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街拡張とぶっ倒れる人たち

この街は二方を山に囲まれ、残り二方のうちの一方は森に囲まれているせいか、外から来た僕の目にはどこか抱え込まれるような安心感があって、朝になると山肌に沿って流れ落ちてくる冷たい空気と、森と平原の方から吹いてくる柔らかな風とが街の中央で混ざり合っている。

……自分で言ってて思うけど、なかなか詩的な言葉じゃないか?

いつもより大人数が集まっている朝の音楽鑑賞。そんな中で1人妄想に耽っていた僕の元に、メイターさんが現れる。

「今日も手伝ってもらってもいいか?随分力仕事になると思うが…」

「全然大丈夫です!木を切るのとか任せてください!」

「いや…それは大人の仕事だろう……」

「切り出す木材の大きさとかって決まってますか?」

強引に押し切って、僕はメイターさんから必要な木の大きさを聞き出す。

「それじゃあ、少し待っててください!」

と言って10分後、言われた通りの大きさにカットした木材1000本ほどを風で浮かせながら街に戻る。

そもそもの平地面積が足りないらしく、森の方を切り拓きたいとのことだったので木を切ってもなんら問題はない。そして、あとは草を刈ったりするだけの簡単なお仕事だ。

大量の木を見たメイターさん率いる建築の達人たちはみんな目を丸くしていたけど、力になれたなら十分だ。


それから、家造りが始まったわけだが、山側では家の作り方が少し独特で、岩盤が浅い場所には無理に基礎を打たず、自然な段差をそのまま床の高さに使い、壁の一部には山から切り出した石を積み上げていく。

どうやら、山の冷え込みを防ぐという目的もあるらしい。

「山と仲良くやってるんですね。」

思わず言葉を溢すと、年配の大工さんが金槌を肩に担いだまま

「喧嘩したら勝てないからな」と穏やかに返してきた。

本来、今日一日をかけて木を切るという作業をする予定だったのがショートカット(切るだけにね)されたため、使える時間が増えたのだ。

「な、なんか急に寒くなったな。」

そんなことを言いつつ作業を続ける大工さんたちに木を渡しつつ、僕は任務を遂行するのだった。

軽い昼食を挟んで午後。

平原側の畑づくりはまた別の忙しさがあって、広い分だけ土を選ぶ必要があり、風の通り道を考えて背の高い作物と低い作物を分ける話や、雨が溜まりすぎないように浅い溝をどこに引くかといった相談が絶えない。

