「二十撃目。」進む
ウッラー
『いやー。ないわ。まさかまさかヨウヘイ君がそんなに正義感の厚いシュジンコーだとは思わなかったよ。』
『…調子に乗ったのは認めるけどよ、あそこはああするしかないだろ?それに主人公だったらもっとこう、いい感じに殺さずに上手いことやってるだろ』
大空を飛行しながらギザギザな左耳を弄って反省会をする、
この傷はボレトーニャで戦ったときにギリギリ“感”で敵の攻撃を避けた時についた物で、あの時の感覚を忘れない為の戒めの様な物だ
今でも耳を触れるとヒヤッとした、底冷えする感覚が思い出せる、
ボレトーニャを出た後、一旦西に向かうふりをして今現在東の空を飛んでいる、
おさらいしておくとこの大陸は大きな国が3つある、
大陸の北と北西に“ガルマディアス”帝国、
南と南西に今現在俺がいる“センシュルツ”王国、
この二つの国を分断するように竜の山脈という山脈地帯、
一応センシュルツのさらに南には砂漠地帯があるが、今は関係ない、
そして南東には巨大な森林地帯、
南西には小さな国々が犇きあっている
東には通称“技術大国”ゴルドヴァ、
とりあえずはゴルドヴァを目指す、
ゴルドヴァに何があるってわけじゃないが、貴族1人ぶっ殺しておいてのうのうと国内で生きれるとは思っていない、
まあ要するに亡命だ、
その後の事はゴルドヴァに着いてから考えよう、
…正直この国を潰すとは言ったものの、アテがない、
革命でもすれば分かりやすいのだが、搾取されているのは小さな田舎町だけで、力の有る者たちは皆上手い汁を啜っている現状、反抗意識が有る者は痩せこけた土地の弱者のみで、悪循環が進んでいる、
いっそのこと他国がこの国に攻め込んでくれればその国に取り入って現代の知識を使い、その国を後押しする形になれれば…
…そんな大それた事ができるのだろうか?
俺みたいなちっぽけな人間一人で何ができるというのだろうか、
そもそも最近この大きな力を手に入れてから自分は少々調子に乗ってるんじゃ無いのだろうか?
手に入れた力は大きい、だがそれは己の力では無いのだ、
図に乗れば必ずツケは回って来る、調子に乗れば足を掬われる、
ゆめゆめ忘れることの無いようにしよう、
さて、本来なら数週間かかる旅程を飛行することですっ飛ばして来たのだが…
「参ったな」
周囲には木、木、木、飛んでいても地平線上に人が住んでる気配は無い、
まあ要するに
『迷ったね。』
『迷ったな』
どうしようか、空は夕日が沈んで来ている、
『まったく。調子に乗らないって。決めたばっかのに。速攻で調子に乗って迷いやがった。』
『…返す言葉もねえ』
とりあえずは森に降りる、真っ暗だが鳴子でもつけて豊に見張らせれば危険は無いだろう、
最悪家を建ててもいい、
そう思い、森に着地すると、
「…!!、……!」
「………!…!」
なんかちっこい、羽の生えた女がいた、
チビどもはどうやら3匹居たようで、1匹は羽がへし折れている、
2匹が手負いの1匹を守るようにガルルッと唸って?いる、
「あー、うん、なんだこのチビども?」
『妖精族だね。珍しいよ。主に人間からは愛玩用に奴隷として捕まえられてるね。相当珍しいから高値で取引されてるみたい。やったね!。』
『何がやったねだ、このバカ』
1人のチビはしばらくすると手をこちらに向ける、
「?」
「…!」
チビは蚊が鳴くような声で何かを唱えると、顔にフワッと風が通る、
「…この感覚!」
咄嗟に左手で顔を庇う、左手の平が切り裂かれる、
「っ、クソが」
せっかく傷を破壊して直したのに、直ぐに負傷してしまった、
魔法を放ったチビがふらつく、なるほど、どうやらあまり力は残ってないらしい、
残った1人が羽をぱたつかせて威嚇?っぽい行動をする
