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55.脱出

マルバス編はあと2回くらいで終わりたいです。

「……それで、ここからどうやって出るのかだけど」


 アリアが導きの一雫をその身に宿して、数分ほど。落ち着いたらしいアリアが切り出した。


 そうだった、ここから出る方法はどちらにせよ必要なんだった。と、言っても、俺には脱出の方法なんて思い浮かびもしないのだが。


「さっき、あたしが……アニマ・ツィティアから加護を授かった時に、空間が軋んだ……というか、かすかに綻んだのには気付いた?」


 はて。どうだったか。言われてみればそうだった気もするが、あまり意識していなかったからちょっと覚えていない。一つ言えるのは、この場に満ちていた呪いが僅かに薄くなっていることくらいであるが……。

 ミラの方を見ると、ミラもきょとんとしている様子だった。


「あなたたち、魔導師なのに魔法的空間の認識が弱いのね?」


 魔法的空間の認識。言葉だけなら、魔導書に書いてあったので知っている。


 この世界は基本的には神々の力によって成立しており、その性質は加護の模倣である所の魔法に近しいものがある。そのため、空間の認識をする時にもその魔法的な要素に着目して認識することで、魔法を使うときの効果範囲の取り方がどうとか結界みたいな魔法の強度を高めるのにどうとか逆に結界や障壁を破るのにどうとか小難しく色々書いてあった気がする。そういえば、そんな感じのことをビアンカ婆さんも最初の講義の時に何か言っていたような。あの辺り、結局実践から入って全部スキップしちゃったんだっけ。


 これまでざっくり直感でなんとかなっていたし、意識すると何となくそれっぽい事は出来ていたのでそこまで気にしなくていいかと読み飛ばしていた所だから、結構うろ覚えである。


「……ここ、魔法をするには結構基礎の所のような気がするんだけど?」


「いや、意味は知ってますって。この世界が神々の加護で成り立ってるから、その魔法的な所に注意して空間を捉えるってことですよね?」


 俺が答えると、アリアは「まぁそうね」と頷いた。俺の説明を聞いて、ミラが何かに思い当たったらしくポンと手を打った。


「あ、それのこと?私、レクターさんにその辺は別に直感でなんとかなるなら困ってから意識すればいいって教えてもらったから……」


 あ、ミラもそんな感じだったんだ。二人してそんな様子でいたからか、アリアが呆れたように溜め息を吐いた。


「……それで今まで困らなかったの?あたしなんか、魔法を教わる前に常にこれができるように訓練させられたけど……。というか、離れた位置に魔法を飛ばすのとかで苦労したでしょう?」


 聞かれて、どうだったかなと思い返してみる。が、そもそも最初から短刀や短剣で照準をつけて打っていたので困った覚えがない。大道芸、っていうか奇術の練習始めてから更に精度も上がっているので、今後困ることも無さそうだ。


「えー……。私は特に苦労しませんでしたけど……」


「ミカは結構離れてても平気で当ててるもんねぇ。私は、あんまり離れてるのは苦手だけど手を伸ばして届きそうなところまでなら全然平気だから困らなかったかな?」


 ミラは戦闘が始まるとソードの魔法で前衛に混ざって支援魔法の掛け直しとかをしていくスタイルなので、それくらいの範囲に届けば充分、ということもあるのだろう。


 特に苦労はなかったね、と二人で頷き合っていると、アリアががくりと項垂れる。


「…………才能ってやつなのかしら。別に、羨ましくなんか……じゃなくて、なら、別にいいんだけど。とにかく、あたしが加護を授かった時に、空間がちょっと揺らいだのよ。だから、それを脱出の糸口にできないかしら?」


「そうですね……」


 ひとまず、魔法的空間の認識をやってみる。やり方自体はそう難しいものではない。集中して、いつも魔法式を読み取り、解釈する時と同じように、魔法式ではなく空間を解釈する。空間を構成するものの魔法的な意味を汲み取り、その状態をよく観察して……。