正直、畑に関してはルーベルナさんが作っていたため僕に農業の知識はない。なので、できることは限られてくる。

「いやぁ本当にありがたい。年齢からは考えられないほど力持ちだし。」

畑の周りを囲う木のフェンスを立てながら、若い男の人が僕に言う。昨日メイターさんを呼びに来たあの人だ。

「そういえば、お名前はなんて言うんですか?」

僕の問いに、確かに言ってなかったなと笑ってその人は名前を教えてくれる。

「メイターさんに弟子入りしているフォイゾだ。メイターさんと同じで生まれも育ちもこの街さ。」

本当は盗聴していた時に名前を聞いてはいたが、そんなこと言うわけにはいかないため、自己紹介してくれたフォイゾさんに対し、僕も名前を名乗ろうとする。

「僕は━━━━」

「メルペディアだろ?」

得意げに、フォイゾさんは口角を上げる。

「メイターさんから聞いたんだ。すげぇ少年がいるってな。」

木の柵と木の柵を固い紐で結び、僕は顔を上げる。

「この街の人たちが優しいからです。やっぱり優しい人たちのために手伝うのはやりがいがありますから。」

「……本当、年齢と精神年齢が合ってない気がするな。」

僕を見ながら、フォイゾさんは苦笑し、大きく伸びをする。

「よぉーっし!今日はここまでだ。

あとは明日種を撒いて完成だな。」

「時間通り終わったな。」

畑を一周させる柵の反対側を作っていた男の人たちが、ゾロゾロと集まってくる。

「メルペディア、お前も一緒に戻るぞ。

…どうした?」

「あ、いえ。もっと時間がかかると思っていたので…」

今まで目先の作業しか見ていなかったが、良質な土に入れ替えられた地面、近場の川からの水路、張り巡らされた柵。

わずか数時間で仕上がったとは思えないほど、なかなかな広さの畑だ。

「ま、ここにいる男たちはメイターさんに色々と教わってるからな。これくらいは朝飯前だ。

ただ、あの人は怒らせるとガチで怖いから気をつけろよ?」

怒ったときを思い浮かべているのか、フォイゾさんは体を震わせる。

そして、僕は思う。

僕よりもセルフィスさんかロックに教えてあげた方かもしれない…と。



街に戻ってくると、いつも音楽を聞くあの場所にいくつもの大鍋。さらには机と椅子が並べられていた。

「あら、おかえり。」

「ただいまです。」

「さぁ、みんなもご飯にするからお話はもうおしまい。」

パタンと本を閉じると、近くにいた少年少女たちは口々にセルフィスさんにお礼を言って駆け出していく。

「本当、最近の子って礼儀正しい子が多いわね。よくあなたに本を読み聞かせてたルーベルナの楽しさが少しはわかった気がするわ。」

本を片付けながら立ち上がって、イタタタと腰をさする。随分長く座っていたらしいセルフィスさんを見て、どこか可笑しくてつい笑ってしまう。

「何よ。」

「いやぁ、なんでもないですよ。

あ、そういえば、なんでこんな風に鍋が並んでるんですか?」

「昨日は今日の計画で時間がなかったから、向こうの国の兵士たちも交えて夕飯を食べようって話らしいわ。」

なるほど。食事を共にすると距離が近くなるようなことも多いからか。

「お子さんのいる親から順番に並んでね〜」

まずは子供、次に向こうの国の人たち、そしてこの街の人たちという順番でスープやらパンやらを取り、最後にメインディッシュである肉を取っていく。

「おっ?何してんだこんなところで。早く取りに行け。」

全員が食事を取ったか確認していたメイターさんが、僕たちに気づく。

「いいの?私たちはこの街の人間でもないただの旅人だけど。

いつも食べてるところで料金払って食べるからだいじょ……」

そこまで言いかけて、セルフィスさんは気づいたように、あっ。と声を漏らす。

「店の店主もこっちで食ってるからどこも開いてないぞ……

ま、そんな細かいこと気にするべからず。セルフィスさんは子供らの面倒見てくれてたしメルペディアは力仕事手伝ってくれたからな。

もう立派な村の一員さ。」

僕たちに木の盆を渡して、メイターさんはご飯を取りにいくよう急かす。

「じゃあ、お言葉に甘えるとしましょうか。」

セルフィスさんに言われ、僕も続いていく。

そして僕たちが食事を手にして座ると同時、メイターさんが前に立って話し始める。

「えー、この街にも仲間と言える奴らが増えた!

今日は全員好きなように語り合いながら楽しい時間にしてくれ!乾杯!」

唐突な乾杯にみんな置いていかれたが、それを笑い話にしながら街の人々は火蓋を切ったように話し始める。

「いやぁ、小さいのにすげぇ働いてたな!」「助かったぞ!」

僕の周りにも人が集まってきて、頬を引っ張ったり肩や背中を叩いたりしてくる。早速酔っているのだろうが、その程度の攻撃じゃ痛いとは思わない。だってセルフィスさんが暴走したときの方が痛いんだもん。

会話が弾み、酔いが回ってその場で倒れるものも出始めてきた頃、メイターさんが若い男の人を連れて僕たちのところに来る。

「おーいお前らも起きろ。こいつが、向こうの国の兵士たちの中で1番年上ってことで挨拶回りに来てくれてんだ。」

背中を押され一歩前に出てきた若い男の人は、ポワレと名乗った。

名乗った瞬間、僕と目があった。

そして、倒れた。

・・・・・・・・・・・・

その場にいた全員が瞬きを繰り返し、僕を見る。

「え!?いや違いますよ!?」

必死に否定している時、フォイゾさんが1人の若い人を連れてくる。

「それで、この人がこっちの国の軍で最も年長のアイクス……って何が起きてるんだ?」

困惑するフォイゾさんの後ろから顔を出したその人と、僕の目が合う。

そして、アイクスさんも倒れた。

再び、疑いの目が一斉に僕に向けられる。


………もうここから逃げよう。純粋にそう思った。

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