「…あのよ、俺としちゃああんまり敵対するつもりはねえんだよ、ここはお互い見なかったことにしないか?」
「…?!……!」
だめだ、声が小さすぎて何言ってかわかんねえ、
だがどうやら威嚇をやめてないところを見ると信用してもらえてないようだ、
少しばかり睨み合う、すると遠くから声がしてきた、
「ちくしょう逃げやがって、無駄な手間を」
「まあまあ、だけど手負いにしたのは確実だから時間の問題だろ?」
「それに妖精族を売りゃあ結構な金が手に入る、このくらいの手間、わけねえよ」
妖精はその声に気づくと羽を羽ばたかせ、手負いの1人を連れて飛ぼうとする、だが1人はすでにふらふらで1人は手負いという、満身創痍の3人の行動は遅い、
ここで見捨てるのは…目覚めが悪いな、
『へーい。ツンデレ!。』
俺としちゃああくまで自分の為にやってるんだがなあ、
夢に出てきてもらっても困るし、
ふらふらと飛んでる3人を血塗れの左手で纏めて掴む、
「…!…!!…!」
なんか騒いでるが、所詮スマートフォンより少し大きい程度の身体、何をしようと手から逃れる事は出来ない、
そのまま外装の中に隠す、すると直ぐに声の主達は姿を現した
「ん?なんでこんなところに人が…」
「んなのどうでもいい、オイ、お前ここら辺で妖精族を見なかったか?」
「いいや、見てないな」
「…本当かぁ〜?てめえまさか横取りしてんじゃねぇだろうなぁ?」
刹那、外装の中に隠した左手に鋭い痛みが走る、
「(あのクソチビ共…!魔法打ちやがったな!)」
外装の裾から血がポタポタと流れ落ちる、
相当中で暴れてるらしい、噛まれたりひっかいたりしてる様だ
静かにしろ、という意味も込めて軽く握り締める
途端に大人しくなった、
「なんだお前、怪我でもしてんのか?」
左手から滴り落ちる血を見て、男は言う、
「ああ、だから用事が無いなら先に行かせて欲しいのだが…」
「待てよ」
ピタッと足を止める、
「手負いの獲物が1匹増えちまったなあ?」
そう言って男達は刃物を抜く、
…仕方ない
「上等だ、さっさとかかってこい」
「弱いな」
「うぐぁ…」
「ぁぁ…」
「………」
ボレトーニャで殺ったあの男に比べれば他愛も無い、
3人の男は両手足のいずれかをへし折って戦闘不能にしている、
『なあ豊』
『うん?。』
『奴隷ってのはこの世界では許されてんのか?』
『センシュルツとガルマディアスだけだね。ただ両方とも奴隷を攫って調達するのは禁止されてるよ。とは言っても。こんな風に取り締まれてないのが実態なんだよね。』
『そっか』
「まあ、その、なんだ、運が悪かったって事で諦めてくれ」
3人の首の骨をへし折る
「………」
人を確かに素手で殺した、多少は気分が悪い、だがこれを忘れる気は無い、
この気分はもう後戻りが出来ないという、恐怖感のようなものだ、
もちろん、罪悪感でもある
『まるで自慰行…。』
「いわせねーよ」
するとずっと左手に握られていた妖精族が恐る恐るといった体で出てくる、捕まえる必要も無いのでさっさと解放した、
左手から俺の血に塗れた3人の妖精がふらふらと出てくる、
「…!…!!」
周りの死体と俺を交互に見て何か言っているが聞き取れない、体が小さいので発声器官も小さいのだろう、それにしても、
1人の妖精に目を遣る、羽が醜くへし折れ、よく見れば足も骨折している、
…仕方ない、サービスだ
負傷した妖精に手を向ける、妖精はビクッとして目をつぶる、それを見た他の2人の妖精はシャー!と威嚇する
能力を発動させる、傷を“破壊”した
何もしてこない事に疑問を思ったのか、負傷していた妖精が目を開け自身の体を見て驚愕し、他の妖精は呆気に取られた顔をしている
「じゃあな、次は気をつけるんだぜ」
