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決戦:陽光の巫女VS月詠 弐

沈黙。

静寂よりも深い真静の中、それを破って月詠は口を開く。

「花鳥を知る汝ならわかるだろう。」


その呟きと共に、世界の空気は変わった。風が逆巻き、月光が濃密に降り注ぎ、大地が微かに震えている。

「……風の気配が変わった……?」

月詠の背に噴き上がる光は、もはや単なる闇でも月でもなかった。そこに混じるのは凪翔の象徴であった風の流れ。そして、月詠自身の月の静謐。

「……あなた…………凪翔の……力を……!?」

「随分と時間がかかってしまったが、これで決着がつく。

汝の花鳥か、私の風月か。汝はどこまで戦える?」

その声は静かで、しかし絶対的な自信を帯びている。

私は拳を握りしめた。

「返して。あれは、凪翔の力。あなたが使っていいものじゃない!」

言い放った私に、月詠は声音を超えることなく答える。

「確かに、私では風の力を完全に支配することはできなかった。

がしかし、それはほんの少し前までだ。

凪翔の意志が完全に沈んだ今、風は私のものとなった。」月詠の瞳に、銀と翠が同時に瞬いた。

「境界の戦いに入った以上、奪われたものは戻らない。━━━━奪ったものが世界の理となる。それが“風月”だ」

空気が震え、光の粒子が舞った。


息を整え、私は前に出る。

「……じゃあ、わたしも見せる…花鳥の力。あなたがいまだ奪えない━━━わたしの力を!」

耀の足元から巨大な花弁が咲き、周囲に光の羽が舞い散る。

それは春と生命を象徴する力。そして、鳥。自由な飛翔、界を越える翼の象徴。

花鳥界(かちょうかい)(ぎょう)。」

光風が流れ、周囲の色彩が鮮烈に変わった。闇を押し返すように、花と鳥の光が世界を埋めていく。月詠は静かに目を細める。「美しいだけでは、何もできぬ。」

次の瞬間、月詠の足元から風が巻き上がり、澄んだ月光が渦となって広がった。

風月界(ふうげつかい)幽明(ゆうめい)

光が闇に飲まれ、風の流れだけが存在する世界。時間の感覚が薄れ、呼吸すら難しくなるほどの静寂。

「これが……風月の境界……!」

一瞬で、私の境界が押し負けて消え去る。

風と月が浮かぶ闇が、私を覆っていく。「汝の花鳥が春を描くなら、私は夜の風を描くだけだ。」花が枯れ、鳥が姿を失い、春の色が風に流されて消えていく。

「まだ……まだ、消させない!

花鳥(かちょう)黎明翔(れいめいしょう)!」

光の鳥が無数に舞い上がり、空を覆っていく。月詠の風を裂き、境界の書き換えを押し返す。


だが━━━━━


光の鳥たちは、月詠の周囲に到達する前に、ひゅう、と風の中へ溶けていった。

「……え……?」

飲み込めない事態に、目を見開く。鳥の軌跡が、まるで“初めから存在していなかった”ように消え失せる。月が、冷徹に微笑む。「風月は“静謐”。いかに強い力をぶつけようと、風はそれをほどいてしまう。汝の花鳥はあまりにも華やかすぎて、静かな夜には似合わぬ。」

風が吹く。ただそれだけで、肩が重く沈む。足がふらりと揺れ、光も、力も、闘志すらも、闇の中に消えていく。

まずい……押し返されてる……

わかっているのに、体に力が入らない。


だからと言って、負けることなんてできない!

歯を食いしばり、一気にありったけの力を込める。満開の桜が渦を巻き、私の背に大輪の花が浮かび上がる。

花鳥(かちょう)千輪桜蘭(せんりんおうらん)!」

色彩の嵐が、夜空に向かって放たれる。花弁の鋭い切っ先が、無数の刃となって月詠へ襲いかかった。

━━その一瞬だけ、風月の静謐が破れた。

「ほう……これはさすがに。」

月詠は腕を振り、渦巻く月光を前へ押し出す。

風月(ふうげつ)詠朧断(えいろうだん)

闇の斬撃が放たれ、桜嵐に触れた瞬間。

花弁が、音もなく散って虚空に消える。

「う…………そ……………」

声にならない声が漏れた瞬間、体が重圧に押し潰される。

「━━っぁ!」

視界が揺れる。

体温が奪われていく。

(だめ……負ける……凪翔……ごめん……私……)

胸の奥が軋む。

「どれだけ美しい花であろうと、どれだけ煌びやかな鳥だろうと、夜の前では目に入らぬ。美しさは━━夜の前では消える運命なのだ。」

月詠の掌に月が灯る。まるで満月を握りしめたような光。

「終わらせよう、陽光の巫女よ。汝は十分に戦った。」

風が収束し、世界が凍りつく。

風月が、月一色に姿を変える。

虚月(きょげつ)朧月散華(ろうげつさんか)

月光の嵐が広がり、僅かに残っていた私の力を押し潰す。

そして、境界が完全に崩れる。

光が、消えていく。

「━━━……ぁ………」

薄い視界の中、私の体は地に向かって落ちていく。

視界が、ゆっくりと闇に沈んでいく。


ごめんなさい………何も、護れなかった…………


もしも私がちゃんとした姉だったら………凪翔はこんな目に合わなくてよかったのに………


私が使命を果たせれたなら、誰1人として絶望なんてしなかったのに………


歪む視界が、閉ざされる。


地面に、背中がぶつかった。




━━━━━━いや、違う。

優しすぎる。

なんとか目を開いて、状況を飲み込もうとする。


開けた視界の中に、私の顔を見てほんの少し微笑んでいる人影を見つける。

「どう………して…………」

「僕では、あの神を倒すことはできない。

セルフィスさんが神力を分けてくれますから、少しでも休んでください。」

「ほら、目を閉じて。」

そう言われ、言われるがままに私は目を閉じる。

瞼の裏の闇が、今の世界を思わせる暗さだった。

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