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少年の決意

「セルフィスさん……」

「……あんまり自分勝手はやめてほしいものね。」

そう言いつつも、その顔は笑っている。

「やりたいようにやりなさい。でも、あなたが倒れたらそれで全部終わりってことだけは忘れないように。」

「セルフィスさんは……いや、なんでもないです。」

「あら、言いたいことがあるなら言った方がいいんじゃない?」

「やっぱりやめときます。せっかくセルフィスさんとルーベルナさんに甘えないようにって育ててもらったんですから。数ヶ月のために甘えてられません。」

断言した僕を見て、セルフィスさんは小さく頷く。

「3日後に出発として、それまでの準備もちゃんとしときなさいよ。あと、ロックは連れて行ってあげて。

自己収納空間を使って私があなたに渡したいものは入れとくから。何かあったらロックに伝えてもらうわ。」

「いつ魔法が攻撃が来るかわからない世界でロックをずっと外で歩かせるわけにもいきませんからね。」

基本的に自己収納空間にロックを隠しておけば、攻撃を受けてもロックにはノーダメージだ。

とりあえず許可を取ることはできたので、僕は安心して眠りにつくのだった。




「どうしたんだ急に。地図とかはあるが……」

セルフィスさんに話をしてから2日目の夜、僕はメイターさんの家を訪ねていた。

「1人…とは言ってもロックは連れて行きますが、この世界を旅してみようと思って。」

「せ、世界を旅する……だからこの世界について教えてくれってことか……いやしかしだな、この世界は危険だらけだぞ?それこそ前にみたいに戦争に巻き込まれるかもしれなければ、どこかの街で暗殺されそうになるかも知れない。

旅人はスパイといった考え方も少なくはない。この街は特に重要な情報もないから旅人を受け入れているだけだ。」

戸惑うメイターさんを見て、それでも僕は続ける。

「もしこの街を二つの国の境がない場所とできたとしても、国や他の街が変わらなければ何も変わりません。

いつか衝突が起きて、戦争が起きます。」

言っていることは理解できる。そんな顔をするメイターさんは、目を強く瞑って考え込む。

「……僕は、戦争によって家族を失った人も、戦争のせいでお金がなくなって生きていくのもギリギリになった人も、いろんな人の話を聞いてきました。

だから、そんなことが起こらないように僕はこの世界から戦争と争いを無くしたい。

自惚れだと言われるかも知れませんが、今この世界でそれができるのは、きっと僕だけです。」

「いや……わかってる……きっとそれは自惚れなんかじゃないだろう……

魔法部隊を持つ軍を相手に1人で傷一つなく生き残れるようなやつなんだ。そう易々と倒れないこともわかっているはずだ……」

自分自身に言い聞かせるように、メイターさんは呟く。そして、大きく息を吸って吐き、何度か頷く。

「よし、わかった。お前が俺たちのことを信じてくれているように、俺もお前を信じてみよう。

お前なら、この世界から争いをなくすことができると。」

僕の肩に手を乗せて、いいかと言ってメイターさんは地図を広げる。

「一応俺たちが属しているのは、この辺りから東側のアルセリオ王国。そして、こっちの西側がレグナス帝国だ。

東と西の境界線のことを、カイザルハーフと呼ぶ。そのすぐ近くにある、たびたび戦いが勃発する都市のことをグラディス要塞都市という。カイザルハーフを挟んだ向こう側の最前線都市の名はノアリュン前線都市。ここの二つの都市に関しては、常に攻めて攻められていることでどんどん民が傷つき、倒れていると聞く。

そしてこの辺りの防御が弱くなっているからこそ、メルペディアが巻き込まれたような戦いが国の内側の方で起こるのだ。」

地図全体を見ると、だいぶ前にフロウさんが見せてくれたやつよりも範囲が狭いような気がする。あまり遠くまでは重要視していなのか、大体円形に描かれているその地図の右側…東の国の中心と、反対に西の方の中心にそれぞれの王都があるらしい。

この街はカイザルハーフと呼ばれる境界線よりも王都に近くはあるが、王都から見たらだいぶ南であるため、そこまで重要な地点ではなさそうというのもわかる。

「カイザルハーフの方面に行けば行くほど争いは激化すると思ってもらって構わないが、王都の方から補給線も伸びている。そこで誤解されると攻撃を受けかねないから気をつけろ。」

