56:病魔討伐!
気付けばブックマークも500件を超え、嬉しい限りです。次は目指せ750件ですね。
マルバス編は後1話くらいです。
「《猛き兵の刃》!」
ミラとヴィスベルの剣に、魔力の刃を纏わせる。
「《ウィンド・ブーツ》!」
ミラが唱えると、ミラとヴィスベルの足元に、薄緑の風が纏わりつく。あれは、機動力を強化する魔法だ。俺の浮揚の輪を戦闘用にチューニングしたような魔法だったと記憶している。移動速度を上げ、着地の衝撃を少なくし、ジャンプ力なんかも強化できる魔法である。
「《ハイ・ブースト》はぁぁぁぁ!」
ヴィスベルが更に身体強化の魔法を使って走り出し、ミラが駆け出したヴィスベルの背中を追いかける。
病魔は、ヴィスベル達の接近に気がつくと、その表面から黒い何かを伸ばし始めた。人の手のような形をした、呪いの塊。魔手とでも呼ぼうか、それを、ヴィスベル達に向かって勢いよく伸ばす。
ヴィスベルは、伸びてきた魔手を微かに輝く剣で払い落とすと、高く飛び上がって剣を振りかぶる。だが、病魔もそれを黙って見過ごす筈はなく。その背中に向かって、一際大きな魔手が伸びる。そして、その魔手がヴィスベルの背中に叩きつけられる直前……
ヴィスベルを追って走っていたミラが魔手に向けて魔法を放った。
「《ウィンド・ブラスト》!」
風が、爆ぜる。軌道を逸らされた魔手はヴィスベルの隣、何もない虚空に叩きつけられ、ヴィスベルの振りかぶった一撃が、病魔に深々と突き刺さる。病魔の体から血霧のように瘴気が吹き出し、病魔は唸るような音を立てながら身を捩る。
自由落下の最中、ミラの手がヴィスベルの背にかざされると、ヴィスベルの身体が薄く発光。ヴィスベルは突き刺さっていた剣を難なく引き抜いて、病魔の向こうに飛び降りる。ミラは、自分に向かって伸びてきた魔手をいくらか切り払いながら、ヴィスベルの元にまで後退する。病魔は、背後に……尤も、あの病魔に前後があるのかは怪しいが……回り込んだヴィスベル達をターゲットに、無数の魔手を伸ばして攻撃する。ヴィスベルとミラは、魔法により強化された機動力を活かしてそれを避け、回避できそうにないものは切り払って対処する。
「あの子、ああいう戦い方するんだ……?」
ちょっと後ろで、アステラが呟く。
まぁ、腰に杖とかぶら下げてる人が急に剣作って構えて駆け出したらそういう反応にもなるか。
「っと、ぼんやりしててもいけないね。《マナ・アクティベート》」
アステラが、杖をかざして唱えると、杖の先端から小さな光の球がふわりと飛び立ち、少し進んだ場所で止まる。その光の球を中心にして、薄桃色の円が広がる。俺の身体が円の中に入ると同時、体の芯からポカポカとした感覚が湧いてくる。これは、魔力の回転効率が上がっている……?