 やってみると、確かに少し、周囲の空間の、『強度』とでも言おうか。そういうものが下がっているのが分かる。何というか、空間同士の結合の力が緩んでいる、というか。アリアが最初、綻びと表現したのはなかなかどうして、しっくりくる表現だ。綻びは時間と共に修復されつつあるようだが、それもかなり遅い。同じ事を何度か繰り返せば、それこそいきなり崩れてしまいそうな感じがする。


 すると問題は、なぜこの空間がここまで綻んだのか、という点になる。アリアが加護を授かった時に生じた何かが、おそらくは影響したのだろうが……。


「やっぱり、女神様の力なのかな?さっきの、アニマ・ツィティア……なんだよね?私でも分かるくらい強い力を感じたし……」


 うーん、とミラが唸る。確かにそう、というか、理由としてはそれしか思い付かない。しかし、それを具体的にどう再現するか……というか、この空間を崩して俺たちが脱出できるようにするかというと、これが分からない。


「……そういえば、ミカエラちゃんはともかく、ミラちゃんは驚いたりしないのね?

 あたし、正直今でもびっくりしっぱなしっていうか。アニマ・ツィティアと今まで以上に強い繋がりが感じられて、なんだかちょっと落ち着かない感じでもあるんだけど」


 至って冷静な様子で頭を捻るミラに、アリアが問う。俺はともかくって何だ。いや、まぁ普通にアニマ・ツィティアの加護を届けには来たが……。あれ、もしかしなくても結構、結構なことをしでかしたのでは?


「うーん、前にミカヅキが、『この世界はファンタジーだから起こりうることは何でも起こる』って言ってたから、そんなに驚く事でもない……のかなって。そりゃ、ちょっとはびっくりしたけど」


 ミラが答える。ミラの『ミカヅキさん語録』の中では初めて聞くものだ。態々『ファンタジーだから』なんて言葉を使うくらいだから、ミラの言うミカヅキさんとやらも同郷なのかもしれない。


「ファンタジー……?よく分からないけど、かなり剛毅……というか、大雑把な人なのね、そのミカヅキさんって」


「うん、ミカヅキは凄いんだよ。私を集落から逃してくれて、色んなことを教えてくれて……たくさん、思い出だってくれて。だから、もう一度会いたいんだ」


 ミラが、遠い目をして言う。その言葉に、アリアも今、ミカヅキが近くに居ないことを察したのだろう。アリアは少しばつの悪そうな顔をして、「会えるといいわね」と返した。


「うん、そのためにも、まずはここから出ないとね!」


 ぐっ、とミラが空手を彷彿とさせる、気合を入れるようなポーズ。ちょっと微笑ましい。思わず頬が緩む。隣を見れば、アリアも小さく笑っているようだった。気負った所のない自然な笑みだ。『聖女様』の微笑みよりも、俺としてはよっぽどいいと思う。


 病魔を祓う役目……というか、聖女であることに気負い過ぎてしまっていたんだろう。今のアリアは、肩の力が抜けているように見える。


「ん?」


 今、何か大事なことに掠った気がする。何だろう?

 今し方自分が考えていた事を反芻する。ミラが微笑ましくて、思わず笑ってしまって、アリアも自然な笑みで……。あ、そうか。


『掠った大事なこと』に、手がかかる。アリアは、病魔を祓うためにこの街に来た。そして、ここは病魔の中。とすれば、中から祓ってしまえば出られるのではないか。


「ちょっと思い付いた事があるんですが」


「思い付いたこと?」


「はい。この中から、病魔を祓えたりしないかなー、と。アリアさんて、この病魔を祓うために来たんですよね?」


「それは、まぁ。でも、今すぐに、なんて無理よ? 街全体に魔法陣を描いて、浄化の儀式魔法をするつもりだったんだから」


 ありゃ、空振りか。いや、でも、出るだけならば、何も街規模でやる必要はない。この空間に穴を開けるくらいなら、もっと小規模で済むはずだ。


「もっと小規模にやったらどうですかね? こう、ちょっと外に出るだけの穴を開けるくらいならいけたりしません?」


「聖水さえあれば、あたしも儀式の準備くらいできるけど……。肝心の聖水がないもの、どうしようもないわ」


「あ、聖水……。そっか、それじゃあダメかぁ……」


 振り出しに戻る。いけると思ったんだけどな……。次の方法を考えないと。

 うーん、と頭を捻っていると、考え込んでいたミラが、「そういえば」と口を開いた。


「何で、聖水がないとダメなの?」


「何で、って……。儀式で使うような大量の魔力、一人で捻り出すには一苦労どころじゃないからよ。聖水を使って魔法陣を描くことで、魔力の循環効率と必要魔力量を軽減してるの」


