叩いて要求を拒否する。

 ラヴにとってはあくまで食事の手伝い。それ以上でもそれ以下でもないし性奴隷だからといって奴隷とまぐわうつもりもない。


「喉の渇きは?」

「えっ……あっ、はい。なくなりました」

「そう」


 しかしどうしたものか。

 これは間違いなく吸血鬼かそれに準ずる何かになっている。


 ――とりあえず先生に報告するか。


 気は乗らないが、隠してバレたときが一番怖い。

 落ち込む気持ちを奮い立て、職員室へと足を運んだ。


 職員室を覗くとノーマンが忙しそうに書類整理をしていた。

 おそらく先週の行軍演習の評価書類だろう。

 そろそろ日を跨ぐ行軍演習をしても良い頃合いだと言っていたので、来週か再来週あたりから本格的な演習が始まるのかもしれない。


「一組一〇一班のラヴです。一組主担任のノーマン先生はご在室でしょうか」

「ん、あぁラヴか。少し待て」


 そう言って机の書類の一番上を裏返し、内容を隠すノーマン。

 他人の評価には興味はないが、こういうマナーは守られるべきだ。そういうところをしっかりしているノーマンは非常に好感が持てる。


「帰っていたのか」

「はい。依頼は無事達成しました。詳細は明日、報告書を提出しますので」

「そうか。よく頑張ったな」


 ラヴはこれからこの穏やかな顔を般若のような顔へと変えないといけない。

 とても残酷なことだが、仕方がないことなのだ。


「で、何か用か?」

「隊長。先に謝っておいて良いですか?」


 ノーマンの顔が凍り付く。


「……やっぱり不在と言うことで良いか?」

「隊長。先送りは未来の自分への時間的負債ですよ」


 どの口が言うかと凄まれるが、ラヴの言うことは正論だった。

 しかし当の本人こそがその負債となる原因なのだ。それを甘んじて受け入れるのが教師としての役目なのだとしても、一言くらいは恨み言を言っても罰は当たらないだろう。


「……覚悟はできた」

「私の種族に関してのことなのですが」

「ふむ。そうだな。それなら相談室で話そう」


 後期になると自身の進路を決めなくてはならない。

 軍に入るのならどの部署に入るか。そうでないなら志望する組織はあるのか。


 軍学校の進路によっては今後の人生は大きく変わる。

 そのため自分の実力を嫌でも自覚してしまうこの時期からは相談件数が一気に増えるのだ。


「入れ」

「失礼します」


 相談室は三人掛けのソファが机を挟んで二つ置いているだけの簡素な作りとなっている。

 部屋もあまり広くなく、本当に少数で相談するためだけに作られた部屋だ。


「さて、話して貰おうか」

「はい」


 そうしてラヴは打ち明ける。


「吸血鬼作っちゃいました」



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