「魔法を使いやすくする魔法だよ。円の範囲内にいる間、魔力の回転効率と魔法への変換をスムーズにしてくれる」
なるほど、そういう魔法もあるんだ。俺は短剣を病魔に向けて、いつものように魔法を放った。
「《貫く弾丸》……っ!?」
いつもの通りに編んだ筈の魔法は、いつもよりも明らかに鋭く、速く、何より、反動があった。弾丸が病魔に突き刺さると、再び、病魔が唸るような音とともに身を捩った。
「何これ、いつもより威力が……!?」
いつもと違う感触に、思わず自分の手を見下ろす。これが、アステラの魔法の効果か。驚いていると、ふふん、とアリアが得意げに笑う。
「アステラのサポートは凄いんだから。《ホーリーレイ》!」
「アリアが得意になってどうするのさ?《マナ・ショット》!」
白い光線が、小さな魔力弾が、病魔に突き刺さる。効果は、大きい。連続で魔法を叩き込むと、次々命中する魔力弾は病魔の体を僅かずつだが削っていく。
その連続攻撃で、病魔の意識がこちらに向いた。病魔は、伸ばしていた魔手を一つに束ね、巨大な腕に変えたかと思うと、それを勢いよく振るうことで俺たちが撃っていた魔力弾を弾く。だが、その対価は、大きい。
「《フォトン・セイバー》!」
病魔の完全に無防備になった背中に、魔手の攻撃から解放されたヴィスベルが魔法剣を構える。眩い白の剣撃が閃く。莫大な光の魔力が込められた一撃が、病魔を呑み込み、食い殺す。光がおさまった後には、沈黙した真っ黒い塊だけが横たわっていた。
「やっ、やりました……?」
思わず言ってしまってから、「やべ、これフラグじゃん」という内言。気を抜きそうになる俺の肩を、アステラが長杖の先で叩く。
「気を抜かない。まだだよ、あの化け物、まだ生きてる」
アステラの言葉の正しさは、すぐさま証明される。黒い塊が、怪しく脈打ったのだ。塊の脈動は、徐々に大きく、力強さを増していく。
「ぐぅぅぅ……」
黒い塊から、獣の唸るような声が響く。先程までは、ただ空洞に強風が吹き込んだような唸る音だったのだが、今回のはしっかりとした「声」だ。そこには確かに、何かの意図を感じる。
「ゔゔ……ゔぉあああアアア!!」
ぼこり、塊の表面が泡立つ。泡立った場所から、先程も見えた魔手が伸び始めたが、様子が違う。魔手が束になり、人のもののような腕になり、地面を掴む。それが、左右に1組。そして、腕の生えた塊が中程から横一文字に裂けたかと思うと、その中には赤黒い、不気味な舌が蠢いていた。
歪な、目のない頭足人のような気味の悪い姿。裂けた口から瘴気を垂れ流しながら、病魔が身体を起こす。
仲間になりたそうに、なんてとんでもない。今にも喰らい殺さんという強烈な殺気を振り撒いている。
「これは……また随分と気味の悪い姿になりましたね」
「気を付けて、纏ってる呪いの密度はさっきよりも濃い」
それは、言われなくともわかっている。俺は構え直して、病魔を油断なく見据える。病魔は、唸り声を上げて俺たちを威嚇していたが、やがて俺たちの方に狙いを定めると、獣のような叫び声を上げながら突っ込んで来る。
「《硬き護りの殻》」
俺は魔導書に魔力を回して、大きな防御魔法を展開する。アステラの魔法のお陰か、巨大な六角形の結晶は、いつにも増して強い輝きを放っている。俺は全身に魔力を回して、衝突の衝撃に備える。自動車もかくやという速度で迫ってきた病魔の突進。病魔が、大口を開いて護りの殻に喰らいつく。
どん、凄まじい衝撃が全身を駆け抜けた。護りの殻を通してなお、これほどの衝撃を受けたのは初めてだ。だが、微かに体の芯が揺れるような感覚はあったものの、耐えられないほどじゃない。
しかし、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。護りの殻に、奇妙な感触を感じる。何か、魔法そのものを内側から崩されるような、嫌な感覚。修正しようと試みるも、魔法が崩れる速度の方が速い。ピシリと音を立てて、護りの殻に亀裂が入った。
「っ!アリアさん、アステラさん!走って!逃げて!」
咄嗟にそう叫んで、俺も身体強化の魔法を自身に掛ける。殻は、保たない。俺のただならない様子を見てか、二人も身体強化の魔法を使うのが分かる。俺たちが駆け出すのと、殻が食い破られるのは、ほとんど同時だった。端を逃げ回るのは、却って逃げにくい。危険と思いながらも、俺は病魔の脇を抜けて広場の中央へと向かう。
振り返って様子を見ると、砕けた護りの殻をボリボリと貪り続けている病魔の向こうに、二人で走るアリアとアステラが見える。やがて殻を食べ終えた病魔は、ぐるり、と俺の方を向いた。その口の上には、先ほどまではなかった二つの真っ赤な光が、瞳のように浮いている。
その飢えたような目は、真っ直ぐに俺の方を見据えているように見えた。病魔の腕が、バネのように収縮する。不味い。背筋に冷たいものが走る。
突進して来たとして、アステラの魔法から離れた状態の護りの殻で、先程と同じように防げるかは分からない。防いだとして、また食い破られるのでは時間稼ぎ程度にしかならず、待っているのはジリ貧だ。
どうすれば、と思考を回すうちに、病魔のバネが解き放たれた。先程よりも速い速度で、病魔がこちらに飛んで来る。ダメだ、これでは防御魔法すら——
「《ウィンド・ブラスト》!」
「ミカエラッ!」
俺の真横で、暴風が爆ぜる。勢いよく真横に弾き飛ばされた俺の真前を、病魔の突進が駆け抜けた。病魔の影が消えた向こうには、杖を構えるミラの姿。ミラが、魔法で俺を逃してくれたのだと気付いた時には、俺の体は誰かに抱き留められていた。この魔力は、
「ヴィスベルさん!」
「口は閉じて!舌を噛むぞ!」
言って、ヴィスベルが俺を抱き留めたままの姿勢で駆け出した。俺は言われた通り、舌を噛まないようにしっかりと口を閉じる。
——あれ、これっていわゆるお姫様抱っこっていうやつなんじゃ?