 儀式魔法に関しては、新式魔法(モダン)でも古式魔法(クラシック)でも大差ない、と魔導書には書いてあった。

 儀式魔法というのは、簡単に言ってしまえば、人一人で扱える魔力や魔法規模には限界があるため、それを補うために代替魔力や魔法を効率化するための魔導具などの小道具を用い、より高度な魔法を行使する方法のことである。魔力の同調なんかを行うのも、要は効率的に魔法を使うための下準備である。

 手間はかかるが、その分見返りも大きい魔法。それが、儀式魔法なのだ。


「……それじゃあ、ここだけちょっとお祓いするだけなら聖水がなくてもいけたりは……?」


「さっきも言ったけど、やっぱり無いと無理よ。あたし一人の魔力じゃ、ここだけちょっと、なんて言われても、全然足りない。

 浄化の魔法は、教会が神代の終わりからずっと同じ魔法陣を継承しているの。元々しっかり事前準備して複数人で行う前提で作られてる魔法だから、準備なしで一人でなんて……。こればっかりは、ミカエラちゃんにも手伝えないでしょうし、難しいわ。

 命の魔力で染めたインクか何かで魔法陣でも描ければ、あたし一人でも最低限の浄化はできると思うけど……」


 ふむ。つまり、命の魔力で染まった、魔法陣を描けるものさえあれば、儀式魔法は使えるってことか。ティン、と頭の端で豆電球が点く。


「《雨露の水差し》。

 この水、使えませんかね」


 両手で小さな碗を作って、水を精製する。俺の魔力から作り出した水なら、命の魔力で染めるもなにもない。


「これは……水寄せの魔法?道具無しで使う人がいるなんて……」


「新式魔法の中でも便利な魔法の一つです。魔力を飲み水に変換してるんですけど、性質的には水より魔力に近いらしくて。あんまり量を出すのに向いてないんですけど、こんな時だったら活用できるかな、と」


 アリアが、俺が出した水にちょんと触れる。その目がきらりと輝いたのを、俺は見逃さなかった。好感触の予感。果たして、俺の予感は、アリアのどんと胸を張るような声音で的中した。


「……確かに、これなら。ええ、できるわよ。あたしは……アニマ・ツィティアの加護を受けた、教会の聖女……いいえ、アリア・アレアなんですもの!」


 頼もしい限りである。

 そうと決まれば、俺たちは互いに笑い合って、「おー!」と揃って声を上げた。



 数分後。俺たちは、俺が最初に目を覚ました場所で準備をしていた。俺は、アリアの指示の通りに水差しで作り出した水で魔法陣を描く。アリアの魔力に同調させて水を作っているので、いつもよりちょっと難しいが、きっとうまくいくはずだ。薄く発光するまで魔力を込めた水が、薄暗い中でぼんやり光る。こんな状況で言うのはちょっと悪いが、雰囲気があって中々イイ。卒業した筈の厨二病が再発してきそうな、変なワクワク感がある。


 ——ちょっと……ううん、結構楽しい、かも。


 新式魔法とは根本的に違うため、ちっとも意味を理解できない魔法陣。ちょっとした法則性くらいはなんとなく掴めるが、訳の分からないもの、というのには変わりない。心の奥で、その『訳の分からないもの』に興味を惹かれた誰かが、そのワクワクを全力で表現してくる。それを自分が引いているというのだから、その楽しさも一入だ。


