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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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訓練、そして始動

「打ち込みが甘い!」

「はい!」


 それから一週間。

 一組たちは、彼らのしごきに耐え続けている。


 数ヶ月戦場に出ていないとは言え、それでもたった数ヶ月前は行軍をしていた者たちだ。

 当時の勘は一日二日で取り戻せるし、彼らの元隊長、ノーマンの前で腑抜けた姿は取れないと、いつも以上に真剣に取り組んでいる。


 いや、もしかしたらラヴが知らないだけで候補生時代の彼らは普段からこんな姿だったのかもしれない。


 と思って座学が終わった後にこっそりノーマンに聞いてみたところ、候補生時代にこれくらいやる気を出して欲しかったと苦笑いされた。

 おそらく彼らも後輩の手前夢を壊すようなことをしたくはないのだろう。

 尤も、それが今の一組には良い刺激を与えているのでわざとネタばらしをするようなことはしないが。


「今日の授業はここまで!」

「ありがとうございました!」


 全ての授業が終わり、ラヴたちは旧舎の温泉へと足を運ぶ。

 あの日以来、五人は運動が終わったらここで汗を流す習慣が根付いた。

 ラヴはずっとここを利用していたから知らなかったが、どうやら新舎の温泉は広いのだが人が沢山いて落ち着かないのだという。


 旧舎の温泉にはシャワーがないが、それでもこちらの方が気楽で良いと皆好んで旧舎に来る。


「いっそここに住めないかな」

「たぶん難しいと思うよ」


 旧舎はラヴを閉じ込める監獄だ。

 ラヴの脅威から候補生たちを守り、健全な学校生活を行なって貰うための安全装置。


「はぁー、私もラヴちゃんと一緒に住みたいよー」

「そうですわねぇ」

「いーんちょ、誰と話してんの?」

「え? きゃぁっ!?」


 湯けむりに隠れ、現れたのはメルラだった。

 彼女曰く、演習が始まってから今日までずっと、授業が終わるとラヴたちだけ他の候補生たちとは別の場所に向かっていたので気になって付けてきたのだという。


「お、脅かさないで下さいませ……!」

「いやぁ、ケイトちゃんは気付いてたから、てっきり皆気付いてスルーしてるのかと」


 皆がケイトを見るとあははと笑い目をそらす。

 どうやら本当に気付いていたらしい。


 囲め囲めと言ってケイトに湯をかけて制裁を下す。

 ごめんなしゃいとずぶ濡れになって謝る彼女は何だか妙に楽しげだった。


「やっぱり聞いた通り、面白い子たちだね」

「なになにー? ラヴっち、一体どんなコト言ったのカナ?」

「今年の一組の水準は凄く高くて、その中でもとっても凄い四人がいるって。五人で一緒に第一部隊に選ばれるんだって約束したらしいね。それにとっても可愛くって優――ぶっ」


 突如メルラが大きな波に飲み込まれる。

 発生源はもちろんラヴだ。普段はあまり表情の変化を見せない彼女も、心做しか頬が少し紅潮し、ギロリとメルラを睨んでいる。


「もう良いでしょ!」

「お? ラヴっち照れ隠しかー? 愛い奴めー!」

「ちょっと、抱きつかないで!」

「はぁー、ラヴっち、お肌すべすべー」


 にょろにょろと手を這わせて全身をまさぐりながら、至近距離でラヴを見つめるカティ。


「超きゃわなんだけど……」


 殆どメイクをしていないと言うのに異常なほど整った顔。

 瞳は大きく、まつげは長く整えられ、種族柄アイシャドウはデフォルトだという。


 病的なまでに白い肌だが、今は温泉に浸かっているせいか少しばかり赤みが掛かり、艶と張りが衰えないその肌は、絶妙な触り心地を生み出していた。

 どこに触れてもなめらかに滑り、押し込むと弾力を持って押し返される。たった一つのムダ毛もないが、本人は以前から処理したことなど一度もないと宣っていた。


 そして極めつけは綺麗な胸。

 マリーほどは大きくなく、ケイトほどは小さくない、絶妙な大きさの胸。

 女の子の手でも受け止められるが、しかし力を込めるとどこまでも沈んでいく。


「あ、コレ、ヤバ……」


 うなじには水滴が滴り、それがより一層カティの色情を掻き立てて――


「れぇろ……」

「カティ!?」


 首筋から何か柔らかく暖かいものが這う感触が伝わった。

 幸いラヴの後ろで何が起こっているのか三人には伝わっていないようだが、それもいつまで続くか分からない。


「ねぇ、ラヴっち……アタシ、何か、熱くなっちゃったよ」

「か、カティ……指、這わせないで……!」

「ラヴっちがイケないんだかんね……こんな、見せつけて……」


 カティとの繋がりを感じる。

 これはかなり拙い。友だちに手を出したと言うのもそうだが、ヨハネスからは候補生には絶対に手を出してはいけないと強く言われている。

 もしこれ以上のことが起こったら何が起こるか分からない。最悪退学処分だってあり得るのだ。


 しかし今この場を動けばカティの痴態が前方にいる三人にバレてしまう。

 そうなればたとえこの危機的状況を回避できたところで今後の関係に戻れるかどうか。


「んふふ、きゃわゆ……」

「ラヴちゃん! どいて!」

「メルラ!」


 先ほどまでぷかぷかと浮かんでいたメルラが突如起き出し、ラヴとカティを引き剥がす。


 そしてその直後、どこからともなく現れた香水瓶を手に取って、カティに目掛けて噴霧する。


「うわっ、なにこれ、くっさ!」

「聖水だよ!」


 臭いというか、痛い。

 鼻の奥が焼けるように痛い。


 ラヴの新たな弱点が発見された。


 聖水は神聖属性の魔力が込められ、太陽の力をふんだんに取り込ませた特別な水らしい。

 神聖属性ならまだ何とかなるのだが、太陽の力はダメだ。ラヴの天敵であり決して抗えない存在。あの苦痛は今でも忘れない。


 聖水をかけられたカティはそのままバシャンと水しぶきを上げて湯船の中に沈んでいく。


「カティ!?」


 ようやく気付いたのか、三人がカティを抱えて湯船から引き上げた。

 全身真っ赤にして気絶しているものの、呼吸は安定している。


「と、とりあえず、保健室!」

「え、どうしよう!? 服着させる!?」

「いえ、安静にしておいた方が良いですわ! わたくしが先生お呼びします!」

「カティ、カティ……!」


 ローラが今にも泣きそうな顔で名前を呼び続けた。


 そうしてマリーが軍医モニカを連れ来て、カティの容態を診察する。


 結果はただのぼせただけだった。

 少しすれば目が覚めると御墨付きを貰ったが、一応心配なら保健室まで連れて行くがどうするか。


 万が一のことがあってはいけないと、タオル姿で伏している彼女を担架で運ぶ。


「魔眼の力が……漏れた……?」


 カティについて保健室に行く皆を見て、ラヴは一人呟いた。


 力の使い方を学ばねば。

 そう考えたラヴは、皆と一緒に保健室まで付き添うと、一人別れてノーマンの元へと足を運んだ。



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