そんな可愛らしい感想が思い浮かんだ頃、ヴィスベルがそっと俺を下ろしてくれる。周囲には、先ほど別れたアリアとアステラ、そしてミラがいた。先程の病魔の突進のせいか、まだ少し動悸がする。少し顔が熱く感じるのは、病魔の魔力にでも当てられたか。
俺は潔き解呪の雫を飲みながら、病魔を油断なく見据える。病魔は、突然目の前から消えた獲物を不思議に思ってか、何もない空間を齧るように口を動かしている。振り向いて索敵してこないのは、幸いだった。
アステラが、懐から取り出した小瓶の中身を周囲に振りまいた。瓶から溢れたのは、暗い色合いの霧のよう煙。それは緩やかに立ち昇ると、薄い壁のように広がった。何だこれ、と疑問に思ったのを察したのだろう。アステラが説明してくれる。
「ハイデアの霧幕。魔物から身を隠すための魔導具さ。少しは効果があると思う。……それで、ミカエラちゃん、さっきは何があったんだ?」
問われているのは、きっと先ほど殻を破られた時の話だろう。察して、俺は短く答える。
「魔法を、内側から食い破られました」
そう、あれは、食い破られたというのが一番しっくりくる感触だった。魔法の強度的に防げなかった訳ではなく、内側から魔法をボロボロにされたのだ。
「……わたしのアクティベート・ゾーンもそんな感じで消滅したよ。どうやら、あの病魔は魔法に内側から干渉して、食らうらしい。聞いたこともない特性だけど、魔法を食って進化もしてる。長期戦は得策じゃないね」
「魔法を食べて強くなるってことは、攻撃魔法もあんまり使えない……のかな」
ミラの呟きに、アステラが頷く。
「いや、それは大丈夫だと思う。口の中に放り込まない限りは、食べようがないからね。……でも、早く仕留めないとそれも学習してしまうかもしれない」
そうなる前に仕留めろ、ということか。しかし……
「ヴィスベルさんの魔法剣……でも、足りなかったんですよね、さっきは」
「あれ以上の攻撃魔法なんて、あたしの手持ちには無いわよ?というか、あたしの力自体護りとか癒しとか、そういう力だし……」
アリアの言葉に、俺とミラも頷く。ヴィスベルの魔法剣は、俺たちの中でも切り札的な攻撃である。日に何度も連発できないそうだが、それだけに威力は充分に高い。それで倒し切れないとなると、他の手段で一撃なんて無理だ。そもそも、ヴィスベル以外の面子は、アリアとアステラは知らないけど、攻撃力がそこまで高くない。
「……一つ、思い付かないことはない」
黙り込んでいたヴィスベルが切り出した。
「ふむ、ヴィスベルくん、聞かせてもらっても?」
アステラが身を乗り出して聞くと、ヴィスベルは「ああ」と小さく頷いて話し始めた。
「感覚的な話、にはなるんだけど……。前に、フレア……僕の仲間とタイミングを合わせて魔法剣を使った時に、お互いの力が増幅されるような感覚があったんだ」
そういえば、前にもそんなことを言っていた気がする。蠱毒の白を討伐した際に、フレアと二人で合体技的な攻撃をしたという、アレのことだろう。だが、フレアは今、病魔の呪いで倒れてしまっている。
「……でも、フレアはいませんよね?」
「……多分、フレアじゃなくてもできると思う。……あれはきっと、僕らの内の神の加護が共鳴したんだと思う。だから——」
「アリアやミカエラちゃんでも同じ現象が起こせる……?」
ヴィスベルの言葉を引き継いで、アステラが言った。アステラの言葉に、ヴィスベルが大きく頷く。
「おそらく。そのために必要なのは、なんていうか、説明しにくいんだけど……。多分、神の加護の影響が強い魔法を使うことなんだ」
