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お久しぶりに更新しました。
分割しても良かったんですが、いまいち流れが悪くなりそうだったので一つにしました。
少々長いので、急いでいる方は気をつけて下さい。
本日、「bird servant」は定休日。今頃、黒鴎は書類の整理に追われているだろう。何と言っても営業中にやれることは限られている(暇でなければ)。本来であれば枢木もその整理に駆り出される。一度「定休日」、「アルバイト」の二文字の意味を辞書で引いて欲しいものだ。しかし、今回は珍しく仕事はなし、完全なる休暇が貰えたのだ。
そして久々の休みを与えられた従業員・枢木はとある街中を歩いていた。天気は晴天、気温は低いながらも風さえ吹かなければそれなりにあったかい。ジーンズに袖が長めのパーカー。紺と白のボーダーだが、中のシャツは無地の黒。財布は後ろポケットに突っ込み、バックは持っていない。目的なくふらふら歩いているかと思いきや、あるところに視線を止めてそちらに歩きだした。
「おっせ―な枢木。来ないかと思ったぞ」
「悪い沢崎!」
休日は息抜き。だからこそ存分に楽しむものである。
***
会ってすぐ昼が近かったのもあり、枢木と沢崎はそのままファーストフード店へと場所を移した。現在はガヤガヤやかましい店内に2人は向きあって座っている。そして彼らの前にはこの店で一番安いセット、シンプルなハンバーガーにポテトに飲み物。育ち盛りには少なめだが、金欠学生ゆえ贅沢はできない。
まぁ、当の本人たちはそんなこと気にしてはいないようだが。沢崎がポテトを食べながら、枢木を見た。
「むぐ……この後どうする?いつもどおりゲーセンか?」
「そうだなぁ。最近体動かしてないから、久々にバッティングセンター行きたい。駄目か?」
「おーいいね。俺の高速バントでも見せてやるぜ。ワイルドだろ?」
「ワイルド要素ゼロだからな。せめて打てよ」
「あんなもん当たればいいんだよ」
「どんな理屈だ。……にしてもこんな遊ぶのは本当に久しぶりだな。去年の夏休み以降遊んだ覚えないや」
「何?焼きもちやいてんの?俺が他の奴と遊びまくってるから?」
「そう言う意味じゃねぇよ……気色悪いこと言うな」
「んだよー。いつ誘っても『バイト忙しい』って断ってたのは枢木だろ」
「仕方ないだろ。お前誘う日いっつもバイト入ってんだもんよ。狙って誘ってるかと思うぐらい」
沢崎の手から持っていたポテトが机に上に落ち、咀嚼する口が止まった。
「え……俺、そんな特殊能力持ってたのか……?」
「本気にすんな」
そうツッコミ、包みを開ける。
そしてハンバーガーを一口分、口の中に入れ込んだ。
「そういや沢崎、最近剣道はどうなんだ?」
「あー、ギリギリ県大に行けたぐらい。あとはあっさりストレート負けだ。んなことよりよもっと重大なことがあるんだ!」
「ん?」
「来年度からうちの学校共学になる!」
「はい終了ー」
「聞けよ枢木~。ヒドいぞ」
「それ電話で何度聞いた」
「何度でも言わせろよ」
鼻息荒く、沢崎は語り始める。
ハンバーガーを食べながら、小さく息をつく。興味のない話を何度も聞かされる身にもなって欲しいものだ。
「黄色い声響く教室……柔らかくて小さな手……ひらひら舞う布……想像しただけで癒されるじゃねぇか」
「その辺にしとけ。もう変態の域だぞ」
「もともと共学のお前にはわかんねぇだろうがよ。いいか!学園生活に女子は必須!唯一の清涼剤!女子のいない学校なんざ、ネタが乗ってない寿司と一緒なんだぜ……」
「ここぞとばかりにどや顔されてもなぁ」
「みんな女子の到着を待ち望んでんだ!そうだ、枢木これ見ろ」
そう言い興奮気味の沢崎は枢木に自身の携帯を手渡した。
不思議に思いつつもそれを受け取り、画面に目を移す。どうやらアドレス帳画面のようだった。
「安西千穂。稲橋こころ。江藤柚奈、榎田……コレ名前なんて読むんだ?」
「笑みの芽が出るでちえみちゃん」
「『茅笑』って書いてでそう読めるか?完全に当て字だろ」
「かわいいじゃんか」
「かわいいかどうかはわかんねぇけど……なんだよコレ?」
