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護りたいもの

「クレムとセルジュは二人で少し遠くまでピクニックに行くとか言って出て行ったよ。

二人きりは心配だからってパトリスさんが後ろをつけてってるみたいだけどね。」

「あの二人はどうなるんだろう……そのうち付き合い始めたりするのかな?」

人の行き来が少ない道の中を、僕たちは並んで歩いている。

最近は少し寒さが出てきて僕もサレナも厚着をしているが、時々すれ違う子供たちは半袖のこともあり、なぜだか自分が情けなくなってくる。

そんなことを思いながら話をしているのは、エートもよく話題にあげるセルジュとクレムのことだ。

「セルジュがクレムのことが好きっていうのはわかってるけど、クレムは実際のところどんな感じなんだろう。弟みたいなイメージ?」

「結構前、セルジュは弟分みたいな感じってクレムは言ってたよ。

今も変わってないのかはわからないけどね。」

さすが僕よりも長く二人と関係を持っているだけある。

僕が知らない情報を、エートとサレナは多く持っているのだ。

「そういえば、サレナに好きな人とかっていないの?」

「━━━━━え?」

そうこぼしつつ、サレナは足を止める。

「エートもサレナもあの二人のことはよく見たりしてるけど、自分のことは話さないよなーって思って。せっかくだし教えてよ。」

少し距離を詰めて聞いてみると、彼女は数歩下がって少し俯く。

「好きな人……今までできたこともないし考えたこともない…………と思うけど、その………怖いんだ。

好きな人ができて、もしその人が苦しむ夢を見てしまったらって思うと。

きっと私はその人のために何もできなくて、それでもその人は頑張って、なのに最後には苦しい思いをしちゃうんじゃないかって。

もしかしたら………私のせいで苦しい目に遭わせちゃうかもしれないでしょ?」

サレナの口から漏れ出るようにして聞こえたか細い声は、僕の胸の奥に響く。

自分がいなければセルフィスさんもルーベルナさんも楽しく幸せに生きれたのではないかという考えた過去が蘇ってくる。

エール・メルぺディアという存在がいなければ、僕の持つ呪いは存在せず、二人の神が消えるなんてものはなくなる。

きっと、サレナも同じようなことを思っているのだろう。

“自分のせいじゃないからあまり深く考えるな”なんて簡単な言葉では片付けられない大きな重責を知らず知らずのうちに背負って、気負って、何もできない自分を責める。

側から見たら無駄な意識だと思われても、僕たちにとっては人生を根本から変えるほどの大問題なのだ。

だから、その苦しさがわかっている人が近くにいれば、苦しみが多少和らぐことがあるかもしれない。

サレナの閉した心の一部をクラスメイトのみんなが破れたのも、共感し、相手を敬い、そして自分も似たような苦しみを抱えて生きているからだろう。

それなら、僕ができる数少ないこともそれと同じだ。


彼女に大丈夫だと伝えてあげること。


リュシアさんが言った“大丈夫“という言葉が、なぜあれだけの安心感を与えたのか。

彼女が消えることをあれだけ拒んでいた僕を納得させたのか。

その理由を、少しくらいは理解できた気がする。


『大丈夫。きっとなんとかなる。』

たったそれだけの言葉だとしても、痛みを知る者だけが言える「大丈夫」がある。何度も苦しみ、それでも足掻いてきた人間だけが誰かの苦しみに触れたとき、心の底からそう言えるのだ。

「大丈夫」という声に、根拠なんていらない。けれど、それを口にする人の中には確かな“積み重ね”がある。孤独を抱いて歩き続けた夜。涙をこらえて笑った朝。

助けを求める声が届かなくても、それでも生きてきた日々。そのすべてが、「だいじょうぶ」というたった数文字に命を与えている。


自分だからこそ、そう言える。この痛みを知っているのは、自分だから。この苦しみに寄り添えるのは、自分だから。

あるいは、誰かだからこそそう言えるということもある。その人がどんな絶望を越えてきたかを知っているから、どんな暗闇の中にも光を見つけてきた人だから。

だから、信じられる。『あの人が大丈夫と言うなら、大丈夫だ』と。奇跡にすら似ているこの言葉を口にする人の人生が、そのまま力になる。積み重ねてきた傷も、後悔も、優しさも━━━━━━━すべてが一つの祈りとなって、目の前の誰かに届く。


だから、不十分かもしれないけど、短いかもしれないけど、僕は自分の今までの人生の全てを懸けて言う。


「好きな人となんの気兼ねもなく笑い合える世界にしてみせる。

だから、大丈夫。

サレナの未来は僕が護るから。」と。

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