神の加護の影響が強い魔法、と聞いて、俺の中で『古式魔法』の単語が過ぎる。古式魔法は新式魔法に比べて神々の力の影響を受けやすい。それ故、一部の魔法なんかには文字通りの『適性』が必要となることもあるらしい。学べば学ぶだけ上達する魔法の、唯一の例外と言って良いのが、術者の持つ神々の加護を前提とした魔法なのである。
「神の加護の影響が……って、古式魔法ってことですか?私、古式魔法は何一つとして使えないんですが」
俺の言葉に、アリアとアステラがギョッとしたように目を剥いた。あれ、何か変なこと言ったかな。首を傾げると、二人は今度は困惑したような表情を浮かべた。
「え、古式魔法が一つも……?あれだけの新式魔法を使えるのに……?」
「よく、それで新式魔法を学べる学校に行けたね?」
一周回って失礼、というか普通に馬鹿にしてませんか、特にアステラさん。仕方ないじゃん、だって今まで必要なかったし。あと新式魔法の学校とやらには通ってないし。
「いや、私学校とか行ってませんもん。魔法は大体この魔導書に教わりましたもん。そりゃ、ビアンカ婆さんにちょっとは手ほどきしてもらいましたけど……」
抗議してみるが、二人は何やら複雑そうな表情だ。これで納得して貰わないと、それ以上に言いようがないんだけど?
「そんなことより、今はどうやってアレを倒すかですよ。それで、加護の影響が強い魔法ってどんなのがあるんです?ちょっと教えてもらって使えるやつなら私にも使えると思います。魔法は割と得意なので」
古式魔法とは言っても魔法であることには違いあるまい。そう思って宣言したのだが、二人の反応は芳しくない。
「割と得意っていうか……いや、新式魔法が使えるなら逆に覚えやすいのかな……。ヴィスベル君、加護の影響が強い魔法、とのことだけど、それは『ブレス』みたいな簡単な奴でも大丈夫なのかな?」
アステラがヴィスベルに問う。ヴィスベルは「分からない」と小さく首を振った。
「それは試していないのでなんとも」
「ブレス……って、さっきアリアさんが使ってた奴ですか?」
先程アリアが使ってくれたホーリーブレス。あの魔法からは確かに、女神の……アニマ・ツィティアの加護の力をしっかりと感じた。あれなら、確かに神の加護の影響が強い魔法と言えよう。
「いや、あれはまたちょっと違うのだけど……いや、あれはあれで加護の影響は強い魔法ではあるけど……やっぱり、少し違うっていうか……。多分、ミカエラちゃんでは使えないと思う」
そのアステラの言い分に、少しむっとする。使いもしないうちから使えないと思う、なんて、あまりに暴論だ。
確かに、古式魔法という魔法は、新式魔法とは随分毛色が違う。新式魔法が魔法式の形で魔法を定義し、編んでいく魔法であるのに対し、古式魔法は魔法名の詠唱そのものが、新式魔法でいうところの魔法式として機能する。
この世界のものは、何もかもが神々の加護により形作られている。それは、音や言葉とて例外ではない。色々と理論はあるらしいのだが、簡単にいえば、古式魔法というのは、神々の力が強く宿る『魔法言語』を用いて魔法を編むのである。と、魔導書師匠には書かれていた。
新式魔法と決定的に違うのは、とりあえず詠唱さえ合っていれば使えるという点であり、『力持つ言葉』を知る事が唯一新たな魔法を作り出す術だということ。そのため、国や地域によっても伝承されている魔法に一部違いがあるとかないとか。
閑話休題。
仮にあのホーリーブレスが神の加護を前提にした魔法であり、その要求適性が高いところにあるから俺には無理だと断じたのであれば、それこそ無用な心配である。
アニマ・ツィティアの加護を受けたアリアに使える魔法なら、その母たるアニマ・アンフィナの加護を受けた俺に使えない道理はない。
——いいよ、そこまでいうなら実際にやって確かめるだけだし。