そのまま歩き出す、さて、夕暮れだが何処で寝ようか、開けた場所でも探すか、
そうやって思案しながら2、3歩ほど歩くと不意に後ろに抵抗を感じる、
振り返ると先程の妖精族が3人揃って服の裾を引っ張っている、
「ん?」
妖精族はこっちの視線に気づくと身振り手振りで何かを伝えようとしてくる、
「…!………」
…何て言ってるかわからないが“ついてこい”と言いたいらしい、
『竜宮城にでも連れて行ってもらえるんじゃない?。』
こんな小さい奴らの竜宮城なんて知れたもんだろ、それよりもう日が落ちるんだから野営できるところを探したい、
無視して前に進む、服がピーンと引っ張られるが相手が相手なので負けるはずもない、
すると一人が目の前に来て腕を広げる、威嚇こそしないものの凄い必死なのが伝わってくる、
…しょうがない、このまままとわりつかれても鬱陶しいだけだ、
妖精についていくことにしよう、
しばらく妖精に着いてあるくと3人が振り返り、ストップというジェスチャーをした後1人が奥の茂みに消えた、
「?」
しばらくすると戻ってくる、が、1人ではなく数十人の妖精がわらわらと出てきた、
「なんだこれ?」
数十人の妖精の中から1人、王冠をかぶり、様々な色の宝石で装飾された杖を持った妖精が前に出る、
…なかなか美しく、大層威厳のある佇まいだがなにぶん大きさが小さいので可愛らしく写ってしまう、
『わたしは妖精族の女王です、先に礼を言わせてもらいます、我が民を救っていただきありがとうございました』
「っ!」
頭の中から声が響く、これじゃあまるで、
『念話だね。魔法の一つだからある程度高位の魔法使いなら使用できてもおかしくないよ。』
『あら、先客がいらして』
『ああ。僕のことは気にしなくていいよ。話を続けて。』
なぜこいつらは人の頭の中で話している、少し鬱陶しいぞ、
『すみません、少々驚いてしまって、』
念話か…
『まあいい、で?俺はさっきの…チビ3人に連れて来られたわけなんだが』
『そのことについてですが単刀直入に言います』
王女は頭を下げた、と同時に周囲の妖精も頭を下げる
『どうか、あなたの力を貸して頂きたい』
『…内容による』
『先程あなたが1人の妖精の“羽”を治したと聞きました』
『ああ、直したな』
サービスで、
『妖精にとって羽とは力そのもので存在の証、一度羽が壊れれば2度と治ることはなく、また力も失います、飛べなくなり、魔法や精霊術の行使も使えなくなります、』
精霊術ってのが気になるが、まあいい、
『で?俺に誰か治して欲しい奴が居るのか?』
『はい、今私たちの里には人間によって羽を折られた者達がいます、』
『奴隷として妖精は羽を折るんだよ。そうすれば歯向かっても羽虫程の力しかないからね。扱いが楽になるんだよ。』
なるほど、把握した
『それで?つまり俺に治して欲しいんだな、そいつらを』
『はい、彼らはすでに生きる希望を無くして居るものもいます、どうか、彼らのために、お礼なら出来ることならなんでもします』
『なんでも?。』
『黙ってろ』
『ねえ。綿棒って知ってる?。』
「ぶっ飛ばすぞボケ」
妖精の女王は首を傾げてこちらを見ている、
まあ、いい
『羽を治す分には構わないが、あんたらは何を返してくれるんだ?なんでもとは言ったが出来ることなんて限られてるだろ』
『それは…』
妖精族の女王は黙ってしまう、少し意地悪を言い過ぎたか、
『まあでも、仲間のためになんでもするってのは気に入った』
『で、では』
『ああ、任せておけ』
あの後、しばらくすると羽が千切れていたり折れている者や、中には火で炙ったような傷を持った妖精がぞろぞろと出てきた、
