奴隷、そして仕置き
ラヴはこの日、本気で怒っていた。
「で?」
冷たい視線を向けながら、平に伏すファーストの頭に脚を乗せる。
全裸のセカンドを四つん這いにさせ、その上に腰を下ろして体重をかけた。
「その、お勉強と、その……ぇっ……なことしてたら、寝てしまっていて……」
「ギャッ――」
あまりのくだらなさに左手を動かし、セカンドの尻臀に鞭を打つ。
乗馬学の講義で貰い受けた軍馬用の鞭だ。
その刺激は凄まじく、二回三回肌を叩けばすぐに切り傷となって出血する。
「揺らさない」
「ギャンッ――」
更なる刺激を求めてか、セカンドがくねくねと腰を振る。
座りづらいのでバチンと鞭打ち矯正する。すると彼女は元気になり、ピンと身体を張って姿勢を正した。
「私、言ったよね? 守らなかったらお仕置きするって」
ラヴが怒っている理由。
それはファーストが遊びに感けて掃除洗濯含めた言いつけ全般を忘れていたからだ。
別に遊ぶことは構わない。今までだってファーストが何をしようと特に気には留めていなかった。
しかし、それは本来やるべきことをしているのならば、という前提があるのだ。
ラヴはきれい好きである。
若干の潔癖症も入っているかもしれない。
そんな彼女は自身の家が汚れているという現状が我慢ならない。
パイスセーロの惨事から帰ってきたらこれだ。
疲れているところに追い打ちをかけられ、さすがのラヴも注意せざるを得ないと物理的に教鞭を取った次第である。
「……どんな処罰も覚悟してます」
「どんな処罰も、ね」
そんなことより早く仕事をして欲しい。
「ならば、貴女たちに命じます。一刻も早く掃除をしなさい」
「はっ……え……?」
「返事」
「はい!」
そう言って跳ねるように立ち上がり、そそくさと部屋から出て行くファースト。
それを見送ると、ラヴは下に居るセカンドへと意識を向ける。
一度二度食べたときから気付いていたが、セカンドは痛みにとても強い。
思えばファーストが一回で泣き叫んだ痛みに一ヶ月以上耐えていたのだ。この世の一般人は皆このくらい耐性があるのだろうか。
「貴女、何者?」
「ひゃんっ……何って、奴隷ですよぉ、ご主人様ぁぁんっ……」
分かってて言っているのだろうか。
だとしたらそれは半分嘘だ。
ご主人様に嘘をつくなんて、奴隷のくせに身の程を弁えない奴だ。
「今どきの高級娼婦ってスパイ染みたことするんだねぇ」
「にゃんのっ、ことっ、でしゅかぁっ!」
ラヴが立ち上がると緊張が解けたのかへなへなと床に這いつくばる。
しかし真っ赤に腫れて血を流す臀部はあまりの痛みに動かせず、尻を上げて上半身だけ床に這う姿はなんとも滑稽で見ていて楽しい。
しかししらを切り通すつもりなのだろうか。
ペットに嘗められては主人失格だ。ラヴは垂れた頭を踏みつけて踵をぐりぐり押し付けた。
「貴女の育った娼館、凄いのねぇ。十年二十年かけて子どもを育てて顧客に合う最高の娼婦を作り出すなんて」
「うぐっ……ひょれがうひの売りですかりゃ」
「でも、貴女のお相手になるはずだった人間は戦死してしまったらしいね?」
「ど、どうしてひょれを……」
初めてセカンドが動揺する。
ラヴの言っていることは正しい。
セカンドは本来前線にいる高官の元へと出荷されるはずだった。施設ではその男の好みに仕立て上げられ、裏では性行為をする際暴力的な行動を取ることがあるとの情報が入っていたため痛みに耐える訓練もしてきた。
しかし、施設から遠く離れたこの魔王国でどうしてその情報が手に入っているのだ。
普通ならばあり得ない。
領地の取り合い程度ならまだしも、種の存続をかけた戦いで敵国にある田舎町の施設のことなんか知っているはずがない。
「それで、貰い手のいなくなった貴女は前線にいる別の高官に届けられるところで捕まった。違う?」
「しょ、しょの通りで、ごじゃいましゅ」
ラヴはセカンドに何者かと尋ねたが、むしろ聞きたいのはセカンドの方だ。
「正直な子は好きよ」
「ひゃいぃ……」
いつの間にか出していた椅子に座って生足を晒すラヴ。
足先でセカンドの顔を持ち上げる。
床に強く押し当てたせいで鼻血が出て唇が切れているが、その表情は恍惚とした潤いに濡れて艶めかしくラヴの身体を見上げていた。
「血」
「申し訳ございません! 舐め取らせて頂きます!」
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐め取るセカンドに冷やかな視線を送るラヴ。
それに気付いた彼女はぶるりと身体を震わせて今まで以上に入念にしゃぶって己が心を昂ぶらせる。
「私を慰めに使わないで」
「ぐえっ……」
顎を蹴られて天を仰ぎ、開いた鳩尾に蹴りを入れられる。
メキメキと音を立ててめり込む脚に彼女の胃は耐えられなかった。
「うげぇっ……ごっ、ごぼっ……う゛ぉえぇっ……」
先ほど食べた料理が逆流する。
この五日間ずっとお粥だったせいか、胃液の臭いが特に強い。
下手に抑えたせいで鼻孔に入った胃液が粘膜を溶かし、形容しがたい刺激をセカンドに与えた。
「汚い」
「申し訳……ごほっ……ございまぜん……」
ここまで忠実な姿はファーストでは味わえない感覚だ。
彼女はラヴに心の底から屈服している。
それは彼女の肉を食べていると分かることだ。
しかし、ラヴの美食への探求は留まることを知らない。
もっと甘く、もっと美味しくできないか。
その探究心は誰もが持ち合わせている普通の気持ち。
「セカンド。貴女にも罰を与えましょう」
「は、い……何なりと……お申し付けくださいませっ」
「貴女は何もしなくて良いよ」
そう言って、ラヴは乱暴に彼女の頭を掴んで魔眼の力を流し込む。
「ぎゃひっ!?」
突如、今までに感じたことのない激痛がセカンドを襲った。
「カッハッ!? な、ご……!?」
あまりの痛みに息ができない。
まるで世界中にある全ての痛みを詰め込まれたかのような痛みにセカンドは身体を大きく仰け反らせて全身から痛みを抜こうと試みる。
「無駄だよ。貴女の記憶そのものに痛みを与えてるんだもん」
ラヴが何を言っているのか理解できない。
頭の処理にリソースを割いている余裕がない。
「そう言えば、貴女、気持ち良くなりたくてファーストを誘惑したんだよね」
「え……あ……」
想像した瞬間、身体が本能的に仰け反った。
こんなにも強い痛みが快楽になったら、こんなにも気持ち良いことを体験してしまったら。
「まっでぐだざい! じぬ! じにまず! いぎじにまずがら!!」
「あはっ! だーめ」
「イヤ! イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!」
直後、ラヴは自身の指の腹を切り、そのまま口へと突っ込んだ。
「はぷっ……じゅるっ……んあっ……ひあっ……」
嫌だ嫌だと言いつつも、彼女の身体は一滴も零すまいと必死に舌を絡めてくる。
そうしてラヴの自己回復が済んで傷口が完全に塞がった頃、セカンドの身体に異変が起きた。