俺は集中して、魔力を高めた。俺だって、古式魔法の使い方を全く知らないという訳ではない。確かにレパートリーはないし、使ったこともないが、知識だけならいくらかあるのだ。
魔力を回しているにも関わらず魔法式を作らない事にはもはや違和感すら感じる。だが、古式魔法というのはこうして魔力を高め、詠唱によって形作り、世界に顕現させるものだ。誰かが誰かに教えていた言葉が蘇る。
『良いか。魔法とは、奇跡の模倣。故に、扱うには世界をねじ伏せる強い意志が必要となる。魔法とは取引なのだ。取引相手に気圧されていては、何も成せんぞ。そら、世界に魔力をくれてやれ。『私の願いに応えよ』とな』
——私の願いに、応えて。
祈り、唱える。
「《ホーリーブレス》」
詠唱と同時に、ぐい、と魔力が引き出される感覚。いつもと少し違い、何というか、胸の奥の方……丁度、命の女神から授かった加護があるあたりから出て行くような感じがした。
目を開ければ、俺の周りに薄く輝く白いヴェールと、その向こうで目を見開くアリアとアステラの顔が見えた。
「……そんな、聖女の秘術を、なんでこの子が……?」
アステラが、茫然としたように呟いた。待って、聖女の秘術?これが?
何か、とんでもないことをしでかしたような気がする。一人で焦っていると、アリアがふっと、何だか吹っ切れたような、呆れたような笑みを浮かべた。
「流石ね。……でも、あたしだって負けてない。ホーリーブレスは、聖なる加護の力。きっと、ヴィスベルくんの魔法剣にも力を与えてくれるはず。あたしと、ミカエラちゃん。二人がかりの加護の力なら、その共鳴と併せてあの怪物を倒せるかも……いいえ、倒せるに違いないわ」
自信満々に、アリアが言う。視線が低い俺は、その手が小さく震えていることに気付いたが……ここで指摘するのは野暮というやつだろう。
「やりましょう、ヴィスベルさん」
「ああ、やろう」
ヴィスベルに呼びかけると、力強い応答。本当に、心強い。
「はぁ……。わかった、アレの足止めはわたしが引き受けるよ。色々と道具は持ってきてるから、できるだけの事はする。ハイデアの霧幕では、力の波動までは隠せない。誰かが引きつけないと」
我に返ったアステラの言葉に、ミラが同調する。
「私もやるよ!逃げ回るだけなら、多分大丈夫!」
ぐっと力こぶを作って見せるミラだが、悲しいかな、そこにあるのは細い腕だけである。あと、逃げ回ることを言うならアピールするのは足じゃないかな。ちょっと心配だ。
「ミラ、怪我はしないでくださいよ?」
言ってみると、ミラは得意げな様子で胸を張り、とん、と片手で胸を叩く。
「しないよ!ミカも、変な所で失敗しないでね?」
「しませんよ」と笑って返して、俺とミラは小さく笑い合った。緊張が解れてよく集中できそうだ。
「それじゃあ、ミカ。ヴィスベルさん、アリアさん。よろしくお願いします。アステラさん、頑張りましょう!」
ミラの言葉に全員で応え、俺たちは病魔を見据えた。アステラの撒いてくれた、ハイデアの霧幕が切れる。それと同時に、病魔が赤い目をこちらに向けた。
「《マナ・アクティベート》」
アステラの魔法で、魔力が活性化する。俺は、気休めにと広き守護の盾を張っておく。これくらいなら、ほとんど片手間で問題ない。
アステラとミラが駆け出す。アステラは、腰のポーチから小さな宝石のようなものをいくつか取り出して、空中に投げる。放り出された宝石は、空中で小さな魔法陣を描き出し、力強く輝いて爆発する。爆煙の中からほとんど無傷の病魔が現れるが、爆発のおかげで、病魔の意識はアステラの方に向いたらしい。叫びを上げた病魔の横面に、ミラが渾身のウィンド・ブラストを叩き込む。病魔の巨体が微かに揺らいだ。