皆一様に俺を見ると小さく悲鳴を上げカタカタと震えて縮こまってしまった、どうやら人間によっぽどのことをされたみたいだ、
…けして俺の顔が怖いからとかじゃあないと思う、
説明するのも面倒なのでさっさと治そうか、
…多分、これだけ治すと頭痛はさけられないだろうな、
「「「「…ありがとうございました…」」」」
「うむ」
声が小さい、
目の前には数じゅっぴ…数十人の妖精が必死の声を張り上げてお礼を言ってくれている、身体が小さいので声帯も小さいからか、彼女らの声も小さい、それでも自分達でお礼を言いたいとのことで頑張ってもらっていた、
まあなんとも、小さい彼女らが頑張ってる姿は大変可愛らしかった
「さて、報酬の方だが…」
『それについては用意させていただきました』
「ほう」
さて、正直何も期待していなかったのだが、
『妖精の粉です』
「妖精の粉?」
『妖精の粉。ありとあらゆる病を治す薬だよ。とても貴重な素材と長い年月をかけて妖精だけが作れる。妖精族の宝とも言われてるね。といっても彼女が持ってる分じゃあ風邪を治すのが精々だと思うけど。』
風邪薬か…
正直いらん、でも量がありゃなんとかなるんだろ、それなら
「…粉は要らねえからよ、それ、何で作ってんのか教えてくれないか?」
『…本来なら、教えてはいけないのですが、あなた様の頼みなら答えましょう』
おおう、結構重要な事だったんだな
『妖精達が住んでいる場所の近くに生えている薬草が原料となっています、申し訳ないですが製造法までは…』
企業秘密ってやつか、
まあいい、原料と完成品を解ればできるだろう、
“能力で妖精の粉を創り出す”
「ぐっ」
妖精達を治していた事もあってか、かなり酷い頭痛が走った、が、
『どうしました?体調が優れないのでしょうか?』
「…いいや、ただの能力の副作用だ、気にするほどじゃない」
それを聞いた妖精の女王は慌てふためいて言う
『その様な危険な術を使って頂けたとは…いつか必ず恩を返させて頂きます』
「あーいいよ、んなもん、それよかもう行っていいかな、暗くなるし寝床は早く見つけておきたいんだ」
手の中にある“粉”を指で弄る、どうやら上手くいったらしい
『せめて名前をお聞かせては頂け無いでしょうか?』
「…あー」
どうしようか、
「…タナスだ」
偽名でいいか、面倒だし
『タナス様…』
「んじゃもういいよな?行くわ」
さっきからなんかむず痒い、
『へーい。ツンデレ。』
黙っとれこの老害
俺はその場をあとにした
「すげー罪悪感がヤバい」
手の中の粉を弄り、目の前の焚き火に目を移す
『別に気にすること無いと思うぜ?。だって妖精からしたら羽を治してもらえるなんてとんでも無いことだぜ。それこそ妖精1匹くれつっても良いぐらいだぜ。」
「人身売買じゃねーかそれ」
『まあ。何はともあれ君はそれだけの事をしたんだよ。だからあの純粋な子らを騙して良い汁啜った事はもう水に流そうぜ。』
「お前励ます気ねーだろ」
頭の中でけっけっけと笑う声が響く、
『まあ何はともあれ。明日にはどっかの街には着くだろ。』
「ああ、そうだな」
『じゃあ多分そんぐらいで僕はどっか行くわ。』
「…は?」
『いやいや。だからよー。僕が君に憑いてる理由。忘れた?。子守りしてるわけじゃねーよ?。』
…確か、封印で弱体化したからそのときの魔力補充の為だっけか、
『そそ。んでそろそろ十分な位まで回復出来たかなーって。』
「急だな」
『まあチュートリアルはお終いって事だよ。今後は野宿する時は団体で行動した方がいいぜ。』
「…おう」
ま、それもそうか、いつまでも負んぶに抱っこってわけにもいかないしな
「…そろそろ寝るか」
『見張りは任せろー。』
「ああ、頼んだ」
俺はいそいそと眠りの準備に入るのだった
じゃあの