「なるほど……わかりました。とりあえず、上手いことレグナス帝国に入ってみようと思います。」

「あぁ…だが、さっきも言ったがスパイと疑われれば逮捕か暗殺だ。気をつけろ。レグナス帝国からこっち側に戻ってくる時もだぞ。」

「はい。大丈夫です。」

言い切った僕の肩から手を下ろし、メイターさんは再び口を開く。

「………昔、と言ってもめっちゃ昔というわけじゃないが、この街に旅人がきたことがあってな。

ほら、毎日朝から音楽を流してる子供達がいるだろう。あの子たちに音楽を教えた人に音楽を教えたのが、その旅人だったんだ。」

「旅人さんですか…」

「あぁ。ちょうどその頃は今よりも戦争が激化していてな。まだその頃は若かった俺も剣術の練習をしていたもんだ。」

言い方からして50年も経っていない…おそらく20年くらい前のことだろう。

「もちろん、スパイじゃないかって話も出ていたんだが、今のメルペディアと同じであっという間に街の人たちと仲良くなっちまってな。

旅をしているうちに身についたとかなんとかで建築やら農業やらまでなんでもできる人で俺も色々と教えてもらったんだ。

その人が得意にしているのは音楽ってことで、いくつかの楽器を持ってきていてな。足りない分はこの街で自分で作ったりしていたんだが、1年くらいの間1人の女性…今のあの子たちに音楽を教えた人に練習をつけていたんだ。

結局、来て1年くらいで次の街に旅立って行ってしまってな。まぁ、その旅人に出会ったら是非とも挨拶をしておいてくれ。」

「その音楽を教えてもらった女の人は……?」

「………その人は、もう5年くらい前に亡くなっちまった。

俺は音楽だけはどんだけやっても上達しなくてな。専門外なんだ。

もしどんな人だったかとか聞きたいなら、あの子に聞いてみるといい。メルペディアに興味ありそうだったからな。旅に出る前に話をしておくのもいいと思うぞ。」

「わかりました……出発は明日の朝にしようと思ってたので、その時に少しだけ話していこうと思います。」

「あぁ、それがいいな。というか話をだいぶ戻すが、ロックは連れていくってことはセルフィスさんはどうするんだ?」

「多分、この街に残ると思います。でも、自由奔放な人なのでふら〜っといなくなったりする時もあるかもしれません。」

苦笑しながら言うと、メイターさんからも苦笑が返ってくる。

「セルフィスさんっていうのは、メルペディアみたいに強いのか?森の中でずっと一人暮らしってだいぶきついと思うんだが。」

それに関してはセルフィスさんの嘘なんですよ〜って言うとあかんので、僕はそれらしい答えを探す。

「強いですよ。多分僕よりも。

セルフィスさんが戦うと強すぎるから僕が戦ったみたいなところもあるくらいで。」

「ま、マジか…怒らせないようにしなきゃいかんな……」

「本気でブチギレることはないと思いますけどね。」

そう言って笑った僕を、メイターさんは寂しそうに見つめる。

「俺もこの後。しばらく会えなくなるんだからゆっくりセルフィスさんと話をしてきた方がいいぞ。」

僕の頭をくしゃくしゃと撫で、メイターさんは玄関先まで見送ってくれる。



「うん、これでいい感じね。」

大きな鞄に服などを詰め込み、小さな袋に食料を詰め込む。それを自己収納空間に入れて準備完了だ。

「あとなんか言っとかないといけないことあったかしら…」

うーんと少し悩んで、思い出したようにセルフィスさんは続ける。

「メルペディアがいなくなった後、天界に行こうと思ってるの。私たちが元々いた時代からいる神様を探しに行こうと思って。

天界にいる間は私の魔力を探知できないけど…まぁその程度じゃあなたは焦らないか。」

「いやいや、先に言っといてくれなかったら焦ってますよ!」

「ごめんごめん。」苦笑しながら、セルフィスさんは腕を広げる。

「セルフィスさん…僕はもう子供じゃないですよ。」

「十分子供よ。ほら、おいで。」

引くつもりのなさそうなセルフィスさんに、仕方ないなぁと呟いて抱きつく。久しぶりに感じた温もりに、心まで温まっていく。

「前に約束したこと、覚えてる?」

「もちろん。覚えてますよ。」

「愛したもののために命をかけることができるのは一度まで。これも覚えておきなさい。」

「それ……どこかで聞いたような気がします。」

「えぇ…被っちゃったじゃない。せっかく良いこと言ったと思ったのに!」

「あははは…でも、夢かもしれません。誰から聞いたのか明確には思い出せないですから。」

「そう。なら私の方が先ね。」

「何に喜んでるんですか。」

ふふっと、セルフィスさんが笑う。

「おやすみなさい。」

「いや、ここで寝るんですか!?」

僕をがっしりと掴んだセルフィスさんの腕の中で寝れるわけがない。そもそも、腕と胸で圧迫されて苦しいというのに…

「寝れるでしょ?」

「無理に決まってますよ……」


そこで、僕の記憶は途切れてしまった。

こんばんは。羽鳥雪です。

明日明後日は原稿の進み具合と予定とがあっておらず、投稿できないと思います(スケジュール管理が下手ですみません…)が、月曜日と火曜日は連続で投稿できるようにしますのでよろしくお願いします!

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