「っと、これで大丈夫ですかね?」


「ふんふんふん……。そうね、間違いは無さそう……っと、ここ、もう一つ記号を足してくれる?」


「どの記号ですか?」


「調和の……えぇと、この記号よ」


 そう言って、アリアが空に、魔力で記号を描き出してくれた。その記号にはどこか見覚えがある。神樹様の上にあった儀式道具なんかによく刻み込まれていた、『女神様の御印章』の紋章を、簡略化したような記号で、俺にはかなり馴染みがあるように感じられる記号だった。この記号だけは、ちゃんと覚えておこう。

 俺は、特に念入りにその記号を見て、しっかりと魔法陣と心に刻み付ける。


「これで、完成?」


 隣で見ていたミラが問う。アリアは「ええ」と鷹揚に頷いて、魔力を回し始めた。


「それじゃあ、やるわよ?」


「はい、お願いします」


 アリアが大きく息を吸って、魔法陣に触れる。アリアの魔力が魔法陣に流れ込んで、魔法陣とアリアから、眩い白の光が溢れ出した。音が、消える。不思議とアリアの深呼吸がはっきりと聞こえて、続いて、滑らかな祝詞が響いてきた。


「——穢れを潔める、清浄の主達よ。我らの祈りを捧げます——」


 ——清らかなる朝の光。

 清らかなる命樹の朝露。

 穢れ灼く竈の火。

 穢れ流す禊の水。

 穢れ吹き消す神秘の風。

 穢れ還す抱擁の土。

 清らかなる夜の闇。

 清らかなる死樹の夜露。

 どうか、我らの圏域を侵す不浄なる邪を祓い、

 聖の祝福を満たし給え

 穢れを潔める清浄の主達よ。

 我らの祈りを聞き届け給え——


「浄化の威《テラス・カタルシス・テオス》」


 アリアが詠唱を終えると同時、魔法陣から放たれる光は最高潮に達した。魔法的空間の認識を意識すると、魔法陣を起点にして、病魔を構成していた呪いの塊が解れ、ただの魔力に戻っていくのが分かった。そして、それによって生じた空間の亀裂が、徐々に広がっていく。しかし、その亀裂が空間の全体に及ぶよりも早く、魔法陣の光は失われてしまった。光が収まり、肩で息をするアリアと、その先にぽっかりと穴が開いたのが見える。穴の向こうには、先ほど見た広場の石畳が広がっている。しかし、のんびりもしていられない。せっかく捉えた獲物を外に逃してなるものかと、病魔の霧が穴を塞ごうと勢いよく入り込んでくる。このままでは、せっかく開けた穴もすぐに塞がってしまうだろう。……だが、それは予想できていたことでもある。


「行くよ、ミラ。《身体強化・中》」

「おっけー、ミカ!《ハイ・ブースト》!」


 俺とミラは、自身に身体強化の魔法をかけて、穴に向けて走る。そして、穴の前でかがみ込んでいたアリアの腕を肩に回して、「せーのっ!」と息を合わせて、穴から飛び出る。

 穴を潜ると、その先はマルバスの街中。病魔の中とは明らかに違う、清々しい空気が肺を満たす。しかし、それに浸る余裕はない。中から逃れた俺たちを再度中に引き摺り込もうと、病魔が漆黒の魔手を伸ばしてくる。これを躱さなければ、せっかくの苦労が水の泡である。

 俺はアリアをミラに任せ、振り向いて伸びてくる魔手に両手を翳した。片手には、魔導書をしっかりと握りしめる。


「頼むよー!」


 俺は魔導書に魔力を流し込み、回す。ぶっつけ本番でやった大峡谷の時とは違って、もう何回も練習している。どう扱えばいいかは、もう充分に習得できている。俺は増幅された魔力を使って、魔法式を出力する。選択する魔法は、防御魔法と、解呪の魔法。


「《硬き護りの殻》!《潔き解呪の一葉》!」


 今まで使った中でもとびきり大きな護りの殻と、空を舞う、無数の琥珀色に輝く光葉。光葉の力で弱まった魔手は、護りの殻に触れるなり消滅していく。多くの魔手を失ったからだろう。病魔は、周囲に溢れていた呪いを一身に集め、先ほどよりも一回りは小さくなって、忌々しそうにこちらを窺っている。俺は警戒しつつ、路地の方まで下がったミラとアリアに合流した。


