招待、そして到着
ある日、戦闘訓練が終わったラヴたちに、ノーマンが告げる。
「明日からの訓練には二代前の第一部隊員が参加する」
「え、メルラたちが来るんですか?」
「そうだ」
メルラとはほぼ毎週顔を合わせているので懐かしさは微塵も感じないが、他の四人はあれ以来一度も会っていない。
軍は最前線で働く兵士以外、基本的に週休二日だが、必ずしも土日に休みが取れるとは限らない。と言うか割合的に取れる方が少数派だ。
メルラも彼らとは中々会わないらしく、時々戦略室の仕事で出張するときにばったり会うこともあるのだが、どちらも勤務中のためアイコンタクト程度しか取れなかったらしい。
「ねぇ、ラヴ。第一部隊ってどういう人たちなの?」
「個性的で面白い人たちだよ」
ラヴに個性的と思われる面々とは一体どんな珍獣なのだろうか。
そんなことを考えて、翌日。
その日は午後の授業が全て座学で午前が丸々演習にあてられていた。
もちろん夜行部なので午後が前半で午前が後半である。
万が一気絶することになっても他の授業に影響しないようにといった配慮からなのだろうが、つまり気絶する可能性があるほど激しい訓練を行うと暗に言われているに等しい。
「ラヴ。お前は念のため離れておけ」
「そうですね」
「どうしてですの?」
午前〇時。
日付がちょうど切り替わるタイミングで待ち合わせているのだが、その二分前になっても一行が姿を現す気配はなかった。
これはまずいと思った二人は、他の候補生とラヴを引き離す。
二人とも、彼らが遅れてくるとは思っていない。
しかし、ここまでギリギリになっても索敵範囲に入らず、かつ遅れることがないと仮定すると、その方法は二つに限られる。
一つはヨハネスのゲートのような長距離転移によるもの。
そしてもう一つが――
「ラ!」
「来たぞ」
「ヴ!」
「来ましたね」
「ちゅわーん!」
遙か彼方の夜空が一瞬光ったと思ったら、爆音とともに何かが突っ込んできた。
謎の飛翔体はそのまま減速もせず、そのままラヴに直撃する。
運動場を二つに分かつほどの土煙が夜空に舞い上がり、一組一同は敵襲かと思い各々武器を取って構えを取る。
「こんの!!!!!」
「バカメルラアァァアァァ!!!」
突如として巨大な雄叫びが運動場にこだまする。
その発生源は土煙の先。
ラヴが吹っ飛んでいった場所を注視すると、そこには六人の人影が佇んでいた。
「あっはー、ごめんごめん。ちょっとスピード出し過ぎちゃった」
「ちょっとじゃないでしょ!」
「時々自分の悲鳴が後ろから聞こえてきたぞ!!」
「とりあえず違反切符切っとくから」
「しょんなー……」
「ラヴ。受け止めてくれてありがとうな」
「おばかが勝手に突っ込んできただけだよ」
ラヴと親しく話す五人。
誰であろう、かの有名な第一部隊である。
運動場の端っこから急いで戻って来る六人。
見た限り、伝説に名を残すようには見えない。極一般の軍人のような身なりだ。
個性的な集団だと聞いていた一組一同は、てっきりド派手な衣装を着てくるのかと思って待ち構えていたが、外見は一人を除いて普通の隊服だ。
二人は憲兵隊の制服を。
一人は技術士官の制服を。
一人は事務官の制服を。
そして問題の一人はロングローブに竹箒。非常に大きなとんがり帽子を深々と被り、深緑のバッグを肩から提げていた。
一人だけ如何にもな格好をして、それ以外は普通の軍人。
もしかしてこの人が一番凄い人なんだろうか。そう誰もが確信を持って五人を見ていた。
「時間通りだな」
「さすが私」
「あんたが買い物しようって言わなければもっと早く着いたわよ!!」
「ラウラだってお買い物楽しんでたじゃん!!」
ノーマンを前にして喧嘩を始める二人の女性。
二人を無視して、男組はノーマンに続いて挨拶を始める。
「私はギルベルト。所属は――と言いたいところだが、一つ余興をしようと思う」
ギルベルトと名乗る男がそう言って喧嘩している二人を引き剥がし、五人一列に整列させる。
「では諸君。この中でリーダーだと思う人物に手を上げてくれ。あぁ、もちろんラヴは上げないでくれよ」
彼の意図が読めず、ざわつく一組だったが、すぐに静まり傾注の姿勢に入る。
「よろしい。ではまず、私だと思う人」
