絆の、行き着く先は――。
「ただいま!」
パタパタと、ランドセルのフタを弾ませて、山道を駆けて来た少女が、玄関の引き戸を賑やかに開け、よく通る声で言った。
「こらっ、瑠羽! 扉は静かに開けなさいっていつも言ってるでしょ!」
「あ、お母さん! ねえ見て、国語のテストで百点とったの!」
薄茶色の瞳を輝かせながら、少女は、ランドセルからシワだらけの答案用紙を取り出し、母親に差し出した。
「瑠羽、百点は偉いけど、答案用紙をこんなにしちゃダメじゃない。」
と、渋い顔をする母親に、少女は、
「ねえ、約束通り百点取ったんだから、今度の五月の連休は、誠人おじちゃん達と遊園地へ遊びに行ってもいいでしょう?」
「……仕方ないわねえ、美姫ちゃんや竜希君と仲良くするのよ?」
「うん!」
少女は、嬉しそうに笑った。
「おかえり、瑠羽。その様子じゃ母さんのお許しが出たんだな?」
再び玄関の扉が開き、豊作祈願の神事に使った道具を入れた段ボールを抱えた、紅い瞳の少年が、声をかけた。
「あ、お父さん! ただいまっ!」
十も歳の違わないような相手を、少女は躊躇いも無く父と呼び、嬉しそうに答案を見せる。
「えへへっ、ちょっと、稲穂様にも見せてくる!」
言うが早いか、ランドセルを放り出し、山へと駆けて行く。
「あっ、こらっ、待ちなさい瑠羽! カバンくらい片してから行きなさい!」
慌てて母親が叫ぶが、当の少女はまるで聞いてはいない。
「もう、元気なのは良いんだけど、もうちょっと落ち着きってものを覚えてくれないかしら……。あんな調子で、誠人君に迷惑かけなきゃいいんだけど。」
ため息をつく彼女に、
「ははっ、俺たちが忙しかった分、瑠羽の遊び相手をしてたのは清士だからな……。ある意味、当然の結果っつうか、行きつくとこに行き着いたっていうか……。ま、しょっちゅうブチ切れちゃあ棒きれ振り回すようにならなかっただけ良いじゃないか、なあ竜姫。」
晃希は苦笑を返した。
「こんな俺でも、親父扱いしてくれるんだ。我が娘ながら、実に良く出来た子だよなぁ。」
――あれから、二十年の時が過ぎた。
人間の身体を持つ竜姫は、二十年分歳をとり、今年で三十三になる。子も出来た。もうじき、十歳になる、小学三年生の娘。
しかし、吸血鬼の身体を持つ晃希は、あの日から歳を取ることなく、あの日と同じ姿でここにある。
それでも、瑠羽は。晃希の血を受け継ぎ、ダンピールとして生まれてきた娘は、自分が何者であるのか理解し、自分の両親がどういう存在なのかも知っている。
無論、まだ難しい事情等は知らないが。それでも、多喜の望んだとおり、強い霊能力を有し、生まれてきた。
「そういや、こないだ誠人が言ってたんだけどさ、あいつの息子……、竜希って言ったっけ? あいつ、霊視能力があるんじゃないかって。――アイツめ、絶対あのガキを瑠羽とくっつけようと目論んでやがるぜ? くそ、あんなちんちくりんのガキにうちの可愛い瑠羽をやってたまるか!」
「……もう、晃希ってば。」
また始まった、と、竜姫は呆れたように笑う。
「分かってるでしょ? ……瑠羽はダンピールよ。すべての事情を理解した上で付き合ってくれる相手は、そういない。嫉妬するのは構わないけど、あの子の恋路の邪魔だけはしないであげてよね?」
「分かってるさ……でもなあ、こう、複雑な気分が……、だなぁ。」
渋い表情をする晃希に、
「ねえ、ところで晃希。今日、お医者さんに行って来たんだけど。」
「え? いつの間に? 言ってくれれば車出したのに。それに医者って……、どっか具合でも悪かったのか? 悪い、全然気付けなかった……。」
「ううん、ちょっとこないだから吐き気が治まらなかったからね、ちょっと診て貰いに行ってたの。そしたらね?」
竜姫は、幸せそうな笑みを浮かべた。
「――二人目、出来ちゃったみたい……。」
「――。」
ガコン、と。音がして。晃希は荷物を取り落とした。
「えええええ!!??」
――その叫びは、辺り一帯に響き渡ったという。
長々お付き合いくださり、ありがとうございました。
私の力不足により、ラスト、少々グダグダした感じがぬぐえないのですが……。
それでも、ここまで読み進めてくださったあなた。
本当にありがとうございました。
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