それもアドレス帳に登録されているのは、女の名前ばかり。ふっとカテゴリー名を見て枢木は目を剥いた。視線を正面に戻すと、親指を立てたポーズでとてもいい笑顔の沢崎。
「これってまさか……!」
「いいだろ!!今度うちの学校に入る予定の女子中学生のメアド!全員じゃないのがちょっと残念だけどな」
「何で持ってんだよ……!」
「オープンキャンパスで会ったんだ。みんな素直で純粋だったぜ!やっぱ女子はいいよな!」
沢崎の笑顔を見てつい、頭を押さえてしまう枢木。
そう、『高校・後輩女子(仮)』とカテゴリ分けされているアドレス。画像なしで名前だけ並んでいるはずなのに、大分画面をスクロールする余裕がある。数えると30人と少し。ここまで来ると少々頭が痛い。
「……頼むから犯罪には走るなよ。ちっちゃく新聞に載ってるお前見たくない」
「新聞に載るならそれこそでかく紙面を占拠するっての」
そう言う意味ではないのだが。むしろ新聞に大きく載ったらそれはそれで嫌だ。
そんな枢木の心配を知らない沢崎は、そういえばと話題を切り変える。
「結局枢木はバイトは?上手くやれてんのか」
ハンバーガー片手に沢崎の問いに考える。思いやれば最初の頃、黒鴎のやり方についていくのに精一杯で。仕事を早く覚えるために休みもあまりなかったし、取らなかった。その時バイトを止めろ言い出したのは沢崎だ。一応そんなことがあり、気にしてくれているのだろう。
「……わかんねぇ。俺は上手くやれてると思うけど」
「へー。いい女の人と知り合えたか?」
……前言撤回。沢崎は何も考えてない。
「依頼人は知り合えたにならねぇだろうがよ」
「そこから始まる恋もあんだろ!」
「どんな恋だ。あ、でも黒鴎の知り合いには会ったな」
「マジで!?」
沢崎はごそごそとボールペンを取り出し、机に備えつけられていた本来は手を拭く用途の紙を一枚引っ張り出す。そして枢木のほうに身を乗り出し……。
「名前は?どんな仕事してる?生年月日は?血液型は?その人の好みのタイプは?ってか連絡先とかメアド教えろよ」
「そんな急に目を輝かせるな!!つか最後は質問じゃなくて要求じゃねぇか!!」
「だってよぉ。ちょっとの出会いも取り入れておかないと、将来孤独死すんの嫌だ」
「孤独死って大げさな……。だいたい出会いならお前のバイト先の方がまだあるだろ」
「俺のバイト先?」
ふっと急に沢崎の顔に影がさす。しかもあまりの悲しげな顔に遠くから儚げなメロディが聞こえそうだ。
「な、なんだよ……」
「俺のバイト先、知ってるだろ。言ってみろ」
「え……確か子供用品販売チェーン店だろ?黒いうさぎのマークの東梅屋。でも客がいっぱい来るだろ?」
「……じゃあその客層を考えてみろよ」
はっと。俺は気が付いてしまった。
子供用品店の主な女性客層。
まずは主婦、要するに人様の女性であるし子持ちだ。次に孫の誕生日プレゼントやおもちゃなどを買いに来る年配女性。恋をするには少々厳しい者があるのではないだろうか。最後に若い女性はくるかもしれないが……ベビー用品店に来るくらいならもうすぐその予定があるからだろう、要するに人妻だ。
「悪い、軽はずみなこと言って……」
「分かってくれたならそれでいいさ。その代わりに……」
きりっと沢崎が枢木に向き直る。
「女装しろ」
「何でだ!!」
「お前だけ麗しき女性と知り合っているのは許せん。それ相応のことはしてもらう」
「それは言いがかりだ。ぜっっったいに俺はやらないからな」
「良いじゃんか。今はやりだろ『男の娘』って」
「流行りでも乗っちゃいけないもんがあるんだよ。一回その脳味噌丸洗いするか」
「あら?枢木くんじゃない」
上から急に話しかけられて、先ほどまでの話題のことも忘れ声をした方へ仰ぎ見る。
知った声だったが、捉えた視界に収まったのもやはり知った顔だった。
「蘭さん!お久しぶりです」
「おひさ~。元気にしてた?」
「何とか。体も壊さずやってます」
「今日は休みなの?あの全身仕事野郎休みを渡すだなんて珍しいわね」
「ははは……」
にかっと並びが綺麗な歯を見せて笑う。蘭が喋るたびに彼女の長い黒髪が楽しそうにひょこひょこ跳ねた。