「なんとか、なったねぇ……」


 へたり、アリアを地面に座らせて、ミラがその場にへたり込む。俺は、ポーチからマナ・ポーションを取り出して、アリアに差し出した。


「はい、アリアさん。浄化の魔法、ありがとうございました」


「っ、えっと……。ありがとう」


 アリアは、差し出されたポーションに一瞬戸惑ったらしかったが、すぐに手に取り、飲み干した。魔力を使ったせいで少し悪くなっていた顔色も、これで元通りだ。


 だが、まだこれで終わり、とはいかない。これで終わってくれれば良かったのだけれど、まだまだ終わらない。俺たちは、周囲の呪いをどんどん吸い込んで大きくなっていく病魔を睨みつけた。強い風のようにも感じられる勢いで、病魔の霧がどんどん集まって来る。

 濃霧の如く日の光を遮っていた瘴気が薄くなり、周囲がどんどん明るくなっていくのと反比例して、病魔は巨大に、そしてより濃い黒色に染まっていく。


「ミカエラ!ミラ!アリア!」


 背後から、ヴィスベルの声がした。振り返ると、アステラと2、3人のプリーストを連れたヴィスベルがこちらに走ってきている所だった。


「ヴィスベルさん!」


「無事だったんだね、よかった……!」


 ヴィスベルがほっとしたような表情を浮かべる。また、随分と心配させてしまった。


「おいおい、それで、これは、一体、どういう、状況なんだ?」


 ぜぇ、ぜぇ、と息を切らしながら、アステラが問う。それに真っ先に答えたのは、他でもないアリアだ。


「あたし達が内側から浄化の魔法で外に出たから、病魔が怒って全力で叩き潰そうとしてるみたいよ」


「アリア……。ちょっと、雰囲気変わった?」


 流石は付き合いが長いだけあってか、アステラはアリアの変化に気付いたらしい。アリアは、少し気恥ずかしげに「まぁね」と答え、ついで「それで、アステラ先生?」と茶化した感じで、アステラに聞いた。


「予定とは随分違った状況になっちゃったけど、どうしたらいいかしら?」


「確かに、予定とは違うけど……。こうして、呪いを集めてくれたのはかえって好都合かも。せっかく町中に聖水で描いた魔法陣は無駄になるけど……あの病魔を倒せば、あとは残留した呪いを祓うだけで済みそうだよ」


「つまり、アレを倒してしまえばいいって事ね」


 血の気たっぷりに、アリアが杖を構える。アステラは、そのアリアの様子に小さく笑う。


「あぁ、うん。しっかり実体化までしてくれてるみたいだから、もう普通に魔法で倒せると思う」


 アステラの言葉を聞いて、アリアがにやり、口角を上げた。


「聞いたわね、皆。プリーストは、あの病魔がこの広場から逃げ出さないように結界を。

 あたしと、アステラと、ミカエラちゃん、ミラちゃん、ヴィスベル君であの病魔を倒すわよ!《ホーリーブレス》!」


 アリアの魔法で、薄い銀白色のベールが俺たちを覆う。力強い女神の加護が、俺たちを守ってくれるのがわかる。


「強引だけど……うん、任せて欲しい」


 ヴィスベルが、剣を抜いて一歩前へ。


「さっさと倒して、また皆で冒険するんだ!《ソード》!」


 ミラがその半歩後ろでソードを構える。


「そうですね、私もこの辺で色々と挽回しておきたいです」


 俺はミラの隣に並んで、魔導書と短剣を構える。


「錬金術師って、こういう時あんまり前線に立たないと思うんだけど……」


 そんなことを言いつつも、アステラはどこからか身の丈ほどの長杖を取り出し、構えた。


 パッと見、すごく偏った魔法パーティだ。ここにカウルでもいれば、もう少し見栄えがいいんだけど。最近は専ら小盾と長剣でそれこそ騎士みたいな装備のカウルを思い出して、そんなことを思う。


「さぁ、病魔。あたしが……あたし達が、あんたの相手よ!」


 アリアのその一言で、マルバスでの、最後の戦いが始まった。

マルバス編の最終決戦、開始です!

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