パラパラと手が上がる。
その数十一人。実に三分の一に上る数だ。
次に隣のキース。
キースに入った票はたったの二人。なんとも言えない顔で笑う彼を見て、ラヴは必死に笑いを堪える。
次にバート。
彼は四人と、元が少ないとは言えキースの二倍だ。これが人望の差よと誇らしげに茶化すバートを適当にあしらうキースだが、反対側の拳は強く握っている。
次にラウラ。
三人の票が入った彼女は、ヤリチンに負けるなんてと落ち込むが、キース同様バートに茶化されたところで顔面パンチを繰り出した。
最後にメルラ。
彼女に入れたのは九人。ギルベルトに次ぐ獲得票であり、一組の大半がこの二人のどちらかをリーダーだと思っているようだ。
「ありがとう。降ろしてくれ。では正解を言おう。リーダー。前へ」
「この状況で前に立たせるの何なの? 恥を晒せって?」
そう言って苦笑いで出てきたのはキースだった。
意外だと目を見開く者。申し訳なさに萎縮する者。偶然当たってほっとする者。三者三様なリアクションを取る一組の面々。
では、何故二九人中二七人が他を選んだのか。
「彼、ギルベルトを選んだ理由としては、きっとこの場を取り仕切っているからと言うものが多いだろう。あとは体の大きさなどによる威圧感だろうか」
あははとケイトが頬をかきながら頷いた。
普通、誰もが初めの挨拶は代表の挨拶だと思うだろう。
最初に仕切った人間が、この場で最も偉いか、それに準ずる者であるというのは単純だが至極まっとうな考えだ。
「次にメルラを選んだ者。これは見た目の派手さや発言の多さ、部隊員への気軽さなどから立場ある者だと考えたのだろう。……後はまあ、普段のラヴと素行が似ているからとかかな?」
コクコクと隣で大きく首を縦に振っているのはマリーだ。
どちらに同意しているのかによっては後でお灸を据えなければならない。
閑話休題。
それはともかくとして、派手な見た目をしている人間が偉いと言うのもあながち間違いではない。
シンプルな例としては軍服に付いている星の数だ。国家や軍隊によって多少の違いはあるが、大抵は大きければ大きいほど、多ければ多いほど、豪華であれば豪華であるほど偉い。
「では次に、彼女、メルラの得意とする戦法を想像して欲しい。彼女はどんな風に戦うのがしっくり来るだろう」
パチパチと鬼火を出して遊んでいるメルラを見て、皆が思う。
おそらくカティのように、後衛から支援魔法を飛ばすか、ローラのように攻撃魔法を飛ばすかだろう。
先ほどの制御の取れていない飛行から判断するに、きっと攻撃魔法の方が似合いそうだ。
そう考えるも、そもそも彼らの前提が違う。
「ラヴ。正解を」
「メルラは自身の身体や武器に強化を施し、接近して高火力を叩き出す魔法戦士の類いですね」
「あのナリで!?」
その叫びは一同全員の心を代弁していた。
予想以上に見事に引っかかってくれた五人はたちまち吹き出し、何故こんなことをしたのかと説明する。
「まずギルベルト。彼は強靱な重戦士で司令塔だと思われて攻撃されたところでビクともしない。そしてメルラを後衛職だと思って肉薄すれば即座に斬られる。第一部隊の司令塔は僕だし、最も注意しなければならないのは後衛職のラウラとキースだ」
何もかもが違っている。
簡単なお遊びとは言え、ここまで自分の状況分析と現実が乖離しているとは思わなかった。
「もしこれが戦場なら、君たちの分析で何千、何万という部下を危険に曝すことになるだろう」
「戦場についてからが戦争じゃない。既に戦争は始まっていて、戦う前から戦闘は始まっているんだ」
「敵の情報を得て、逆に敵には誤った情報を与える。そうすれば戦況が一変することもあるの」
「常に疑う心を持って、常に知ろうとする心を持つこと。それが勝利への第一歩だと思ったから、それを皆に知って欲しかったから、こうして実演させて貰ったんだ」
第一部隊。
それは当代最高の候補生が集まる、選ばれた部隊。
力だけでなく、頭脳だけでなく、魔力だけでなく、カリスマだけでもない。
その全てを持ってようやく競争が許される。そんな世界で生き残った五人。
「これから君たちには死なないため、死なせないために必要な全てを培って貰う」
彼らの言葉は重く、一組全員の心に刻み込まれた。