蘭の服装は少し着崩した黒のワイシャツに紺色のタイトスカート。さっきまで羽織っていたのだろうスカートと同色のジャケットは腕に掛けていた。手に持っているバックは前回見たのより少し大きめの黒い鞄だった。シャツの色を白にしてきちんと着こなせば、まるで就活生のようだ。
枢木は自身の服が引っ張られるのを感じた。見ると沢崎が枢木の服の袖を掴みしつこいほどひっぱっていた。
「……枢木。誰だこのお方は」
「お方?さっき言ってた黒鴎の知り合いの人だよ。蘭さん、こいつ俺の友達で沢崎」
「あ、そうなの。私は蘭。よろしくね沢崎くん」
「よろしくお願いします。それはともかく蘭さん、実はですね……」
沢崎は勢いよく立ちあがり蘭に近付く。
そしてわざとらしく手のひらで口元を隠し、こそこそと蘭に何かを告げる。
「え、枢木くんは女装趣味があるの……?」
「そうなんですよ。困ったもんでしょう」
「ちょっと待て!!一切俺にそんな趣味は無い!!」
「え?違うの?」
「違います!!」
必死に否定する枢木。蘭は嘘なのかと再び沢崎を見る。
その視線を向けられた当の本人だったが、以外にもあっさりとその言葉を肯定する。
「すみません騙したりして……。実は枢木は男の娘になりたいんです」
「何堂々と出鱈目を吹き込んでんだテメェは!!」
「これは正当な権利だ!!お前ばっかりこんな麗しき女性といちゃいちゃしやがって!」
「どこが正当だ!ただの私怨じゃねぇか!!」
「ちょっとちょっと2人とも。ここでそんな大声迷惑でしょ」
蘭は大人の対応で高校生2人をなだめる。さすがに年上からのまっとうな意見には逆らえない。とりあえず3人は席へと座る。納得していない枢木と満面の笑みの沢崎。笑っている理由はおそらく蘭が自身の隣に座ったからだろう。
蘭はふぅと一度息をつく。そして手に持っていたバックを開けて何故かひっくり返した。
それと同時にもちろん中身が机の上にあふれ出す。
ハンカチ。ティッシュ。手鏡。大きめのポーチ。……カツラ。
「……あれ?」
「お」
蘭がポーチのチャックをスライドさせて開け、中に両手を突っ込んだ。
再び手が見えた時には、チークブラシと四角のケースに入ったアイシャドウを手に持っていた。
「さぁ枢木くん。どんな女の子になりたぁい?」
その後、ファーストフード店に悲しい悲鳴が響いたとか響かなかったとか。ただ、店から出ていく客の顔には笑いがあったことは確かなようである。
***
机に広がった膨大な紙をページ順に揃えまとめ、ファイルに入れ込む。それと同じようなものを積み上げ塔になっているもの一つの一番上に乗せた。一つというのはファイルの塔はこれ以外にもたくさん積み上がっているからである。
黒鴎は眼鏡をはずし、一息ついた。次はこれらを本棚に収めるという作業しなければならない。ただし古い物や特に重要ではない物は別にしまわなければ溢れてしまう。そのあたりもやらなければ。
やることはまだまだ多いのだ。ただし、根の詰め過ぎは効率が悪いだけである。適度な休憩も必要である。
コーヒーでも淹れようかと黒鴎が立ちあがると、携帯が震えメールが来たことを伝えた。差出人は良く知るはた迷惑な女性からだった。
画像が添付されているらしいメールを開くと、黒鴎の顔をが少し崩れる。そこにはとても可愛らしい女の子むすっとした表情で写っており、題名には「自信作」。どのような経緯があったかはわからないが、この事務所の従業員・枢木のようである。
「……!」
だが、メールを読み進めるとその笑みはまたすぐに引き締まった。
文中の挿入されていた画像。その下にはまだ文章があった。
―――
P.S.
ごめん。ちょいとしくじったわ。
真剣に携帯を見つめる黒鴎の背中では、気まぐれに風が訪れて小さく窓を揺らしていた。
今回は沢崎回、以上です。
前とキャラ変わってしまっている気がしますが、気にしません。きっとあの後ちゃっかり蘭の連絡先はゲットしている彼です。
でもやはり蘭さんが文章で書き起すと、私の中の理想の彼女になりません。当たり前ですが小説って難しいです。
ぐだぐだな駄文をここまで読んで下さりありがとうございます。