「いくよ、二人とも」
ヴィスベルの呼びかけ。俺達は、頷きあって魔力を回した。
魔力を回し始めると、ヴィスベルが言った『加護が共鳴する』感覚は、すぐにわかった。アステラの魔法によるものとは違う、身体の奥の方から力が湧き出すような感覚。不思議な全能感と、妙に落ち着く感覚が胸中に広がった。それはアリアも同じようで、彼女はほう、と溜め息を吐いた。
「すごい……どんどん力が湧いてくるみたい……」
「これが、ヴィスベルさんの言っていた……」
ヴィスベルが、剣に魔力を纏わせる。その輝きは、いつも見る魔法剣より格段に眩く、力強い。見ているだけで気力が湧いてくるような気さえしてくる。希望という言葉が、もし形を持っているとすれば。それは、きっとこんな光なのだろう。
魔力の高まりが、最高潮に達する。俺とアリアは、お互いに目線を交わして、小さく頷く。俺たちは、輝く剣に手をかざして、魔法を唱えた。
「「《ホーリーブレス》」」
俺たちの手から放たれた純白色の輝きが、ヴィスベルの剣に吸い込まれる。身体から、どんどん魔力が抜けていく。否、全身の魔力が、ヴィスベルの剣に集約されていく。視界の端で、病魔の目がこちらを向いたのが分かる。高まるヴィスベルの力に気付いたのだろう。病魔は咆哮して、俺たちの方に突進を始める。
それを見たアステラが何処かから取り出した宝石を放り投げると、空で魔法陣を描き出した宝石から、無数の光の糸が伸びて病魔を縛り付ける。しかし、病魔はそれを強引に引き千切って前進。結果として、アステラの魔導具が効果を発揮したのは、ほんの数秒だった。だが、その大きな数秒は、ヴィスベルが魔法剣を完成させるに十分な時間だ。
「《フォトン・セイバー——》」
ヴィスベルが唱え、構える。星の光を丸ごと閉じ込めたかの如く、剣が輝く。病魔が守護の盾にぶつかり、それを容易く砕いた。そして——
「《——レゾナンス》」
眼前に飛び出した病魔に向けて、ヴィスベルが魔法剣を振り下ろした。
視界が、純白に染まる。あたりに、神々しい魔力が溢れる。光が病魔を呑み込み、屹立した巨大な柱が、周囲に溢れていた嫌な魔力をかき消していく。力強い神の力を感じる光柱に、俺は知らず、祈りを捧げていた。
やがて、巨大な柱は徐々に小さく、細くなっていく。柱が完全に消え去った後には、何一つとして残されてはいなかった。辺りから病魔の気配は消え去り、広場には清浄な魔力が満ち溢れている。
空から、雪のような光のカケラが舞い落ちてくる。暖かで、優しくて、何より、美しい。
「すごい、すごいよ!みんな、お疲れ様!」
感極まって駆けてきたアステラの言葉で、病魔を倒し終えたのだという実感が湧いてくる。それと同時に、張り詰めた糸が切れたかのような疲労感がやってくる。
「ミカーっ!みんなーっ!」
駆け寄ってくる二人に手を振って、いつものように抱きついてこようとするミラを受け入れようと両手を開いて、一歩踏み出す。胸の中に飛び込んできたミラを抱き締めれば、腕の中にはいつも通りの、温かな感触。周囲からの生暖かいような視線が、少し気恥ずかしいが、心地よい。
空を見上げると、何もなかったかのような穏やかな午後の陽光が、雲一つない青空に輝いていた。そして——
——街の高台から俺たちを見下ろしていた黒い影が何処かへと不気味に消え去ったことには、誰もが気付きはしなかった。
病魔討伐!
ブックマークが増えるとモチベーションが増えます。
感想があるとテンションがあがります。
誤字脱字報告があると文章の質があがります。
ご意見などがあるとストーリーの質が上がるかもしれません。
まぁ何が言いたいかって、
コメントとか待ってますねって筆者が言ってた。




